アメリカの作家の儲けっぷり—How much would a bestselling author earn?
この記事は大原ケイさんのブログ『Books and the City』からご寄稿いただきました。
アメリカの作家の儲けっぷり—How much would a bestselling author earn?
フォーブス誌で「儲けている作家リスト」*1なるものを見つけたので興味深く読ませてもらった。こういう金額を見てしまうと、いかに日本の作家が効率の悪いことさせられているかが浮き彫りになって気の毒なのだが、そのことについては改めて書くとして、アメリカの出版業界でどの作家が何を書いて、どんだけ稼いでいるのか、という話から。本の話をするのに「儲ける」「稼ぐ」という言葉を嫌がる人がいるのを承知の上で連呼させてもらう。
*1:「The World’s Top-Earning Authors」『Forbes』
http://www.forbes.com/fdc/welcome_mjx.shtml
アメリカで高所得作家の御三家は昔からジェームズ・パターソン、スティーブン・キング、ジョン・グリシャムと決まっているわけだが(ここ10年ほど不動かも)、最近は女流作家も目覚ましい儲け方をしており、よきことかな、と思っている。
躍進めざましかったのは「ハンガー・ゲーム」の3部作(全部で1000万部ぐらい)がYAの少女中心にバカ売れ、映画化も大成功しているスザンヌ・コリンズ。このシリーズのおかげで、アメリカの女の子がアーチェリーに興味を持ち出したり、つきあう男の子にも変化が見られるなど、かなり社会現象としても面白い現象を起こしている。
日本語版も出ているが、とりあえずあらすじをざっくり紹介しておくと、内戦の末、近未来のアメリカは「キャピタル」という首都と12の属州に分かれ、戦争を忘れないためにと、毎年属州から若い男女を1人ずつ選出しては、「バトル・ロワイヤル」みたいに戦わされて、それがアメリカのTV番組の大半を占める「リアリティー番組」として生中継される。主人公のキャットニスは、運悪く選ばれてしまった妹の代わりに名乗りをあげ、自らこのゲームに飛び込んでは、主人公ならではの運の良さで何度もピンチを切り抜ける、というお話。
穿った見方としては、この近未来のアメリカのあり方に、今の社会に対する警告が含まれているだの、男に頼るプリンセスじゃなくて自ら戦うジャンヌ・ダルク的なヒロインであることから女の子の新しいロールモデルとなっているだの、安上がりのリアリティー番組ばっかりが氾濫するアメリカのTV業界を揶揄しているだの、色々あってその辺は読む人次第。
しかし、3部作の部数で行けばその倍ぐらい売れているエロ本「50シェーズ」のE・L・ジェームズ*2も恐ろしいぐらい儲けている。映画化権だけでも500万ドルって話だし。こちらは人前では読みづらいSMストーリーもEブックなら取っつきやすいとか、Eブックか輸入本しかなかったのが、大手老舗版元に拾われて一大ベストセラーになったとか、イギリスもハリポタを凌ぐ勢いで売れているだの、色々とすごい。
*2:「アメリカで大ヒットしている少女向けSMのエロ本がヒドい—Erotica for teens is a sleeper monster」2012年4月8日『Books and the City』
http://oharakay.com/archives/2947
しかも50シェーズは元々「トワイライト」シリーズの“ファン・フィクション”(いわゆるファンによる2次創作)だったわけだが、トワイライトの著者ステファニー・メイヤーも確固たるブランドとして地位を確立し、あいかわらずの稼ぎっぷりで頼もしい。(もっとこの本について知りたい人はリンクから過去エントリーでどぞ。)
ということで、作家が稼ぎたいと思ったら、いわゆる「ジャンル・フィクション」というカテゴリーで3部作狙い、あるいは大人ウケしそうなYA/エロってことに尽きますわな。ジャンル・フィクションというのは、スリラーとか、ミステリーとか、文芸作品ではなく、大衆娯楽よりのカテゴリーに属する本。元々コアな読者層が見込めるが、ジャンルを超えた読者を掴むと大化けするわけ。
そして新御三家?としてもう一人、名前が挙がるのが「ハリポタ」シリーズで今も印税ガッポガッポのJ・K・ローリング。オリンピックの開会式にまで出てくる国民的作家になったし、今年はずーっと渋っていた「ハリポタ」シリーズのEブック刊行、しかもアマゾンやB&Nを中抜きしたPottermoreサイト*3からの直売という形でこれまたすごい額の印税が。
*3:『Pottermore』
http://www.pottermore.com/
そのローリング、おそらく「ハリポタ」の派生商品でももっと儲けられるところを来月は大人向けの小説にチャレンジ、評価が問われる正念場。
フォーブズ誌のリストには他に、常連のジャネット・エバノビッチ(ミステリーの「ステファニー・プラム」シリーズ)、「ウィンピー・キッド」シリーズがいじめられっ子系の子どもたちに大ウケのジェフ・キニー、馬鹿ウヨ相手にうそ八百の歴史エッセイをゴーストさせているビル・オライリー、個人的には面白いと思えないノラ・ロバーツ、ダニエル・スティール、ディーン・クーンツのワンパターン御三家あたりがランクインしている。
この辺の作家だと毎年数億円の印税収入があるわけだが、やっぱり英語で書いていると、他の言語に翻訳されたり、映画化されたりで入ってくる副次権の収入が違うからねぇ。ミステリーのシリーズでも1年に1冊新刊を出していれば読者に忘れ去られるということがない。後は1発売れた後に、どう自分をブランディングしていくか、なんだろうな。
執筆: この記事は大原ケイさんのブログ『Books and the City』からご寄稿いただきました。
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