解散から14年……冷たい青色から暖色のライブに Waive杉本善徳「お互いが“やりたいな”、“観たいな”が持続する関係性を作りたい」[撮り下ろしインタビュー]
2000年から活動し2005年に解散したバンド・Waiveが2018年秋から期間限定復活。『「サヨナラ?」愛しい平成よ』のタイトルで2019年4月30日にZepp Tokyoでワンマンライブを開催する。(※チケット発売中!!)
2005年に解散後、2010年、2016年と2度に渡り復活を遂げてきたWaive。2018年10月のMUCC、Psycho le Cémuとの3マンイベント『MUD FRIENDS』を機に3度めの復活、今年2月からは全国ツアーを行い、平成最後の日・4月30日にZepp Tokyo、新元号「令和」最初の日・5月1日に恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンを控える。
メンバー自身が「今が一番バンドとして成熟している」と表現するWaive。解散から14年の年月を経てどんな変化が起こっているのか、ギタリストでありバンドのリーダーでもある・杉本善徳さんに語ってもらった。
筆者は2016年の復活のことを知らず見逃してしまったため、周りに当時好きだった人がいたら声をかけてあげて欲しいし、解散時や2010年の記憶で止まっている人は、今の体温を感じられるあたたかな空気感を帯びてきたWaiveを体感するチャンスを逃さないで欲しい。
Waive「サヨナラ?」愛しい平成よ【特報】
https://youtu.be/QAjn5fx9fM0
今回の復活で感じたファンの交わりと広がり「対バンって意味あんねや」
――元々Waiveは好きではあったのですが、解散後に熱心に追っていなかったので2016年の復活の際は気づけなかったんです、すみません。
杉本:まぁそんなもんですよ(笑)。2016年の復活の時はプロダクションをつけず僕が個人で運営したのもあり、特にリアルタイムに情報を追っかけてくださっている方か、各々の解散後のファンの方を中心にしか情報が届いていなかった感はありました。
――2016年の公演は、裏方作業も全部杉本さんご自身でやられていたと明かしていましたよね。
杉本:チケットを封筒に入れるのも僕が手作業でやっていました(笑)。
――昨年のMUD FRIENDSで2010年ぶりにWaiveのライブを拝見しました。ボーカルの田澤孝介さんが他のインタビューで「2016年に良い形で終われたことが今回にも繋がっている」と度々おっしゃっていますが、私は2016年のライブを見逃しているので、その良い形で終われた状態を知らなくて……。
杉本:確かに(笑)。解散のころの状態を知っていて、その後の14年間を知らないで見たら“普通にやってるけど、どうしたん?”ってなりますよね(笑)。
――だから、不安もあったんですよ。2010年からのWaiveだったので、どんな空気なのかな?と。でも、すごく和やかになっていたので安心しました(笑)。
杉本:それは良かったです(笑)。
――杉本さんは少し緊張もされていたようですが、他のバンドのファンもいらっしゃる中で4公演やってみていかがでしたか?
杉本:MUD FRIENDSの初日に緊張した理由が、Waiveって2005年の9月末あたりから対バンイベントを1回もやっていないので、13年ぶりの対バンイベントで「果たして受け入れられるのかな?」と思っていて。これまで何度かの限定活動をしたもののワンマン公演ばかりだったので、短い曲数でやることや他のファンの方、Waiveを知らない人が居る場でやることがまずなかったので、受け入れられるのかな~?というのはありました。
今話したように、僕らのこれまでのエピソードを知らない層がいるから、「どういうスタンスで行ったらいいんやろ?」というのを考えているうちに初日は終わっちゃったというのが正直なところで(笑)。そういう意味で緊張もあったんですけど、単純に考えすぎて固くなっていたんでしょうね。おかげさまで至って自然に他のバンドのファンの方にも受け入れてもらえたように感じられたから、2日目からは「じゃあ、いつも通りでいいってことか」とメンバー全員がなれた。良い意味でゆる~い感じで同窓会みたいな空気でやれて、お客さんにそれを受け入れてもらえたのも大きかったのかな。本当に自然体でいられた気がしますね。
――今回の復活はそこがスタートで、今年2月からの全国ツアーもありましたが、対バンイベントがあったことによる変化はありましたか?
杉本:ツアーファイナルでも特に言われましたけど、「MUD FRIENDSで好きになりました!」というお客さんの層が思いの外多くて。
――すごい! 対バン効果が出ているんですね!
杉本:しかも、レアなファンとかではなく、結構その数が居て。それが一番ライブの最中にも伝わってくる違いかなと思いました。別にお客さんの顔を覚えているわけではないですけど、“ピュアに楽しんでいる感”と“懐かしんでいる感”は明らかにステージ上から観ていてわかるんですよ(笑)。
――そうなんですね(笑)。
杉本:そこに他にも、田澤くんが他にやっているバンドのRayflowerからとか、僕のソロからみたいな、“解散から今までの間にファンになった層”もいるじゃないですか。変な話をしますけど、その個々の活動からついた層は、どこかWaiveに対してアンチな要素が入ってくる人もいるんです。Waiveの存在に対してや、Rayflowerファンからしての僕、僕のソロファンからしての田澤とかに対してちょっと斜に構えたり、客席にみちっと詰められた時にお客さんが物理的に隣同士でくっついてるはずなのに、その間にアクリル板が入っているように見える感じ。盛り上がり方も誰のファンかで分かれる感じが2016年のライブのときまでは明確にありました。
――そこまでハッキリとステージ上から感じられるんですね。
杉本:空気感で感じる部分もあったんですけど、もう目で見てわかるんです。「この人、明らかに俺を嫌ってはるわ」みたいな感じがあったので(笑)。そのいろいろな角度からのファンが今回は以前に比べるとずいぶん交わってくれたな、と感じました。“Waiveというものを受け入れてくれたのかな”が、今回の変化として強いですね。なおかつ、新しく過去のWaiveも各メンバーの活動も知らないファンがついたので、「なんかまた違う楽しみ方をしている人達がいる……!」みたいなのはダイレクトにあって、それは嬉しかったです。
――面白いですね。
杉本:本当に面白かったですね。あと、「対バンって意味あんねや」と思ってビックリしました(笑)。
メンバーそれぞれの人生が成熟したWaiveを生んでいる
――そして、バンドとして今が最も成熟した状態と表現されていますよね。
杉本:完全にそうでしょ。おかしな話なんですけどね、ライブも全然していなかったし。貮方(Waiveのもう1人のギタリスト。2005年の解散後、音楽活動をしていない)なんて、本当に……。いや、あいつは成熟してないか(笑)。
――貮方さんは、現在は料理人のようなお仕事をされているんですか?
杉本:どうなんでしょう。詳しく知らないってことにしておきましょう(笑)。
――ツアーまで周られてすごいなと思いました。
杉本:そうですね、スケジュールとかは大変だったんじゃないかなとは思います。少し誤解を生みやすい言葉になってしまうんですけど、特にここ数年間のWaiveをやっていると痛感するのが、音楽活動やバンドなどには何パターンかしか受け入れられるものは存在しなくて、その内の1つが今回のWaiveみたいなものだと思うんです。歌が上手くなった、演奏が上手くなったなど熟練されているものはあるんだけど、とはいえ、どれを取っても凄まじいピカイチのものを観ている感じではないと思うんですよね。上手さを求めるのなら世界中にもっと優れたものが無数にあるわけですし。けれども、各々のアイデンティティーみたいなものが滲み出る歌、滲み出る演奏が存在する。
杉本:テクニックに関してはオリンピック競技みたいなところがあるから、例えばギターで何秒間に何音弾けるか、などでランキングがつけることができてしまう。けれど、精神論みたいなところになっていったときに、各々にとって曖昧な「私一番グッときた」とかになる。それが今のWaiveにはすごくあって、今風の言葉で言うと“エモい”ものになっているから(笑)。そういう意味で、貮方は明らかにWaiveをずっとやっていたときより正直下手だし、スタジオで合わせていても「ギャアアア」と思うんですけど(笑)、けれど、やっぱり彼の解散してから重ねてきた時間と、この限られた回数しかステージに立てない彼が表現する表情や言葉、音だったりに、僕はステージ上にいてもグッと来てしまう瞬間がある。そういったものが成熟したWaiveを生んでいる気がしていて。曲や歌詞、演奏がどうだとかは当然バンドだからあるけど、でも僕は、自分がステージで披露しているものはヒューマンドラマなんだと思っている部分があって(笑)。それが今のWaiveを一番成熟させているのかな、と思ってやっているんですよね。
――ちなみに、BARKSのインタビューで田澤さんが、“杉本さんの書く曲が田澤さんの声を一番活かすと周りから言われる”と話していましたが、杉本さんが感じる田澤さんのヴォーカルの魅力は?
杉本:僕はあんまりこれと言った魅力をハッキリとは感じていないんですよ。感じてないというか考えていないというか、とにかく具体的なものとしては特にない。
――そうなんですか?
杉本:魅力がないというわけじゃなくて、僕は「田澤の歌、こうやからええなぁ!」みたいなのはないんですよね。こういう発言をするからアンチされるんでしょうけど(笑)、僕は彼の歌に対してめちゃくちゃフラットなんですよ。たぶん田澤くんも僕に対して同じように思っていると思いますよ。“周りに言われる”というだけで、僕の曲だから良いとか、僕のギターのココが良い、みたいなことはそんなに感じてないんちゃうかな。
――なるほど。
杉本:ただ、Waiveに書いた曲を違う人が歌ったとして、「あ、田澤のほうが良いんや」と思うことはある。だから、それはきっと田澤くんもそうで、「同じこと弾いているのにコイツが弾いたら全然ちゃうな」みたいなことは、たまに言ってくるんですよ。めちゃくちゃしょうもないフレーズとかを弾いている時、例えば彼の書いた曲「あの花が咲く頃に」とかは僕はむちゃくちゃ適当なギター弾いているから、悲惨やな!と思いながらリハでやっていたら、「なんか善徳くんがそれ弾いてたら許されるの何でやろな? ニノっちがそれやってたら絶対怒るもんな(笑)」とかは言ってくる。
――あはは。
杉本:だから、言葉に表現しにくいところでニュアンスとして感じている魅力、「あ、おもろいな」とかはあるんですよね。でも、じゃあ何が魅力なんですか?と聞かれると、“そう思わせてくれる何か”でしかなくて、たぶんこの声が良いんですよ~、とかはあんまりないかもな。あと僕はこの間、初めてRayflowerを観に行ったんですよ。
――え! 各メンバーのソロ活動を把握しないようにしていると言っていたのに……!!
杉本:なんとなく、Waiveのツアーをしている中で、俯瞰からメンバーを見てみたいなと思ったのとタイミングが合ったんですよね。ライブを観た感想は田澤くんには正直に全部伝えたんですが、ザックリとまとめると、僕としては、Waiveや引いては僕自身がステージで表現しているものはヒューマンドラマなんだということを再確認したというか、良し悪し好き嫌いを述べたいわけじゃなくて単純に自分がやりたいものが明確化した気がするんですよ。
――なるほど。先程ファンの変化を感じたとはおっしゃっていましたが、今回のツアーを通して変化した楽曲はありますか?
杉本:ずば抜けてあるのは「Days.」でしょうね。「Days.」と「HEART.」、この2曲の変わり方はすごいかも。でも「Days.」だろうな。
――それはご自分の感情の面で? それともメンバーのパフォーマンスを観てなどですか?
杉本:解散以前には存在しなかった「Days.」を、今回のツアー全箇所で1曲めにやったんですよ。頭にその曲をやられると、解散までのWaiveしか知らない人からしたら「え、知らんねんけど!」から始まるわけなんで、やっぱり普通に考えたら解散したバンドにはできないことだと思うんです。相当なエゴですから。それを柏の初日にやったときは結構ファンは驚いたと思うし。でもツアーが終わりに向かっていく中で、「Days.」で始まることが当たり前、くらいに持っていけた気はする。
僕らがあまりにも堂々としているから、受け入れて観られるように持っていけたというのは結構すごい成長なんじゃないのかな。最初は知らなくても、2コーラス目にはメロディーは知っている、みたいに、4分間その曲を披露しているうちに知っている曲に思わせられるくらいに持っていけたことは、自分でもビックリしてますね。それくらいバンド側がどっしりしたんじゃないかと思うし、自信を持ってやれている気がします。
動画:【公式】Waive – Days.(LIVE / 2016年10月22日@赤坂BLITZ)
https://youtu.be/rPagZ96CIZE[YouTube]
冷たい青い部分が根底にある上で、体温があるライブが出来てきた
――ツアーを周って4月30日ZeppTokyo、5月1日LIQUIDROOMの2Daysワンマンを控えていますが、どんなライブになりそうでしょうか?
杉本:ツアーに参加していない人に説明するのは少し難しいんですけど、ちゃんとツアーの延長上になるというか。うーん、すごく稚拙な表現をすると、ハートフルな(笑)。いや、でも今回のツアーは温かいだけでもないんですよね……。なんというか、今回のツアーは体温があるライブを出来ていて。2016年から徐々にそういう感じが出てきてはいたんですけど。
――それはMUD FRIENDSのステージを観ていても、なんとなく伝わってきました。
杉本:2010年はどちらかというと、色で例えるなら青っぽいものや白っぽいものだったけど、今回はもう少し暖色が入ってくるというか。だけど、赤やピンクほどまだ明るくなりきれてはいなくて、それを意識した結果、まだ青い部分があるから紫になったかと言ったらそういうわけでもない。一色ではなく、グラデーションとかマーブルカラーのようなライブをしている気はするから、青い部分も存在する。
それは、このツアーで結構言っていることなんですけど、やっぱり解散したバンドだから、その部分をなくしたり上から塗ったところでメッキが剥がれていく一方だと思うし、ちゃんと下に青色があるよ、というのを受け入れながらやりたい。そして、出来ることなら当時を知らなくても、今“Waiveは解散したバンド”と発表されている事実はあるので、“今の世の中には本来あるはずのないものなんだ”という事は知っていて欲しい(笑)。その冷たい青い部分が根底にある上で、今の気持ちとして「赤いことやピンクっぽいことをしたいね」とやっているつもりでいるので。そういう本当に目に見えて温度感のある色を感じるようなライブになるんじゃないのかな、とは思います。
――では久々でも緊張せずに行けますね!
杉本:緊張してきたところで温度があるから、気づいたらその人の緊張もほぐれるのかもな、と思います。でも、受け取り方は人それぞれだから、「2005年の解散の時はあんな雰囲気でああ言っていたのに、何!? 私もっとギスギスしていて欲しい!」という人もいると思うんですよ。
――好きだったバンドを観に行ってそんなこと思う人います!?
杉本:いや、いるんですよ、これが!! 不思議といるんです。
――だって正直言って、解散前の時のライブは観ている側としても苦しくて最悪でしたよ(笑)。
杉本:でも、だからこそ、「その最悪な状況下でもあなたを応援したんだから」という人たちからしたら、「じゃあこの14年間は何だったのか。あなた方の気持ちを支える上で、Waiveのことは否定してきて生きてきた、こっちの身も考えてくれよ」みたいな。
――ああ~、なるほど!! そう言われると、そういった層の人がいることも納得できますけど、あのライブを観るのは応援している方も辛いと思いますけどね……。
杉本:もちろん、そういう人が多いと思います。でも、やっぱりその中にはいろいろな受け取り方があるから、そういう層の人たちもいるし、さっきも話しましたけど、田澤くんの活動が好きな人、僕の活動が好きな人、淳(Waiveのベーシスト)の活動、ニノっちの作るメニュー(笑)など、メンバーそれぞれの活動を好きな人もいる。そっちを心待ちにしている人からしたら、「そんなにWaiveでライブされても困るんだけど」となるし、僕のソロなんて年に1本くらいしかライブをしないから、「Waiveの新曲書いてんじゃねーよ。お前、ソロの曲いつから書いてへんねん!」みたいに思われても仕方がない。
――たしかに。
杉本:それは、それぞれの受け取り方だな、と思うのでどれも否定できないし、「なるほどね」とは思って聞いているんですけど。解散をなかったことには僕ら自身もしていないんですけど、いくら説明してもそう受け取ってしまう人もいるんでしょうね。「解散の事実や、その時期の想い・発言はなかったことって言ってるの?」みたいな。いやいや、違うやん!全部経てきたからこそ今があるんでしょ、みたいなことは多々あるけれど。そういう個々の受け取り方の違いは人が複数いる以上は永遠に起こることだから、今の僕らが受け入れて貰えないんだったらそれまでだし、それでもやっぱり応援してくれるんだったら、共存できるものであったり、共感できるものが生まれると嬉しいな、という中でやっています。
――4月30日、5月1日で今回の復活ライブの締めくくりになるのかな、と思いますが、今後の可能性は?
杉本:確かに僕ら5月1日以降のスケジュールは何もないんですけど、ここまでに「もうないだろ」と思っていたから解散したバンドなので、それ以降も何度もやっているから、「もうないよ」を売りにするというよりは、「今後あるでしょ!」とお互いが思える空間を作るためには、これは悲しいことだけど、数字というのはどうしてもつきまとってくるので、「あれ?Waiveの動員、現役時代より増えんねや。これ、やれんちゃう?」と思ってメンバーが「もう1回やらへん?じゃあ次はあの会場を売り切ろう」とかを言えるようになるといいのにな、と思っています。お互いが「やりたいな」、「観たいな」が持続する関係性を作りたいなあと思っていますけどね。
Waiveは杉本善徳の表現を届けたいところに届けるフィルター。ソロではもっとクセの強いものを
1年8か月ぶりとなる杉本善徳ソロ公演『南無 ~get ready to show the ××~』(2019年7月6日(土)渋谷CYCLONE)の開催も決定。
――今、Waiveの成熟した良い状態を経て、久々のソロ公演が7月6日に控えていますが、どんなモチベーションで向かっていけそうですか?
杉本:僕はMUD FRIENDSから今回のツアーでめちゃくちゃ痩せちゃったので、体力的に歌えるかな?が今一番心配で(笑)。僕、ソロで初めてのライブをしたときって14曲しかやっていないんですけど、その時は14曲でさえ歌いきれなかったんですよ。しんど!しか思わなくて。人生で一番しんどいと思った1日がその日なんですよね。それくらい歌うことや、日頃やっていなかったことをやるって体力がいるから。Waiveの終わりから2か月ちょっとの間にまた歌えるところに持っていかないとダメなので、まずは太るところからかな(笑)。
――スタミナをつける、と(笑)。
杉本:そうですね。それが今の心配としてはあるかな。
――ソロ公演に向けて新曲も書いているんですよね?
杉本:書いてます。Waiveの新曲を書こうと決めた時に、最初はこれWaiveかなと思っていた曲をいざ作り始めたら「キー低っ! これもう完全に自分のキーや」となっちゃったから、それを今のところは形にしています。アップテンポなエッジの効いた感じの曲を今ソロで書いていますね。それがほぼデモが出来上がって、本番を録ろうとしているところなんですけど、今度はその曲を今のソロのアイデンティティーとして見せるには逆にストレート過ぎて少し物足りない感じもあって。Waiveってストレートな物が多いですけど、僕のソロは変な曲ばっかりやってきちゃっているから、多面性が必要というか。もう1曲くらいないとダメなのかな、と最近思っているんですよね。
――それはもう1曲、ソロの新曲を作るということですか?
杉本:その気でいます。もうちょっとわかりにくい部分がある曲じゃないと、Waiveと僕のソロが近くて気持ち悪いんですよ。離したいわけでもないですけど。僕はWaive現役の頃から言っているんですけど、杉本善徳というのは音楽をやって行く上では変な人間だけど、歌詞は案外ダイレクトなものを書く。その相性がWaiveだけど、それは僕の中で田澤くんの声は「こういうものだ」と具体的に感じているものがあって、それが僕の表現した言葉を僕のメロディーで伝えた時に、僕では届かないところに届くようにしてくれるフィルターだと思っているんです。僕はとにかく味の濃いものすぎて、フィルターみたいなものなしにそのまま吸うと有害なアーティストだと思っているから(笑)。それを、吸っても平気なものに変えるフィルターが田澤だと思っている。
だから、Waiveのフィルターを通さなければいけない曲をソロでやられた時に、合わない人には「ゴホゴホッ」となっちゃうし、合う人には味が濃くてサイコー!みたいな感じがあるので、今回の新曲は「杉本にそれをやられたくない」ということをやってしまっているかもしれないと思うんですよね。もうちょっと、別のフィルターなり、逆に“ハッキリとした有害物質です”みたいな曲を用意しておかないとダメかな、と今感じています(笑)。まぁ、それさえもいざ形にしていくと、結局自分の色になるのかもですが。
――近年はOLDCODEXやTVアニメ『活撃 刀剣乱舞』、A応Pなど、いろいろな方に楽曲を提供されていますが、そのときに意識していることは?
杉本:最近だと声優さんに曲を書くことが多いんですけど、その声優さんが過去に歌った曲を聴いて、僕にある程度のディレクションやプロデュースの権限があるときは、その人が歌っている曲のどのメロディーで、どの歌詞の時にセクシャリティーを感じるか、みたいなことを分析するんです。“子音が何から何に移動した時に切なく聴こえる”とか、“同じ音程なのにこれで歌ったときにだけ息が一瞬詰まってめちゃくちゃやらしいな”とかを、あくまで自分なりにですが分析して、そう感じられるところを自分の作るものの中にも入れていくようにします。でも、発注いただいく仕事の大半に僕ではなくメーカーや作品のディレクターがついているので、僕のアイデンティティーばかりで作っているわけではないですけど、僕にそこまでの権限をもらえるときは、グラフにして重ねて見たりするくらい、結構オタクな書き方をしていますね。
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