大河ドラマ『いだてん』阿部サダヲ演じる田畑政治に学ぶ、職場で自分の主張を通す交渉術とは?

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大河ドラマ『いだてん』阿部サダヲ演じる田畑政治に学ぶ、職場で自分の主張を通す交渉術とは?

NHKの大河ドラマ『いだてん』2部の主人公・田畑政治は、1964年の東京オリンピックを招致した人物。田畑はコミュニケーションの力で自分の主張を的確に伝え、膠着(こうちゃく)した組織や上司、大物を動かしながら時代を変えていきます。

若手ビジネスパーソンの中には組織のしがらみに悩んだり、やりたいことがあってもうまく通せないという人も多いはず。田畑がドラマ内で見せたプレゼンテーション場面から、仕事の現場で自分の主張を通す有効なコミュニケーションとは何か、業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士の沢渡あまねさんに解説・アドバイスしていただきました。

いだてん田畑

あまねキャリア工房代表 沢渡 あまねさん

業務プロセス&オフィスコミュニケーション改善士。人事経験ゼロの働き方改革パートナー。日産自動車、NTTデータなどで、広報・情報システム部門・ITサービスマネージャーを経験。現在は全国の企業や自治体で働き方改革、社内コミュニケーション活性、組織活性の支援・講演・執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。著書『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』『ドラクエに学ぶ チームマネジメント』『運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本』ほか多数。2019年7月6日に『仕事ごっこ~その“あたりまえ”、いまどき必要ですか?』(技術評論社)を上梓。

【1】やりたい仕事に対する熱量を伝えて実現するためには何が必要?

朝日新聞の入社試験を受けた田畑政治(阿部サダヲ)は、水泳競技の現状や、魅力についてとうとうと語り、「不合格」だったはずの入社試験で見事「合格」を勝ち取り、入社を決めてしまいます。それだけでなく、「入社しても水泳は続ける」という条件まで飲ませてしまいました。【25話より】

編集長「希望する部署は、運動部かね?」

田畑「政治部です。政治がやりたくて来ました」「水泳も続けますよ、日本を世界レベルにするまでは」

キーワードを繰り返し散りばめ、場にいない第三者にもメッセージを伝える

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★☆☆

田畑は、好きなものをしつこく伝えて軸をぶらさないところが素晴らしいですね。彼は一貫して水泳、プール、政治といったキーワードを盛り込み、ジェスチャーを交えながら自分がやりたいことを強烈に印象づけています。

この時、伝え方が曖昧だったり、自信がなさそうに発言したのでは、相手の印象に残りません。特にこのシチュエーションのような採用面接の場合、いかにその場にいる人に印象付けるかが重要です。

最後に社長が「台風のような男だったな」と、あきれたように呟きます。このひと言が何よりの証拠。軸をぶらさず、キーワードを繰り返し言うことで、相手の中の印象を強くすることができます。リアルなエビデンスが豊富だったことも、説得力を増す一因でした。具体的にどの選手が水泳に強いかをタイムなど数字で示し、実家が裕福であることを主張する時には絵を用いて説明したことで説得力が増しました。

転職の面接では、その場に決裁者がいないことが多いもの。面接したのは課長でも、決裁者は本部長ということはよくあります。その時、課長が「水泳好きなのに、政治をやりたいってしつこく言ってる変な男がいるんですよ」と伝えたくなるくらい印象が付けられれば、この一行は自分自身をアピールする強いキャッチコピーとなります。また、その場にいない第三者や決裁者にも強烈にメッセージングすることができます。場合によっては、数年経ってからやりたい仕事が実現することだってあるのです。

ただ、田畑のように極端にやってしまうと、中には引いてしまう人もいるので★3つとしました。

【2】組織の古い体質やしがらみを解き放ち、自分がやりたいことを通すには?

田畑政治は水泳競技のオリンピック参加人数を増やすため、これまでの大日本体育協会のやり方を批判。名誉会長の嘉納治五郎(役所広司)の引責辞任を求めます。また、大日本体育協会から脱退して好きなようにやると宣言し、代わりに援助もいらないと言い切ります。

田畑「嘉納治五郎会長の引責辞任を求める!」

「やい、じじい!嘉納治五郎に伝えろ!水泳は体協から独立する!援助も受けん代わりに、指図も受けんとな!」

力はなくても、相手に興味を持たせ、「愛嬌力」で助けてもらおう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★☆

この時点で田畑は「思いはあるけれど、権力や実力はない」人です。ここでポイントは2つあります。1つ目は、嘉納治五郎に「彼は何者かね」と興味を持たせていること。そして2つ目は「可愛げがあり、抜けている部分を見せる愛嬌がある」ことです。

企業のビジネス現場でも、もっとチャレンジしたい、もっと仕事のやり方を変えたいけれど、上に聞いてもらえないという話をよく聞きます。若手、中堅メンバーから共通して聞く悩みごとの一つです。

田畑の行動で注目したいなのは嘉納治五郎に「彼は何者だね」と印象付けていること。嘉納治五郎は、田畑の強烈な叫びを聞いて、「大日本体育協会のやり方を批判してはいるが、水泳を自由にしたいという強い思いはあるのだな」と、理解したわけです。強烈なプレゼンによって立場の違う人の興味・関心を引いたことは非常にすばらしい部分だと思います。

ただそうはいっても、権力のない人が正論だけで押しても、上の人からすれば「ただ吠えている」ようにしか見えません。その中で、田畑は嘉納治五郎がどんな人物か実は知らなかったり、いざ目の前に現れた嘉納治五郎に「わりと大きいんですねぇ……」ととぼけたことを言うなど、「抜けている部分」を見せています。これが「可愛げ」となって、上の人を動かす可能性があります。

これはキャリアの世界で「愛嬌力」と言います。隙のない人には、愛着がわかないものです。田畑のように弱いところを素直に見せれば、上司も「君の思いに共感したから、力を貸そう」と心を動かしてくれる可能性が高くなります。背伸びしたり、虚勢を張って「何でも知っています」などとアピールするのは逆効果です。

思いはエモーショナルに伝え、背伸びしすぎず可愛げや弱みを見せるという点は、若手が上司からいい仕事を任せてもらうために試す価値のあるやり方。ぜひ真似してほしいので★4つをつけました。

【3】大物や上司を動かす極意とは?

資金援助をしてほしいと大蔵大臣の高橋是清(萩原健一)の元にやってきた田畑政治。しかし高橋是清は「私はオリンピックには興味がない」とにべもありません。そこを田畑政治は「震災で沈んだ若者が、オリンピックのおかげで元気になる」と説き伏せ、6万円の援助を得ます。【26話より】

高橋是清「スポーツと政治は無関係。これが私の信条だ。だから、政府は金も出さんし口も出さんでやってきた」

田畑「嘉納さんと僕らは違いますよ。古いんですよ、体協の考えは。寄付でまかなえる規模じゃないんです。富める国はスポーツも盛んで、国民の関心も高いんです。先生方もスポーツを政治に利用すりゃいいんですよ。金も出して、口も出したらいかがですか?」

是清「で、そのオリンピックとやらは、お国のためになるのかね?」

田畑「お国のためには、なりませんな」

とにかく行動して、相手目線で興味関心をもたせ、期待・役割を明確にしよう

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★☆☆

ここでは注目したい3つのポイントがあります。

1.高橋是清という大人物とコンタクトを取った度胸と行動力

2.相手のフィールドで、興味関心をもたせている

3.相手にどんな役割を期待するのか明確にしている

まず何よりも重要なのは、高橋是清という大物に伝手を作り、物怖じせず対話しているということ。この度胸と機会を作った行動力がまず重要なポイントだと思います。

次に、相手の興味関心に沿った話をしている点も重要です。ここでオリンピックには興味がないと言っている是清に、オリンピックの話ばかりしてもかみ合いません。周りを動かすのがうまい人は、相手のフィールドに踏み込み、どう興味を持たせるのかを演出することに長けています。

会話の中で相手に何を期待し・どんな役割を求めるのかを明確にしていた点も評価できるでしょう。田畑の話を聞くうちに、是清は次第に私はどうすればいいのかと顔色を変えていきます。最後は是清の方から「そのオリンピックとやらは、お国のためになるのかね」と自ら聞いています。この時点で、是清は「私がオリンピックというものに貢献するためには、何ができるのか」と考え始めているのです。

こちらから相手への期待・役割を伝えるだけでなく、相手から自分はそこでどう振る舞えばいいのか想像力をかきたてるように導き、自らの役割を認識させる。そして田畑は「(オリンピックを)生かすも殺すも、先生方次第です」というキラーワードを投げかけ、是清にボールを預けてしまっています。こうやって若手と大物の間でも、当事者意識を作ることはできるものなのです。

ただ、ここまでズバズバ言ってしまうと「そんなことわかっているよ」と反発されるリスクもあるので、★3つをつけました。

【4】会議を「馴れ合い至上主義」から「結果型」に変える秘策

日本初の女子オリンピック選手・人見絹枝をアムステルダムオリンピックに参加させるかどうかを検討する会議で、日本体育協会の岸(岩松了)は「勝ち負けにのみこだわるのは、オリンピックの精神に反する」といいます。【26話より】

田畑:「それは明治の話だよ~。今は昭和だよ、参加することに意義? ないわ~。いい加減勝てよって、みーんな思ってるよ!」「選手に全部背負わせるから、プレッシャーに押しつぶされて実力が発揮できんのだよ!」

会議とは、求めるゴールを実現する“劇場”である

【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★

この会議で、田畑は3つの重要なことを行っています。

1.構造的な「なぜなぜ分析」で、多面的視点を洗い出す

2.参加者の視点を変え、議論への共感ポイントと関わり方を発見

3.プロフェッショナルを参加させる

これらは会議のファシリテーター(進行役)として、重要な役割です。最初は、女性の選手を出場させることが議題となっていましたが、次第に「勝つことに意義があるのか」という議題にスライドしていきます。問題を構造的に深掘りし、視点を変えることで多面的な議論を展開しながら、最終的には「選手にすべてを背負わせるから、プレッシャーに押しつぶされて実力が発揮できないんだ」という本質的な議論へとたどり着いています。

様々な観点を提供し、議論の「なぜなぜ分析」をしつつ、それぞれの参加者から言語化しきれていなかかった共感ポイントを引き出しています。

特に金栗四三(中村勘九郎)は「選手にすべてを背負わせるから、プレッシャーに押しつぶされて実力が発揮できないんだ」という田畑の言葉を聞いた瞬間、「そう、それなんだ!」という表情をしていました。これは、恐らく金栗さんの中でも言語化しきれていなかったことを、田畑が代弁してくれたということでしょう。

また、嘉納治五郎も、田畑の話を聞くうち、最後は「オリンピックは勝つ仕組みを作らなきゃいけないんだ」という、嘉納が本当に成し遂げたいオリンピックのあり方へとたどり着いています。

とはいえ、会議の参加者自身は自らの思いや、本当の問題点に気づいていないこともありますし、気づいていても言い出せないこともあります。その時、田畑は誰よりもオリンピックについて真剣に考え抜き、専門的な知見も豊富なオリンピックの専門家として信用を得ているから、会議が円滑に進むのです。これが、強い会議のファシリテーションの一つです。テクノロジーに精通したエンジニアなどスペシャリストに参加してもらうことで、会議がまとまりやすくなるのです。

会議のファシリテーターは、シナリオライターと同じです。誰よりも自分が主体的に会議をやると決め、求めるゴールから逆算してメンバーを招集し、どの場面で誰に・何を発言してもらうか筋書きを考えておくことが重要なのです。

会議は設計8割、現場が2割。会議の参加者は、筋書き通りにロール(役割)を演じてもらうアクター(役者)です。ここで社長にこう言わせよう、このエンジニアにこうサポートしてもらおう、議論を白熱させるためにあえて逆の意見を言ってもらおうなど。

場合によっては、参加メンバーに事前に根回しをしなければならないこともあるでしょう。その時は、会議の場で「その人に何を期待し、どういう役割を果たして欲しいのか」を明確に伝えるようにしましょう。根回しとは、会議を司るディレクターとして、事前に場面設定やロール、他にどんなアクターがいるのかについてレクチャーする場だと考えてみてください。そうすると、根回しに対する捉え方も変わってくると思います。

会議とは、劇場です。

ここでの田畑は、議論を本質的な問題へとリードし、参加者が気づいていなかった心情を言語化し、共感が得られているため、ファシリテーターとして満点! ★5つをつけたいと思います。

【まとめ】これからコラボレーションの時代、思いを発信しまくろう!

いだてん田畑

田畑の行動で重要なのは、誰よりも思いに素直で、その思いを発信しまくっていることです。「自分の夢なんて大したことない」なんて思っていたら、人生は何も変わりません。むしろ、発信できないような思いなら、本気でやりたいことではないと疑ってみてもいいかもしれないですね。

もう1つは、立場の異なる人を縦横無尽に巻き込んでいく力があること。「オリンピックを変える」などという大それたことは、田畑一人の力ではどうにもなりません。かといって田畑にはまだ権力はない。そこで大物、上司、同僚など様々な立場の人たちをどんどん動かしているわけです。

これからはコラボレーションの時代。組織を超え、様々なプロフェッショナルと繋がっていかにやりたいことを実現していくかが求められる時代なのです。

画像提供:NHK

<番組情報>

『いだてん』(NHK 日曜 20時~)

いだてん日本で初めてオリンピックに参加し、大惨敗を喫したストックホルムオリンピック、幻と鳴った1940年の東京オリンピック。明治、大正、昭和とオリンピックに情熱を傾け、1964年に東京オリンピックが実現するまでの“泣き笑い”の半世紀を描く。脚本は宮藤官九郎、出演は、阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか 麻生久美子 桐谷健太/森山未來 神木隆之介/ 薬師丸ひろ子 役所広司 ほか。

WRITING:石川香苗子

新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。テレビやドラマに関する取材記事・コラムを多数執筆。

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