エリートビジネスマンはどうして自殺未遂を犯したのか?
会社とは何だ?
会社にとって社員って何だ?
そこで働くことに何の意味があるんだ?(p148より)
そんな問いかけを自分自身にしたことはあるだろうか。
2009年9月12日、一人の男が睡眠薬を飲み、自殺を図った。助けがすぐに来てくれたおかげで一命は取り留めたものの、その男は命の恩人に「助けてくれてありがとう」という言葉も、「なんで助けたんだ」という言葉もかけることなく、ただ白い天井だけを眺めていた。
「なんで、こんなところにいるんだろう」という想いとともに。
巨大IT企業に勤めていたビジネスマンはどうして、一億を越える借金を抱え、双極性障害となり、自殺未遂に至ってしまったのか。北嶋一郎氏が執筆した『生きぞこない』(ポプラ社/刊)は、ある一人のエリートビジネスマンの半生をつづったノンフィクションだ。
北嶋氏は特別な人間ではない。帰国子女のエリートビジネスマンとして、一流企業に入社し、出世のために仕事にまい進してきた。時には部長からの評価をあげるために、部長の秘書と「男女の関係」になったりもしたという。
異動を繰り返しながら、順調にエリートビジネスマンの道を歩んでいく北嶋氏。
ところが、「その日」は何の前触れもなくやってきた。自分のいた部署が、中国最大のパソコンメーカーに買収されることになったのだ。
転籍には応じたものの、より高い年収を求めて転職活動を始めると程なくして外資系半導体メーカーへの転職を決めることができた。このとき、北嶋氏には起業という選択肢もあったが、そんなリスキーな選択をする余裕はなかったという。このとき、マンションや車などの購入で多額の借金があったのだ。
しかし、会社と肌が合わず、さらに業績悪化のため早期退職プログラムを勧められ退社。国内大手IT企業に再就職が決まるも、有給休暇を使ってポルシェで同棲していた彼女の家に挨拶に行ったことをブログにアップし、それが社内で問題になり、それが決定打となってたった7ヶ月で退社した。
手元に残ったのは、毎月の借金支払い約180万円。バブル時代の金遣いの荒さは、尋常ではないものだった。就職先を失った北嶋氏はアルバイトを始めるが、しばらくして「うつ病」を発症してしまい―――。
本書には、そんな北嶋氏が「どん底」から這い上がるまでがつづられている。
根っからの仕事マンだった父の残像や、久しぶりに再会したかつての仲間たちの言葉。自殺未遂後、北嶋氏は自分の過去と向き合い、様々な想いを巡らす。
自分にとって会社とは何か、働くとは何か。それは家族や仲間より大事なものなのか?会社で働くということが当たり前のように感じられる状況の中で、そんな問いかけをしても、なかなか答えは出てきにくいだろう。
北嶋氏は「数々の失敗の果てに、僕なりにつかみ得た「会社」というものの正体を伝えるつもり」(p3より)でこの本を書いたという。どうして、一人の男は会社に追い詰められ、自殺未遂まで図ってしまったのか。今、働いている人も、これから働こうとしている人も、自分にとって「会社」とは何か、考えてみるのもいいのではないだろうか。
(新刊JP編集部)
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