小学生の時にエジソンの伝記を読んで開発者に憧れた——アノヒトの読書遍歴:TAKAHIROさん(前編)

小学生の時にエジソンの伝記を読んで開発者に憧れた——アノヒトの読書遍歴:TAKAHIROさん(前編)

 ダンサー・振付師として活躍するTAKAHIROさん。大学入学後にダンスを始め、卒業後の2004年に単身渡米しました。全米放送のコンテスト番組「Showtime At The Apollo」でマイケル・ジャクソンを超える歴代最多の9大会連続優勝するなど多大な活躍を見せます。2014年に帰国した後は、アイドルグループ欅坂46 の「サイレントマジョリティー」(2016年)や「不協和音」(2017年)の振り付けを担当し話題を呼びました。そんなTAKAHIROさんは本好きでもあるそうで、普段はどんな本を読んでいるのでしょうか。日頃の読書生活について伺いました。

——TAKAHIROさんが一番初めに本と出会ったのはいつになるんでしょうか?
「小学校1年くらいのときです。幼稚園のバザーに行って『しずくのぼうけん』という絵本と出会ったのが最初だと思います。主人公の雨だれが冒険をするというストーリーなのですが、泥に塗れて汚くなったり、洗濯機の中に入ってぴっかぴかになったりと、『こんな雨だれ一つでも、すごく人生大冒険あるんだな』って思って。この雨だれが自分自身と重なって、親に読んで読んでって言ってこればかり読んでもらっていた記憶があります。初めて自分でこの本が欲しいって言って親にお願いした本でもあります。その後は、『かいけつぞろり』も面白くてハマりました。こちらも冒険モノなのですが、新巻が出るたびに買ってもらっていました」

——冒険物が当時は好きだったんですね。
「ええ。この『かいけつぞろり』の主人公は、冒険もそうなんですが、いつも何か発明をしていくんです。それも好きでした。僕は実は発明家に憧れていまして。エジソンが大好きだったんです。何もないところから電球を生み出したり、自分の声を”箱”に閉じ込めたりするわけですよ。それをみんな笑うわけです、そんなの無理でしょって。でも彼はそれをやり遂げるわけです。僕とは違い過ぎる人だから、読んでも何でそんなことをやるんだろうって理解できないですけど、そんな人が世の中いるってことがなんだかすごいなと思って。なので当時は、小学生ながらに伝記を読んでいました。織田信長も好きで彼の伝記も読みました」

——小学生ながらに伝記を。最近はどんな本を読みましたか?
「宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』を読みました。実は振り付けを担当することになったミュージックビデオが銀河鉄道の夜をモチーフに作られたものでして。どうして水に潜っているんだろうとか、読まないとどうしても浅くなってしまいます。最近では、仕事きっかけで本を読むことが多いです」

——幅広いジャンルの本を読まれているわけですね。これまで印象に残った本はありますか?
「アメリカに住んでいた時に読んでいた、芥川龍之介の『河童』は印象深い一冊です。ある日、河童の世界に人間が迷い込み、そしてその世界の中で、人間界とは違う常識を持った河童の世界を体験する一人の人間のお話です。例えば、河童の世界では子供が生まれる時に、親がその子供に『出てきたいかい?どうかい?』って聞いたり。あるいは、工業が進んで、何でもマニュファクチュア。ベルトコンベアーで物が作れるようになって、今でいうAIみたいな感じになって、たくさんの人がリストラされる。でも河童の社会はリストラされても大丈夫なんだと。なんでかと聞いたら、河童同士がお互い殺し合って自分たちの人口を調整するようにできているんだ、とか」

——人間の世界では考えられないですね。
「そんな中、一人の芸術家、クラバックといえばよいでしょうか。つまり作曲家が登場するんですが、こう言うんです。『では、何を恐れているのかと聞かれて、では、何か正体の知れないものを自分は恐れている。言ってみれば、彼を支配している保身を恐れてるんだ』と。でも意味が分からないと言われて、彼はこう答えるんです。『ではこう言えば分かるだろう。彼は僕の影響を受けないが、僕はいつの間にか彼の影響を受けてしまうのだ』と。この一節において、僕はこの本が大好きになりました」

——TAKAHIROさんと重なった部分もあったのでしょうか?
「当時僕はニューヨークでダンスの下積みをしていて、少し結果が出てきて、それでも挑戦している時にこの本を読んで、クラバックに影響されてしまうのが怖いと思ってる河童の気持ちに共感して、でも影響されないで進んでいるなという自分もいて、どちらの気持ちも分かったんです。僕は結構、他の作品を見ることが怖くて、見ないことが実は多いんです。なんか見てしまうとその動きを感じてしまって、自分の中にその動きが入ってしまうんじゃないかって。自分自身の個性が消えてしまうんじゃないかって、その時はそれがとっても恐くて。今は『真似ることがまず一つの大事なことだ』って思えるようになりましたが、当時はとってもクラバックで……でもそんなクラバックがとっても好きな『河童』という本のお話なんです」

——ありがとうございます。後編でも引き続きTAKAHIROさんに影響を与えた本をご紹介します。お楽しみに!

<プロフィール>
TAKAHIRO たかひろ/1981年生まれ、東京都出身。ダンサー、振付師、演出家。
玉川大学入学後にダンスを始める。卒業後、社会人経験を経て2004年に単身渡米。渡米中の2005年、「アマチュアナイト」のダンス部門1位を獲得。翌2006年、全米放送のコンテスト番組「Showtime At The Apollo」でマイケル・ジャクソンを超える歴代最多の9大会連続優勝し、無敗のまま殿堂入りを果たす。その後、マドンナのワールドツアーの専属ダンサーに抜擢される。帰国後は、2016年に女性グループ欅坂46の「サイレントマジョリティー」。翌2017年には、同「不協和音」の振り付けを担当し話題を呼ぶ。経験や考え方をまとめたエッセイ『ゼロは最強』が発売中。

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