日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』大泉洋演じるエリート社員・君嶋に学ぶリーダーシップとは

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日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』大泉洋演じるエリート社員・君嶋に学ぶリーダーシップとは

主演の大泉洋さんの熱い演技や、白熱のラグビーシーンが見る人の涙を誘うTBS日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』。社内政治に破れたエリート社員・君嶋隼人(大泉洋)が、成績低迷中・14億という巨額の赤字を抱えるラグビー部のGM(ゼネラルマネージャー)となり、起死回生を目指す物語です。

ドラマ『ノーサイド・ゲーム』で大泉洋が演じるエリート社員・君嶋隼人の行動やセリフから、リーダーシップのヒントについて、業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさんに伺いました。

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』ほか多数。2019年7月6日に『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』(技術評論社)を上梓。

【1】仕事をする上で、「負けて勝つ」はあり得るか?

トキワ自動車の経営戦略室次長・君嶋隼人(大泉洋)は、常務の滝川桂一郎(上川隆也)が推し進める企業買収案に反対を唱え、結果、府中工場に左遷されてしまいます。その時は常務の買収案は退けられたものの、常務の思惑は「反対勢力の君嶋を排除して、自分の買収案を通すこと」。最初から、一旦君嶋に負けたと見せかけてから、改めて自分のプランを通すつもりでした。

スポーツのみならず、ビジネスの世界でも一度「負けグセ」がつくとそこから脱却するのは、なかなか難しいものです。それを「勝ち」に転換し、勝ち続けられるビジネスパーソンになる方法はあるのでしょうか。滝川に恩を売って本社に戻してもらうという、君嶋も『負けて勝つ』作戦を仕掛けるものの…。

滝川:「今回は可決されるだろう。強硬に反対していた君がいないからね」

君嶋:「すべてこのためだったんですか。滝川常務が本社から私を追い出したのは、この買収を進めるうえで、私の存在が邪魔だったから」(1話より)

強いメッセージで爪痕を残し、“自分のファン”を作る

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★☆☆

この時の君嶋の状況は、極めて分が悪く、非常に厳しい状況です。こういう時は、相対する常務を攻略しようと正面突破するのではなく、社長や業界の重鎮などのもっと権力のある人、あるいはお客さんや取引先など、自分の『味方』『新しいファン』を作ることが有効です。

この時の君嶋の状況で、「負けて勝つ」戦略を取って勝ちにいこうとしても、勝てる可能性は0%です。その中で一縷の望みを残すとすれば、現状のまま強引に勝ちにいくより、常務と対等もしくは、それより立場が上の権力者を新しく自分の“ファン”にすることで巻き返しを図ることができるでしょう。

具体的な事例をもとにお話しましょう。ある大手企業の関連会社で、新技術を導入したいと考えていた若手社員がいたのですが、中間管理職に大反対されてしまいました。しかし、その社員はめげずにやりたいことをアピールし、社内で勉強会や読書会を続けました。すると、新しいことに取り組みたいと考えていた社長の目に留まったのです。最終的には、社長直轄のプロジェクトとして取り組めることになりました。

彼は好きなことや取り組みたいことをアピールし続け、細々とでも社内でやる気がある姿勢を見せ続けた結果、社長という、より強い権力を持った新しいファンが見つかり、仕事として実現させることができました。

今度出版する書籍『仕事は「徒然草」でうまくいく』の中でも紹介したのですが、兼好の『徒然草』第百十段の中に、すごろくの名人に勝つ秘訣を尋ねに行くくだりがあります。その時、その名人は「勝とうとするのではなく、負けないようにせよ」と言ったのだそうです。

君嶋は、この時点では勝ち目がないと見て、一旦引き下がっています。一度引くことは、決して負けではありません。負けの姿勢を見せつつ、社内や周囲に「好きだという姿勢」「どうしてもこの事業をやりたいんだ」というメッセージを発信し続ければいい。そうすることで爪痕を残すことができ、周りの「心に置き土産」を残すことで、次に成功するための布石となるのです。

【2】負け続きのどん底から抜け出すためには?

府中工場に左遷された君嶋は、本社に戻りたいという希望を退けられて一旦は自社ラグビーチーム「アストロズ」の廃部を検討します。しかしその後奮起し、なんとしてもリーグ優勝させなければならないと覚悟を決めます。その時、言い訳や不満だらけの選手たちに檄を飛ばします。

君嶋:「今年は大してモノが売れませんでした。来年もこの調子でもう少しだけがんばりましょう。……ふざけるな! そんな危機感のない会社は即刻潰れる。そんな社員は即刻クビだ。サラリーマンに努力賞なんてものはないんだよ。正義が勝つんじゃない。勝ったものが正義なんだ」「君たちは今、どん底だ。そして後は上だけを見ろ」

「私は死んだんだ。本社から追い出されて、ここに送られてきた時点で、サラリーマンの私は死んだ」(1話より)

メンバーが見えていない世界を見せ、共感を促そう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★

この時の君嶋の演説には、重要なポイントが2つ含まれています。

(1)「リフレーミング」によってメンバーの視点を変えさせた

(2)互いに共感させ、「ビジョニング」ができている

君嶋は自分の立場・ポジションからの目線だけで話を終えず、弱みをオープンにし、メンバーの共感を呼んだことによって、チームが一丸となるきっかけをつくることができました。

1.メンバーの視点を変えさせる

まず、君嶋は「ラグビーチームが盛り上がり、観客がたくさん来て、そして家族が喜ぶことが、社会貢献に繋がる」ことを示し、メンバーが意識的できていない世界観を見せ、認識できていないことを提示していました。

このように思考のフレームを変えさせ、考え方の枠組みを変化させることを「リフレーミング」と呼びます。人は自分の知らなかった考え方や気づかなかったことに気づかされると、心に火がつくことがあります。ここで君嶋さんは、選手たちに根性論で「とにかく勝て」とか「自分のために勝て」などと言うのではなく、「誰のために勝つのか?」という新しい価値観を見せた点がすばらしかったと思います。

2.互いの立場への共感を誘い、ビジョニングしている

君嶋は、選手だけを奮起させるだけではなく、自分自身も苦境にあり、選手たちと同じ境遇にあるということをアピールしています。それが「私は死んだんだ」という絶望的なセリフに現れています。人はエモーショナルな生き物ですので、同じ境遇にある人に共感し、ファンになるものです。一方で人は共感できない人には冷淡になってしまったり、敵対心を抱いてしまいがちです。

このように方向感を示し、相手の共感や行動を促す取組みを「ビジョニング」と言います。これは何も、大企業だけに限った話ではありません。中小企業やベンチャー企業、あるいは社内プロジェクトなどの小規模な組織でも当てはまります。

たとえ5人のチームでも、共感できないマネージャーがいたり、冷淡な人がいるとチームはまとまりません。メンバーの仕事にはどのような意味づけがあり、同じ方向を目指していくのだと「ビジョニング」することがチームをまとめる上で重要になってきます。

また、ただ単にキレイごとだけを聖人君子ぶって語っていても人は動きません。ビジョンに、「思い」すなわちエモーションが伴っていないと共感は得られません。君嶋は、GMという自分の立場からの上から目線や強がった話で終えずに、自ら苦境について正直に吐露しました。これが、メンバーの共感を呼んだのだと思います。

メンバーに自分たちの置かれた状況を把握させ、反発を抑えながらリフレーミングしたことで納得ました。そして、自分の弱みを率直にさらけ出して共感も呼んでいます。メンバーに「ついていきたい」と思わせる人は、自分の失敗談などを臆さず話す勇気のある人です。最近は嫌がられることもある「自分語り」ですが、ここであえて自分の弱みをオープンにして「自分語り」をした君嶋の行動は、★5つだと思います。

【3】負けグセがついた人を、勝ちグセに変えるには?

新しい監督選びに奔走する君嶋をはじめ、アストロズのメンバーたち。中でも君嶋は、チームのアナリストが話した「監督は経営者と同じ」という言葉に触発され、「良い経営者と悪い経営者の違い」を、監督選びに当てはめようと考えます。

君嶋:「失敗する経営者は、事業を起こしても失敗を繰り返す。成功する経営者は、どんな事業をやっても何とか軌道に乗せることができる。勝ち方を知っているんだろうなぁ」(2話より)

失敗を客観的に振り返り、改善策を模索しよう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★☆☆

負け続けているチームや人が、勝てるチームや人へと転換し、勝ちグセを身につけるためには、以下を心がけてみましょう。

(1)客観性を身につけて、失敗の振り返りをしよう

(2)自分は勝てる領域にポジショニングしているか考えてみる

(1)自分の失敗や現状を、客観的に振り返ろう

失敗続きのビジネスパーソンは、まず自分の現状をできるだけ客観的に振り返る機会を持ちましょう。その際、自分だけで振り返るのは禁物。「負けグセ」がついているということは、どこか自分の考え方に課題があるということですから、いくら自分で振り返りをしても客観性に欠けてしまいます。

チームの場合は、他チームの人、あるいは外部の専門家など、自社ではない人に分析してもらうのも有効。一方、自分個人について振り返るのであれば、上司や同僚、家族、異業種の会社で働いている人、他社の人など、自分以外の人に振り返りをしてもらうと良いでしょう。その時、「今の自分は何が間違っていて、なぜ負け続きになってしまっているのか」について、冷静に聞いてみてください。そして、しっかり耳を傾けましょう。

(2)自分の勝てるポジションはどこなのか、今いちど検討してみよう

負け続きの時は、実は自分の勝てる領域で勝負していない場合もあります。例えば、to C向けのビジネス経験がない人が、いきなり個人向けのビジネスを初めてもいきなり成功することは難しいでしょう。

私自身にもそのような経験があります。もともとITの知見と広報の経験が豊富だったのですが、フリーランスになりたての頃は、何を思ったか個人向けのアドバイザーになろうと、メルマガなどを執筆していた時期がありました。ところが、それがなかなかうまくいきませんでした。

それをある人から「沢渡さんは絶対法人向け、しかも大企業向けの仕事をした方がうまくいきますよ」と言われたことをきっかけに、法人向けの仕事に切り替え、たくさん仕事をいただけるようになりました。

それ以来、私の仕事は法人向けの仕事が100%(除く作家活動)。組織を改善したり、企業内のコミュニケーションをより良くする仕事がメインとなっています。たしかに一時は意固地になって、「何がなんでも個人向けのビジネスを展開するんだ」と自分の考えに固執した時期もありました。素直に耳を傾け、徐々に法人向けの仕事にシフトしたところ、世の中の時流も相まってうまくいくようになりました。

考えてもみれば、私は toCすなわち個人向けの仕事は一切したことがなく、普通に考えたら勝てるわけがない。すなわち、負けポジションに行こうとしていたのです。負けや失敗が連続している時は、思考停止するのはやめて、冷静に背景を分析しましょう。

君嶋はここでは先入観で発言しているようにも見えるので、★3つです。負けグセがついている人でも、しっかり失敗を振り返って、部署異動や、扱う製品・ターゲットとする顧客を変えることで、勝てる人になれる可能性があります。失敗した原因を丁寧に考えて、次の一手を打つことができれば、これからの成功への第一歩を踏み出せるでしょう。

【まとめ】自分だけで頑張りすぎない君嶋は★5つ

君嶋さんは、ビジネスパーソンとしての生き方はパーフェクト。うまくメンバーの共感を呼び、視点を変えさせたり、自分の弱みをさらけ出すなどしてチームをまとめあげています。よって、★5つをつけました。とはいえ、何事もセオリー通りにいくとは限りません。うまくいかなくても必ずしも自分だけに問題があるわけではないということも、心に留めておいてください。

<番組情報>

日曜劇場『ノーサイド・ゲーム』(TBS系 日曜21時~)

大手自動車メーカーの中堅サラリーマン・君嶋隼人(大泉洋)は社内政治に破れ、左遷人事の結果、府中工場の総務部長に就任することに。すると、会社のラグビーチームのGMを兼務することを命じられる。ラグビーの知識も経験もない男が、自身の再起とラグビーチームの再建をかけた闘いに挑む。脚本は丑尾健太郎、出演は大泉洋、松たか子、高橋光臣、眞栄田郷敦、西郷輝彦、大谷亮平、中村芝翫、上川隆也他

WRITING:石川香苗子

新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。

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