『HiGH&LOW』のアクション俳優をもうならせる、シビアで丁寧な審査とは?『第31回アクションライセンス認定会』レポート&インタビュー
▲『第31回アクションライセンス認定会』参加者 左から、吉本実憂、丞威、齋藤めぐみ
『るろうに剣心』『HiGH&LOW』『ザ・ファブル』などなど、アクションをメインとした邦画がヒットを飛ばし、『刀剣乱舞』といった殺陣が必要とされる舞台も次々と話題になる昨今。スタントマンやアクション監督の活躍の場は広がり、殺陣や技斗(現代アクション)に真剣に取り組む俳優も増えてきた。一方で、ときおりアクション関係者から聞こえてくるのが、「特技はアクション」としながら、実際にはそれほどでもない俳優もいるということ。たしかに、作り手も観客も何を基準にして、「アクションが出来る」とするべきか悩むところだろう。「武道・格闘技経験がある」「身体能力が高い」からといって、必ずしも演技としてのアクションに秀でているとは限らないのである。
そんな“基準”の認定を行っているのが、日本俳優連合・アクション部会が主催する『アクションライセンス認定会』である。毎年秋冬2回行われているこの認定会では、殺陣と技斗(現代劇におけるアクション)の審査を行い、合格者に公認のライセンスを発行している。果たしてどんな人々が参加し、何を審査するのか?ということで、このレポートでは、2019年7月末に東京・新宿区芸能花伝舎にて行われた『第31回アクションライセンス認定会』の模様と参加者へのインタビューをお届け。また、後日公開の記事では、日俳連理事の高瀬将嗣と認定会審査委員長の崔洋一監督に、認定会発足のきっかけや今後の展望についても語ってもらっている。
アクション=演技と安全の審査
アクションライセンスの合格認定は、殺陣・技斗それぞれに初級・中級・上級の3つの難易度が用意されている。我々が取材したのは、午後に行われた中・上級の審査だ。集まった参加者は、男性9名、女性7名の計16名。年代は20代前半から30代後半までと、全体的に若い印象。また、審査を受けるためには日俳連への加入が必須(※第31回の認定会より日俳連未加入でも受講可能に)であるため、演技経験者と思しき人々が集まっていた。中には、ドラマや映画で顔を見たことのある俳優の姿もちらほら。もちろん、その面持ちは一様にして真剣そのものだ。参加者が思い思いに体をほぐす中、進行役の高瀬将嗣氏(日俳連・アクション部会担当理事)が登場すると、会場に緊張が走る。
挨拶もそこそこに、高瀬氏は大まかに3つの審査基準が説明する。高瀬氏が一番目に挙げたのは、「手=振付をきちんと覚えているかどうか」。二番目には「相手の手を覚えているかどうか。これはコンビネーションの問題です。例えば、相手が攻めてくる前に受けの体制に入っていると、予測しているように見えてしまう。また、相手が斬られる・殴られる体勢に入ってから動いているのでは、演技は成立しません」と丁寧に解説する。なるほど、芝居で自分と相手の台詞、どちらも覚える必要があるのと同じと考えればわかりやすいかもしれない。
さらに高瀬氏は、三番目=最も大切なこととして、「殺陣でも技斗でも、安全であることです」と、力を込めて語る。続けて、「格闘技や武道とは違います。競技ではなくあくまで演技ですので、安全を確保したうえで、表現が成立しているかどうか。これが出来ていないと、大きなマイナスポイントとなります」と、アクションならではの審査ポイントを挙げた。また、「殺陣の場合は、竹光と呼ばれる模造刀を使用します。これは、実際にガンガン打ち合うと、ハバキの部分から折れてしまいます。リアリズムがあったとしても、折れるほど力を込めて打ち合ってはいけません。また、技斗でもあざができるほど打ち合うのもおかしい」と具体的な解説も。
▲ カメラの画角について解説する高瀬氏
続いて高瀬氏は、審査員席の後方中央に設置されたビデオカメラを指さしながら、「まず、審査員がライブの状態で殺陣・技斗を判定します。同時に、定点で撮影したデジタルカメラの映像を観て、最終的な点数を判定します」と実際の審査の流れを説明。つまり、審査員の目から見たアクションだけではなく、映像としてどう映るかを意識しなければならないということだ。
高瀬氏は、「カメラ位置を意識できていないと、審査に落ちます。このキャメラは標準レンズ、つまり映画でいうと50mm。画角で言うと45度なので、90度の半分です。ここからですと、2列目のサイドの方は画角に入っていません。最後列のサイドは入っています」と、どの位置までが映像に収まるかまで丁寧に説明していた。そして、「この審査は、専門のアクションプレイヤー、あるいはスタントマンの技術を測る審査ではありません。俳優として、演技としてのアクションが成立しているかどうか。それを測るためのものです」と、念を押していた。
リハーサル、テストを経て本番へ
審査は、殺陣の中級・上級、技斗の中級・上級の順に行われた。とはいえ、いきなり審査がはじまるわけではなく、各級ごとに全員での手(振付)の確認、参加者1人につき10分程度の個別リハーサルを経てから、本番前に1回のテスト演技を行う猶予も。とはいえ、本番はやり直しなしなのでシビアであることには変わりない。
第31回アクションライセンス認定会 殺陣・技斗リハーサルのようす(YouTube)https://youtu.be/tTL6alAdZPg
殺陣・技斗ともに、中級は10手以上、上級は15手以上の振付が義務付けられているが、共通する演技も多い。殺陣のリハーサルでは、『ラスト・サムライ』『燃えよ剣』で殺陣指導を担当した森聖二氏(高瀬道場)が手本を見せ、「なぜこう動く必要があるのか」「こう動くことでどう見えるのか」と、振付の意図や結果まで丁寧に説明。参加者は、身体を動かしながら、思い思いに手を確認していた。
中級に参加するだけあり、どの参加者も手の確認は特に問題なく、スムーズにリハーサルが終了。本番では、手を間違える参加者はおらず、それぞれの熟練度や個性、バックグラウンドが垣間見える殺陣が展開していた。ただし、事前に説明のあったカメラを意識した芝居に慣れていない参加者も……審査員はどんなジャッジを下すのか。
今回、審査員に名を連ねたのは、審査委員長の崔洋一監督(『カムイ外伝』など)をはじめ、時代劇やアクション映画に造詣の深い映画監督、作家、脚本家、ライターなどが名を連ねている。崔監督は総評で、参加者が殺陣の中でどんなシチュエーションをイメージしていたかに言及。「街中での闘いなのか、郊外なのか、田舎道なのか……そういった場所によって芝居は変わるんです。私は城下町での出来事として見ていたんですが、そういう視点を持って欲しかった」とコメント。さらに、「映像では、半分くらいの人がラストの上段がバレている」と、カメラの視点を意識出来ていないことを指摘していた。
また、小説家・今野敏氏は「非常にレベルが高くて楽しませていただきました」と賞賛の言葉を送りつつ、「江戸時代の人たちは、ああいう手を振る歩き方はしません。避けたり躱したりといったところでも、所作が上手い人は刀の使い方も上手かった」とコメントも。脚本家の岡芳郎氏は、「最初に相手とすれ違うときに、何を見ているのかが気になりました。ぎこちなく真正面を見ている方が多かったですが、普通はそうはならないんです。どんな視線を送るかには、自分の履歴が表れるので」と、細かな所作を意識するようアドバイスしていた。
審査員の総評が終わると、なんとその場で結果の発表が行われることに。この日は殺陣・中級の受審者13名中、4名が合格。また、殺陣上級は4名が受審したが、今回は合格者はなしという結果に。しかし、いずれの受審者も合格点にわずかに及ばない程度の高いレベルに達しており、高瀬氏は次回の認定会への参加を勧めていた。
また、殺陣の後に行われた技斗の審査では、参加者がより安全面を意識する場面が目立った。殺陣にくらべて演者同士の距離が近く、サポーター越しとはいえ接触を伴うためだ。手の確認の段階でも、森聖二氏が「こう蹴ると危険」「ここはサポーターがあるから当てても大丈夫」と解説していた。
個別リハーサルでも参加者がサポーターの無い部位に蹴りを入れてしまう一幕もあったが、アクションに熟達した高瀬道場の殺陣師や俳優陣が丁寧に安全を指導。動きの確認だけにとどまらない、ワークショップ的なやりとりが、そこかしこで行われていたのが印象的だ。
技斗の審査では、殺陣のような所作の制約が少なくなったからか、審査員も演技・安全面に鋭い視線を注いでいた。審査委員長の崔監督は、中級の審査を終え、「一瞬の闘争心や恐怖感(を表現してほしかった)。ちょっと、手に流れ過ぎていた」とコメント。さらに、「プロテクターをつけているのに、それより少し低い位置を蹴っている人もいた。安全面に少し気を付けなければいけない」と指摘も。一方で、「短い時間でよく手を覚えてくださった。安心して見ていられました」と賞賛の言葉も贈っている。岡氏は、複雑な手を覚えた参加者を褒めつつも、「キャラクターとバックグラウンドが見えづらく、皆さんの頭の舞台設定が伝わってこなかった。そこまでやっていただけると、なおよかった」と総評している。直後に発表された技斗・中級の審査結果は、参加者7名中で合格者は1名。
後ろ回し蹴りなど、やや高度な技も振付に組み込まれた技斗・上級では、崔監督が「さすが上級、流麗ですね」と評するほど高レベルなパフォーマンスが続出する審査に。しかし、「レベルが高いからこそ、みなさんの個性が出ているかといったことを、どうしても要求せざるを得ない」と、合格基準自体も厳しくしたことを明かしている。結果、参加者4名中、1名のみが合格している。
▲リハーサル中のアクシデントで負傷した参加者は“ケガをした人物”を演じて審査を乗り切った
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