倫理観の欠片もないうなぎ報道

倫理観の欠片もないうなぎ報道

今回はapesnotmonkeysさんのブログ『Apes! Not Monkeys! 本館』から承諾を得て転載させていただきました。

倫理観の欠片もないうなぎ報道

今回は今朝放送のテレビ朝日系列、「報道ステーション SUNDAY」のうなぎ特集。番組アカウントのツイートがこんな風ですから、見る前からダメなのはわかりきったことですが。

@hs_sunday: 価格高騰の一途をたどるうなぎ。そんな中、うなぎ貿易の覇権を握ろうとしている国が中国。養殖から貿易まで「国家的プロジェクト」として捉え、その規模の拡大を図ってきた。一方日本でも今までになかったルートでうなぎを仕入れる新たな動きが果たして日本は、伝統食うなぎを守れるのか?
2012年7月21日『Twitter』
https://twitter.com/hs_sunday

「今週金曜の土用の丑の日を前に、日本のうなぎ業界は騒然としています。不漁続きで高騰が続いてますよね、このうなぎ。ところが、今後の鍵を握るのが、中国だというのです」というリードで始まる16分ほどの特集。画面右上のタイトルロゴは「特集 稚魚1Kgが250万円! ウナギ危機の裏に“中国の影”」。はい、どういうシナリオだか、もうわかっちゃいました。
冒頭は旧江戸川でうなぎを釣る一般釣り人。「食べたい者は自分で獲る、あっぱれな心がけ」だと。まあ、素人が釣り竿で釣る分にはたかがしれているだろうから目くじら立てるようなことではないだろうが、煽るなよ。釣り上げた男性がうな重をかき込み「うん、今年のうなぎはね、やっぱりおいしい」とつぶやくのを追って「はっきり言って、こりゃもう異常事態だ」というナレーション。「異常事態」なのはあんたたちの報道姿勢の方だと思いますがね。
次が愛知県一色町の養殖場を取材。町内の養殖業者の2割がシラスの仕入れを見送ったとのこと。続いてシラスの不漁と価格高騰に関するデータ。
東京海洋大学・田中栄二教授に取材、不漁の原因は乱獲と環境の変化(エルニーニョなど)、と。はい、「乱獲」って言いましたよね、いま。忘れないようにしましょうね。
次いで浜松のうなぎ問屋。「中国産ウナギで補っている」「品質は良い」と社長コメント。
ナレーションが「いま日本のうなぎ市場は、中国なしには成り立たなくなっていることを、ご存知だろうか?」と。流通量の5割、輸入総額約440億円というデータ。蒲焼きになったものを輸入している商社の映像。「中国、恐るべし。しかも、このところ不気味な異変が起きていた……」とナレーション。異変とは……。
中国による価格のつり上げ
と、画面いっぱいに。
「中国による」って……。え~市場経済では価格は市場が決めるんですよね? 資源量が減っている魚(中国からの輸入量も、ピーク時よりはかなり減っている)の価格が高騰するのは市場原理にかなってませんか? なんでも今年4月には、中国産の卸値がキロあたり国産より600円高くなったとのこと。「日本のうなぎ相場は、中国の強気な価格設定で混乱を極め、結果的に高騰を招いているのが実状だった」、ですと。いやだって、買うんでしょ、日本市場が? 売れるんだから強気で価格設定して、何がおかしいの?「混乱」? いまの状況でうなぎが高騰しなかったらそっちの方が不思議だよ。
「関係者たちは頭を抱えている」として紹介されるのが、日本鰻輸入組合理事長。「ウナギが少なくなると 誰がどれくらい持っているか決まってくる」「ウナギの売り手が価格を決める 従うしかない」「手の打ちようがない」って、被災地でペットボトル入りの水に高値をつけたとか、あるいは飢餓のおそれがあるのに足下を見て値上げしたとかいった話しじゃありませんからなぁ。

次いで、中国の養殖事情。「なぜ中国には豊富な養殖ウナギがあるのか?」「背景には、うなぎ好きの日本をターゲットにした、90年代から続く国家規模とも言える戦略が見え隠れしていた」
日本から台湾経由で中国に伝わったうなぎの養殖技術が「進化した理由」とは? 中国・出入国検査検疫局が養殖業者に出した「驚くべき指示が並んでいる」という内部資料が紹介されるのだが、その内容たるや「池で育てるウナギは数を厳密に守れ」「病気になったら12時間以内に報告」といった、極めて真っ当なもの。「できる限り詰め込んで抗生物質もケチらずに使え」などと指示されていたらそりゃあ「驚くべき」だろうが、一体何に驚いているのか? 「まさに国策」ですと。
ヨーロッパウナギの養殖技術を独自に開発し(「流水養鰻」)たことを紹介した後、今年からヨーロッパウナギが全面禁輸になったことをうけ、調達地がアメリカに移ったことを紹介。「中国によるヨーロッパウナギの稚魚乱獲は絶滅の危機さえ招くことになる」って、獲ったのはヨーロッパの漁業者だよ。中国はそれを買ったの。で、育ったうなぎを最終的に買ったのは日本! なんで中国だけのせいにしてるんだよ!
「先週、アメリカは大量買い占めを狙う中国を牽制して、再びワシントン条約による取引規制の検討をうち出した」。「中国を牽制」がテロップで強調されている。ここで「うなぎ市場に詳しい専門家は、これもある種の資源争奪戦だと言いきる」というチャンネル桜まがいの紹介をされて登場するのが、岩波新書の『ウナギ 地球環境を語る魚』の著者、井田徹治氏。「育てられる稚魚を握ったものが勝ち」「限られた資源を限られた業者が独占」「言うがままになる」というテロップ。しかし当の井田氏はこんなツイートをしておられる。

@TETSUJIDA: TV朝日の報道ステーションのウナギ特集にいろいろ協力して、資源の危機的状況や管理の重要性を話したし、このままではウナギは食べられなくなる、と言ったのだが、まったく受け止められなかったな・・・。ウナギ危機の背景にある日本の乱食をそのままにしていろいろ言っても何の意味もない。
2012年7月22日『Twitter』
https://twitter.com/TETSUJIDA

先日のミヤネ屋といい、りあるぽりてぃっくす脳には困ったものです。マジで有害。排外主義を煽り、環境問題から目を背けさせる結果にしかなってない。
その次は「脅威の販売力」というあおりで、中国は国家政策として「竜頭企業」(中核企業)を育成して来た、という婁小波・東京海洋大教授のコメントを紹介。「強気の価格で団結し、日本市場に切り込む狙いだ」 「団結」って……いやまあ、カルテルの証拠でも押さえておられるなら結構ですけどね。

恐怖はこれだけでは終わらない。「国家が主導する中国の戦略に対して日本はいいところなし、と思いきや……。これまでの常識を超えた、驚きの対抗策が動きだしていた!」というヒキでCMに。もう皆さん、おわかりですね?

さてCM明け。本命はまだですよ。「夏バテを乗り切るうなぎは手の届かないところにいっちゃったぁ……巷には切ない声があふれている。けれどいま、うなぎの高騰を食い止める試行錯誤が始まっていた」としてまず紹介されるのは、このエントリでも言及した西友の安売り。中抜きで安値を実現したとのことだが、抜かれた問屋(うなぎ専門かどうかしらないけど、間違いなくスーパーよりはうなぎへの依存度高いよね)はどうなったことやら。しかも恐ろしいのは、「値段を下げることで買っていただいて、それを大量に販売することで、私どもも企業ですから、利潤をいただくという計画」と、堂々の薄利多売宣言! 鶏卵やモヤシじゃないんだよ!?
そしてもう皆さん本当におなじみの、マダガスカル産うなぎ(モザンビカ種)*1の登場です。今回は特別にタスマニア産天然うなぎもお付けします! 「だがアフリカやオーストラリアのうなぎが、果たして日本人の口に合うのだろうか?」ということで場面は浜松の老舗うなぎ店に。モザンビカ種は「国産まではいかないが脂はある」「うなぎ独特のねっとり感・甘みがある」「思ったより食べられる」と、絶滅へのカウントダウンが始まった。タスマニア産天然うなぎは「皮が厚く〔焼くと〕はがれてしまう」と、希望の持てる滑り出し。しかし「皮はうなぎの香りもする」「ねっとり感はある」「脂が少ないので 調理方法を考え使用できると思う」と怪しい雲行きに。「(国産と外国産を)上手に使い分け 資源をうまい具合に使えれば やっていけると思う」という板長のコメントでその場は〆る。

*1:「『ガイアの夜明け』ウナギ特集の感想まとめ」2012年7月3日『Togetter』
http://togetter.com/li/331747

再び婁教授。家電で起こったのと同じ、技術移転が起こっている、と。「日本のうなぎ養殖業の振興」が「今後の課題」だ、と。振興して、日本と中国で競い合い、マダガスカルとタスマニアのシラスを獲り尽くす気ですか? 予想通り、「資源保護」「生物多様性」「国際的な責任」「未来世代への責任」などといった観点は、これっぽっちもありませんでした。「安いうなぎを食わせろ」と「中国に負けるな」だけ。前出の井田氏はこうもツイートしてます。

@TETSUJIDA: TV朝日の特集。米国が「中国牽制のためにワシントン条約の規制を検討している」というのは根拠がない。中国が国を挙げてウナギ産業を支援して世界を制覇しつつあるから、日本もそれをやったほうがいい、と言わんばかりの結論は???。日本が国としてやるべきは厳密なウナギの資源と市場の管理だ。
2012年7月22日『Twitter』
https://twitter.com/TETSUJIDA

VTRが終わってスタジオへ。キャスターたちが開口一番「おいしそう~」「おなかすきましたね~」「ほんとみんなうなぎ食べたいっていう声が」って、お前らの目は節穴か! 目の前で焼きたての蒲焼きが湯気を出していても食欲の失せるような情報が提示されていただろうが!
最後は一産業に国がテコ入れすることについて、ゲストのどうでもいいコメント。やはり今回も憤死ものでした。

執筆: この記事はapesnotmonkeysさんのブログ『Apes! Not Monkeys! 本館』からご寄稿いただきました。

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