ドラマ『おっさんずラブ in the sky』のはるたんに学ぶ“愛され社員”度診断
2019年11月からスタートした航空会社をステージに春田創一(田中圭)と黒澤武蔵(吉田鋼太郎)が出演するドラマ『おっさんずラブ in the sky』。春田創一は、女性社員とはうまくコミュニケーションを取り、男性社員からもモテまくります。なぜ春田はこれほど職場で好かれるのでしょうか。春田のコミュニケーション力と仕事力の秘密について、職場コミュニケーションのスペシャリスト、沢渡あまねさんにお話を伺いました。
あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん
業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』『仕事は「徒然草」でうまくいく~【超訳】時を超える兼好さんの教え(⇒)』ほか多数。
【1】業務外の仕事って必要?
はじめてのフライトに遅刻しそうなのに、困っている人を見たら放っておけない春田。出勤途中で高齢者を助けたり、お客さまから「婚約指輪をトイレに落とした!」と言われて素手で取ってあげたり。業務外であるはずのことにも、率先して取り組みます。(1話より)
ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★★★この春田の行動は素晴らしいですね。たしかにすべての人が、業務上必要でない行動をする必要はありません。しかし、業務外のことから仕事のやりがいが生まれることも多いのです。
春田の姿勢は業務内外であるかどうかにとらわれず、「誰のために働くか」【for whom】を大切にしたもの。大好きで誇りに思っている仕事だからこそ、業務内外にとらわれず行動することができるのではないでしょうか。それは尊いことだと思います。
何のため?誰のため?どちらにモチベーションを置くか
人が働くモチベーションには、2つの要素があります。 1. 何のために働くか【for what】
2. 誰のために働くか【for whom】
これはどちらを大切にしてもかまいませんし、両方を大切にするのも素晴らしいことです。「より良い世の中にしたい」「このサービスが好きだ」といったことを重視する人は「何のために働くか」【for what】を大切に働いている人です。
一方、「お客さまのために働きたい」「一緒に働く同僚が好き」など、「人」がモチベーションになっている人は「誰のために働くか」【for whom】を重視して働いている人です。これもとても素晴らしいことだと、私は思います。春田はまさに、「お客さまのために」“思い”を持って主体的に動くタイプの人だと感じます。
業務外ですから、必ずしも彼と同じような働き方をする必要はありません。「業務外の仕事はしたくない」という姿勢を、私は悪いことだと思いません。ただ、業務外の仕事にも、ポジティブかつ主体的に取り組むことができ、しかもそれがお客さまや職場の役に立っている人がいるということは、大いに認めるべきことだと思います。
【2】女性の多い職場での円滑なコミュニケーションとは
春田が働くチームは女性が多め。ベテランチーフパーサーから中堅、若手と様々な女性CAに囲まれて仕事をしています。そんな中、彼女たちが、転職してきた春田の「歓迎会」を開いてくれることに。春田は転職後ならではの悩みを打ち明けますが、なかなか話を聞いてもらえません。(1話より)
ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★☆☆春田の良いところは、無理やり自分の話を続けないことです。たとえ自分の話を遮られても、ごり押しせずさっと引いたことが良かったです。これは女性に限らず、男性も同様ですが、人は自分の話を聞いてくれる人に安心感や信頼感を持つものです。
とはいえ、同僚CAはもうちょっと春田の話を聞いてあげてほしいですね(笑)。
愚痴や不満をさらけ出すこともコミュニケーション
春田のこのシチュエーションや立場は、女性ばかりの職場でリーダーを経験した方なら、誰でも共感できると思います。
女性の多い職場でコミュニケーションを円滑にするコツは、同僚の話にじっくり耳を傾け、きちんと聞いているという反応を示すことです。この時、必ずしも相手の抱えている問題や愚痴を解決する必要はありません。
大切なのは、きちんと聞いているという姿勢を示すこと。それが昨今言われる、「心理的安全性」(=チームのメンバーが恐怖心や不安を感じることなく、安心して何でも意見を言える職場環境。Googleが提唱したもの) につながります。
誰しもただ愚痴を聞いてほしいという瞬間があるものです。かつて男性だらけの職場で、責任が重くプレッシャーの大きい仕事に関わっていた時、「ああ、やってらんない」とぼやいたところ、ある先輩に「サラリーマンなんてそんなもんだよ」と諭されたことがありました。しかし一方で、ある上司は「そうだよなぁ」と共感のひと言をくれました。
つらい時に問題解決されたり、諭されたりと正論で対処されてしまうと、気持ちを受け止めてもらえなかったような気がして苦しかった記憶があります。
愚痴を言い合うこともコミュニケーションの一つ。今の気持ちをそのまま受け止めることで、心理的安全性のある職場環境がつくれるでしょう。
無理してポジティブな自分を演出したり、がんばりすぎている人も多い今の時代。男女問わず、職場の同僚、先輩などの話にはしっかり耳を傾け、さらに共感のひと言を添えるだけで充分。周りのネガティブな気持ちも受け止めてあげましょう。それができている春田は、職場のコミュニケーション上手だと言えます。
【3】上司との適切な距離感をどうはかる?
残業していたところ、一緒に搭乗することの多い機長の黒澤武蔵(吉田鋼太郎)から屋上に呼び出された春田。機長は春田に渡すため、様々なフレーバーの缶コーヒーを山ほど差し出します。しかもそれまでの多忙な日々がたたって、機長と話している最中に、機長の肩に頭をあずけ、うとうとしてしまう春田。
その後機長に「(はじめてのフライトに)遅れたのはお客さまに対応していたからだろう」と問われ「ブリーフィングに遅れたことは事実だし、言い訳するのはかっこ悪いよな」と、言い訳をしませんでした(1話より)
ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★★☆春田と武蔵の場合は、お互いが刺激しあって良い上司と部下の関係性をつくれていると思います。武蔵は、メンバーが安心して意見を言い、リラックスして働ける「心理的安全性」の高い環境をつくれている良い上司だと思います。とはいえ、「過剰な愛」だと感じるのなら、うまく断ることも大切ですし、このコミュニケーションがすべての上司と部下の関係に有効だとは言い切れません。
リラックスして働き、本音で言い合う「心理的安全性」
まず、武蔵から差し出された大量の缶コーヒーの中から「微糖」を選び、受け取った春田はとても素直な人だと思います。「素直さ」は職場で愛される一つの大切な要因になります。
相手に何かをしてもらったり、好意を示してもらったら素直に感謝を示すことが大切です。ただ、相手がしてくれたことが重たすぎるようであれば「そこまでしてくださらなくて結構です」とはっきり言うことも必要。この場合は「ありがとうございます。でも俺、飲み物持ってきてるんで大丈夫です」という風に、感謝を示しながら自分の意志を伝えてもいいでしょう。
また、上司の話を聞きながら思わず寝てしまったところも、愛嬌のある人だなと感じました。これは、それだけ上司のことを信頼している証拠。先ほどもお伝えした「心理的安全性」がある職場だからだと思います。上司の話を聞きながらあくびをしたり、遅刻の多い人がいたら、「たるんでいる」と頭ごなしに否定せずに、「安心して働いてくれているんだな」とポジティブに捉えてみるのも一つの手です。
また、春田の「言い訳しない」という姿勢は、かっこいいものですが、正当な理由があってした行動なら、上司にその背景や理由をきちんと共有すべきです。
上司やリーダーの立場にある方々に言いたいのは、「言い訳するな」は思考停止ワードだということ。言い訳は、職場で起こったできごとの「背景」であり「理由」です。それを共有することを妨げてしまうと部下の本音を引き出すことができなくなり、部下はどんどん隠すようになります。自責他責にかかわらず、リーダーの皆さんは、部下の「言い訳」にきちんと耳を傾けるようにしてください。それが「心理的安全性」が高く、部下が伸び伸び働ける職場にするための第一歩です。
【4】ピンチに陥った同僚がいたらどう助ける?
パワハラ疑惑をかけられ、懲戒委員会へかけられることになった同僚の副操縦士・成瀬竜(千葉雄大)。しかし春田はいてもたってもいられず、その会議に乗り込み「でもまあ、成瀬も悪いと思います。こいつ今は、なんでも自分で解決しようとして、周りを全然信用しない。プライドだけ高いただのカッコつけマンです」
「だけど、めちゃくちゃ勉強家だし、空も大好きで。ちゃんと誰よりも安全のことも考えてて」「仕事に対するハートは熱くて、もしかしたら将来すっごいパイロットになるんじゃないかなって」 と成瀬をかばいます。(2話より)
ビジネス現場ではこう動く【評価】★★★★★春田は現場のリアルをはっきりと言語化できる稀有な人材です。なかなか現場のリアルを言語化できる人は少ないものです。それが本社と現場の対立に繋がったり、上司の不信感や過剰な管理につながってしまいがち。春田はそれを着飾らず、素直に自分の思いをぶつけています。どんな職場でも参考にしてほしい行動です。
きれいな言葉で飾らず思いをまっすぐぶつけよう
誰かを助ける時もプレゼンテーションするときも、人はついきれいな言葉で事実を取り繕いがちです。しかし、ここで春田が素晴らしいのは、率直に思いをぶつけている点です。いきなり成瀬を褒めているわけではなく、「成瀬には欠点もあります」と、率直かつ正直に事実を伝えています。不器用でも、自分の正義や思い、好きをストレートに伝えていくことは、周りの人を動かす原動力になるものです。
主体的に動けるチームを作るには、まずは自分のチームの半径5メートルからでいいので、信頼しあえる関係をつくること。そして現場で起こっていることを言語化し、見える化することです。
さらに、この懲戒委員会のシーンで良かったのは、最後に「判断は機長に任せます」と、現場に委ねたところ。航空業界には「空の上では、いかなる時も最終判断は機長のもの」というセオリーがありますが、それを踏襲していますし、現場への信頼感がある良い職場だなと思いました。
本社と現場が揉めた時、現場同士で意見が対立していたら、本社は不信感を抱いてしまいます。そこを春田や武蔵をはじめ、他のメンバーが成瀬をかばったことにより、本社も現場への信頼を厚くしたのだと思います。
【まとめ】素直な気持ちと行動は職場を動かす ★★★★☆
今、職場に求められているのは素直さです。素直に話を聞く、自分の正義に素直に生きる。そしてそれを素直に伝える。
春田は、それを強制されてではなく、主体的に行っています。しかも、手柄を立てようとか昇進したいといった功名心から行動しているわけではありません。春田には、常にお客さま、上司、同僚など「周りの誰かを助けたいという」ポジティブかつ主体的な気持ちがベースにあるのです。
こういう健全な成長欲求や問題意識を持ち、素直に行動する人は、職場にとってかけがえのない人です。この素直さは組織を動かしていく原動力になります。マネージャーやリーダーはこのようなメンバーがチームにいたら、全力で守ってほしいですね。とはいえ春田にはまだ成長の余地があるので、★は一つ。もっとがんばって職場のエースになってほしいという期待を込めました。
<番組情報>
『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日 土曜 23時15分~)
「天空不動産」の営業だったはずの春田創一が、今度は航空会社へ。前作、『おっさんずラブ』とはまったく違う世界線が今始まる――。35歳でシューズメーカーからリストラされ、「天空ピーチエアライン」のCAに転職した春田創一。そこには機長・黒澤武蔵(吉田鋼太郎)、副操縦士の成瀬竜(千葉雄大)、整備士の四宮要(戸次重幸)など様々なメンバーが。気づけば周りの男性社員に“愛されていた”春田。アラフォー新米CAとしてどう飛び立つのか――? 脚本は前作に続き徳尾浩司、出演は田中圭、吉田鋼太郎、千葉雄大、戸次重幸、佐津川愛美、MEGUMI、木崎ゆりあ他。
WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。
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