銀行にも”共感力”が必須? 金融庁担当記者が明かす「育てる金融」とは?
2019年4月から、金融庁が金融機関の検査を行う際に使用する手引・通称「金融検査マニュアル」が廃止されました。そもそもこの検査マニュアルは、バブル崩壊による不良債権問題に対応するために、緊急避難的なルールとして1999年から導入したものでした。
実は、この廃止をいち早く予測していたのが、共同通信社経済部記者で、金融庁担当として森前長官に密着してきた橋本卓典さん。2016年刊行のシリーズ1冊目『捨てられる銀行』で「金融検査マニュアルは廃止」と予言していました。
マニュアル廃止を受けて、各金融機関ではビジネスモデルの大幅な転換を余儀なくされることになりますが、その打開策として、シリーズ最新作の本書『捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』では、顧客に共感できることが事業価値に成り得ること、そしてこれからは顧客を「育てる金融」(本書より)にシフトチェンジすべきと提唱しています。
たとえば、電子地域通貨「さるぼぼコイン」で全国から注目を集めた、岐阜県高山市の飛騨信用組合。
信用組合としては初めて、クラウドファンディングをスタートしたことで有名な飛騨信組ですが、担当者は「事業者と同じ目線のクラウドファンディングでワクワクすることをやる。一緒にコーディネートしながら走ろうと思いました」(本書より)と述べ、目先のリスクよりも、長い目で捉えて顧客に共感し、そのニーズに寄り添っていたことが、結果的に銀行側にも大きなリターンをもたらしたと言います。
ほかにも本書で取り上げている成功モデルが、山形県鶴岡市の鶴岡信用金庫。同市には、慶應義塾大学先端生命科学研究所をはじめバイオベンチャーが集積する「サイエンスパーク」が存在しますが、実はこの発展には鶴岡信金も貢献しています。当時の地域創生部長が若手ベンチャー起業家に共鳴し、事業計画の段階から協力、地域全体を巻き込んだ関係性を構築したのです。鶴岡信金では現在も「鶴岡信用金庫若手経営者塾−マネジメントキャンパス−」を開設し、地銀の枠を超えて、地元の未来を育てようと試みています。
金融業界が大幅に変わろうとしている今、キーマンに丹念な取材を重ね、明快な筆致でまとめた本書は、金融マンに限らずビジネスパーソンなら必読の1冊と言えるでしょう。
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