補助金は地方のガン!? 「地方のリアル」と「成功のコツ」がストーリー形式でまるわかり
テレビや雑誌でもたびたび取り上げられる「まちづくり」。「地方に移住した若者が奮闘するサクセスストーリー」や「老人たちが手と手を取り合い支え合う心温まる物語」といった部分をフィーチャーして紹介されることも多いですが、実際にはきれいごとばかりでは済まされないもののようです。
『凡人のための地域再生入門』は、一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事でまちづくり専門家として国内外で活動する木下斉氏による著書。地方衰退の「構造」とビジネスでの「変革手法」が122のキーワードとともに公開されており、SNSでも「#地元がヤバい本」というハッシュタグとともに話題を呼んでいる一冊です。
本書が特徴的なのは、単なるビジネス書ではなく小説仕立てになっているところ。あらすじはこちらです。
主人公・瀬戸淳の地元は、東京から新幹線で1時間、さらに在来線で20分という、人口5万人ほどのどこにでもある地方都市。ある日東京で働く淳に、母が「商売をやめ、店も家もすべて売り払い余生を楽しみたい」と言い出します。東京と地元を行き来し、廃業手続きや不動産売却といった〝実家の片付け〞に追われる淳ですが、「実家の片付け問題」は次第にシャッター街の再生、さらに地域全体の再生という思わぬ方向へと進んでいきます……。
ストーリー形式で読み進める中で、重要なキーワードには参考書の注釈のような解説が出てきます。これが地方再生のリアルなところ、シビアなところにかなり斬り込んで書かれてあって興味深いです。
たとえば「公共開発の怖いところは、開発時に国からいくらもらおうとも、その維持費は自らが負担しなくてはならない」という箇所。「維持費は自らが負担」という部分がマーカー風に塗られ、「施設開発は、建てるときより建てた後のほうがコストがかかる。開発後の維持管理、定期的な大規模修繕、解体などトータルでかかる生涯費用を計算すると、一般的に建てるときにかかる開発費に対して3~4倍かかる」といったふうに、さらに詳しい説明が別枠でされています。
このあたりは、20年以上「まちづくり」の現場でさまざまな仕事を経験し、全国各地の大勢の未経験者にノウハウを伝えてきたという木下氏だからこそ書ける内容だといえるでしょう。
本書のタイトルには「凡人のための」という言葉がありますが、木下氏は「いつまで待っても地元にスーパーマンは来ない」と言っています。成功しているように見える地域のリーダーは一見、スーパーマンやヒーローのように見えますが、裏では事業や私生活でさまざまなトラブルに巻き込まれているかもしれない生身の人間です。そして、そもそも地域にスーパーマンは必要ではなく、それぞれの役割を果たす「よき仲間」を見つけ、地味であっても事業を継続していけば成果は着実に積み上がっていくというのが木下氏の主張です。
けれど、やはりそこで大切になってくるのが「ロジック」や「ノウハウ」や「エモーション」。地方再生やまちづくりに取り組む人はぜひ本書でそうしたところを学んでみてはいかがでしょうか。そして地元の将来を心配するすべての人にとっても、本書は有益な1冊になっているかと思います。
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