子育てママが“成果を出す”ために「やりがい×働きやすさ」を。社員全員が週3日以上の時短勤務を実現――「GOOD ACTION」アワード受賞・株式会社ルバート 谷平優美さん
働くあなたが思いを持って動き出し、イキイキと働ける場を作っていく。そんな可能性を秘めたアクションに光をあて、応援する「GOOD ACTION」アワード(※)。リクナビNEXTが主催するこのアワードの過去の受賞者にインタビューをしていく本企画。第4回目となる今回は、2018年度に受賞した株式会社ルバート代表取締役・谷平優美さんに、取り組みの経緯や効果、「GOOD ACTION」受賞後の変化についてお聞きしました。
「GOOD ACTION」アワード受賞者インタビュー記事一覧はこちら ※「働く個人が主人公となり、イキイキと働ける職場を創る」。2014年度から始まった「GOOD ACTION」アワードは、そんな職場での取り組みに光を当てて応援する取り組みです。
▲株式会社ルバート 谷平優美さん
ルバートは、子育て中の女性の支援を目的に、『ママハピEXPO』『ママハピWork』などのメディア・イベント運営、企業向け女性活躍推進ネットワークなどの事業を展開。現在9名いる正規メンバーはほぼ全員が子育て中の女性。「時短勤務でも高いパフォーマンスを発揮できる」「働きやすさだけでなくやりがいも得られる」ことを目指した取り組みが評価されました。
育児と仕事の両立に悩むママのコミュニティからスタート
――メンバーほぼ全員が育児中のママで、週3~5日勤務だそうですね。そうした組織が出来上がったプロセスをお聞かせください。
谷平 私たちの事業は、自宅での市民活動としてスタートしています。当時、「会社を興す」という発想はなく、「自分と同じ悩みを抱える人たちと情報共有したい」という想いから取り組み始めたんです。
20代の頃の私は、人材業界で、新規事業の立ち上げや企画、マーケティング、営業などとして働いていました。28歳で退職し、30歳で第一子を出産。ところが、保育園への入園が叶わず、待機児童になってしまったんです。この時、初めて「女性が働き続けること」の難しさを痛感しました。それでも仕事は続けたかった。私にとって仕事をするのは「当たり前のこと」だったし、20代で知った「仕事の楽しさ」を感じ続けていたかったから。そこで、育児と両立できる仕事として、フリーのキャリアカウンセラー、プリザーブドフラワー教室の講師など、いろいろと模索しました。
けれど、認証保育園の利用料は高額で、収入のほとんどが保育費に消えてしまう。さらに、当時の夫は多忙で育児はワンオペ状態。そんなストレスが重なり、ノイローゼ気味にもなったんです。
そこで、市民団体を発足して、同じような悩みを持つ人たちで交流や講座を始めました。2012年のことです。
――2012年頃といえば、「女性活躍推進」という概念はまだなく、育児支援も整っていない時期ですね。
谷平 育児中のママたちと情報交換する中で、やはり日本には育児と仕事を両立できるインフラと文化がないと実感しました。その課題を解決できるかはわからないけれどとにかく社会に理解してもらえるよう発信したいと考え、教育関連企業や幼児教室などの協賛を得て、ママ向け支援イベント『ママハピ』を開催するようになったんです。
育児に煮詰まり感・孤独感を感じているとか、本当は自分の経験や能力を活かした仕事がしたい、社会で価値を発揮したい、という女性が多いことを改めて感じ、「この課題解決に寄与するために、しっかりとした事業として取り組まなければ」と。そこで、法人化に踏み切りました。
当初は全員が在宅で働くスタイルでした。一見自由度が高く見えますが、皆、真面目なので業務を抱えすぎてパンク状態に。文化の醸成もできないので、「基本は出社。申請すれば在宅勤務可」に転換しました。現在は全員が週3~5日出社、15~16時までの時短勤務です。出社する曜日・時間帯などは、各自が家庭の事情に応じて組み立てられます。
時短メンバーの業務効率を上げる仕組みとコミュニケーションスタイルを整備
――時短勤務のメンバーだけで業務を円滑に進めるために、どんな工夫をされたのでしょうか?
谷平 いろいろと試行錯誤を重ねてきましたが、うまくいったことの一つは、「ムダなタスクの排除」「タスクの標準化・可視化」です。メンバーの業務内容を細かくヒアリングして、工数が多すぎる部分を簡素化して時間削減できるようにシステム改修を行いました。また、以前は、同じタスクでも人によってやり方が異なっていたので、タスクを一覧化するとともにマニュアルを標準化して整備しました。
もう一つが、「情報の透明化」。顧客とのやりとりなどにおいて、共通アドレスを必ずCCに入れるようにしました。「この件は○○さんしか知らない、返信できない」という状態をなくしたんです。資料も誰かのパソコンにしかない、という状態を避けるため社内サーバに格納して全員が閲覧できるようにしています。
メンバー同士のコミュニケーションのスタイルも、途中で大きく変えました。当初はLINEとメールを使っていましたが、どの情報がどこにあるのか、さっぱりわからなくなってしまって。今は『Chatwork』を利用しています。何十個とグループを作って、プロジェクトごとにコミュニケーションを取り、ファイルや画像などのデータも細かく共有しています。
今年になって始めたのは、メンバーの業務遂行状況の数値化です。
朝、1日のタスクを確認し、帰るときに「想定していた時間に対して、実際何分かかったか」を入力する。このデータを半年~1年スパンで溜めていけば、「この人は資料作成は早いが、メールの処理が遅い」といったように、業務遂行力が数値化できます。これにより、以前は感覚的に行っていた個別ミーティングを、理論的に行えるようになります。数値をもとに改善策を練り、意識して実行すれば、業務効率化はもちろん成長支援がしやすくなると期待し、今、試行中です。
「1人で抱え込まないで!」チーム協働の文化醸成に力を注ぐ
――時短勤務メンバーだけで運営していくにあたり、苦労したことはありますか?
谷平 「1人で抱え込んでしまう」という状態をなくすことに、かなり苦労しましたね。
皆、担当業務を勤務時間内で終えられないときも「自分で何とかしなければ」「持ち帰って残業を」などと、人に相談せずに1人で抱え込んでしまう。ストレスを感じながら、うまく課題解決できず爆発するまで抱え込んでしまう人が多いのは、女性に多い傾向です。
メンバーが責任感のストレスで潰れる前に、早期にアラートを出せるようにしなければならない。そのために、「チームで協力してやるのだ」と、毎日のように繰り返しメッセージするようにしました。先ほど挙げた「タスクの標準化」と同時に、「お互いに助け合って当然」という文化や関係を築くことを目指しました。
1人で抱え込むことをやめれば、心に余裕ができて、誰かが困っているときに手を差し伸べやすくなります。そうした「助け合い」「チーム協働」の文化をつくるために、苦労しつつも数年かけて進めてきて、今はかなり定着してきました。
例えば、毎朝のミーティングで困っていることがあったら相談したり、チームメンバーが「じゃあ少し手伝おうか」「ここからは引き受けますよ」……なんて会話が見られます。
最近取った社内アンケートでは、「助け合える風土なので、とてもやりやすい」という声が急激に増えました。
「孤独ではない」というのは、職場への定着のために重要な要素だと実感しています。
時短勤務でもパートでも、「裁量権」を持って働き、成長する
――メンバーさんたちにとって「働きやすい環境」であることがわかりますが、仕事に対するモチベーションという点ではいかがでしょうか。
谷平 実は、メンバーたちに一番好評なのは「やりがい×働き方のバランスの良さ」なんです。
例えば、これまで総合職としてバリバリ働いてきたような女性でも、育児と両立するために時短勤務、派遣、パートといった働き方を選ぶと、「サポート」的な業務が中心でやりがいが犠牲になりがちです。
もちろん、サポートの役割や入力・事務処理といった業務にプライドを持っているプロもいらっしゃいますが、以前の働き方と比べて、物足りなさ、もどかしさを感じてしまう人も多いです。私自身もまさにそう。その点でいえば、当社のメンバーには1人として「サポート役」はいません。全員が主戦力であり、裁量権を持って仕事をしています。
とはいえ、「主体的に働きたい」「責任ある仕事がしたい」と思っていても、実際にはこれまで裁量権を与えられてこなかった女性も多い。メンバーに裁量権を持たせると、「こんな重要なことを、私の考えで判断しちゃっていいんですか?」と戸惑う人もいます。だから、それに慣れるためにはトレーニングを積んで育てていく必要があると思います。
そこで、「言われたことだけをやる」のではなく、「常によくするにはどうすればよいか考える」ことの重要性について伝え続けたり、相談を受けたときには、「あなたはどう思うの?」と問いかけるなど、自分で考えて判断する機会を、細かく、たくさん作るように心がけています。
こうしてメンバー全員が主体的に判断・行動していけるようになれば、個々の成長にもつながり、組織としても強くなると思います。
社会に認められることが、メンバーのロイヤリティ向上につながる
――「GOOD ACTION」アワードの受賞によって変わったことはありましたか?
谷平 各種メディアに取材いただきました。Webメディアでは『東洋経済オンライン』『たまひよ』『NewsPicks』など。ラジオでは『J-WAVE』に4日間出演。フジテレビの『ライブニュースα』では、『時間制約人材の職場マネジメント』をテーマに、6分間も取り上げていただきました。
こうしてメディアに露出した効果は、大きく3つあると思います。
1つ目は、お客様への信頼性のアピールになるということ。企業プロフィールに追加するほか、メルマガやSNSで配信したり、記者クラブに向けて発信したりと、アピール材料として使わせていただけるものができたというのは、メリットの一つです。今後の新しい取り組みについての発信チャンスも得やすくなったと思います。
2つ目は、当社のメンバーが友人や家族から褒められて、喜んだこと。小学校時代の友人から「TV観たよ」と久しぶりに連絡を受けたり、ご主人から「いい仕事をしているんだね」と認められたり。このように、客観的に会社を評価されるのは、ロイヤリティの向上につながるのかな、と思います。以前より、メンバーに主体的な発言や行動が増え、チーム協働力が高まって活性化していると感じますから。
そして3つ目。メディアから取材を受けて説明したり、説明資料を作成したりする中で、「どう伝えれば伝わりやすいのか」という習熟度が上がってきたんです。
質問を受ける中では、「第三者はこんな視点で見ているのか」「この点に関心を持っているのか」と気付くことができる。例えば、もともと「ママの働き方」という特徴で自社を認識していましたが、メディアでは「時短人材の活用」「適材適所」という言葉で取り上げられていました。「世間にはこういう発信が刺さるのか」と、すごく勉強になりましたね。
ただ、配慮すべき点もありました。メディアで好意的に取り上げられる中、内部には「実態はもっと大変なのに」といった空気が漂うのも感じて。社内外での温度差が広がる前に、内部をフォローすることは重要だと思いました。
そこで、まだまだ皆に苦労をかけていることは承知していること、実態が伴うように引き続き体制を整えていくこと、そして、社会にPRすることで、どのように自社のメリットや価値につながっていくかということを、しっかり説明するようにしました。
そうした内部向けフォローさえ怠らなければ、まだ完璧ではない状態であっても、自社の取り組みは積極的に発信していくべきだと感じています。日々実践を重ねて目指しているのは、“子育てとの両立に優しい会社”というよりも、“子育て中でも成果を出せる会社”。一人ひとりの社員に寄り添い、走りながらブラッシュアップしていく。そうすれば次に繋がる、そう信じています。
――ありがとうございました。 ライター:青木典子 写真:刑部友康
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