米イラン対立激化:イスラエルも要警戒 2019.5.16(オリーブ山便り)
今回は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。
米イラン対立激化:イスラエルも要警戒 2019.5.16(オリーブ山便り)
写真出展:aljazeera
アメリカが、イランの原油禁輸を開始し、緊張が高まっている。
イランの核兵器開発疑惑が始まったのは2002年。当時、通常利用には不要な20%の高濃度のウランの濃縮を行っていることが内部告発で明らかとなり、イランが核兵器を作ろうとしているのではないかという疑惑が持ち上がった。
以来、イランと国際社会とが交渉を続け、2015年、オバマ元大統領ひきいる6超大国(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、中国、ロシア)とイランが、核合意に至った。これをJCPOA(包括的共同行動計画)という。
この合意により、イランが、ウランの濃縮を一時保留にすることで、世界は、その時点でイランに課されていた経済制裁を解除することになった。
しかし、この合意では、イランは、高濃度のウランを国外に出すことにはなったものの、核開発施設は温存された。このため、合意期間が終了すると同時に、イランが、合法的に自由に核開発を再開することが可能になるという落とし穴があった。
さらに合意とともに経済制裁を解除したことで、大量の現金がイランに流れ込み、イランは弾道ミサイルなど通常兵器の開発、実験を繰り返すようになった。また、イランが支援しているとみられる、シリアやその他の地域のテロ組織(ヒズボラやイスラム聖戦など)の活動も活発になってきた。
このため、トランプ大統領は、2018年5月、アメリカはJCPOAから離脱し、イランへの経済制裁を再開すると発表した。
アメリカは、制裁再開によってイランに圧力をかけ、あらたな合意内容に変更することを求めている。トランプ大統領は、これまでの流れから、イランが方針を変えるとすれば、アメではなくムチ、実質的な圧力しかないと考えている。これはイスラエルが訴えてきたことでもあった。
アメリカは徐々に経済制裁を強化してきたが、1年後の今年5月2日、ついに原油というイラン最大の収入源の完全禁輸を開始した。
イランの原油に頼っていた日本など5カ国は、すでにイラン以外の国から原油を調達したり、ドル建て以外での購入などの道を確立していたようで、この日以降も、今の所、国際社会に大きなパニックはない。
またこれに先立ち、イランの正規軍である革命軍をテロ組織と指定した。これによってもイランへの収入が阻止される結果になった。イランはいよいよ行き詰まり状態にあるとみられる。
これまでのところ、イランは、JCPOAのアメリカ以外の参加国であるヨーロッパ諸国に、イランが合意から離脱して、合意が崩壊しないことを望むなら、合意内容をイランに好意的にするよう要求。同時に、中国、インドとの新たな原油販売で、埋め合わせをして、アメリカ抜きでも生き残れる道を確立しようとしてきた。
しかし、60日たっても欧州は、イランの思うようには動かなかった。また、やはり超大国アメリカ抜きでは、どうにも埋め合わせができないことが明らかとなってきた。イランは今、アメリカと交渉し、アメリカが納得するような核合意に至るしか道はないというところに立たされている。
「焦点:イラン核合意存続なるか、英仏独の「頼みの綱」は中印」2019年5月10日『REUTERS』
https://jp.reuters.com/article/iran-deal-idJPKCN1SG0K2
しかし、イランがそう簡単にアメリカに降参するはずがない。イランは、アメリカには屈服しないとする態度を変えていない。
どうする!?イラン:アメリカと武力衝突の可能性は?
行き場がなくなったイランが、アメリカとの交渉に進まなかった場合、今後とると考えられる道は3つあるとINSS(イスラエル国家治安研究所)のアモス・やディン氏は分析する。その3つとは以下の通り。
「The Rising Crisis between the United States and Iran」2019年5月14日『INSS』
https://www.inss.org.il/publication/rising-crisis-united-states-iran/?utm_source=activetrail&utm_medium=email&utm_campaign=INSS%20Insight%20No.%201166
1)JCPOA核合意から離脱する
イランがアメリカに続いてJCPOAから離脱することで、この条約が崩壊し、世界は核戦争を止められないという道をたどる。
イランは、15日、正式に、合意の履行の一部を停止するとして、ウランの濃縮再開と、イラン西部アラクの重水炉の開発を再開すると発表した。
「イラン、核合意履行を正式に一部停止=通信社」2019年5月15日『REUTERS』
https://jp.reuters.com/article/usa-iran-nuclear-idJPKCN1SL0N4
2)軍事行動に出る
アメリカを屈服させるため、イランが、シリアやイラクにいるアメリカ兵らを攻撃する可能性がたかまっている。トランプ大統領は、15日、イラクにいる兵士以外のアメリカ人に、安全のため、国外へ退去するよう指示を出した。
またイランは、宿敵サウジアラビアやイスラエルを攻撃するとの警告も行っている。実際、12日、UAE(アラブ首長国連邦)沖で、サウジアラビアなどのタンカー4隻が攻撃を受け、船に損害を受けた。イランの可能性が示唆されたが、イランはこれを否定。
15日には、サウジアラビアのパイプラインが、ドローンによって攻撃された。イラン配下でイエメンで内戦を率いているフーシ派が、これを行ったことを発表した。
「米・サウジ側とイラン、対立先鋭化 偶発的な衝突も懸念」2019年5月15日『Yahoo!ニュース』
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190515-00000099-mai-int
アメリカは現在、イランの攻撃を阻止するため、ペルシャ湾に空母と爆撃機などを配置し、イランが少しでも軍事行動を起こせば、厳しい報復をするとの強力なメッセージを発している。
また、イランの出方によっては、12万人のアメリカ軍部隊を中東に派遣する可能性も伝えらえた。トランプ大統領はこれを否定したが、必要になれば、12万以上の軍を派遣すると言っている。
しかし、今のところ、トランプ大統領は、あくまでも直接の交渉を求めるとの路線を変えていないようである。INSSのアモス・ヤディン氏によると、トランプ大統領は、イラン首脳に対し、スイス経由で直接アメリカに電話できるラインを提供しているという。
アメリカとイランは、両国とも、軍事衝突は望んでいないとみられている。しかし、お互いの首脳が発する言葉は、非常に強気で、ちょっとしたきっかけて戦争に発展してしまう可能性は十分ある。
3)世界の石油輸出入を妨害する(ホスムズ海峡閉鎖)
サウジアラビアなどから原油を購入するためには、ペルシャ湾からホスムズ海峡を通過してアラビア湾に出なければならない。イランは、この狭いホルムズ海峡を閉鎖することを匂わせている。
もしそうなれば、原油を積んだタンカーが、ペルシャ湾から出られなくなり、世界はまたたくまに原油不足に陥る。そうなれば、戦争になる可能性は一気に高まる。
「The Rising Crisis between the United States and Iran」2019年5月14日『INSS』
https://www.inss.org.il/publication/rising-crisis-united-states-iran/?utm_source=activetrail&utm_medium=email&utm_campaign=INSS%20Insight%20No.%201166
ロシア:アメリカのイラン制裁を非難
アメリカとイランの関係悪化がエスカレートする中、ポンペイオ米国務長官が、ロシアのソチを訪問。ロシアのラブロフ外相と会談した。
ロシアとアメリカは、大統領選挙にロシアが介入したのではないかという疑惑をめぐって、関係がぎくしゃくしたままである。ロシアはアメリカがイランに最大限の圧力を加えることは、イランを追い詰めるだけだとして、まっこうから反対している。
今回のポンペイオ国務長官のロシア訪問では、イラン問題の他、シリア内戦後や、ウクライナ問題に加え、2016年のアメリカ大統領選でのロシアが関与疑惑についても話し合われたもようだが、結果は、「意見の違いを確認した」という事であった。
しかし、トランプ大統領は、来月、日本で開催されるG20で、プーチン大統領との直接会談に期待していると言っている。
「Kremlin slams US ‘maximum pressure’ campaign on Iran as Pompeo arrives in Russia」2019年5月14日『THE TIMES OF ISRAEL』
https://www.timesofisrael.com/kremlin-slams-us-maximum-pressure-campaign-on-iran-as-pompeo-arrives-in-russia/
ロシアに限らず、アメリカは、中国とも貿易関税問題で激しく対立しているが、来月のG20では中国の首脳とも会うことになる。ビジネスあがりのトランプ大統領。ビジネスマンらしく、直接会って交渉することを好むようである。
トランプ大統領の言っていることには、一理も二理もあるようだが、これまでの国際社会の流れを変えることになるので、どうしても反対を受けてしまう。外交の世界では、正しいからといって、それがいつも通る世界ではない。厳しい世界である。
イスラエルへの影響と対策
アモス・ヤディン氏は、イランとアメリカが軍事衝突になった場合、湾岸地域だけでは収まらず、イスラエルにまで影響が及ぶことはさけられないとして、政府は、直近、中期的視点、長期的視点、すべての視点で備えをしなければならないと警告する。
直近に必要なことは、諜報活動につとめ、イラン、またはその配下にいるヒズボラやイスラム聖戦の軍事攻撃をできるだけ未然に防ぎ、戦争に拡大しないよう努めることである。
イスラエルは、これまでからもシリア国内にその存在を確立しようとするイラン軍関係施設を先制攻撃して妨害する作戦を続けている。これをさらにパワーアップし、シリア内部のイランの動きを抑止する。
中期的視点では、万が一、アメリカとイランが交渉を再開した場合、合意が期限切れを迎えた時点で、確実にイランが核開発を再開できないような合意になっていることを確認する必要がある。このためのアメリカとの連絡を確立しておく。
また、核兵器プログラムだけでなく、弾道ミサイルなどの通常兵器の開発や、中東を支配しようとするイランのあらゆる動きを抑止する。こうした動きは、サウジなど湾岸諸国からの支持も得られるだろうとヤディン氏は語る。
長期的視点でのポイントは、ともかくもイランが核兵器開発に着手しないようにすること。イランがNPT(核拡散防止条約)から離脱する可能性や、これにアメリカが効果的に対応できない場合に備えるということである。
言い換えれば、たとえ単独であっても、イランの核兵器開発を、確実に阻止するだけの軍事能力を整えておくということである。実際、イスラエルは、ガビ・エイセンコット参謀総長の時代から、10年計画で、イランの核兵器を阻止する作戦に備えているという。
「The Rising Crisis between the United States and Iran」2019年5月14日『INSS』
https://www.inss.org.il/publication/rising-crisis-united-states-iran/?utm_source=activetrail&utm_medium=email&utm_campaign=INSS%20Insight%20No.%201166
石のひとりごと
アメリカとイランが衝突すれば、ロシアが関わってくるだろう。そうなると、ロシア、イラン、トルコ、イランの支援を受けている北アフリカのシーア派諸国などが、結束して中東のアメリカ、イスラエルに攻め込んでくる可能性が出てくる。
一方で、エジプトとヨルダンはイスラエルと和平条約を結んでいることや、現在、サウジアラビアなどの湾岸諸国がアメリカとイスラエルに近づいていることから、これらの国々は、上記の国々の攻撃には加わらないと考えられる。これは、将来勃発すると聖書が予言するゴグ・マゴグの戦いの構図に近づいていると考えざるをえない。(聖書:エゼキエル書38-39)
日本では、聖書に親しむクリスチャンは、たったの105万人(0.83%)らしいが、聖書は単なる宗教書ではない。ぜひ多くの人にも読んでいただきたいと思う。
執筆: この記事は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年5月23日時点のものです。
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