「老老介護」「認認介護」そして「遠距離介護」。高齢化社会の介護問題で考えるべきこと
4人に1人が65歳以上という超高齢社会の時代。高齢の介護者が、介護疲れの果てに、父母や義父母、配偶者を手にかけてしまうといういたましい事件が起こっています。高齢の妻(夫)が高齢の夫(妻)を介護する、65歳以上の子どもがさらに高齢の親を介護するといったケースは「老老介護」と呼ばれ、在宅介護世帯の半数以上がこの状態にあるという厚生労働省の統計もあります。
また、平均寿命の延びとともに、夫婦ともに認知症という「認認介護」の問題も浮かび上がり、社会福祉や介護サービスが本当に必要な人に届いていないという実情もあります。
年末年始には、地方に暮らす親の元に帰省する人も多いでしょう。親も、その子ども世代も、まだまだ親が元気だからと問題を先送りするのではなく、これからも安心して暮らせるように、今から介護について一緒に話す機会にしてみてはどうでしょうか。家庭支援カウンセリングのプロで社会福祉士の中原崇さんに聞きました。
悲しい事件は几帳面・完璧主義など介護者の性格が要因になる場合も。固執・孤立しないことが大切
Q:老老介護や認認介護の実情、問題点は?
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平均寿命が男女とも世界トップクラスの日本。医療技術が発達し、平均寿命が延びたのは望ましいことです。
一方、介護する側・される側がともに高齢化したことから、介護疲れが原因となり、本人の生命に影響を及ぼす悲惨な事故を引き起こす場合があります。その背景には、特定の家族だけが介護に関わらざるを得なかったり、制度やサービスが十分に活用されていないなどの現状があり、それが結果的に老老介護や認認介護を引き起こしていることがあります。
介護の目的は、「本人らしい生活を最期まで送ってもらうこと」です。
ところが、老老介護や認認介護を含む家族による介護は、介護をすることが目的になってしまい、本人らしい生活を送るどころか、当事者の生活を侵害するような状況も起こりえます。このようなことから、家庭内介護は社会全体で考えていかねばならない問題と私は考えています。
Q:家庭内介護の現場で、どうして悲惨な事件が起こるのでしょうか。また、介護者でも極端な破壊行動に走る人とそうでない人とでは、何が違うのでしょう
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家庭内介護というと、ともすれば過酷なストレスのイメージを抱き、ニュースで流れるような痛ましい事件を想像する人もいるでしょう。
しかし、全ての家族がストレスから破壊行動に進むわけではありません。家庭内介護の現場で、極端な虐待や暴言などの破壊行動に走る人には、いくつかの特徴があります。
1つは介護者本人の性格で、具体的には几帳面で、万事完璧にしないと気が済まないというものです。このような性格の人は、自分のやり方にこだわりを持ち、異なる方法を受け入れられないことがあります。その結果、周りの親族や地域の人がサポートに加わろうとしても、自分のやり方に固執し、結果として孤立してしまうというパターンです。
もう1つは介護者の立ち位置です。例えば「8050問題」(80代の親と自立できない50代の子どもが社会から孤立する問題)のようなケースでは、親の介護を始める年齢が人生の中年期にあたり、介護者自身がこれまでの人生に焦燥感を抱く時期でもあります。
その中でも、社会や家庭に居場所や充実感を得られず、自分の人生にやるせなさを感じている人は、親の介護に人生の活路を見いだし、外部に目を向けることが難しくなる恐れがあります。
これらの特徴を持つ人は、結果として介護にのめり込んでしまい、周囲からの手助けを拒否して、自分一人で抱え込むという事態になりがちです。そしてその先に痛ましい出来事が起こってしまうのです。
Q:極端な行動に発展しないまでも、介護で共倒れにならないために、介護疲れを軽減するには、どのような対策がありますか
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家族による手厚い介護は大切ですが、家庭内という特定の空間のみで介護をすることは、本人にとっても家族にとっても、先行きの見えない不安が募り悪循環に陥りがちです。
地域により充実度の差はありますが、まずは地域包括支援センターに相談し、介護保険サービスを使うなど、外の空気を入れることを意識してください。デイサービス、ホームヘルプサービス、さらに月に1回でもショートステイサービスを使えば、まとまった時間を家族が持つこともできます。
その中で、家族自身が「何のために介護するのか」と立ちかえってみることも重要です。
介護というのは究極のところ、要介護者本人の問題です。身内に介護をされたいと思っているのか、それとも施設入所やホームヘルパーによる介護など社会的介護を望んでいるのか。
介護者の一方的な思い込みで、要介護者本人の希望しない選択を強いているのでは、本当の意味での手助けとはなりません。
死後の財産についての遺言や、臓器提供の意思表示のように、本人が元気で意思表示ができるうちに、将来どのような介護をしてほしいかを明確にして、その思いを尊重することも大切です。
本人の意思に介護者が応えられるかどうかは別にしても、本人の思いを知ることによって、迷いや思い込みが軽減されます。その結果、家族の介護に関するスタンスや考え方が変わるのであれば、介護疲れによる悲惨な事態も少しは防げるのではないでしょうか。
Q:老老介護や認認介護と同様に多いとされる遠距離介護とは?その問題点は?
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遠距離介護とは、要介護者と介護者(多くは老親とその子ども)が遠く離れている状態のことを言います。核家族化が進み、進学や就職で地元を離れた子どもが直面する事態でもあり、老老介護や認認介護と重なる場合があります。
また、遠距離介護は要介護者本人の身辺介護だけではなく、公的手続きや関係者とのやりとりなど、複数要件を限られた時間内でこなさなければなりません。そこに長距離移動による金銭的負担と心身の疲れは、家庭内介護と同等、あるいはそれ以上の負担を介護者に強いることがあるのです。
Q:心身の負担をできるだけ軽減して、ゆとりある遠距離介護を実現するために心がけることは?
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まずは、「自分のできること」と「できないこと」、「やりたいこと」と「やりたくないこと」を冷静に受け止め、全てを一人で抱え込まないことです。その上で、現在の介護システムをしっかりと把握する必要があります。
「介護保険が対応してくれる範囲」「医療機関が対応可能なこと」「各種手続きの流れ」などをきちんと把握しておくと、「自分がしなければならない部分」と「公的な力を借りる部分」が明確になります。
親の介護が必要になってから慌てるのではなく、親が元気なうちからこれらの知識を身につけておいた方がよいでしょう。
また、遠距離介護では、親を支援してくれる人たちとの関係づくりが欠かせません。在宅生活者ならケアマネージャーや民生委員、施設生活者なら医師や介護スタッフなど、関係者としっかりコミュニケーションをとることにより、離れていても普段の親の状況を知ることができます。良好な関係を築くことで、予期せぬ事態に柔軟に対応してもらえることもあります。
自分の代わりに、親を見守ってくれている関係者の労をねぎらい、常に感謝の気持ちを忘れずにいましょう。
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