需要がありそうな“夜間保育”。どんな場所なの? 利用者のホンネは?

需要がありそうな“夜間保育”。どんな場所なの? 利用者のホンネは?

子育てをしている世帯はもちろん「将来、子どもがほしい」「でも仕事も続けたい」と考えている人たちにとって、「住まい」と「保育所」の問題は切り離すことはできません。特に医療や介護、流通、インフラ、飲食、サービス、マスコミなどの業種で働いている人であれば、「深夜」まで保育を必要とする人もいることでしょう。今回はそんな人たちのニーズに答える、「夜間保育所」について取材してみました。

夜間保育を行う認可保育所は全国でわずか81カ所

そもそも、ひと口に保育所といっても、国が決めた基準を満たす「認可保育所」、自治体が独自に設置した基準を満たす「認証保育所」と、そうではない「認可外保育施設」等があります。毎年、「保育所に入りたい!」「保育所に入れなかった、どうしよう」と話題にのぼるのが「認可保育所」です。

ただ、この認可保育所、開所時間は園によって異なりますが、延長保育を利用したとしても、開所時間は夜8時までというところがほとんど。一方、働き方はますます多様化していて、医療や介護といった仕事だけでなく、流通やインフラ企業など、「夜の保育ニーズ」も増えています。

もちろん、夜勤がある職場であれば夜勤時に利用できる私設の「託児所」を備えていることもあるでしょう。ただ、そうした託児所がなく、夜間帯に保育を必要とする人は、ベビーシッターを手配する、深夜預かりを行うベビーホテル(認可外保育施設)を探して預けなくていけません。仕事をいったん抜けて、認可保育所にお迎えに行き、また夜間保育に預けるとなれば、保護者・子どもへの負担は大きく、「仕事を続けていくのはムリ」となることでしょう。

実は、夜遅くまで保育を行う認可保育所も実はあるのです。しかしその数は、全国に81カ所ほど(厚生労働省調べ、2017年4月1日現在)。全国夜間保育園連盟によると、こうした「夜間保育所」は、通常の開所時間(11時間)に延長時間(1時間、2時間、4時間等)を加えるかたちで夜間~深夜の預かりを実施、昼食と夕食の2食を提供する保育所と定義しています。なんと一部では延長時間をやりくりし、24時間保育を行う認可保育所もあるというのです。

なぜ? 認可保育所が夜間も預かるワケ・意義とは?

(写真/PIXTA)

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もちろん、「子どものために、夜は親といっしょのほうがいいだろう」「民間のベビーホテルがあるんだから、そこに預ければ」「そこまで長時間労働する世の中のほうがおかしい」などの考え方もあることでしょう。

それでは、認可保育所が深夜保育を行う意義について、全国夜間保育園連盟の副会長・酒井義秀さんに聞いてみました。

「子どもはどんな家庭に産まれても『その子にとって必要とする最善の保育』を受ける権利があります。認可保育所は広さや職員配置等について児童福祉施設としての最低基準を満たし、保育の質が保たれている場所です。子どもたちが長時間を過ごす、夜間保育においてはなおさら“子どもの安全・安心”を守る必要があると考えています」とその意義を教えてくれました。

また、夜間に子どもを預かっているベビーホテルなどは、認可外保育施設という扱いになり、預かり人数や年齢、施設の広さなどの保育環境は認可に比べ低いところが多いため、保育事故が起きやすくなっているという現状があるそうです。夜間保育を必要とする人が増える中、万一、保育事故が起きてしまってはまさに悲劇です。認可保育所で夜間保育を行うのは、こうした「悲劇を防ぐため」の水際の戦いといえるのかもしれません。

また、夜間保育所は開所時間が長く、子どもの滞在時間が一人ひとり異なり、個別の配慮が必要なうえ、シングルでの子育て、深夜帯の業務など保育が必要となる家庭環境も様々。夜間保育所の保育士には相応の保育スキルが求められるのだそうです。保育のプロによる子どもの安全な居場所が必要であることは間違いないようです。

正社員なら避けられない夜勤。託児所があることで働き続けられる

(写真/PIXTA)

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ちなみに筆者の友人であるNさんも、昼間は認可保育所に預け、夜は職場内の施設で運営する私設の託児所に子どもを預けて仕事を続けています。Nさんが夜勤のときのみ、「夜間保育」を利用している形です。それでは、夜も子どもを預けるという「夜間保育」そのものについて、不安などはないのでしょうか。

「上の子どものときは、正直、かわいそうかなとも思いましたが、親としては慣れてしまえばそれほどでもありません。夜勤は正社員として働き続けるのであれば避けて通れないと考えています」といいます。

子育て中はなにかと出費がかさむもの、夜勤につく手当も教育費などに充てることができます。夜勤があるときは昼に家事を済ませ、夕方に子どもを認可保育所に迎えにいき、入浴させてから託児所へ。料金は夜ごはん、朝ごはんの2食付きで1回1000円。職場の託児所なので、夜間であっても過去には「業務中ですがお子さんが不安がっているので、お母さん、顔を見せて」なんて呼び出しもあったそう。

「職場の託児所でよいことは、距離が近いので夜間でも安心感があること。また、子どもの人数もそれほど多くないので、子どもと先生が1対1、なんてこともあります。より和やかで家庭に近い感じなので、下の子どもなどは“自分の好きな遊びができていい”といっていました」とお子さん自身も気に入っていたそうです。

ただ、同じ職場であっても、託児所を利用しない職員もいるそうです。

「職員によっては夜、子どもを預けることに抵抗があり、夜勤を免除してもらいながら働く人もいますし、託児所で一時的に預かり、仕事を終えたお父さんがお迎えにくる人もいます。各ご家庭の考え方にもよりますね。わが家は、認可保育所と私設の託児所を併用していますが、夫の勤務状況や子どもの負担を総合的に考え、私の夜勤時には夜間保育の利用がベターだと考えています」とNさん。

それでは、認可保育所で夜間保育を行うのであれば、預けたいでしょうか。

「そもそも夜間保育所が近所にないので、考えられないというか。近くにあったら選択肢に入るかもしれません。託児所の辛いところは、休日、夜勤明けの日は預かってもらえないところです。たとえば、親は夜勤明けで仮眠したいのに、子どもはめちゃ元気。認可保育所の送り出しに間に合えばいいんですが、遅刻厳禁なので預かってもらえないんです。なので、夜勤明けの私がフラフラになりながら公園で遊ばせて、昼を食べさせて午後に子どもとお昼寝、なんてこともあります」

ひええええええ、それは大変……。

これが認可保育所で夜間から昼間まで続けて保育をしてもらえるのであれば、こうしたお母さんの体力的な負担は軽減される気もします(子どもの負担は別として)。

最後に託児所や夜間保育所を見る上でのポイントを聞いてみました。

「夜間の託児所でも昼の認可保育所でも、大切なことは同じ、先生との関係性です。わが家もいきなり夜勤&夜間保育ではなく、日勤で託児所の雰囲気に慣れてから夜勤をするようになりました。夜間は先生と子どもが限られ、密室・少人数になりがちなので、余計、信頼関係が重要かもしれません」とアドバイスしてくれました。

カギは保育の質。良質な夜間保育は子どもの育ちを助ける

(写真/PIXTA)

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とはいえ、夜間に預ける身としては、子どもへの影響が気になってしまうもの。ちなみに、前出の酒井さんによると、施設の広さや年齢、食事、保育士の対応など、一定の保育の質が担保された夜間保育は子どもの育ちに好影響があるのだとか。

「夜の預かり保育は、子どもの成長や発達に悪影響を及ぼすという誤解もありましたが、長年の調査/研究により、質が保たれた夜間保育を受けた子どもは『人の役に立つ人になりたい』『人には親切にしたい』などと答えるなど、成長にも好影響を及ぼすという結果がわかっています」(全国夜間保育連盟広報誌「夜間保育」2017年10月号)。

ちなみに、夜間保育を行う認可保育所へ入所を希望するのであれば、通常の認可保育所と同様に、行政に利用申し込みをします。ただ、通常の認可保育所ですら、「保育所、入れなかった」という叫び声があがる昨今、夜間保育を実施する保育所に入るのはより狭き門といえるでしょう。

一方で、夜間保育の需要は年々、増えているのではないでしょうか。特に医療職、介護職などは、夜間の預け先がなく、キャリアを断念している人もいると思います。ただ、酒井さんは、「夜間保育」を実施する認可保育所は、なかなか増えていかないだろう、と指摘。その上で、せめて各自治体に1カ所程度、夜間保育が実施できる予算措置があれば子育て支援の一助になるのではないか、といいます。

今回の認可夜間保育所、知っている人はまだ少数派かもしれません。ただ、子どもの健やかな育ちの「夜の場所」として、夜間保育は必要不可欠です。大切な小さな命とその育ちを守るために、その質・数を充実させる必要があるのではないでしょうか。●取材協力

全国夜間保育園連盟
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