『家売るオンナの逆襲』北川景子演じる最強営業に学ぶ「クライアントの言いなりにならない極意」
ビジネスの現場では、顧客の「真の課題」を解決しなさいとよく言われます。しかし、どうすればそれができるのかわからないというのが本音ではないでしょうか。
ドラマ『家売るオンナ』(2016年)、『家売るオンナの逆襲』(2019年1月~)では、最強の不動産営業・三軒家万智(さんげんや・まち/北川景子さん)が、型破りな方法で高額の不動産物件を次々と成約させていきます。
彼女のすごさは、決して顧客の言いなりにはならないのに、顧客は深く納得しているところ。なぜ彼女は、クライアントにズバズバと意見を言うのに、納得させ、成約できてしまうのでしょうか。
話題のキャンペーンや様々な企業の新規事業を数多く成功に導いてきた、The Breakthrough Company GO PR/Creative Director 三浦崇宏さんは、「顧客の『真の課題』を解決するためには、クライアントの言いなりばかりではいけない」と言います。ドラマのシーンをもとに、プロとして主張を通しながら、顧客の課題を解決する極意を教えてもらいました。
The Breakthrough Company GO 代表取締役 PR/Creative Director 三浦 崇宏さん
博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。日本PR大賞、グッドデザイン賞、カンヌライオンズの各賞などを受賞。NTTdocomoやLINEの新規事業などをプロデュース。またペイミーやスマートドライブといったスタートアップのサポートも実施。最近では集英社の漫画『キングダム』をビジネス書として売るプロモーションや、メルカリ初の「新聞折り込みチラシ広告」も話題に。Business Insider Japanが主催する、ミレニアル世代の際立った才能や取り組みを表彰する「BEYOND MILLENNIALS(ビヨンド・ミレニアルズ)」アドバイザリーも務める。Twitter:@TAKAHIRO3IURA
【1】クライアントの真の課題をどう見抜く?
小さな子どものいる医師夫婦が「豪華な3LDKの新築戸建、リビングイン階段(リビングの中央に、2階へ上がる階段があること)のある家」を希望しますが、その子どもは多忙な両親となかなか一緒に時間を過ごすことができずに寂しさを募らせていました。
それに対して三軒家は、病院からすぐそばの距離にある、希望より狭い1LDKの中古マンションをあえて提案。一つのベッドに親子3人で寝て、リビングに夫婦の仕事用デスクを置き、子どもとのコミュニケーションを増やそうと主張。「リビングイン階段ではなく、リビングイン全部です!」と提案しました。【2016年『家売るオンナ』 1話より】
課題設定力、現場力、コピー力を磨こう
【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★★クライアントの話を聞くときは、はじめから「クライアントは、自分の抱える真の課題に気付いていないものだ」という前提で接したほうがいいですね。クライアントの言う「困りごと」とは、表面的な課題にすぎないことが多いものです。その背後に潜んでいる課題を見つけることが重要。じっくり内面を探っていくと、真の課題が見えてきます。
このシーンには、以下の3つのポイントがあります。
1. 困りごとの本質を見抜く力【課題設定力】
2. 実際に足を運んでリアルな状況を把握する力【現場力】
3. 解決策を一言で定義する力【コピー力】
1. 顧客の真の目的は何か 前提をまず疑おう
クライアントの話を聞くときにまず考えるのは、前提を疑うこと。一軒家に引っ越したいと言われたら、「そもそもこの家族には、引っ越しが必要なのだろうか」ということから考えます。
ここで彼女は「引っ越したい」という要望に対して、「家を売る」ことではなく、「家族の幸せってなんだろう?」と一つ上の視点で考えることからはじめました。結果、このクライアントにとって引っ越しは「子どもと豊かな時間を過ごすための手段である」ということに気付いたのです。
クライアントが抱える課題の本質を見抜くためには、一つ大きな視点でとらえることが重要です。「そもそもそれは必要なことなのか」と、本質を丁寧に考えるクセをつけましょう。
2. 現場へ足を運んで、たくさんの情報を感じ取ろう
今は多くの人がWikipediaやGoogle Earthだけで済ませてしまう時代。現場に足を運ぶことで、いきなり他の人と差別化できます。どんどんお客さまの店舗や売り場へ行き、プロダクトを使ってみてください。
このシーンでも、三軒家さんはクライアントの自宅、職場、提案したい物件へと繰り返し現場に足を運び、「クライアントが大切にしていることは何か」を観察しました。そこで子どもが情緒不安定になっていることや、亡くなったおばあさんを慕っていたことなどに気づきます。とても現場力の高い人だと思います。
自分の身体は最大のセンサーです。インターネットの検索だけで済ませるより、目で見て、鼻で感じて、耳で聞いて、手で触れること。そこから情報や気付きが山ほど得られるはずです。
3. ぶつかるのではなく、一緒に悩み考えよう
彼女は「リビングイン階段ではなく、リビングインぜんぶです!」とひと言でいい切りました。
こういう強いコピーは非常に重要ですし、人の心を動かすものですが、伝え方は気をつけたほうがいいでしょう。クライアントに意見するときは「提案」したらダメ。正面からぶつかると、いい争いになってしまいます。
そういう時は「どうしても3LDKがいいわけではなく、家族ですごす時間を増やしたいのですよね」と、課題を再設定すること。そしてそれをクライアントと共有するステップを踏みましょう。そのうえでクライアントと一緒に悩み、一緒に考えるべきです。
若手のうちは、年長のクライアントに物申さなければならないシーンも多いはず。そういう時は、正面突破するのではなく、自分が向く方向を変えて一緒に解決しましょうという姿勢に立つべきです。
【2】真の課題を発見するために必要な観察力とは?
住み替えを検討中の50代の夫婦に物件紹介を依頼された三軒家。妻は「離婚したい」と言いますが、家は主婦としての知恵とアイデアにあふれ、徹底的に合理化されていました。その様を見た三軒家は、「離婚すべきでない。あなたにはこの家の専業主婦こそが天職だし、強みを生かせる職業だ」と諭し、「夫婦別寝室」の物件を紹介します。【『家売るオンナの逆襲』1話より】
クライアントにとっての「普通」を見つけ、その凄さを伝えよう
【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★☆いざ現場へ行ったら「本人とっては当たり前だけれど、世の中ではすごいこと」を観察しましょう。そこにクライアントの真の課題を見つけるヒントが潜んでいます。「こんなに凄いことをやっているのは、御社だけです」ということを発見し、クライアントに伝えることも大切です。
三軒家さんは、クライアントにとっての「当たり前」を指摘して褒め、それを活かせる物件と生き方を提案しました。クライアントにネガティブなことを指摘するのは比較的簡単ですし、そういう人が多いのですが、褒めるべきところ、つまり「これ、私たち普通にやっているんですけど」ということを見つけた方がいいでしょう。
広告会社に勤めていた20代の頃、大手自動車メーカーの販促企画を担当したことがあります。そのとき僕が提案したのは「親子割」でした。すでに携帯電話キャリアでは当たり前に行われていた「常識」でしたが、自動車メーカーでは前代未聞のキャンペーンで、大きな成果につながりました。
プロフェッショナルなら、クライアントが知らない他の業界に関する知見を備えておくこと。ある業界の常識が、別の業界では斬新なソリューションであることはよくあります。ただ褒めるだけでなく、それがどう応用できるのか提示できる視野の広さを備えておきましょう。他業界のことを知っているから、クライアントに向き合ったとき、その良さがクリアになるのです。
【3】顧客の言うことに「違うのでは」思ったら?
有名なYouTuberに物件を売ろうとする三軒家ですが、ライバルの不動産屋に先を越されて失注してしまいます。その後、動画の配信をやめ、山奥で静かに生活することにしたYouTuber。対する三軒家は24時間人に見られっぱなしの「丸見えハウス」をつくり、「ここでもっと刺激的な動画を撮り、世間の批判にさらされてこそあなたの人生は輝くのだ」と叱咤してYouTuberの心を動かし、成約を勝ち取ります。【『家売るオンナの逆襲』1話より】
言いなり仕事は、自分の価値を半減させている!
【ビジネス現場ではこう動く】【評価】★★★★☆クライアントの言うとおりに仕事をこなすだけの営業やコンサルタントは、自らの価値、すなわちお金を払ってもらう意義を半分以上失っています。覚悟して、言いにくいことを進言することも大切です。
営業やコンサルティングの価値の一つは、否定にあります。役職者であればあるほど、周りはイエスマンばかりになりがちです。ダメなものはダメ、やるべきはやるべきとフラットに言ってあげることも大事。ときには思いきって、「世の中にはさまざまな視点があって、あなたの言っていることは違う」と言い切る力も必要です。
そのためには視野を広げて、社会やさまざまな業界の事情に接し、誰に対してもフラットに対応できる力を磨いておくこと。クライアント以上の広い視野を持っていなければ、お金を払ってもらうだけの価値は生まれません。営業からコンサルティング営業へ、御用聞きから真のコンサルタントへ成長するためには、否定力も必要です。
クライアントの「言いなりにならない」仕事の極意
クライアントは、自分の中に眠るほんとうのニーズがわからず、専門的知識もそれほどない状態で、要望を言います。そこに寄り添いながらも、言いなりになってしまうと、豊富な知見を持った専門家であるあなたの価値を発揮しきれず、クライアントにとっても残念なことになってしまいます。だからこそ、プロならば、堂々とプロの主張をすべきです。
「医者と患者」の関係に例えると、「走ると息切れします」と言われたとき、言われるがまま「心臓の薬」を渡してしまうのは、ダメなビジネスパーソン。ふだんの暮らしぶりや、食生活、遺伝や過去の病歴までさかのぼって丁寧にヒアリングし、もしかしたらただの肥満かもしれない、というように、真の課題を発見するのが、プロフェッショナルの仕事です。
<番組情報>
『家売るオンナの逆襲』(日本テレビ 毎週水曜 22時~)
ある時はハートフルに、ある時はショッキングに、家を売って売って売って売りまくる、伝説の不動産営業・三軒家万智。さびれた海辺の街へ移住し、姿を消してから2年。満を持して大都会・東京の不動産を再び売りまくるべく姿を現した! しかも、三軒家を負かしてしまうライバルまで登場し……。出演は、北川景子、松田翔太、工藤阿須加、イモトアヤコ、千葉雄大、仲村トオル 他。WRITING:石川香苗子
新卒で大手人材系会社に契約社員として入社し、2年目に四半期全社MVP賞、年間の全社準MVP賞を受賞。3年目はチーフとしてチームを率いる。フリーライターとして独立後は、マーケティング、IT、キャリアなどのジャンルで執筆を続ける。IT系スタートアップ数社のコンテンツプランニングや、企業経営・ブランディングに関するブックライティングも手がける。学生時代からシナリオ集を読みふけり、テレビドラマで卒論を書いた筋金入りのドラマ好き。
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