子どもに贈る国土 年金のつけを贈る
今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
子どもに贈る国土 年金のつけを贈る
私たちはどのような日本国を子どもに贈ろうとしているのか? その第一回目 * は「原発の電気はもらうけれど、核廃棄物は子どもに贈る」ということをしている現状を示しました。
* :子どもに贈る日本(1) 核廃棄物満載の国土
http://takedanet.com/2012/05/post_c0ef.html
このように「自分たちがしたこと」を正面から見てみると、先回、保安院が2006年に「原発を安全にする」という作業を必死に妨害したことを非難しましたが、自分たちも同じようなものかも知れません。
第2回目の今回は、「年金」というものを始めた私たちの世代が、次の世代にそのツケを回そうとして必死になっていることを整理しました。
* * * * *
1961年以前は「公務員や軍人恩給」のような特殊な年金はありましたが、国民全体を対象とした年金はありませんでした。でも、社会が「大家族、家長制度」から「小家族」に変化していく中、それまでのように「家族で老人を見る」というのがだんだん困難になり、社会制度としての年金が必要となり、「揺りかごから墓場まで」というコピーが使われるようになります。
でも、この言葉は「年金をもらう人」の立場を表現したもので、「年金を取り扱う人」のものではありませんでした。厚生省の年金課長の回顧録が話題になっているように、年金を取り扱う方の役人から見ると、年金とは次のようなものだったのです。
1) 国民から膨大なお金が集まる、
2) お金は金庫に入れておくことはできない、
3) 誰かに貸し出すことになる、
4) それは考えられないほどの権力(利権)である、
5) 社会保険庁の長官は日銀総裁と同じような権限を持つ、
6) 年金のお金があれば天下り団体はいくらでも作れる、
7) 年金を納めている人に40年後の返すときには、お金の価値がなくなっているから、運用は失敗しても成功しても同じになるから真剣にやる必要は無い、
年金制度を始めた当時の厚生省がこのように考えていたのは、回顧録をはじめとして多くの証拠がありますし、このように考えなければならない理由もあったのです(相手の立場に立つ)。
厚生省は、当時、日本国民は次のように思っていると推察していました。
1) 嫁姑(よめしゅうとめ)などの関係から国民は大家族を望んでいない、
2) 夫婦単位の小家族なら国が年金を用意するしかない、
3) 年金制度を整えず、個人に老後の預金を呼びかけても、実際にはやらない人が多く、行き倒れの老人が増えて社会が混乱する、
4) 40年の間にはインフレや社会情勢の変化があるから、「自分で積み立てた年金を自分がもらう」というシステム(積立型)は破綻するけれど、国民は「今の老人のために、今の若者がお金を出す(賦課型)」ことには抵抗があるだろう、
5) 政治的にも国民の票を失うから賦課型は採用されない、
6) いったん、積立型でスタートし、それが破綻したら賦課型に変える。でも賦課型も若者が減るので破綻するから、最後は消費税のようなもので年金を運営せざるを得ない、
7) 従って1960年から2000年までの第一期は、「年金というものを日本社会に導入する」、「年金の支給を開始する」、「年金が破綻する」、「家族の形態が大家族から小家族に変わる」、「老人問題が顕在化する」ことを覚悟しよう。
年金という問題だけでも、「受け取る側」と「事務をする側」ではずいぶん違って見えることがわかります。でも、このような矛盾を1950年代(年金が始まったのは1961年)に十分にしておかなかったので、私たちの子どもから見た年金は次のようになったのです。
1) 親の世代が年金制度を始めた、
2) 親の世代が自分たちで年金を払い、自分たちで受け取ると言っていた、
3) でも最初からその気は無く、800兆円積み立てるといって30兆円しか残っていない、
4) そこでこれまでの50年間(1960年から2010年まで)をチャラにして、我々子ども達が大勢の親の世代を養うことになった、
5) それでも足りなければ消費税を充てると言い出しているが、消費が多い子どもの世代に頼るということだ。
私たち大人の世代が、800兆円(試算によってはもう少し少ないという人もいるが本質は同じ)を食いつぶし、次世代に養ってもらおうとしている事実を直視し、年金受給年齢を上げ、これまでの罪を何らかの方法で購う必要があると思う。それが社会保険庁の犯罪であっても私たちの世代がしたことには違いがないからだ。
(平成24年5月24日)
平成24年5月24日『子どもに贈る国土 年金のつけを贈る』 武田邦彦氏音声ファイル『ニコニコ動画』
http://www.nicovideo.jp/watch/1339746413
執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。
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