「“動かなくてもいい”理由」を集めてしまう人の心理とは?ーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

「“動かなくてもいい”理由」を集めてしまう人の心理とは?ーーマンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス

『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー(→)。今回は、三田紀房先生の『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』です。

『エンゼルバンク』から学ぶ!【本日の一言】

こんにちは。俣野成敏です。

名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものもあります。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい奥深い一言をピックアップして解説します。

©三田紀房/コルク

【本日の一言】

「情報を集めてから転職するかどうかを決めてもいいけれど、先に転職すると決めてから情報を集めると本気になれる」

(『エンゼルバンク ドラゴン桜外伝』第5巻 キャリア37より)

龍山高校の英語教師だった井野真々子(いのままこ)は、10年目にして仕事に飽きてしまい、転職を決意します。井野は、かつて一緒に働いていた弁護士の桜木建二(さくらぎけんじ)に相談。桜木は以前、経営破綻の危機にあった龍山高校で教鞭を取っていた時期があり、東大合格者を輩出することによって当校を救った救世主でした。

井野から話を聞いた桜木は、転職エージェント会社の転職代理人・海老沢康生(えびさわやすお)を紹介。井野は海老沢の下でキャリアパートナーとして働くことになりますが…。

「感情で動くのは、悪いこととは限らない」

結婚式に招待され、久しぶりに友人と旧交を温めた井野。彼女たちと話をしているうちに、井野は以前、海老沢と交わした会話のことを思い出します。それは社内ミーティングが終わった後でのこと。海老沢が、このように話しかけてきました。「人は友人の結婚式や同窓会に出席すると、その後で転職したくなることが多い。お互いの近況報告をしているうちに、自分が恵まれていないように感じられて、環境を変えたくなるのだ」、と。

それを聞いた井野が、「そんなことで気持ちをグラつかせるなんて」と言うと、海老沢は「人が他人と自分を比較して気持ちがグラつくのは当然。それよりも、友人と会話をしたわずかな時間と情報だけで、自分が幸せかそうでないかを判断しようとすることのほうが問題」だ、と話します。

そうは言いながらも、海老沢は「だけど、感情で転職を決めたって構わない」と言います。「そうした勢いでも借りないと、多くの人は行動できないから。決めた後で論理的な戦略を立てられるのであれば、感情が行動のきっかけになってもいい」と話した海老沢の言葉が、井野の心に蘇ってきたのでした。

人は知らずに、自分の得たい情報を取捨選択している

通常、人が何かを始めたいと思ったなら、まずは情報を集めるのが一般的です。けれど情報を集めたものの、そこから先に進まない人が多いのも事実です。知識を得ただけで満足してしまったり、「もっと良い情報があるかもしれない」と、あたかもコレクターのように情報を集め続けたりしてしまう人もいます。

実際、情報とは良いものばかりでなく、「行動しなくてもいい根拠」も同時に集まってきます。たとえば、転職しようかどうかで迷っている時は「ウチの会社の給料は、まだマシなほうだな」とか、「意外に自社の世間での評判は悪くない」といったように、引き留める要素も見つかります。

結局のところ、人が集めるのはたいがい「自分が見たい情報」です。要は、本当に転職したい人は転職の成功事例ばかりが目につく一方、転職するのが面倒な人は、失敗例ばかりが目につく、というわけです。

©三田紀房/コルク

新しいことを始めようとする際に、行く手を遮るもの

新しい行動を採ろうとする際の阻害要因となるのは、自分自身だけではありません。周りの環境も、自分が変わろうとするのをしばしば妨げます。事例をお話ししましょう。私は現在、金融の専門家とマネースクールを共同開催しています。もし、相談者が自分の資産を殖やしたいと思った時は、家計のコントロールが不可欠であり、たいていは家族の協力が必要となります。

スクールの加入希望者の中には、本人は入りたいと望んでいるのに、家族の反対に遭ってやむなく加入を諦める、という方が複数名に上ります。家族に加入のことを相談するや否や、「何を言っているの」と邪険にされ、自分でも何だか悪いことをしているような気持ちになってしまうのです。

人はもともと、変化を嫌う生き物です。新しいことを始めようとすると、必ずもとに戻ろうとする力が働きます。そうならないための方法の1つが「先にやると決めて、それから行動する」ことです。こうすることで、できない情報を排除し、ネガティブ要因があった時は、「どうしたらそれをポジティブ要因に変えられるか?」と考えるようになります。これが海老沢の言う「論理的な戦略」です。

「やると決める」と、行動が早くなる

では、論理的な戦略がどんなものかというと、新規事業の立ち上げや独立起業なども、先にやると決めることです。万一、「成功するかどうかを確かめてから始めよう」などと考えたら、途中で「やっぱりやめよう」となる可能性もあります。

起業した人なら実感できることですが、事業は実際にやっても予想外の出来事は日常です。たとえば、サラリーマンが起業するにしても、まずは今お世話になっている会社に迷惑をかけない前提で副業として挑戦し、いくつかの実験の結果でその後の判断をするという方がよっぽど建設的です。

「やると決めてから動く」というのは、言わば「チャンスにスポットライトを当てる」ことです。つまり「やる前提」になっているわけですから、これによって「どうやるか?」に頭を集中させることができます。

何事も「やるかやらないか?」は孤独に自己責任として判断するしかありませんが、「どうやるか?」については世の中には参考になる情報が溢れています。

マンガ『エンゼルバンク』に学ぶビジネス 第39回

俣野成敏(またの・なるとし)

30歳の時に遭遇したリストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。年商14億円の企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン(→)』および『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?(→)』のシリーズが、それぞれ12万部を超えるベストセラーとなる。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」(→)』を上梓。著作累計は42万部。2012年に独立、フランチャイズ2業態5店舗のビジネスオーナーや投資活動の傍ら、『日本IFP協会公認マネースクール(IMS)』を共催。ビジネス誌の掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿。『まぐまぐ大賞(MONEY VOICE賞)』1位に2年連続で選出されている。一般社団法人日本IFP協会金融教育研究室顧問。

俣野成敏 公式サイト

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