漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

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漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

この記事は漫画家・佐藤秀峰さんのブログからご寄稿いただきました。

※記事のすべての画像が表示されない場合は、https://getnews.jp/archives/231764をごらんください。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

先日、音楽家の佐久間正英さんの書かれた「音楽家が音楽を諦める時」*1 というブログの記事に影響を受けまして、「漫画家が漫画を諦める時」*2 という日記を書きました。

*1:「音楽家が音楽を諦める時」2012年6月16日 『Masahide Sakuma』
http://masahidesakuma.net/2012/06/post-5.html
*2:「漫画家が漫画を諦める時」2012年6月23日 『漫画 on web』
http://mangaonweb.com/creatorDiarypage.do?p=1&cn=1&dn=33894&md=1

佐久間さんの記事は大反響を呼び、ニュースにまでなりましたが、僕の日記のほうもネット上のたくさんの方達の間で話題となりましたよ。

僕の日記は「漫画を描くにはお金が必要で、原稿料や取材費を始め諸経費が削られる出版業界の現状にあって、一定のクオリティを保った原稿の製作は困難なものとなっていている」という内容でしたが、なんと本家の音楽家の佐久間正英さんにもお読みいただく光栄に預かり、ついには雑誌の企画で佐久間さんとの対談が実現することとなりました。
スゴイ! 詳細が決まりましたら改めてお伝えしますね。

同時に「お金などなくてもやる気次第でクオリティの高い原稿はできる」というご意見も根強くあり、中には「ぜい沢病が抜け切らないクソ漫画家が! 死ねや!!」という厳しいご意見もありました。
理解できない方には「漫画製作にお金がかかる」ということがなかなかご理解いただけないようでした。「絵なんてタダで描ける!」と思ってしまうもののようですね。

そこで、本日は実例と共に、漫画製作にどのようにお金がかかるか(?)を見ていただきたいと思います。

まずはこちらの原稿をご覧ください。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

「特攻の島」第28話の中の1ページです。

こちらの原稿で原稿料は3万円です。
果たして、この原稿料が高いか安いかはそれぞれのご判断にお任せするとして、先日、お話した知人のように、仮に原稿料が¥7000円だったら、この原稿は一体どのようになるでしょうか?

検証していきますね。

まず、原稿料が約4分の1になる訳ですから、作画スタッフの人件費は用意できません。漫画家である僕1人ですべての作業を行なうことになります。
しかも、今と同じ作業時間で作業を完成させないと、描けるページ数が減り、イコール収入も減ってしまいます。なんとか今と同じ枚数を同じ時間で一人で仕上げられるようにしなくてはいけません。

どうすれはそのようなことが可能でしょうか?

よし。作画の作業量を大幅に減らしましょう。

背景画など手間のかかる絵はすべて省き、構図も時間のかかる構図はできるだけ使わないようにしましょう。作業量を4分の1にすればいいのです。

1コマ目の潜水艦を細かく描く時間はありません。シルエットだけ黒く塗りつぶしてしまいましょう。

じゃん。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

一応、シルエットだけでも潜水艦と分かりますし、作業時間は半分以下に短縮できました。でも半分の作業量じゃまだ短縮しきれていません。
2コマ目はどうしましょうか? その前に、トーン作業をする前の原稿をお見せしますね。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

塗り絵みたいでステキ。
さてさて2コマ目ですが、人物が6、7人描かれています。作業量を減らすには描く人物の数を減らしましょう。全身を描くと時間がかかるので、バストアップでごまかします。

フキダシを大き目に描けば絵を描く面積は減るので、フキダシは大きめに描き直し、人物はセリフをしゃべっている艦長だけにしてみました。背景も描かなければ、作業時間は7、8分の1に短縮できます。

これで合計で4分の1の作業量に短縮できました。
賢い!

リアル系の絵柄だと時間がかかるので、少し人物の描き方もシンプルにしてみましたよ。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

うーむ…、さすがにこれではちょっと手抜きとバレてしまいますかね?

ホワイトを画面に散らしてみたり、手が込んでる風を装ってはみたのですが…。そうだ、集中線で迫力を足しましょう。僕が作画に使っている「コミスタ」という漫画制作ソフトには集中線を自動で描ける機能があるので、これなら絵に手軽に迫力を追加できます。がんばれコミスタ!

えい!っと。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

大迫力です。2コマ目までは完璧ですね。

続いて3コマ目。
どうしたら作業量を減らせるでしょうか?
まず、画面に10数人も人物が描かれています。これではいけません。描くのはせめて2、3人にしましょう。

艦内全体が映り込んでしまうような構図もいけません。背景を描かなくてはいけなくなりますからね。特に床面を描いてはいけません。床面を描くと、人物の立ち位置がはっきりとしてしまうので、それぞれの登場人物の立ち位置のごまかしがきかなくなります。さらには、床面を描くと必然的に壁面や天井や、周囲の物体を描くことになってしまいますので、俯瞰(ふかん)と呼ばれる構図は手抜き…、じゃなかったコストを抑えるためには、絶対に禁じ手です。

同じ状況をもっと手をかけずに描く方法はないでしょうか?

先ほどと同じようにフキダシを大きく描き、絵を描く面積を減らします。画面の手前に大きくベタ(黒塗り)で人物を描き、さらに絵を描く面積を減らしましょう。その奥に走る隊員。

これで同じ状況が4分の1の時間で描けるはずです。

じゃん。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

上手くいきました。

だけど、手前に申し訳程度に床面を描いてしまいました。禁じ手と言ったばかりでしたが、僕の作家としての良心が床面を描かせてしまいました。でも、これだと人物の周囲のスペースに背景を描かなくてはいけませんね…。

どうしたものか…。潜水艦内はすごく描く手間がかかるのです。
そうです、こんな時は集中線!

じゃん。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

すばらしい!! 

同じ内容の原稿が4分の1の時間で制作できました。後はトーン処理を行って…。

漫画制作コストを4分の1に縮小する賢い方法。

完成です! これで経費を4分の1にしぼることができました。
なんだ〜、やればできるじゃん。以上、7000円で原稿を描く方法でした。

ちなみに手間隙かけたバージョンの「特攻の島」はこちらからオンラインブックでお読みいただけます。

「特攻の島」 『漫画 on web』
http://mangaonweb.com/creatorOCCategoryDetail.do?action=list&no=5&cn=1

執筆: この記事は漫画家・佐藤秀峰さんのブログからご寄稿いただきました。

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