『闇金ウシジマくん』真鍋先生インタビュー「“なんで俺のこと漫画に描くんだ”って怒られます」

真鍋先生

ヤミ金業者と、金に関わる様々なキャラクターをリアルに描き、累計600万部突破の大人気コミック『闇金ウシジマくん』。「生々しくて恐すぎる」「読んだら落ち込む」など過激な描写が度々話題を呼ぶこの作品は多くの人の心に衝撃を与えています。2010年には、山田孝之さん主演で“まさかの”実写ドラマ化。そして、8月25日からはさらに過激にスケールアップした劇場版が公開中です。

今回は、『闇金ウシジマくん』作者の真鍋昌平先生にインタビュー。映画の感想から、漫画の題材選びについてまで様々なお話を伺いました。

ウシジマくん

――映画『闇金ウシジマくん』のお話から少し遡りますが、そもそも実写ドラマ化すると聞いた時はやはり驚かれましたか?

真鍋:最初はやっぱり不安はありましたね。その当時、マンガ原作でドラマ化するものとか、映画化するものがたくさんあったんですけど、改変がすごくて、きっと制作側の意図っていろいろあると思うんですけど、あまりいい方向に行ってないものっていうのも目立っていたから。ただ、脚本読ませてもらったりとか、ドラマの撮影現場行ったりとかした時に、ほんとちゃんと作られている感じがして、だんだん期待するようになりましたね。

――それが良い、悪いではなく、現代の邦画ってポップな作品が好まれる傾向にあるというか、ソフトなものが受け入れられやすい状況にあって、この映画『闇金ウシジマくん』は結構攻めたな、と感じたのですが。

真鍋:テレビだとチャンネル変えられちゃうかもしれないけど、映画だと逃げ場が無いですもんね。だからこそ、暴力的なシーンもしっかり見せるという姿勢なのかも。映画の撮影も、最後のイベントのシーンを見学させてもらって、本当にクライマックスのシーンだから、撮影の前に役者さん、スタッフさん皆が張り詰めていく空気がすごくて。その緊張感はかなり刺激になりました。

漫画も、やっぱりこう、何だろう。描写もきついし、題材も暗いから、途中で読めなくなっちゃう人もいっぱいいるのも理解しているんですけど、とりあえず最後まで一回読んで欲しいっていうのはありますね。マンガ喫茶でも何でもいいんで。もしちょっとでも興味があったら。

――ご自身の漫画がドラマ化して、映画化して、やっぱり周囲の反応は大きいですか?

真鍋:知らない間に親戚が増えましたね。チケット買って送ってやんなきゃ、みたいな。

――それでは、映画『闇金ウシジマくん』をご覧になった率直な感想を教えてください。

真鍋:そうですね。映画は若手実業家やセレブたちのパーティシーンからはじまるのですが、すごくリアリティがあったんですよね。実際はそんなパーティ行ったことないんだけど、「ありそうだなぁ」っていう。そのシーンを観た時に、ここまで細部にまでこだわっているから、熱量がものすごくある作品だな、と。リアルなシーンを作るには、相当な労力がかかるはずだから。だから、冒頭から映画にすっと入り込めました。

――確かに、冒頭のパーティシーンの成功者たちの感じの悪さというか、それでいて薄っぺらい独特の雰囲気の悪さみたいな部分が、よく伝わってきました。

真鍋:金持ちの人が、常にTシャツ着てるじゃないですか。ホリエモンだったかな、誰かの本で読んだのですが、常に良い状態の温度で過ごしてるから冬でも上着要らないらしいですね。

ウシジマくん

――そのパーティで一生懸命人脈を広げようとして、そこではじめてウシジマと出会うのが、今回の物語で中心人物の一人、小川純ですが、この「ギャル汚(お)くん編」を映画の題材にすると聞いた時はどう思いましたか?

真鍋:あの話は書いたのが何年か前でしたから、今の時代に合うのかなっていう不安はあったんですよね。ああいうイベントサークルとか、「ギャル汚」っていう存在は数年前が全盛期だったから。今もう「ギャル」って言われている人もどんどんいなくなってってる状態じゃないですか。大丈夫かな、っていうふうには一瞬思ったんですけど、映画を観たら全然気にならなかったというのがありますね。

――原作の純よりも“ギャル汚”成分も弱めになっていて、でも「携帯のメモリー数を自慢しちゃう」みたいなキャラクター自体の個性は残っていて、林遣都さんも熱演されていましたね。

真鍋:林さんは、スゲー好青年です。透明感があってきらびやかな好青年。生まれ変わるんなら林さんになりたい(笑)。

――あはは(笑)。他のキャストの皆さんもとても役に入り込んでいましたね。

真鍋:本当にそうで、役者の皆さんの入り込み方、緊張感があって良かったです。映画の中で一番印象に残っているシーンが、大島優子さん演じる未來がどんどん追い詰められていって、どうしようもなくなって、街をワーッて走り抜けるシーンで、そこがすごく好きです。

ウシジマくん

――映画は、「ギャル汚くん編」「出会いカフェくん編」「テレクラくん編」の3つのストーリーがミックスされていて、物語がスムーズに進むのが見事だと思いました。

真鍋:そうですね。本当にスムーズにいってます。問題ない感じ。

――どのお話も本当にこういう人たちいるんだろうな、と恐ろしく感じるほどリアルですが、漫画を描く際に取材とかをしたりするのですか?

真鍋:「ギャル汚くん編」の場合は、ライターの方につないでもらって、実際にイベントサークルを運営している方に会いました。

――やはり、純の様に「のし上がりたい」と野望に満ちていましたか?

真鍋:うーん。あそこまでこうなんか、向上心があるようには見えなかったですね。もっと、お金になるからやってるとか、そんな感じでしたね。もう学生ではなくなっていて、大人なんだけど、社会人になれてないっていう感じの人だったんですよね。そのイメージは純に近いかもしれない。純はバイトもちゃんとやらないでフラフラしているんだけど、一緒にサークルをやっている仲間は大学生で立場がある人間で。だけど、自分自身には立場とか、社会に関わっている部分がほとんどなくって、「たくさん知り合いがいる」とか、そういう何か薄い関係で何とか自分自身を立ち上げてて、何とかもっとしっかりした所に行きたいっていう願望っていうのがあるのかもしれない。

今、どんな人でも不安定な状況じゃないですか。自分だって、明日漫画が打ち切りになっちゃうかもしれないし、そういう部分で映画に共感する部分があるんじゃないかな。

――なるほど、本当にそうですね。状況は純や未來と違っても抱えている不安定な状況は同じという。

真鍋:今、上手いこと、言いました?(笑)

――すごく良いお言葉いただきました。純以外の皆は大学生で本当にサークル遊びをしているだけ、でも純は人生がかかっている。そんな焦りをとても感じました。「出会いカフェくん編」でも取材を?

真鍋:そうですね。漫画を描いた当時、「出会いカフェ」が出来はじめていて、それで題材として面白そうだったから、見させてもらいました。女の子にも話を聞いて。やっぱり、売春目的が多いんですよね。で、よく言う“どこにでもいる普通の子”では無かったです。

――「出会いカフェ」が誕生してから数年経つと思いますが、この映画で存在やそのシステムを知って驚かれる人も多いと思いますね。こうした、題材やテーマはどういった時に思いつくのですか?

真鍋:うーんと、出来るだけ街中に出るようにしてて、面白そうな題材は探すようにはしてますけどね。テレビとか、ニュースとかでやったのって、もうその時に終わっているっていうか、そこから題材選んじゃうと、漫画を読んでもらう時にはもう終わってるネタになっちゃうことがあるから。だから出来るだけ、ニュースになる前のネタを選びたいですね。

――これから問題化していく様なものとか。

真鍋:そうですね、できれば。あとは本当に自分が面白いと思うかですね。みんなの力があって、例えば編集の方や、ライターの方や、取材の相手の方とかも、どんどん友達紹介してくれたりとか、そうやっていって、考える題材っていうのはたくさん与えてもらっているから、やれるだけガンバローッて思います。

ウシジマくん

――真鍋先生はtwitterもやられていますが、インターネットを通じて読者の方からメッセージを受け取ることもあるのでしょうか?

真鍋:一応ありますね。何か最近は、会ったこともない人に、「お前、なんで俺の日常を書いてるんだ」とか、「お前のやっている事が、どんだけ人に迷惑を被っているのか分かってんのか」って怒ってくる人もいるから面白いな~って思ってますけど。

――被害妄想というか、自分が漫画に描かれてしまっている! と思い込んでいるわけですね。

真鍋:ある意味、その人が「これは俺の話」だって思ったということは、リアリティがあったということだから成功ですけどね。だから俺の友達ですよ(笑)。

――リアリティといえば、私は個人的に『闇金ウシジマくん』でいつも注目しているのが食事・食べ物の描写なんですね。ファーストフードとかインスタント食品ばかり食べるキャラクターとか、タバスコいっぱいかけて食べる描写とか、映画の中でも母親が「お腹がすいた」と訴える子供にスナック菓子を投げるシーンがありましたが、ああいった生活のリアルな部分はスッと出てくるのですか?

真鍋:想像していく部分ももちろんあるんですけど、例えばですけど、どこか飲み屋に行った時に、隣に座っている人の話とか聞くようにしているんですよね。普通の会話の中に「子供の晩ご飯用にカップラーメンが何種類も用意してあって、“今日はどれ食べる?”って選ばせてる」とか、そういう話が出てくるわけですよ。何かそういうのすごいなって思うじゃないですか。そんな食生活を日常的にしている人が本当にいるんだなっていう。

以前、大家族系のドキュメンタリー番組で、夫婦喧嘩して、お母さんが家出して、お父さんが子供の食事の面倒を見なくちゃいけないってなった時に、レンジでチンしたレトルトのご飯をその容器のままで、お茶漬けの素とお湯かけて食べてるのを見て、「ワァー」って、思いましたね。愛がねーって。

――単純に食費にかけている金額が少ないという意味ではない、愛情の貧しさですよね。忙しいから時間がないというのもわかるけど、ご飯って、レトルトより炊飯器で自分で炊いた方が絶対安いし絶対旨い。

真鍋:そうそう。ご飯を炊くっていう手間よりもそっちを選ぶっていうのが、何か複雑な気分になりますよね。色んな事情があるかもしれないけど小さい子供には保存料とか添加物とか摂取する必要のない物は出来るだけ口にして欲しくない。でも今度漫画の中でお茶漬けを食べるシーンがあったら、多分それをパクってるかもしれない(笑)。

――お茶漬けのシーンとても楽しみにしています(笑)。どうもありがとうございました!

映画『闇金ウシジマくん』公式サイト
http://ymkn-ushijima-movie.com/

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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