“新型うつ”を社会のせいにしてみた
“新型うつ”と言われる人々が大量発生しているようです。有名なビジネス雑誌でも続々と取り上げられており、書籍も出ています。
仕事のときにはうつ症状が出てつらいんだけど、休みの日には元気に友達と遊べる。うつ病かも知れない、と思って自分から病院に行き、診断書をもらって休職。その間に海外旅行に行く。つらいのは職場のせいで、自分のせいじゃない――“新型うつ”の症状は大雑把にいうとこんな感じで、20~30代の若者に多いとか。
毎日仕事を頑張っている人々からは「甘えるんじゃない!」と非難ごうごうです。本当に病気なのか、詐病じゃないのか、色々言われています。脳内物質の異常とされる従来型の“うつ病”と比べて医学的根拠にも欠けるし、何よりも甘えていて責任感がなくてルーズだということで、問題視されています。
私は“新型うつ”が病気なのか否か、率直に言ってそこまで関心がありません。当事者を非難する気もありません。本質はそこではないと思うからです。
“新型うつ”が増えた背景、私なりに3つ考えました。
1)“うつ病”の啓蒙活動の皮肉な産物
“うつ病”への理解を呼び掛ける啓蒙活動のおかげで、“うつ病”については多くの人が知識を持つところとなりました。それは本当によいことです。一人で悩んでいる人が、精神科や心療内科を受診しやすくなったことは、精神疾患の予防や早期発見において有効です。でも同時に、ちょっとした不調でも病院へ行く人が増え、診断書をもらいやすくなったのも事実なのです。
啓蒙活動によって、企業のメンタルヘルス対策もずいぶん手厚くなりました。診断書を提出すればお給料をもらいながら数か月会社を休むことができます。診断書を出せば会社を休める。診断書は結構簡単にもらえる。本来、本当につらくて困っている人のためにあるべき制度が、“傍目にはもうちょっと頑張ってもよさそうな人”にも適用されるようになったのです。そうした人々が、“新型うつ”と指差されることになったのではないでしょうか。
これは、“うつ病”の啓蒙活動が生んだ皮肉な結果なのだと思います。
2)SNSは“新型うつ”発見器
うつで会社を休んでいるはずの同僚が、SNSに楽しげな旅行の写真を載せていた……“新型うつ”が語られるときによく出る例です。会社に行けないけど、遊びは大丈夫。そのことがSNSによってバレバレになってしまうわけです。昔からこういう人っていたんじゃないかと私は思います。SNSの利用が浸透するにつれてその存在が目につくようになり、数が増えてきたように感じられるだけなのではないでしょうか。SNSがなければ、“新型うつ”がどうのこうのっていう話はまだ盛んになっていなかったかもしれません。SNSのなかでも『Twitter』は“バカ発見器”なんて言われていますが、『Facebook』などは“新型うつ発見器”なのかもしれません。
3)そもそも論“仕事とは”
“新型うつ”と言われる人たちは仕事に対して「甘えている、責任感がない」などと言われます。でも私は思います。そもそも、仕事に対する考え方が違うのではないかと……。「毎日怒られても、自分を否定されても、多少具合が悪くても、はってでも仕事に行かなきゃ」って、思っていないのかもしれません。反対に、そんな風に考える人たちこそが、“新型うつ”をここぞとばかりに辛口評価しているのでは。よって立つところが違うので、議論も成り立たないし、意味があまりないのではと思います。
仕事は、会社は、はってでも行くようなものじゃない。それは持ちたくて持つ思想なのでしょうか。個人の思想って、社会が作るものだと思うんですよね。
以上が私の考える“新型うつ”急増の背景です。今の社会が、“新型うつ”を量産する装置になっていないか、と思います。だから、“新型うつ”と言われる当事者批判にはあまり興味がありません。本人だってつらいし、罪悪感を感じていると思うからです。社会の在り方に起因しているのであって、当事者だけを責めるのはお門違い。そんなニュアンスの話になりました。
たくさんある意見のひとつと思っていただければと思います。
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