総選挙やりなおし決定:混乱するイスラエルの政治 2019.6.5(オリーブ山便り)

総選挙やりなおし決定:混乱するイスラエルの政治

今回は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。

総選挙やりなおし決定:混乱するイスラエルの政治 2019.6.5(オリーブ山便り)

ネタニヤフ首相

写真出展:Times of Israel

4月9日に行われた総選挙の後、リブリン大統領に組閣を指名されたネタニヤフ首相だが、期限を2週間延長後の最終期限になっても過半数を超える連立政権を樹立することができなかった。原因は、イスラエル我が家等のリーバーマン氏が、超正統派の従軍に関して妥協をいっさいせず、連立に加わらなかったためである。

最終的に、ネタニヤフ首相は、国会を解散、総選挙を再度行うことを決めた。再総選挙は、9月17日。つまり、正式な政府が立ち上がるのは、早くても10月ということになる。それまでの間、国としての大きな決断はできない。

これは、外交、防衛においてかなり厳しい状況にあるイスラエルにとっては、非常に大きなチャレンジといえる。特に、今から新しくバーレーンでの経済ワークショップを皮切りに、いよいよアメリカの「世紀の中東和平案」が公表されると予測されていたが、またもや先延ばしになる可能性が高まった。

トランプ大統領は、ネタニヤフ首相がイスラエルの指導者であれば、この和平案が成功する可能性は高いとの認識を持っていたことから、イスラエルで再選挙になることについて、「ひどい。イスラエルの政治は混乱している。」と述べている。

ネタニヤフ首相は、再総選挙が無駄であると述べ、連立立ち上げを不可能にしたリーバーマン氏を、非難した。一方、リーバーマン氏は、ネタニヤフ首相を、「政治を個人のものにしている。」と非難した。

この政府たちあげの遅れが、逆にイスラエルを守ることになったかどうかは、後の時代が判断することになるだろう。

https://www.timesofisrael.com/why-israel-will-hold-a-second-national-election-in-2019/

どうなる!?ネタニヤフ首相

選挙による新しい連立政権が立ち上がらなかったことから、今までの政府が、暫定政権のような形で国を導いていくことになる。しかし、前政権で司法相、教育相を担っていたナフタリ・ベネット党首率いる新右派党は、今回の選挙では、最低議席数に必要な得票を得られず、国会から去るという事態になっていた。

ネタニヤフ首相は、シャキード法務相と、ベネット教育相を解雇すると発表した。

しかし、これは、ネタニヤフ首相にとってはリスクになりうる。ベネット氏は、9月の総選挙には出馬することを表明している。もし、次回の総選挙でリクードが、再度最多数議席を取って組閣を命じられたとして、もしベネット氏の党が国会入りを果たしていた場合、ネタニヤフ首相の政府に加わることはないだろう。

ネタニヤフ首相は今、リーバーマン氏のユダヤの家党に続いて、右派政党仲間をもう一つ失ったことになる。

9月の再総選挙では、結局ネタニヤフ首相のリクードが、ぎりぎりの議席数をとり、再び連立交渉に失敗するという可能性は残されている。しかし、そうなれば、それこそ、この総選挙は無駄だったということになる。

次の選挙では、ネタニヤフ首相が首相となって続投するかどうかについては、疑問視する声もある。

1)リクード内ライバル:ギドン・サル氏

ネタニヤフ首相自身のリクードは、今もネタニヤフ首相を支持してはいるが、首相自身の汚職問題が今後、どう動くかによっては、ネタニヤフ首相を切り離す可能性もでてくる。

ネタニヤフ首相は、まさか連立を立ち上げられないとは思っていなかったのだろう。すぐに国会に、首相は刑事責任を負わないとする法案を出したことで、自分を無罪にするために、首相になったのではないかとの疑いがリクード内部にもひろがる結果になった。

リクード内部では、時期党首と目される人物、ギドン・サル氏の人気が高まりつつあり、ネタニヤフ首相に変わる人物がいないともいえない状況にある。

2)野党ブルーアンドホワイト

今回の選挙では、中道左派と目される新党ブルーアンドホワイト(ベニー・ガンツ党首)が、リクードと同じ35議席を取っていた。ブルーアンドホワイトでガンツ氏と合流した元未来がある党のヤイル・ラピード氏は、「2回目のチャンスが来た」として次の選挙に臨むとしている。

ブルーアンドホワイトは、自称左派ではなく、めざすところは、左右統一政府だと言っている。

3)アラブ政党の躍進

リクードは、アラブ系政党を敵とみなしてきた。これまでのアラブ政党は、アラブ系市民の支持を得られず、選挙自体に来る人が少ないということで、議席数を伸ばすことはできていない。

しかし、もし、次回、住民の20%を占めるアラブ系市民の動員を確保できれば、リクードには大きな脅威となりうる。

とはいえ、総選挙までまだ4ヶ月もある。まだしばらくネタニヤフ首相が国を導いていく。夏にはハマスとの戦争があってもおかしくなく、イラン問題から中東で大戦争になっている能性もないわけではない。いかにエキスパートでも、予想外が連発するのが、イスラエルである。

やはり、主がすべてを支配している国、それがイスラエルという国だと思う。

「Israel’s ‘do-over’ election brings new threats to Netanyahu」2019年6月3日『The Times of Israel』
https://www.timesofisrael.com/israels-do-over-election-brings-new-threats-to-netanyahu/

 
執筆: この記事は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2019年6月12日時点のものです。

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