ゴラン高原はイスラエル領:トランプ大統領のねらいは? 2019.3.25(オリーブ山便り)
今回は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。
ゴラン高原はイスラエル領:トランプ大統領のねらいは? 2019.3.25(オリーブ山便り)
写真出展:Amos Ben-Gershom (GPO)
イスラエルでは、今年も20,21日と、仮装した人々でにぎわうプリムの祭が行われた。この例祭は、ペルシャ(イラン)のイスラエル絶滅計画を女王エステルが阻止したことを記念する例祭である。聖書のエステル記が詳細を記録している。
こうした中、トランプ大統領が、また爆弾を落とした。21日、ツイッターに、「ゴラン高原をイスラエルの領地と認める時だ。」と投稿したのである。トランプ大統領は、この件について、明日月曜にも、ネタニヤフ首相の訪米中に、正式な書類に署名するみこみとなっている。
イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ大統領の発表について、感激した様子で、「アメリカは、まず(1)イランとの核合意から離脱し、続いて、(2)エルサレムをイスラエルの首都として、大使館をエルサレムに移動させた。
さらに今回は、(3)特にイランがシリアからイスラエルを攻撃しようとする最中に、ゴラン高原をイスラエルの領地と認めるという。(イランからイスラエルへの攻撃を阻止する上で重要)。
はっきりしていることは、アメリカが今、イスラエルとともに立っているということだ。」と語った。
https://www.aljazeera.com/programmes/insidestory/2019/03/outcome-trump-golan-heights-tweet-190322180620302.html
シリア、ロシア、イラン、トルコが反発
ゴラン高原をイスラエルの領地と認めることは、中東においては、いわばタブーといってもよいほどに、繊細なことであり、大きな戦争への発火点になりうる。トランプ大統領の声明を受けて、ただちに、シリア、ロシア、イラン、続いてトルコがこれを、「無責任」、「国連決議に反する」などと非難した。
EUも22日、ゴラン高原がイスラエル領とは認めないとする立場に変わりはないと強調。UNHRC(国連人権保護委員会)は、トランプ大統領の声明直後に、パキスタンによって、イスラエルのゴラン高原での領地拡大を非難するかどうかの決議が行われ、賛成26、反対16、棄権5という結果になった。
https://www.reuters.com/article/us-usa-israel-syria-un/un-rights-body-calls-for-halt-to-israeli-expansion-in-syrian-golan-idUSKCN1R31VD
23日土曜には、ゴラン高原(イスラエル側)、マジダル・シャムスのドルーズ、シリア側では、クネイトラのドルーズたちが、シリアの側を掲げるなどして、これに反発するデモを行った。イスラエル軍は、暴動に発展する可能性に備え、北部国境の警備を強化している。
https://www.timesofisrael.com/druze-protest-in-golan-against-trumps-recognition-of-israeli-sovereignty/
しかし、エルサレム首都宣言と同様、実際には、トランプ大統領が、ゴラン高原はイスラエルの領地だと正式に認めたとしても、何も変わらないわけで、逆に、シリア、イラン、トルコ、ロシアを結束させ、イスラエルへの攻撃を早める可能性も出てくる。
イスラエル軍は、北部での衝突発生の可能性に備え始めている。
*何が問題なのか?:ゴラン高原の歴史的背景
ゴラン高原は、平均標高400mの長い高台で、5つの火山(休)を擁する。その北端には、標高2814mのヘルモン山が続く。広さは、1150平方メートルで、現在、このうちの3分の2をイスラエルが支配し、3分の1は、シリアの領地とされる。
ゴラン高原は、1967年の第三次中東戦争で、イスラエルが3分の2を取るまでは、すべてがシリア領だった。ゴラン高原からは、ガリラヤ湖から遠くイスレエル平原を見下ろすことができるため、かつては、シリア軍が、キブツや、ガリラヤ湖で漁をするイスラエル人を攻撃したものだった。
ゴラン高原は、イスラエル、シリア双方にとって、戦略上非常に重要な地域である。このため、シリアは、1973年の第4次中東戦争で、これを奪回しようとしたが、イスラエルに撃退された。
この戦争後の1974年、イスラエルとシリアは、現在の国境線で合意し、その間に、国連が監視する非武装地帯を設けた。この地域に駐留する国連軍をUNDOFといい、かつては日本の自衛隊も協力駐留していたことがある。(自衛隊はシリア内戦が激化した2013年に撤退)
この後、1981年、イスラエルは、ゴラン高原のイスラエル側を合併すると発表した。国際社会はこれを認めていないが、この後、イスラエルは、ゴラン高原の住民に正式な市民権を授与している。
これにより、ゴラン高原のドルーズは、分断されたが、イスラエル市民権を持つものも少なくなく、その人々は、イスラエル国内で、イスラエル人と同じ権利を有する形になっている。
ゴラン高原については、2010年から、水面下で、シリアとの交渉が行われ、全面的にシリアへ返還する話も出ていたようだが、2011年にシリアで内戦が勃発したため、この話はお流れとなった。
交渉が成立し、イスラエルがゴラン高原を返還していたら、今頃はイスラエルもまた戦場になっていた可能性もある。
アメリカの動きで何が変わるのか
トランプ大統領が、大変な場所を持ち出して、世界を揺るがしているわけだが、実際には、たとえアメリカが、ゴラン高原をイスラエルの領地と認めたとしても、現地では実際にはなにも変わらないというのが現状である。
国際社会は認めないとはいえ、ゴラン高原のイスラエル人たちは、世界でも高く評価されるワイナリーを設立しているし、実際のところ、ゴラン高原がイスラエルであることは、だれもが否定しえない状況である。わざわざ、ゴラン高原はイスラエルの領地と言わなくても、そうなのである。
これは、わざわざ、エルサレムをイスラエルの首都と言わなくても、実際には、そうなのであって、だれもが、知っている事実であるのと同じである。
トランプ大統領の爆弾宣言は、ただ論争をかきたてただけとの批判もあるが、しかし、いつか、どこかの時点で、正式に決めなければならないことであるのかもしれない。トランプ大統領は、やはり、「はだかの王様」であり、今、本当のことを本当と指摘したということである。
なぜ今か?:総選挙でネタニヤフ首相続投支援?
現地では、論争を巻き起こすだけとの批判を受けているトランプ発言だが、時期的にみると、イスラエルの総選挙2週間前という点が注目されている。
ゴラン高原をイスラエルの領地として、まずはアメリカに認めてもらうことは、ネタニヤフ首相が長年アメリカに働きかけてきた懸案である。それを今、ネタニヤフ首相は、とうとうこれを実現させたということになる。
さらに、トランプ大統領のこの件に関する正式な署名は、ネタニヤフ首相が、ワシントンで、トランプ大統領と会談することになっている明日月曜に行われるとみられる。さらに、この訪米期間中、強力なユダヤ・ロビー団体AIPACの年次総会でのネタニヤフ首相の演説も予定されている。
ネタニヤフ首相にとって、「アメリカをバックにもつ首相」という、これ以上華々しい選挙アピールはないだろう。
ネタニヤフ首相は、現在、汚職問題で起訴されており、中道左派からの強力なライバル、ブルーアンドホワイト党のガンツ党首と、厳しい接戦になっている。その総選挙2週間前の、トランプ大統領の動きは、時期的にはあまりにも、ネタニヤフ首相に好都合といえる。
どうみてもトランプ大統領が、ネタニヤフ首相を後押ししているとみられるが、トランプ大統領自身は、これを否定している。
トランプ大統領は神がイスラエルをイランから救うために遣わされた:ポンペイオ国務長官
ポンペイオ国務長官は、神が、女王エステルを通して、イスラエルの民をペルシャ(イラン)から救ったことを記念するプリムの例祭中に、イスラエルを公式訪問し、ネタニヤフ首相、フリードマン米大使とともに、嘆きの壁と、その地下トンネルを訪問した。最近できた神殿の3Dプレゼンテーションも楽しんだ。
嘆きの壁は、国際的には、まだイスラエルの領地とは認められていない。このため、各国公職者の場合は、私的な訪問に限られている。そうした中、ポンペイオ国務長官は、現職の役職のまま、しかも、ネタニヤフ首相とともに、嘆きの壁を訪問した。
元トランプ政権が、親イスラエルであることはもはや明白といえる。
https://www.timesofisrael.com/pompeo-says-trump-may-have-been-sent-by-god-to-save-jews-from-iran/
ポンペイオ国務長官は、エルサレムで、CBN(Christian Broadcasting Network)のクリス・ミッチェル氏のインタビューに応じ、「トランプ大統領は、神がイスラエルをイランの脅威から救うために遣わされたと思うか」と聞かれ、「クリスチャンとして、その可能性は、おおいにあると思う。」と答えた。
また、イスラエルが中東で、民主主義国家として存続していることについて、「神が働いておられることを確信している。」と語った。
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-47670717
そのポンペイオ国務長官だが、今週末、イランの動きを阻止する目的で、中東を歴訪している。まずは、クウェート。ポンペイオ国務長官は、国際テログループとの戦いにおいて、クエートは重要な国と語った。
アメリカは、中東を不安定にする根源をイランとして、現在もイランへの経済制裁を継続している。ポンペイオ国務長官によると、イランからヒズボラへの支援金は、年間7億ドル(約800億円)。しかし、アメリカの経済制裁を受け、イランからヒズボラへの支援が滞っているとの考えを明らかにした。
ポンペイオ国務長官は、クエートの後、イスラエルを訪問。その後、レバノンのベイルートに飛び、アウン大統領ら政府高官たちと会談し、ヒズボラに対し、厳しく対応するよう求めた。
しかし、アウン大統領らは、ヒズボラを擁護する立場である。「ヒズボラは、テロ組織ではなく、レバノンのれっきとした政党である(国会128議席中70議席)。」と強調した。
https://www.jpost.com/Middle-East/Pompeo-US-sanctions-on-Hezbollah-Iran-are-working-584310
いつまで続く?米福音派政権時代
今のアメリカのトランプ政権は、福音派クリスチャンの声が反映しやすく、恐ろしいほどに親イスラエルだが、この時代がいつまで続くのかと思うと少々恐ろしい気もする。
実際、来週、トランプ大統領に弾劾の可能性まで出てきた。トランプ大統領には、2016年の大統領選に際し、ロシアと共謀した疑惑があり、この2年、捜査が続けられてきた。その捜査を行ってきたロバート・ミューラー氏が、捜査を完了したとして、バー司法長官に、そのまとめを提出。バー司法長官が議会に提出後、すぐにも一般公開されるみこみとなった。
ミューラー氏は、この件に関して、すでに、元国家治安顧問マイケル・フリン氏など、元トランプ政権関係の大物5人を含む34人の政治家を起訴している人物。いいかえれば、トランプ大統領は無罪として、この件から解放されるか、逆に国を裏切ったとして弾劾されるかのどちらかであった。
https://www.bbc.com/news/world-us-canada-47683309
アメリカ内外の注目を集めたが、26日、アメリカ議会に提出されたバー司法長官の報告は、「トランプ大統領のロシア共謀疑惑に関する証拠はない。」であった。民主党は、さらなる調査を行うと反発している。
しかし、当のトランプ大統領は、「まったくの無実であったことが証明された。」と述べ、ホワイトハウスは、「22ヶ月続いたホワイトハウスの雲が、取り除かれた。」との見解を発表した。
https://www.timesofisrael.com/trump-declares-total-exoneration-after-mueller-report-finds-no-collusion/
まったくもって、世界をふりまわす大統領である。しかし、どうにも、主に動かされているようでもあり、もしそうならば、定められた時までは、いかに反対者が出てきても、大統領の立場に置かれるのだろう。
問題は、その後である。トランプ大統領の、聖書を重んじる福音派政権の後にどんな政権になるかによっては、今が良すぎるだけに、その反動で、いよいよイスラエルが孤立し、世界に囲まれる状況になるかもしれない。そうなれば、いよいよ世界は聖書の言う終末時代に大きく前進することになる・・・
執筆: この記事は石堂ゆみさんのブログ『オリーブ山便り』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年4月1日時点のものです。
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