さよなら電力足りる論

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さよなら電力足りる論

今回はryoko174さんのブログ『ryoko174の混沌日記』からご寄稿いただきました。

さよなら電力足りる論

「原発抜きでも電力は足りる」論が著名人も交えて未だに盛んですが、結論から言うと「電力足りる論」は明白な誤りです。

中日新聞記事「関電、大飯再稼働なくても電力供給に余力」に対する賛否
http://togetter.com/li/341601

◆前提条件について

そもそも「節電」や「計画停電の準備」を強いられている時点で「電力は足りていません」。

例えば、節電による経済雇用の損失は、FY12だけでGDP損失が約2.6兆円、失業者が5万人増との試算があります(日本エネルギー経済研究所)。実際に関西地方の企業を中心に、関西外や海外への生産代替などが実行に移されていることは、各メディアでも報じられています。

数値の正誤は蓋を開けてみないと分からないし、原発停止に伴うメリット/デメリットは後に漏れなく検証されるべきだと思いますが、このような経済雇用リスクの発生が前提となっている時点で、「電力足りる」論には無理があります。

もし本当に「電力が足りていたら」、経済雇用リスクは発生しないのです。

また、「原発抜きでも電力は足りる」論が、福島原発事故と同じ「安全神話」に陥っている点も問題です。

「電力足りる」論は、例えば関西において「2年前と同じ猛暑の到来」や「昨年のように自主節電が不足」といった高確率で発生しうるリスクが顕在化するだけで破綻します。想定が甘すぎるのです。

これは、想定の漏れや甘さで、あの悲惨な原発事故を起こした原発「安全神話」と同じ。ベクトルが異なるだけで、想定の漏れや甘さを無視し、電力足りる「安全神話」に陥っているだけです。

原発の安全対策に1000年に一度の天災リスクを考慮することは当然とする一方で、10年に一度以上の高頻度で起きる猛暑リスクは軽視することは、一貫性あるスタンスとは言えません。

私達はあの悲惨な福島原発事故を経験した者として、また同じ「安全神話」に陥るべきではないでしょう。

◆電力需給について

次に関西地区の電力需給データを見ても、もし大飯原発の再稼働がなければ、7月18日の段階で十分な予備率が確保できない事態に追い込まれたことが分かっています。

大飯原発の再稼働により、原発の昼間発電分と、原発の夜間余剰電力によるポンプアップされた揚水発電分の2つの発電分によるピークカットが可能となっています。それを抜いた最大供給力と、7月18日時点の最大消費電力をグラフ化したものが下記です。

さよなら電力足りる論

(出典:関西電力)

まず大雨などの影響により、5月時点の見通しに比べて、水力発電が増加していることが分かります。

しかし、それでも十分な供給予備率10%の確保には至っていないことが分かります。

周知の通り、供給予備率というのは「プラスであればそれでいい」という性質のものではありません。様々なトラブルによる供給減少リスクに備え、一定のバッファを持たせる必要があるのです。

トラブルリスクの一例として、例えばクラゲを見てみましょう。

「関電、クラゲで出力抑制41回」2012年07月20日『デイリー・スポーツ・オンライン』
http://www.daily.co.jp/society/economics/2012/07/20/0005229181.shtml

関電の発電所において、クラゲにより出力が1/4以上低下した回数は、4~6月の3ヶ月間で41回に上ることが分かっています。これは、3日に1度の高頻度で、出力低下している計算です。

例えば、6月22日には姫路第二火力発電所で最大90万kwの低下が起きてます。最近の事例では、7月19日にもクラゲによる出力抑制が起きており、猛暑の時期になってもクラゲリスクを度外視できないことが分かっています。

もちろんクラゲ以外の発電所トラブルリスクは事欠きませんし、猛暑&水不足となるだけでも水力を中心に供給力の減少リスクがあります。

そもそも夏の本番はこれからなので、現時点で「原発抜きでも電力は足りる」論を主張すること自体がナンセンスですが、上記の通り「電力足りる論」を否定する根拠はすでに数多く判明しています。

無責任な「電力足りる論」とはそろそろ決別すべき時です。さよなら「電力足りる論」。

執筆: この記事はryoko174さんのブログ『ryoko174の混沌日記』からご寄稿いただきました。

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