ヘタレ准教授クワコーが帰ってきた!〜『ゆるキャラの恐怖』
クワコー先生の新刊が6年半ぶりに発売。って小学生なら卒業しちゃってるほど長い間、ほんとに待ってたヤツなんているのかって話。いや、いるか。需要もさまざまか。しかも今回、みうらじゅん人気も期待したいところ。なぜにみうらじゅん。でも、題名の「ゆるキャラ」でソッコー連想した人もいるに違いなし。あと、表紙のレイアウト? っての? が、いま激アツの『ジーヴズ』ともろかぶり。いや、オレは好き。同じ出版社から出すなら、そりゃかぶせるっしょ。あえてのかぶせで行くっしょ。
唐突な出だし、クワコーシリーズを未読の読者各位には何のことやらだし、ファンのみなさまからは激怒されるかも。申し訳ありません、モンジ愛が炸裂したゆえの不手際ということでご寛恕いただけましたら幸いです。
「そもそもクワコーとかモンジとかって誰よ?」という方々のために、少々おさらいを。本書は『桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活』(2005年に刊行された長編『モーダルな事象』の続編的作品。シリーズ作品はすべて文藝春秋より刊行)を第1作とするシリーズの3作目。主人公はたらちね国際大学の准教授である桑潟幸一で、愛称がクワコー。専門は日本文学で、文芸部の顧問をしている。節約生活に励む以外、研究にも教育にも特に熱意があるわけでもない。何かとヘタレさが際立つ人物であるゆえなのか、本人の意図せざる場面で何かと事件に巻き込まれてしまう。文芸部の個性的な部員たちの助けを借りて、なんとか日常の謎を解決していくのだが、この文芸部員たちというのがまたナイスキャラ。主に事件解決に貢献する探偵役のホームレス女子大生・神野仁美(ジンジン)や、型破りな部員たちのまとめ役である部長の木村都与、ギャル系ファッションの早田梨花(ギャル早田)にナースのコスプレの山本瑞穂(ナース山本)など。中でも私のイチオシが、モンジこと門司智である。
シリーズ第1作でモンジが登場したときの衝撃は忘れられない。たらちね国際大学はもともと女子短期大学だったのだが、今年度より四年制共学へと移行した。しかしながら、男子の新入生は1名のみ。その男子がまさにモンジで、しかも文芸部に入部したのである。モンジの魅力をここでは詳細には語らないでおくが(と言いつつ、この文章の出だしですでにモノマネしちゃってっけど。似てるかどうかはともかく。クオリティはともかく。←どうしてもモンジに寄っていってしまいます)、小説を読んであんなに笑ったのは久しぶりだった。本書でも80ページを過ぎるまで登場せずやきもきさせられたけれども、モンジファンのみなさまには憂いなく読み進めていただきたい。今回は教育勅語に斬り込むというまさかの知識人的役割を振られているのも新鮮。個人的にはモンジくんの「いにしえから」をまた聞けた(正しくは読めた)のがことのほかうれしかった。
ついついキャラクター造形に関して文字数を費やしてしまったが、基本的にはミステリー小説。大学対抗ゆるキャラコンテストに着ぐるみを着て出場することになったクワコーに脅迫状が届くという騒動を描いた「ゆるキャラの恐怖」と、報酬欲しさに大学内での権力争いに巻き込まれたクワコーが窮地に陥る「地下迷宮の幻影」の2編が収録されている。みうらじゅん氏が実名で登場するのはもちろん「ゆるキャラの恐怖」の方で、大学対抗ゆるキャラコンテストの審査委員長という役割を振られている。氏がこのところずっと提唱している「シンス」ブーム(シンス=since、すなわち「創業○○年」的な意味合いの「since ××××」という表示の画像を蒐集すること)にも言及されているのが、みうらファンにとってもうれしいところ。奥泉さんが小説のおもしろさについて漫談形式で語るライブ「文芸漫談」企画でタッグを組むいとうせいこう氏と、みうらじゅん氏はツーカーの仲でいらっしゃるようだから、”友だちの友だちはみな友だち”ということなのかも。
あ、1点だけ。安月給で食費を切り詰めざるを得ないクワコーが、本書ではセミを食材とするに至っている。そこのところ、調理段階の詳細な描写が虫嫌いの読者にとってはグロ風味といえばグロ風味かも。虫を食する習慣のある地域のみなさまには失礼な言い方かもしれませんが(その点はおわび申し上げます)。どうかそこでギブアップなさいませんよう。
(松井ゆかり)
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