料理家のキッチンと朝ごはん[3]前編 ワタナベマキさんの10分でできるカリッふわっトーストと目玉焼き
体にやさしく、おいしく、アートのように美しいひと皿をつくり出す料理家、ワタナベマキさん。料理だけでなく、インテリアやファッション、ライフスタイル全般に及ぶ、洗練されたデザインセンスにファンが多いワタナベさんに、キッチンの工夫や朝ごはんについて伺いました。【連載】料理家のキッチンと朝ごはん
料理研究家やフードコーディネーターといった料理のプロは、どんなキッチンで、どんな朝ごはんをつくって食べているのでしょうか? かれらが朝ごはんをつくる様子を拝見しながら、おいしいレシピを生み出すプロならではのキッチン収納の秘密を、片づけのプロ、ライフオーガナイザーが探ります。
キッチンの全壁面をリノベーションして、大容量の収納スペースに
ワタナベさんは現在お住まいのマンションへの入居時、キッチン背面に収納棚を造作したそうです。本来、冷蔵庫を置くために奥まっていたスペースもあわせ、全壁面をリノベーションすることで、大容量の収納スペースを実現しました。ワタナベさんが愛用している冷蔵庫は、アメリカの「GE(ゼネラル・エレクトリック)」のもの。本体だけでなく、ドアハンドルまで真っ白で余計な装飾がないところが、いかにも“プロ仕様”っぽい(写真撮影/嶋崎征弘)
収納を増やすために「あえて」そのように造作したのかと思いきや、「愛用している業務用の冷蔵庫が、家庭用の冷蔵庫に合わせてつくられた既存のスペースに収まらなかったんです(笑)。それで、冷蔵庫はダイニングスペースに置き、キッチン背面はすべて収納スペースとして活用することにしました」
そう話しながら、冷蔵庫から食材を取り出して、シンク横のカウンターに置いていきます。冷蔵庫を開けても、ダイニングテーブル側からは中が見えない配置。ワタナベさんは右利きなので、冷蔵庫を右手で開け→左手で中のものを取り出し→その手で作業スペースに置く、という一連の流れもスムーズ(写真撮影/嶋崎征弘)
キッチン側に移動したら、今度は背面カウンターに置かれたカゴからパンをさっと取り出しました。……え? もしや、もうすでに本日の朝ごはんづくりはスタートしている? ワタナベさんの流れるように自然な動きに、取材スタッフ一同、油断しました。通気性のよいカゴは、食材の一時置きスペースに最適。編み目の大きな六つ目のカゴでも、ほどよく中に入れたものを隠す効果があります(写真撮影/嶋崎征弘)
今回、ワタナベさんが教えてくださるのは、忙しい朝でも10分でできる「カリッふわっトーストと目玉焼き」。朝食に必要だと言われる3つの栄養素「炭水化物(パン)」「タンパク質(卵、ヨーグルト)」「ビタミン・ミネラル類(野菜と果物)」をバランスよく組み合わせた、健康的な朝ごはんです。
忙しい朝でも10分でできる! カリッふわっトーストと目玉焼き
用意するもの(1人分)
・食パン 1枚
・卵1個
・プチトマト 2~3個(お好みで)
・ブラウンマッシュルーム 2~3個(お好みで)
・オリーブオイル 大さじ1
・塩 ひとつまみ
・コショウ 少々
・オレンジ 1個
・ヨーグルト 1/2カップ(お好みで)ワタナベさん宅では木次乳業のプレーンヨーグルトが定番。ヨーグルトに合わせるフルーツはオレンジのほか、そのとき手に入りやすい旬のものを使っても(写真撮影/嶋崎征弘)
材料をひと通り準備したら、ワタナベさんは背面カウンターからまな板を取り出しました。シンクとガスコンロの間にある作業スペース真後ろなので、振り向くだけで手にとれます。木目が美しいまな板は、出しっぱなしでもインテリアに馴染みます。左手のカゴには先ほどのパンのほか、キッチンペーパーも収納。無漂白タイプを選べば、カゴからちらりと見えても悪目立ちしません(写真撮影/嶋崎征弘)
作業スペース側に体の向きを戻したら、シンク下から焼き網を取り出し、ガスコンロにセット。「外はカリッと中はふわっと食パンを焼き上げるコツは、直火を使うこと。今回は焼き網を使ってトーストしますが、ガスコンロのグリルでも美味しく焼けますよ」「焼き網はトーストだけでなく、お餅や野菜も美味しく焼けます」。キッチンにトースターを置かなければ、広々とした作業スペースを確保できるというメリットも(写真撮影/嶋崎征弘)
弱火にしたら、焼き網にパンをのせます。続いて、ガスコンロ下の収納スペースからフライパンを取り出し、隣のコンロにかけて熱し始めます。ワタナベさん愛用の焼き網は、辻和金網の「足付焼網」。目の細かい「焼網受」が直火を和らげ、食材に熱をまんべんなく伝えて焼き上げます。足は折りたたみ式なので、使わないときはたたんでコンパクトに収納(写真撮影/嶋崎征弘)
再び作業スペースに戻り、シンク下の扉を開けて包丁を取り出し、ミニトマトを半分に、ブラウンマッシュルームは1/4にカット。直径25cmくらいの丸いまな板は、食材をちょこっと切るのに便利。大きいまな板より洗いやすいから、忙しい朝でも扱いやすそう。ワタナベさんがミニトマトを切っているのは、GLOBALのペティーナイフ(写真撮影/嶋崎征弘)
フライパンが十分温まったら、ガスコンロ後ろの収納スペースからオリーブオイルを取り出して、フライパンに注ぎます。「鉄のフライパンをよく熱してから卵を入れると、白身のフチはカリッと黄身はふわっとした美味しい目玉焼きができます。卵は常温に戻しておくといいですよ」「鉄フライパンを使いこなすポイントはよく熱することと、フッ素樹脂加工のフライパンを使うときより少し多めに油を入れること」。それだけで食材への火の通りがよくなり、こびり付きも防げるそうです(写真撮影/嶋崎征弘)
油が熱くなったら、フライパンの端のほうに卵を割り入れ、空いたスペースにカットしたプチトマトとブラウンマッシュルームを加えます。 よく熱した鉄のフライパンに卵を落とすと、ジュジュジューーーッ!とよい音が。ワタナベさん愛用のフライパンはタークの「クラシックフライパン」。18cmサイズは、1人分の朝食づくりにちょうどよい大きさ(写真撮影/嶋崎征弘)プチトマトとブラウンマッシュルームは火が通ると水分が抜けてひと回り小さくなるので、「え、こんなに?」と驚くほど高い密度で入れてOK! 焼き上がったときに隙間がないほうが美味しそうに見えます(写真撮影/嶋崎征弘)
背面カウンターに並べた塩壺を手に取り、フライパンの卵と野菜に塩をひとつまみ回しかけます。厳選された道具だけが並ぶ、ギャラリーのように美しい背面カウンター。インテリアに馴染む美しい塩壺のほか、自家製の梅干し、ガラスの容器に入れた煮干しなど、美味しそうな食材も並んでいました(写真撮影/嶋崎征弘)
ガスコンロ前に並べたキッチンツール・スタンドから菜箸を取って、プチトマトとブラウンマッシュルームを軽く炒めます。弱火にして蓋をしめ、中まで火を通します。途中、焼き具合を見ながら、食パンをひょいっと裏返しに。
ヨーグルトに入れるオレンジは、包丁で両サイドを切り落としたら、丸みに沿って皮をそぎ落とします。果肉は一口大にカット。ヨーグルトをグラスによそい、オレンジをトッピングします。朝は食洗機にかけられる、白い磁器の食器を使うことが多いというワタナベさん。けれども、すべて磁器の器でそろえず、ヨーグルトの盛り付けに透明なグラスを使うことで、食卓が軽やかで明るい雰囲気に(写真撮影/嶋崎征弘)
フライパンの蓋を外して目玉焼きと野菜に火が通ったことを確認したら、最後に電動のペッパーミルでコショウをひと回しして、完成です!一枚の鉄板から打ち出されたタークのフライパンには継ぎ目がなく、シンプルで美しいたたずまい。そのまま食卓に出しても違和感がありません。蓄熱性が高く冷めにくいので、アツアツのままいただけます(写真撮影/嶋崎征弘)
美味しい料理は「時間をかける」も「特別な食材」も必須じゃない
冷蔵庫から食材を出し、調理してダイニングテーブルに運ぶまで、かかった時間は約10分。途中、撮影のために手を止めたり、つくり方や収納に関する質問に答えたりしていただいたにも関わらず、本当にあっという間に出来上がりました。
「忙しい朝に時間をかけたり、特別な食材をそろえたりしなくても大丈夫。よい道具とよい調味料を使って、シンプルに調理するだけで、美味しい朝ごはんはできますよ」とくに、塩、油、酢、しょうゆ、みりん、酒などの基本的な調味料は「昔ながらの製法でつくられたものがおすすめ。同じものをつくっても、調味料を変えるだけで別ものの美味しさが味わえますよ」(写真撮影/嶋崎征弘)
ワタナベさんご自身も、この春から中学生になるお子さんをおもちのワーキングマザーです。朝、食欲のない子どもが何であれば食べられるか、仕事が立て込んでいる日でもぱぱっと準備できるものは何か、考え続けてきたからこそできる、10分でつくれて美味しい、健康的な朝ごはん。わが家にも今年小学1年生になる、食べムラのある息子がいるので、さっそくつくってみたいと思います。
次回は、効率よく動けるヒミツがつまったワタナベさんのキッチン収納の工夫と、これから新生活を始める人におすすめの調理道具をご紹介いただきます!
>料理家のキッチンと朝ごはん[3]後編 ワタナベマキさんの収納と、新生活におすすめの道具5選
■料理家 ワタナベマキさんのキッチン
●取材協力
ワタナベマキさん
神奈川県生まれ。グラフィックデザイナーを経て料理家に。2005年に「サルビア給食室」を立ち上げ、本・雑誌・広告などで体にやさしい料理や季節を感じる料理の提案、ワークショップ、ケータリングなどを行っている。夫、4月から中学生になる息子との3人暮らし。著書に『旬菜ごよみ365日: 季節の味を愛しむ日々とレシピ』(誠文堂新光社)、『何も作りたくない日はご飯と汁だけあればいい』(KADOKAWA)など多数。
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