『HiGH&LOW』のアクション俳優をもうならせる、シビアで丁寧な審査とは?『第31回アクションライセンス認定会』レポート&インタビュー

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参加した俳優たちは何を感じたのか? 丞威×吉本実憂×齋藤めぐみインタビュー

アクションライセンスの審査自体は、ハッキリ言ってシビアと言えるだろう。しかし、殺陣・技斗に必要な「手順の記憶」「相手との調和」「安全性の担保」「キャメラ位置の把握」、そして、「演技の成立」についてまでを、リハーサルや審査の総評で知ることが出来るのは、アクションを志すものにとって非常に魅力的なのではないだろうか? この日、認定会に参加していた丞威(『HiGH&LOW THE MOVIE 2 / END OF SKY』など)、吉本実憂(『HiGH&LOW THE RED RAIN』など)、齋藤めぐみ(『劇場版仮面ライダーゴースト』など)の3名の俳優に、認定会に参加した感想を語ってもらった。

――なぜ、今回の認定会に参加しようと思われたのでしょうか?

齋藤:私は、アクションの稽古を始めてから1年ほど経った頃に、先生から認定会があることを教えていただいたのがきっかけです。「ちょっと受けてみよっかな」くらいの、すごく気軽な気持ちで来たのですが……思った以上に厳しいところだったので緊張しました(笑)。

一同:(笑)

吉本:私は小さい頃から合気道をやっていました。もともとは警察官になりたかったのですが、その夢は叶わずで。女優を始めてからは、アクション作品に出演したくて、稽古を始めました。履歴書に「アクションが出来ます」よりも、「〇〇級」と具体的に書けたほうが説得力があるので、認定会でライセンスをとろうと思ったんです。

――丞威さんは、これまで受けていなかったのが不思議なくらいですが。

丞威:ぼくはずっとアクション映画をやってきて、「アクション俳優」と言われているのに、「これ(ライセンス)を持っていないのはダメでしょう」と思っていたので、取りに来ました。ただ、そんなに簡単にとれるものじゃないとも思っていました。殺陣は、高瀬先生に「上級を狙って」と言われていましたが、中級を受けました。技斗のアクションには自信はありましたが、殺陣は全く別のものなので、今の準備期間だと上級は無理だと思ったんです。上級を受けるとすれば、ただ受かるだけじゃなく、誰にも文句を言われないようなレベルでないといけない、と。中級には受かりましたが、ギリギリでしたね。

――殺陣も技斗も、審査後にすぐ結果が発表されたのでびっくりしました。

丞威:自動車免許の発表よりも早かったです(笑)。

吉本:びっくりしましたね(笑)。

――結果はどうだったのでしょう?

齋藤:私は殺陣と技斗の中級を受けたんですが、どちらもダメでした。最初に受けるときはすごく緊張したんですけど、「もしかしたら受かるかも」と思っていたところがありました。でも、モニターチェックをしてみたら、自分の悪い部分がよくわかって。点数も教えていただけたので、課題が見つかりました。厳しい段階だということは再確認できましたし、もっともっと頑張りたい。先生は「スイッチになれば」とおっしゃっていたんですが、この試験は私が今後もアクションをやっていくにあたっての、スイッチになったと思います。

吉本実憂 殺陣・中級審査(YouTube)https://youtu.be/ZuD3N-VmXVM

吉本:私は、殺陣の中・上級、技斗の中・上級を受けて、どちらも中級だけ受かりました。上級は正直ダメもとで受けたんですけど、点数を教えてもらえたので。自分がどのレベルにいるのかをちゃんと知ることができたので、次回の12月の審査につなげようと思いました。私は、「男の人に負けたくない」という気持ちがすごくあるんです。合気道をやっているときも、いくら頑張っても力で負けてしまうことがありました。普段は、同じオスカーの女優さんたちとアクションの稽古をしているんですけど、今日の審査では男性も私たちと同じ手で立ち回り・技斗をやっていて……それを見て、あらためて、「もっと強くなりたい」「もっとアクションで魅せられるようになりたい」と思いました。

――丞威さんは殺陣の中級、技斗の中・上級、すべて合格されましたね。受けてみて、いかがしたか?

丞威:難しいと思いました。(映画やテレビの)現場であれば撮り直すこともできますが、認定会は一発勝負ですから。カメラの画角だったり、パンチ・キックがどう見えるか……例えば、かぶせる(当たっているように見える)パンチなんかは、練習の段階で映像を見ながらやらないとわからないと思うんです。ぼくも現場で経験して感じていたことなんですが、その場ではぎこちなく見えるものでも、映像だと成立するものもある。だから、今日の審査は日本のアクション業界にとっていいものだな、と思いました。ぼくは海外の撮影に参加して思ったのが、本当にテクニックがすごいということなんです。「カメラはここで、レンズはそれ」「じゃあ、ここだね」とすぐに判断できる、経験値がすごい。その経験を現場に行かなくても積めるというのは、素晴らしいことだと思います。その場で点数を聞けるのも、いいですよね。公開処刑のように感じるかもしれないんですけど(笑)。

一同:(笑)

丞威 殺陣・中級/技斗上級 審査(YouTube)https://youtu.be/F2oXUs_sKHk

丞威:でも、あとから聞くんじゃなく、その場で「あの人はこういう点数なんだ」とか、「この人はここがダメだったんだ。じゃあ自分も気を付けよう」と意識するが出来る。相乗効果があるので、すごくいい機会だと思います。

――試験というより、ワークショップのような一面もあるように思いました。

丞威:リハーサルからすごく丁寧に教えて下さるので、びっくりしました。

吉本:ちゃんとアドバイスしていただけるので良かったです。

――審査で重要視される“演技としてのアクション”は、みなさん普段から意識していらっしゃいましたか?

齋藤:以前から意識してはいたんですけど、それが伝わらなかったらしょうがないんですよね。自分としてはこう表現したつもりなんだけど、伝わらなかった、とか。「こうやったら伝わらない。こうすれば伝わる」ということも具体的にわかったので、とても勉強になりました。

吉本:私の思い込みかもしれないんですけど、今日はいつも以上に命を狙われているような空気がありました。いつもより集中することができましたし、練習のときにももっと真剣にやろう、という気になれました。

丞威:ぼくは形から入る人間なんです。現場に入って、メイクしてもらって、衣装を着て……という、キャラクターが出来上がった状態で、「このキャラクターとしてアクションをする」ことが多い。今回は動きに集中しすぎたのが、ちょっと失敗だと思いました。次回からはレッスン着じゃなく、例えばチンピラのような服を着たりして、キャラクターを作って受けようかな、と思いました。もうひとつ、自分が一番勉強不足だと思ったのが、所作ですね。時代劇だと、その時代の歩き方や立ち居振る舞いを理解していないと、そこから崩すことが出来ないじゃないですか。やりたいことがあっても、凝り固まってしまって、アクションの手にもぎこちなさが出てしまう。殺陣の技術だけじゃなく、所作からもっと勉強しないとダメだな、と思いました。

――最後に、これからアクションライセンスを取得しようとされている方たちに、メッセージをお願いします。

齋藤:私は女優のお仕事に活かしたくてアクションを始めました。始めてみたんですけど、さっき実優ちゃんが言っていたように、「やっています」だけじゃ、使うほうも使えないと思うんです。少しでもアクションをやろうという役者さんは、級という形、資格として持つと有利になると思うので、受けるといいんじゃないかと思います。

吉本:楽しくなければ続けられないので、楽しく、真剣にアクションに取り組まれる方が増えればいいな、と思っています。認定会は、役者としても、すごくシビアに点数を付けられるので、自分の力を知ることが出来る、素晴らしい場所だと思います。

――受験料もそれほど高くないので、何回も再受験すればいいですよね。

吉本:(笑)

丞威:何回でも受ければいいですよね。以前の取材でも話させていただきましたけど、アクションをやりたい方は、どんどんやって欲しいです。先日まで、アジアの色んな国を廻っていたんですけど、日本が一番アクションに興味がないんじゃないかな、と思いました。今、インドネシアとかすごいんですよ。例えば、日本には空手というものがあります。空手が映像には映えないものだというのはわかるんですが……これだけ素晴らしい文化があるのに、なぜ日本の人たちだけ興味がないんだろう?と思うんです。高瀬先生も、日活、東映でずっと日本映画のアクションを支えこられた方です。こういう人や技術を残していかないと、もったいないと思うんですよね。だから、もっと日本から「アクション俳優」と呼ばれる人が出てきてほしい。

――たしかに、認定会で審査する技術は、日本独自のものですね。

丞威:アジア人にとって、アクションという表現はハリウッドに一番近い道だと思うんですよ。どんなに頑張っても、芝居で活躍できる範囲は限られているので。それと、ディズニーの『アラジン』のジャスミンなんかを見ていても、以前よりも女性が活躍する機会が増えてきていると思います。だから、男女関係なくアクションに挑戦して欲しい。それに、間合いだったり、タイミングを覚えれば、アクション以外の芝居も変わってくると思います。今回の審査でいいな、と思ったのが、シビアに点数をつけられるところです。そう簡単には「アクション俳優」にはなれないということは、色んな人たちに知ってもらわないといけない。

――アクション俳優と、アクションのできる俳優は違いますものね。とはいえ、齊藤さんや吉本さんのようにアクションに真剣に取り組んでいらっしゃる方がいて、嬉しかったです。特に、吉本さんは、『HiGH&LOW THE RED RAIN』でアクションしていなかったのが不思議なくらい。

吉本:そうなんですよ!アクションせず、見ていただけでした(笑)。本当はやりたかったんですけど。

――みなさんの次回作が楽しみです。

2019年12月7日(土)に開催された『第32回アクションライセンス認定会』には、吉本が再び参加。殺陣・技斗の上級審査を受け、どちらも見事に合格。総合上級ライセンス資格の保持者となっている。2020年以降の開催予定は、随時アップされる日俳連アクション部会公式サイトを確認しよう。

取材・文=藤本洋輔  動画・スチール撮影=オサダ コウジ

(執筆者: 藤本 洋輔)

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