「防災ママカフェ」主宰・かもんまゆ氏に聞く、子どもを災害から守るための心得
かもんまゆさん(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))
自分と、大切な人の命を守ることは、誰かに“外注”することではない
かもんさんが防災活動を始めたきっかけは、2011年の東日本大震災。当時、マーケッターとしてママコミュニティサイトを運営していたかもんさんは、日本全国のママたちとともに物資支援活動を始めた。そして、被災したママたちから聞いたのは壮絶な体験。「私たちの経験談を伝えてほしい。ママが知っていれば、備えていれば、守れる命があるから」――そのような声をきっかけに、乳幼児ママ向け防災講座「防災ママカフェ(R)」を立ち上げたという。
「東日本大震災では、0~19歳で900人近い子どもが亡くなっています(2013年内閣府調べ)。被災地で一番よく聞くのは、『まさか』『あの時こうしておけばよかった』という言葉。大人が知らない、備えていないということで、大変な思いをしたのは子どもたちでした。
家事に育児に毎日忙しいママにとって、『防災なんて興味ない』『行政や誰かがどうにかしてくれるもの』と思っている人もいるかもしれませんが、自分と、大切な人の命を守ることは誰かに“外注する”、他人任せにすることではないですよね」「防災ママカフェ」に子どもも一緒に参加(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))
「子どもを守りたい!」なら、まずは「戦う相手=敵」を知ることから
かもんさんは“防災”ではなく“備災(びさい)”という言葉を使う。災害は、防ぐことはできないけれど、防災リュックの準備も、備蓄も、けがの手当ても、逃げることすら自分一人ではできない子どもたちのために、ママとして準備しておくことくらいはできるはずという意味を込めているのだ。
かもんさんが話す備災の順番は「敵を知る→自分を知る→準備」という3段階。まずは、自分たちの住む街を襲う “敵”を知ることが大事だという。2016年4月に起こった熊本地震では、被災地のママと子どもたちへの物資支援などを通じて100人を超えるママの声を集め、東北の地震の被災地のママの声と合わせて、ママのための防災ブック『その時、ママがすることは?』を企画制作した
「例えば、RPGゲームを思い出してください。ゲームが始まると、まずは強そうな敵が出てきますよね。そうしたらその敵を倒すために、パワーや属性、弱点などを調べるはずです。それから、戦いに必要なメンバー構成を考えます。『あー、このメンバーでは勝てないかもしれない……』そこで足りない部分を補うために、持つのが武器、なんですよね。
これを防災に当てはめて考えると、まずは自分たちを襲う敵がどんなものなのか――震度、津波の高さ、津波が来るまでの時間など、想定されている災害のことを知ることが、何よりまず最初にやることであるのが分かると思います。だって、どんな敵が来るか分からないのに、『絶対に家族を守る!』なんて、それは無理な話ですから。
そして、ゲームでは、相手によってメンバー構成を変えることができますが、家族の場合は「赤ちゃんは弱いから外そう」なんてことはできませんから(笑)、弱くても固定メンバーで戦わないといけない。
防災リュックや備蓄=武器は、敵の力と、自分たちの戦闘能力を考えた上で準備するもの。武器だけを別に考えて勝てる戦いなんてないんです」
大切な人を守るために備えるものは?
敵を知り、自分の家族の力を知ったら、次は備える。まずは家のチェックから。
「まずは、最初の15分を何とか生き延びること。阪神大震災では、家屋の倒壊、家具の転倒による圧死・窒息死が死因の8割で、地震発生後15分以内に9割の方が亡くなっています。だから、まずは最初の15分を生き延びられる部屋にしないといけません。そのためには、家具を倒れない・動かない・落ちてこないようにする。特に長時間いるリビングと寝室は重要です。あとは、ガラスでめちゃくちゃになってしまったら、家が大丈夫でもそこにいられなくなってしまうので、ガラスのものを減らすというのも大きな備災ですね」「防災ママカフェ」の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))
そして、防災リュックなどのチェックを。防災リュックをつくる際に重要なポイントは?
「防災リュックで一番大事なのは、『持って逃げられる』こと。女性が持って逃げられる重さは約10kgと言われていて、もし赤ちゃんが5kgだったらあと5kgしか持つことができません。厳選したもの、そして家族が安心できるものを入れてあげてください。両手が空くリュックタイプであることも大事です。
東日本大震災の時、あるママが防災リュックに乾パンを準備していて、持って避難所に行くことができたんですね。子どもが『お腹がすいた』というので、乾パンをあげたのですが、子どもは乾パンを見たことも食べたこともなかったので口には入れたものの、すぐに吐き出してしまいました。
大人は「今は非常時だから」とか頭で考えて食べることができるけれど、子どもはそうはいかない。ただでさえ、避難所は狭い空間で、外に遊びに行くこともできないストレスフルな状態で、子どもにものすごく我慢を強いる場所。そのような状況だからこそ、子どもが食べられるもの、大好きなもの、食べると元気がでるものを準備してあげてください」防災食試食の様子(画像提供/スマートサバイバープロジェクト(SSPJ))
家で備蓄しておくものとなると、「やはり長期間もつ防災食がいいのでは?」と考えがちだが、かもんさんは「特にこだわらなくても大丈夫」「子どもは、いわゆる防災食より、普段食べているようなもののほうが落ち着いた」と続ける。
「いざ発災すると、道路が壊れてしまい、物流が全部止まってしまう。今家にあるもの、持っているものしかあげるものがないという状況が長く続きます。家の中で、缶詰やパスタなど食料をまとめてある場所を確認し、『いま買えなくなると困る』と思うものは、一つ二つ多めに買い足しておきましょう。東日本大震災で被災したママで、粉ミルクがあと少ししかないから明日買おうと思っていたら、次の日にあの地震がきてしまったという人がいます」
普段から親子で質問、想像し合うことが、子どもの人生を大きく変える
子どもがいる家庭の場合、事前に災害のことをきちんと教え、伝えておくことも重要だ。
「熊本地震の10日前に福岡でワークショップをやったのですが、参加して地震の仕組みの話を聞いていた子どもは、『ママ、これはずっと続かないよね。地球がくしゃみしているだけなんだよね。ぼくたちは動いているお家に住んでいるんだもんね』と子どもから言ってきたそうです。
でも、知らなかった子のなかには、震度3くらいでも痙攣したり吐いたりする子もいました。大阪の地震では、2時間くらい声が出なくなった子もいます。
『うちはまだ小さいから』『まだ言っても分からないから』『怖がるから』教えていないという人がいますが、知らないほうが怖い思いをするんですね。そのあとのトラウマも心配です。
日本は地震の国で、私たち親世代より長生きする子どもたちのほうが、今後大きな地震に遭う確率は高い。大切な子どものいのちを守りたいのであれば、自分のいのちは自分で守ること、自分で考え行動することをしっかり教えないといけない」東日本大震災からもうすぐ8年(画像提供/PIXTA)
子どもと一緒に災害について考える際に有効なのが、“質問ごっこ”と“想像ごっこ”。
「これは大人の言葉でシミュレーション。一度も考えたことないことは、いざ本番でもできませんので、地震を変にタブーにしないで、『いま、ここで地震がきたらどうなると思う?どうしたらいいのかな』と何度も何度も親子で話をしてほしいと思います」
家族みんなで笑顔で生き続けていくために。すべきことを考え、行動する
住宅の購入を検討している人、引越しを検討している人は、どのようなことに気をつければいいのか。
「家を購入するときや引越しをするときには、地盤を調べたりハザードマップをチェックするのは当然のことですが、ハザードマップは『ここは安全だ』と安心するための地図ではありません。地球は46億歳ですが、人間はたった700万年しか生きていないので、今まで人類が体験したことがなかったようなことだって起こる可能性があるわけです。
でも、過酷な想定がされている地域ほど、自然は豊かで、食べ物がおいしくて、美しく、魅力的な場所であるような気がします。長年に渡ってたくさんの恩恵を地球から頂いておきながら、地震と津波だけはイヤと拒否するわけにはいかない。だからこそ、愛するこの地で家族が笑顔で生き続けていくにはどうしたらいいのか、今何ができるのかを考え、行動することが大事なんだと思います」●取材協力
かもんまゆ
東日本大震災の際、被災地のママと子どもたちへの物資支援活動を機に、200人を超える東北ママたちの協力のもとに「あの日、ママと子どもたちに何が起こったのか」をまとめた『防災ママブック』を企画制作。現在、「あの日の教えを、明日のいのちを守る学びにする」(一社)スマートサバイバープロジェクト特別講師として、「ママが知れば、備えれば、守れるいのちがある」を合言葉に、「防災ママカフェ(R)」を全国で開催、誰にでも分かりやすい言葉で備災の大切さを伝えている。
>HP
>ママのための防災ブック『その時 ママがすることは?』
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