【「本屋大賞2019」候補作紹介】『フーガはユーガ』――双子が特殊能力の”アレ”で「悪」に立ち向かう物語

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【「本屋大賞2019」候補作紹介】『フーガはユーガ』――双子が特殊能力の”アレ”で「悪」に立ち向かう物語

 BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2019」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは伊坂幸太郎著『フーガはユーガ』です。

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 伊坂幸太郎さんの作品の醍醐味ともいえる華麗な伏線回収はもちろん、読後に悲しくもどこか優しい気持ちになれる伊坂ワールドの魅力を味わえる1冊です。

 双子の兄弟、常磐優我と風我。2人は幼いころから、父親に日常的に暴力を受けており、母親にはそれを見て見ぬふりされる過酷な家庭環境で育ちました。そんな厳しい生活の中で、彼らは双子に備わった特殊能力”アレ”を初めて体験します。

 ある日、そんな優我のもとに、フリーのディレクターを名乗る男・高杉が取材にやってきます。テレビの新番組のネタに困っていた高杉は、”アレ”としか説明できない不思議な映像を発見し、そこに優我が映る理由を知りたかったのです。「面白ければテレビ出演」という条件のもと、優我はその特殊能力にまつわる過去のエピソードを語り出します。

 双子は”瞬間移動”で入れ替わることができるのです。それは、「2人の誕生日」にだけ、しかも2時間おきのタイミングで。幼少期から大人に至るまで、自らも過酷な境遇にもかかわらず、似た環境に身を置く人々を見ると、「誰かを支配する奴は気に入らない」とじっとしていられません。まるでヒーローのごとく、あっと驚く作戦で「悪」を退治していきます。

 物語では様々な「悪」が描かれますが、注目すべきは、度々登場する小学生女児をひき逃げした未成年の男の存在。中学時代、風我が家出していた被害者の女児に、”お守り”として汚れたシロクマのぬいぐるみを渡していた接点から、彼らにとって忘れられない事件でした。その男が次第に2人の人生に影を落とし……。父親という「絶対悪」の顛末、そして、ひき逃げ犯という「悪」の意外な正体とは?

 全体的に暴力やいじめシーンなど暗い話が多い物語ではあるものの、クスっとくるユーモアに富んだ優我と風我の掛け合い、2人を優しく見守る大人の存在など所々に救いも存在します。読後にはきっと双子のファンになっているはず。

 勉強ができて大学に進学した優我。運動神経が良くて中学卒業後に働きだした風我。対象的な人生を歩む2人でも、心はいつもつながっています。コインの裏と表のように2人で1人”唯一無二のヒーロー”の目撃者になってみませんか?

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