冬の山寺を徹底案内。芭蕉ゆかりの古刹で絶景を楽しむ男ひとり旅

冬の山寺を徹底案内。芭蕉ゆかりの古刹で絶景を楽しむ男ひとり旅

「閑さ(しずかさ)や岩にしみ入る蝉の声」という俳句がある。松尾芭蕉が『おくのほそ道』で詠んでいる俳句だ。この俳句は山形の山寺を訪れた時に詠んだもの。『おくのほそ道』にはいくつもの有名な俳句があるけれど、この句はその中でも特に人気だ。

5・7・5のわずか17音なのに情景が浮かんでくる。ぜひこの俳句が詠まれた場所に行ってみたいということで、山形の山寺に行こうと思う。JR東京駅から3時間ほどで最寄り駅のJR山寺駅まで行けてしまうのだ。

東京駅

山寺への道は2つ

『おくのほそ道』は1702年に刊行された、松尾芭蕉の作品だ。中学校の教科書に載っていたりするので、誰もが知っているのではないだろうか。その中にいくつかの印象に残っている俳句がある。その1つが冒頭の「閑さや岩にしみ入る蝉の声」だ。
筆者

この記事を書いている地主です!

その俳句が詠まれたのは山形の「山寺」。最寄り駅も「山寺駅」となる。山寺は正しくは、「宝珠山 立石寺」だ。860年に天台座主第3世慈覚大師円仁(じかくだいしえんにん)によって建立された歴史あるお寺だ。
山形新幹線「つばさ」

山形新幹線「つばさ」で山形駅を目指します!

東京から山寺に行くには山形新幹線「つばさ」でJR山形駅に行き、仙山線に乗り換えるパターンと、東北新幹線「はやぶさ」でJR仙台駅に行き、仙山線に乗り換えるパターンの2通りがある。前者なら3時間ほど、後者なら2時間40分ほどで山寺駅到着だ。今回私は前者を選んだ。つばさに乗ったことがなかったからだ。あと値段も少しだけ安いから。

仙山線 山形駅で仙山線に乗り換えて、約15分 山寺駅

山寺駅に到着です!!!

山寺駅

冷えた体に芋煮がしみ入る

山形駅で仙山線に乗り換える時は間違いなく雪は降っていなかった。晴れてこそないけれど、路面は濡れていたけれど、雨も雪も降ってはいなかった。しかし、山寺駅に行くと雪だった。閑さはある。ただ岩ではなく雪にしみ入る感じだ。
山寺駅 見晴台

見晴台からも確認、雪!

山寺駅には見晴台がある。誰でも登ることができるので、当然登った。いい景色だろうと思ったけれど、目の前は真っ白だった。うっすら山が見える。ただ基本的には白い。メガネが曇っているのかな、と思ったけれど違う。雪で白いのだ。

玉こんにゃく 店頭の玉こんにゃくに誘われて、 えんどう

「えんどう」で食事!

山寺へはまず山寺駅から歩いて10分ほどの場所にある山門を目指すことになる。すっかり体が冷えてしまっていたので、途中、店頭で「玉こんにゃく」を売っている「えんどう」で食事をすることにした。考えてみれば昼時だったので、ちょうどいいではないか。
芋煮セット

芋煮セット(税込1,000円)を頼みました!

東北と言えば「芋煮」。地域によって味が違うらしく、仙台の方では豚肉に味噌味らしいけれど、こちらでは牛肉にしょうゆ味。「一番美味しいと思うよ」とお店の方がいっていた。こちらでは大きな麩が入っているけれど、具は家庭ごとに異なるそうだ。

しょうゆを3種類ブレンドしてこの味を作っているそうだ。冷えた体にしみ入る美味しさだ。蝉の声は岩にしみ入り、芋煮は私にしみ入る。麩が旨みを吸っていて本当に美味しい。ご飯は炊き込みご飯や焼きおにぎりから選べるそうだけれど、私はせっかくなので、山形を代表するお米「つや姫」の白米を選んだ。
芋煮用の鍋 野外展示

「日本一の芋煮会フェスティバル」で使用された2代目鍋太郎があった!

おみ漬けも手作りだそうだ。おみ漬けは山形の郷土料理の1つ。青菜などをザラメや塩、酒などで漬け込んだもの。これも美味しい。つや姫が進む。もう満足でこれで帰ってもいいかもしれない。いや、ダメだ、山寺に行かなければ。この雪の中を。
山寺のポスター

大きな山寺のポスターが貼ってあった! この後この景色が見られます!

山寺駅

雪がふるふる立石寺

「えんどう」を後にして、山寺の山門を目指す。いろいろなお店があるけれど、冬期は休みというお店が多いようだ。静かな街を抜け、根本中堂(こんぽんちゅうどう)に行く。1356年に再建された、ブナを使った建築では日本最古といわれる。

根本中堂 根本中堂を通って、 山門

山門へ

山門で300円を払い、奥之院を目指す山道が始まる。階段になっているので登りやすい。芭蕉もここを歩いたのだろう。違いがあるとすれば、芭蕉は夏に歩き、私は冬に歩いていることだ。山門にある温度計を見るとほぼ「0度」を示している。寒いわけだ。

温度計 0度 ほぼ0度を確認して、 姥堂

姥堂を通り、奥之院を目指す!

頭上に伸びる杉のおかげで、雪はまだ積もっていない。最初に見える「姥堂(うばどう)」は天国と地獄の境界線。姥堂より下が地獄であり、上が天国といわれている。岩清水で身と心を清めこの道を登ったそうだ。ちょっとこの気温では岩清水で清める勇気はない。ただもう雪で清まっていると思う。
仁王門

仁王門あたりから雪がすごい!

仁王門の直前で木々がなくなり視界が開ける。すると、どうだろう。雪だ。とても雪だ。めちゃくちゃ降っている。修行の場にもなっていたので、修行にはいいかもしれない。清々しい気持ちがする。歩いていて楽しいのだ。
奥之院

奥之院に着きました!

この雪を楽しいと思える理由の1つとして、私が九州出身で雪が未だに珍しく、テンションが上がるというのがある。降り出したばかりのようで、雪が踏み固められておらず、滑りにくいのでしっかり歩けるというのも嬉しいポイント。冬はトレッキングシューズの方が安心かもしれない。
綺麗だよね!

綺麗だよね!

「奥之院」は慈覚大師円仁が中国で持ち歩いていたといわれる釈迦如来と多宝如来をご本尊としている。手を合わせ次に向かうは「開山堂」と「納経堂」。先ほど「えんどう」で見たポスターの場所だ。晴れ渡る空に映える素晴らしい建物だ。

納経堂 開山堂 今日は雪だけどね! 納経堂

めちゃくちゃ雪だけどね!

参道から向かって右が「開山堂」。立石寺を開いた慈覚大師円仁を祀るお堂だ。そして、向かって左側の突き出した岩の上にあるのが「納経堂」。この岩は百丈岩と言われる立派な岩だ。最上義光が家臣に命じて建立したそうだ。
五大堂

五大堂へ

開山堂の脇にある道を登り「五大堂」へたどり着く。開山30年後に建てられた、五大明王(不動明王を中心に東西南北に4名の明王を組み合わせたもの)を祀る道場だそうだ。高い位置にあるので、山寺の街を一望できるらしい。駅で偶然話した人が五大堂は下から見えると言っていた。ただこうも続けた。「雪が降ってなければね」と。

五大堂 雪が降ってなければ、 五大堂

街が見えると思う!

今日は雪だからなんにも見えない。ただそんなことはどうでもいい。雪で白くなったモノトーンの山寺と真っ白な街が見えるのだから(ほぼ見えてないけど)。それはそれで美しい。実際にこの雪景色を見るために最近は海外からのお客さんも多いそうだ。
立石寺参拝コース

美しい!

山寺駅から今回歩いた山寺参拝コースは行って戻って1時間半〜2時間ほどかかる。私は途中で食事をしたり、写真を撮ったりしたので3時間半ほど。すっかり疲れて、再び仙山線で山形駅へ戻り、近くのホテルにチェックイン、部屋へ入るやいなや眠ってしまった。山形駅周辺は雪が降っていなかった。山寺は特別なのだ。

山形駅

縄文の女神を見る

ぐっすりと眠り、次の日になった。本日は「山形県立博物館」に行く。ここに国宝が展示されているのだ。そう、「縄文の女神」。縄文時代中期の土偶である。日本には5つ、国宝になっている土偶があるが、その1つが山形にあるのだ。
山形県立博物館

山形県立博物館に来ました!

5つの国宝土偶は北海道の「中空土偶」、青森の「合掌土偶」、山形の「縄文の女神」、長野県は2つあり「仮面の女神」と「縄文のビーナス」である。女神(ビーナス含め)という名前が多い。これは農作物が豊かに実ることを願った地母神崇拝に結びつくからだろう。
ヤマガタダイカイギュウの展示

ヤマガタダイカイギュウの展示も!

山形県立博物館では、1978年に見つかったヤマガタダイカイギュウの展示(標本のレプリカ)もある。国内での海牛化石の研究が進んでいない頃に発見されたもので、約900万年前のもの。いまだに同じ種の化石は発見されていないので、世界にたった1個体しかない貴重なものだ。

入館料の300円でヤマガタダイカイギュウが見られるだけでも充分すぎるのに、日本に5つしかない国宝の土偶の1つを見ることができるのだ。意外なのだけれど、今の時間は見学者が少ないので貸切状態で見られますよ、と博物館の人がいっていた。

縄文の女神 私も貸切状態で見ることができました! 縄文の女神

縄文の女神

1992年に尾花沢新庄道路の建設の際に発掘調査を行い、偶然発見されたのが縄文の女神だ。高さは45cmもあり、日本最大の立像土偶だ。上半身はしなやかに丸みを帯びていながら、下半身は四角く立体的で、他の地域では見かけない姿をしている。
縄文の女神

グラマラスに見える!

遺跡ではおよそ6mの範囲で頭部、胸部、腰部、右足、左足の5片が見つかったという。実は似たようなものはたくさん出土しており、調査員の一人が偶然、これとこれって合うよな、と組み合わせたことで縄文の女神の発見に至ったわけだ。過去に似たような土偶は出土してないので、奇跡的な発見だ。
縄文の女神

頭部には穴が空いています!

頭部にはいくつかの穴が空いている。なぜ空いているのかは定かではない。紐を通したという説もあるが、3kg以上あるので、紐を通したとしても首から下げると首が痛そうだ。鳥の羽を差したという説もある。どれが本当かはわからない。

出土した時、「いずれは国宝になる」と関係者は全員確信したそうだ。実際、2012年に国宝に指定された。気品があるのだ。見ていると惚れ惚れするのだ。時間が過ぎることを忘れるのだ。ずっと見ていられるのだ。それが縄文の女神の魅力だ。

山形駅

ぶらぶらして東京へ

めちゃくちゃゆっくりと「縄文の女神」を見てしまった。貸切状態だったのでたっぷり見ることができた。幸せなことだ。でも、もっと多くの人に見て欲しい。また山形県立博物館は国指定史跡山形城跡「霞城(かじょう)公園」内にある。公園にはいろいろあるので、歩いていて楽しい。

山形市郷土館 山形市郷土館があったり、 本丸一文字門

本丸一文字門が復元されていたり

歩くだけでも楽しいというのはいいことだ。山寺を見て、さらに古い時代の土偶を見て、900万年前のヤマガタダイカイギュウも見た。歴史を見る旅だ。寒い時期は街が全て静かで何かを見るには適している。雪で見えない時もあるけどそれはそれで情緒。最高の山形だった。
米沢駅から福島駅のあたり 車窓

JR米沢駅からJR福島駅のあたりは雪がすごかった!

東京駅

【全3回 連載】
第1回:男ひとり旅をするなら、幸せに満ち溢れた冬の松島へ
第2回:本記事
第3回:未定

掲載情報は2020年2月5日配信時のものです。現在の内容と異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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