「はじめの一文で泣いた」 人気コピーライターが父親たちの思いを代弁して話題に

「はじめの一文で泣いた」 人気コピーライターが父親たちの思いを代弁して話題に

 マイケル・ジャクソン遺品展で発表したひとつのコピー「星になっても、月を歩くだろう」が、多くの注目を集めたコピーライターの小藥元さん。カゴメ「GO!ME. 進め、いけ。」、PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、キレートレモン「なりたい人は、わたしの中にいる。」などのコピーや、モスバーガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、コメダ珈琲店「ジェリコ」といったネーミングを一度は目にした方も多いのではないでしょうか? 近年は、Kis-My-Ft2「KISS&PEACE」作詞や、絵本『あなたがいるから、僕たちが生まれた。』(コンテンツ・ファクトリー)を刊行するなど、コピーライティングに留まらず、”言葉”を軸とした作品も手がけられています。

 そんな小藥さんが最近始めた自主プロジェクトがSNSで話題になっています。「ぱぱことぱ」と銘打たれたウェブサイトに掲載されているのは、思い出の地で撮影したという親子の写真と、その取材内容を小藥さんが編み直した「父から君へ、ずっと消えない言葉。」の数々。「孫を抱きしめている時、君を抱きしめていた日を思いだす」(65歳/元証券マン)、「好きは、強さ。好きは幸せ。いちばん、贈りたかったもの。」(46歳/自営業)などの印象的なヘッドラインの下に、家族の忘れられない景色、子供たちに伝えたかった想いが優しく綴られています。

 サイトオープン以降twitterでは、
「はじめの一文で泣いた。全娘とパパに贈りたい」、
「いま親として子どもへ、と自分が子どものとき親もこんな気持ちだったんだろうな、が同時に来た」、
「『ぱぱことぱ』がめっちゃぐっと来る。ぱぱたちも自分の生き方に悩みながら生きてきて、一緒に生きてきた君たちに贈る言葉。こういうのがエモいって言うんだなと思う」
などの反応が寄せられています。

 今回、父親だけでなく多くの人の共感を呼んでいる同プロジェクトについて、bookstand編集部が小藥さんにインタビューを行いました。

* * *

ーー「ぱぱことぱ」を始めたきっかけを教えてください。

嘘や装飾や無駄。文字や言葉で溢れ、消費され続ける現代で、消えない言葉はなんだろうか。そこから考えたわけではないのですが、恥ずかしがり屋で忙しくて言葉数少ない父親の想いというものを、急に代弁したくなったのです。その言葉は、絶対に子どもたちにとって、ずっと消えない宝物になるとさえ思えました。永遠性と嘘がないこと、その2つのカタマリがこの企画なのです。「父より」ではなく、「ぱぱことぱ」というネーミングにしました。”ば”ではなく、”ぱ”です。これはお父さんの照れ隠しでもあり、空や宙に浮いていたような気持ちや思い出を拾い集めたから。「言葉」という言葉で規定したくなかったような気もします。

ーー「永遠性と嘘がないこと」とは?

「消えない言葉」というのが、わたしのコピーライターとしての一つの理想です。広告という、たとえ刹那的で限定的な器だったとしても、言葉だけを取り出した時に、30年後も50年後も古くならないものを書きたいという想いがありました。同時に「嘘をつかないこと」も矜持としてあります。嘘はすぐにバレ、プレゼンの場においてすら届くはずがないと思っているんです。だから自分がブランドなり本当にいいと思ったところ、信じられるところで書きたいのです。

ーープロジェクトを実現する過程で難しかったことは?

「言葉で溢れる世界で、一番足りなかった言葉。」これが最初にわたしが書いていたコンセプトです。その思いは変わりませんが、親子の笑い合う写真と語りきる文章に合わなかった。最後の最後に「父から君へ、ずっと消えない言葉。」というタグラインを規定しました。これができるまで相当時間がかかってしまいました。

ーープロジェクトを実行して発見はありましたか?

子供との何十年の歴史や思い出をすべて語り切ることなんて不可能です。けれどもある一点をもって、そのまなざしを見つめることで、愛を伝えられたら、と思っています。なので書いているときは、本当に父親になったつもりで、子どもさんに向けて書いている。けれどこの「ぱぱことぱ」が不思議なのは、会ったこともない知らない一般の方のしかもプライベートな話なのに、なぜか景色が思い浮かぶ、お父さんの気持ちがわかる、ということなんです。読者の方からの反応で、それは確信しました。

ーー今後の展望について教えてください。

写真展や展覧会のような形態や、ラジオやテレビ番組などもコンテンツとしては考えられるかなと思います。ただ今は、会いたいお父さんに会って取材をさせていただき、いっぱい泣かせていただきながら、思い出の場所で写真を撮っていきたいです。どんなお父さんにもドラマがある。これもまた取材を通してわかったことです。自分の気持ちが震えたところだけで、コピーを書いていく。とても幸せなことでもあるんです。だからこそライフワークにしていきたいです。

* * *

 毎月24日に、新たな親子の記事が配信予定の同プロジェクト。これまで企業やアーティストのメッセージを代弁してきた小藥さんが、世の父親の声をいかにして届けていくのか。コピーライターの言葉を使った新たな挑戦に今後も注目です。

■関連リンク
ぱぱことぱ
http://papakotopa.jp/

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