アニメ『リラックマとカオルさん』脚本:荻上直子インタビュー「カオルさんは手が届きそうな距離の憧れの女性像」

幅広い世代に愛される人気キャラクター『リラックマ』をストップモーションアニメで描く、Netflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』が、本日4月19日(金)より全世界配信スタート。

都内の小さな商社で働くごく普通の、ちょっとトボけたアラサーOLのカオルさん(声:多部未華子)とリラックマたちの、やさしくて、ちょっぴりほろ苦い日常を描きます。

カオルさんは、いつの間にか住みついたリラックマ、コリラックマ、そして掃除が大好きなキイロイトリと暮らしています。真面目すぎると人から言われることに少々コンプレックスを抱いているカオルさんと、呑気なだららん生活を送るリラックマたちが過ごす色とりどりの12か月の物語。

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今作の制作・プロデュースを担当したのは、NHKキャラクター『どーもくん』や、フランスでロングラン上映を続ける『こまねこ』をはじめ、ストップモーションアニメを中心とした映像作品を手がける制作スタジオ・ドワーフ。

そして、映画『かもめ食堂』や『めがね』、『彼らが本気で編む時は、』など映画監督として活躍する荻上直子さんが脚本を手がけています。荻上さんに、リラックマの同居人のカオルさんをそのように捉えて描いたのかなど、お話を伺いました。

「どこかに嫌なヤツはいつもいて(笑)、でも辛いことばかりじゃなくて、みたいなことは変わらない」

――元々、リラックマにどんなイメージを持たれていましたか?

荻上:正直、かわいいキャラクターとして、よく寝て食べる姿を思い浮かべるくらいだったので、今回脚本を担当するにあたってリラックマについて勉強しました。

――今作はリラックマに加えてカオルさんの日常がメインで描かれていますが、監督からカオルさんをメインにしようというお話があったのでしょうか?

荻上:最初からそうと決まっていたわけではなかったです。プロデューサーとお話しする中で、大人が観ても子どもが観ても面白いアニメーションにしましょう、と言われて。それには、ストーリーがしっかりしていないとダメなんだろうなと考えました。また、「リラックマのことを大好きで大事にしている人がたくさんいるから、そのイメージを崩さないために、セリフを喋らせるのはやめましょう」となりました。そして、喋らないリラックマたちだけでは、なかなか13話のしっかりしたドラマを作るのは難しいかな、と思った部分もあり、「これはカオルさんに出てきてもらおう!」と思いました(笑)。

――一番最初に『リラックマ』というキャラクターが登場したときから、カオルさんの家に居候している、という設定だったのですが、展開シリーズによっては登場しないものも多かったので、原点に戻った感じがありました。

荻上:そうですね。逆にこの作品を観て、「リラックマだけじゃないの?」と思う人もいるかもしれないですね。

――キャラクターが登場した初期や書籍の展開を知らないと驚くかもしれないですね。そんなカオルさんの人物像はどのように考えたのか教えてください。

荻上:リラックマは、居候先のOLのカオルさんに、たまに怒られたりするじゃないですか。

――散らかして「こらっ!」とか言われていますね(笑)。

荻上:そのやり取りの感じがとても面白かったから、だらしがなかったり、食べ物を散らかしていたり、リラックマのただ可愛いだけじゃないイメージを崩さない程度に接することができる、自分の友達にいそうな、日常に存在していそうなOLさんをイメージしました。けれど、自分なりのこだわりのあるイイ感じのキレイな部屋に住んでいて、ちゃんとごはんも作ってアイロンをかけたりする、手が届きそうな距離の憧れの女性像、みたいなところを意識しています。

ちゃんと丁寧に日常を生きている人って私自身も憧れるし、そんな中でちょっと運が悪かったり、浪費しちゃったりするダメなところを、リラックマたちの存在が助けてくれる物語にしました。

――監督やプロデューサーさんからリクエストがあった部分は?

荻上:最初にプロデューサーとすごく話し合ったのは、そうやって丁寧に毎日生きているアラサーのOLさんが、1人暮らしで、何も変わらない日常に見えて、だけど、どうしようもなく変わっていく何かがある。確実に歳はとるし、アパートも古くなる問題に直面するとか、そういった“変わらない日常の中で確実に変わっていくもの”を描きましょう、と話しました。

――その変化に取り残されないようにしようとしているんだけど追いつけない、ちょっと上手くいかない、みたいな葛藤も表れていますよね。

荻上:そうですね。変わらなくていいところと、自分で変わりたいと思っているんだけど変えられないところ。そういったところを意識しました。

――第1話からリアルな等身大の妙齢女性の痛いところをついているというか、葛藤がにじみ出ているなと思いました(笑)。

荻上:ありそうでなさそうで、でもありそうな感じですよね(笑)。第1話はお花見の話ですが、実際に誘った全員にお花見を断られるってないと思うんですよ。たぶん1人くらいは来ると思うんですよね。それで、その2人で飲みに行ったり、とかは現実だとあると思うんです。そのありそうでない感じ、なさそうである感じになっているんではないかな、と。

――周りの登場人物で意識した部分はどんなどころでしょう?

荻上:後輩の女の子とかもありがちじゃないですか? 自分の周りにはあまりいないけれど、いてもおかしくない感じ。やっぱり、そこも現実の身の回りにいそうな人を意識しています。リラックマたちの存在がファンタジーっぽさがあるから、その分、日常は本当にいそうな人たちの方が面白いかな、と考えました。

――今作を観ていて、カオルさんが家事などがしっかりできる女性なので、それに甘えてダラダラするリラックマを見て、見た目が可愛らしいヒモみたいだな~、と少し感じました(笑)。

荻上:たまにカオルさんも物をたくさん買いすぎてしまったり、ダメ過ぎるときがあるじゃないですか。今作では、リラックマも自分が養われてることを意識してアルバイトに行ったりするお話もあるので、カオルさんに頼ってばかりでもないんですよ。ケースバイケースでカオルさんのことを助けてあげることもあるので、全話観るとまた違う印象かもしれませんね。

――原作者のコンドウアキさんとはお話されましたか?

荻上:お話しました。すごくおおらかな人で、「大丈夫です、好きなようにやってください!」と言ってくださったんです。もっと細かく指示があると思ったら、全然そんなことなくて。好きなことをして良いんだな、と気持ち的にもすごく助かりました。本当に心の広い人で、だからこういうキャラクターが生まれたのかな、と思います。

――スマホも使っているので現代のお話だと思うのですが、でもどこかちょっとノスタルジックな雰囲気も漂っていますよね。

荻上:ケータイやスマホの使い方は、この作品に限らず、映画を作る時に必ず「どうしようかな?」と思う部分なんです。いっそ無しにしちゃう、という選択肢もある。とても迷う部分なんですけど、今回のカオルさんは“今を生きる女性なのかな”と思ってスマホを登場させました。でも、自分が昭和に生まれているので、ケータイやスマホを使っていようがノスタルジックな雰囲気は出てきちゃうんですかね。あまり意識してなかったですけど(笑)。

――出来上がった映像作品を観てどんな印象を受けましたか?

荻上:もう本当に素晴らしい!と思いました。自分が思い描いていた以上のものでした。多部さんの声もピッタリだったし、自分が狭いところでイメージしていた脚本がこんな風に広がるんだ、とすごく嬉しかったです。

――今はCGを多様しがちですが、ストップモーションアニメというのも面白いですよね。

荻上:たくさんの人が関わって、本当に愛情が感じられます。味が出るし、人々の愛情が全部詰まった感じがして、本当に嬉しかったです。

――ここを観て欲しい、というポイントは?

荻上:撮影現場を観に行ったんですけど、本当に部屋の隅々までこだわって作られていて、小物も観ていて楽しいし、画面の隅々まで観て欲しいです(笑)。

――カオルさんにはスタイリストまでついているとか!

荻上:脚本を書いている時はそこまで聞いていなかったので、実際に映像のカオルさんを観て、オシャレだなと思いました! とっても素敵な衣装を着てるので。一部、現実に販売されている洋服を元に作っていたりもするんです。

ドワーフ担当者:衣装に関しては、脚本に四季があったので、ずっと同じお洋服はおかしい、と考えたのが始まりで。仕事着も部屋着も季節ごとに変えようとなりました。お着替えした服とシーンが間違ってはいけないので、そこは大変でしたね。もう1回あの服を着てください、とか(笑)。

――今作も妙齢女性の心の機微が描かれていて、荻上作品らしさが出ていると感じます。描いているものは普遍的なテーマだと思うのですが、現代を舞台にするとSNSからヒントを得たりするのでしょうか?

荻上:私はあまりSNSなどから着想を得たりすることはなくて。でも、やっぱり何かコミュニケーションのアイテムが変わっても、人の本質は変わらないと思うんですよ。私が30代のときも母が30代のとき、今の30代の方も。戦争とか起こってしまうとまた別ですけど、人々が考えていることってそんなに変わらない気がしていて。どこかに嫌なヤツはいつもいて(笑)、でも辛いことばかりじゃなくて、みたいなことは変わらないことだと思うから、書く時に今の設定に合わせるのが大変だと思うことはないですね。自分が経験してきたことや想いを込める感じです(笑)。

――カオルさんとご自身の似ている部分はありますか?

荻上:カオルさんは、気に入った物を何年も愛用しているという設定があるんですけど、それが私にもあって、お気に入りの服をもう20年着ているとか(笑)。気づいたら欲しい物が販売されなくなってる、みたいな。でも、好きな男の子ができたら馬鹿みたいにお金を使っちゃったりとか(笑)、それって別に私に限らず、みんなあるものなのかな、と思います。

――では最後に、この作品をどんな人に観てほしいですか?

荻上:お仕事を頑張っている人に観て欲しいです。「あるある!」と思っていただいたり、寝る前に10分観て、癒されて寝てもらうなど、寝る前の一服のような感じで楽しめるのかな、と思います。

――ありがとうございました!

Netflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』は、Netflix にて本日4月19日(金)から全世界同時独占配信。

作品情報:Netflixオリジナルシリーズ『リラックマとカオルさん』
【配信】 2019年4月19日(金)より全世界独占配信
【キャスト】多部未華子、山田孝之ほか
【スタッフ】監督:小林雅仁/脚本:荻上直子/音楽:岸田繁・主題歌:くるり「SAMPO」/
クリエイティブアドバイザー:コンドウアキ/製作著作:サンエックス株式会社/
監修:サンエックス“リラックマチーム”/アニメーション制作:ドワーフ
(C)2019 San-X Co., Ltd. All Rights Reserved.

【Netflix作品ページ】 http://www.netflix.com/rilakkumaandkaoru[リンク]
【リラックマごゆるりサイト】 http://www.san-x.co.jp/rilakkuma/[リンク]
【リラックマとカオルさん特設サイト】http://www.san-x.co.jp/rilakkuma/rilakkuma_and_kaoru/

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