原子力規制「民自公密室談合」の衝撃――法案をつくってきた議員も知らない水面下の「実務者協議」とは何か
まとめ
原子力規制に関する法律について、実際にその法律を作った自民党内のプロジェクトチームの議員が知らないうちに「実務者協議」が水面下で開催され、政府と自民公明のすり合わせがおこなわれているという、驚きの事実がわかった。
数ヶ月にわたってIAEA基準や諸外国の制度などを徹底的に研究しているプロジェクトチームが完全に外された形で、秘密裏に政府と野党が手を結ぶ、いわゆる「民自公密室談合」。なぜ国民の目が届かない秘密会議で急ピッチにこのような大事な話が進められているのだろうか。まさに暴走である。最近法律を作るときによく登場するこの「民自公密室談合」とは一体誰のためのものか。まずはその実務者協議の内容をオープンにする必要があるのではないか。
以下、詳細です。
水面下の秘密会議「実務者協議」という名の民自公密室談合
原子力規制組織の法案が、例によって水面下の密室協議で決められようとしています
水面下の民自公密室談合で思い出すのは昨年成立した「東電救済法案」で、このときは5兆円の国民負担が増えたといわれました。今回の民自公密室談合では何が起きるのでしょうか。
今回の秘密「実務者協議」の存在は、NHKの討論番組「日曜討論」で露呈しました。
(NHK日曜討論5月6日放送分から、該当部分を文字おこしして引用)
司会:そうするとこの法案ですね、今、各党から急ぐべきじゃないというご意見もございましたけれども、自民公明両党の間では、これはほぼ、自公の案を軸に、まぁ、丸のみとは言いませんけれども、それに近い形で政府側、与党側が受け入れる、というのがポイントのようですけれども。
民主党国会対策委員長 城島光力氏:えー、私は連休前にですね、実務者協議担当者にですね、連休中にでも、できるだけまとめる方向で努力をして欲しいと要請をいたしました。かなり現場レベルでの事務ベースでの協議は進んでいると思います。残りは2~3点だと聞いておりますので、そこは政治判断のところだと私は思いますので、これは先ほども申し上げました通り、一刻も早く設置が必要なものですので、私は、5月中の成立を目指して、急ぎたいな、という風に思っております。
水面下でそういう動きがあることが政府民主党側からの発言で明らかとなり、その後5月11日になると、関連する報道が出始めました。原子力規制組織の法案について政府が自公案を「丸のみ」「与野党の協議がまとまった」との内容です。
原子力規制、自公案で検討 新組織発足へ政権譲歩(中国新聞)
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201205110147.html
(その他、時事、産経などが報じています)
「ほんと、誰がやってんだろうね!?」河野議員がブログで
しかし、実際に自民党でプロジェクトチームをつくって研究を重ねてきた人はこの秘密会議のことを知らなかったんですよね。本当におかしな話です。河野太郎議員のブログでも、誰だかわからない人が協議をしているとしてこの件を紹介しています。河野議員は「無視する」と言ってますが、無視できるものなのでしょうか。
先週の日曜討論で、民主党の国対委員長が、与野党間の実務者協議が進んでいるという発言をしたそうだが、自民党の環境部会/PTの会合で、誰がこの協議をしているのかと話題になった。
このPTを引っ張ってきた吉野環境部会長、塩崎PT座長、柴山事務局長、井上国対副委員長をはじめ、PTで議論してきたメンバーは、だれもこの「実務者」協議に参加していない。
ということで、「実務者」協議なるものがあったとしても、それは無視することになった。(ほんと、誰がやってんだろうね!?)
どうも最近、自民党の原子力がらみの意思決定はこういうことが多い。
※編注:PT=プロジェクトチーム
(自民党河野太郎議員ブログ「菅直人リスクと政府案」より引用)
https://getnews.jp/archives/210221 [リンク]
プロジェクトチーム座長塩崎議員も「知りません」
プロジェクトチーム座長の塩崎恭久議員に対する東京プレスクラブのインタビューでもこの件が話題で、塩崎議員は「密室談合で与野党協議をするのでなく、オープンな国会審議の場で議論すべき」と述べています。この「民自公密室談合」がまさに暴走だということがよくわかります。
(自民党プロジェクトチーム座長、塩崎恭久議員に対するインタビューより)
――原子力規制組織の法案について、「政府・与党が自公案を丸のみ」と報じられています。与野党協議は順調に進んでいるのですか?
塩崎議員: いや、私は、協議に参加していませんし、知りません。私は、この法案は、密室談合で与野党協議をするのでなく、オープンな国会審議の場で議論すべきとかねてより主張してきました。
――たしかに、「仙谷議員、林議員、齊藤議員で実務者協議」という記事もあります。しかし、これまで、この法案を中心になって進めてきたのは、塩崎議員ですよね? 塩崎議員抜きで「実務者協議」などありうるのですか?
塩崎議員: 自民党内のプロジェクトチームで、この法案を中心になって進めてきたのは、私と、川口順子元外相・環境相、吉野正芳議員、柴山昌彦議員ですが、いずれも協議に加わっていません。プロジェクトチームでは数か月にわたって、IAEA基準、諸外国の制度など、徹底的に研究したうえ、法案を作ってきました。こうした検討の中味を十分分かっていない人が協議したのでは、心配ですね。
――よく分かってない人たちで、おかしな決着をしてしまうのは、大変困りますね。ポイントを理解せずに、間違った合意をしてしまいかねません。どうしたらよいのでしょう?
塩崎議員: 水面下の密室協議などせず、国民の前でオープンに議論することです。こういう重大な問題を、国民の目の届かない密室で決めるべきではありません。
※東京プレスクラブ、塩崎議員インタビューより引用
https://getnews.jp/archives/210843 [リンク]
「密室談合」で多くの国民が望む法律はできない
常識的に考えれば、プロジェクトチームのメンバーを「実務者会議」に入れるべき。しかしその常識が働かず、意図的にプロジェクトチームのメンバーが外されているのは何故か。要するに、真剣にこの問題に取り組んできたプロジェクトチームのメンバーが入ってきて欲しくない事情があるからなのでしょう。政府与党である民主党と野党である自民党、公明党が秘密会議で手を結ぶ「民自公密室談合」。原子力規制組織に関する法律は、このようなうさんくさい方法で決められているという事実が再び明らかとなりました。
ここは少し立ち止まって、「民自公密室談合」は誰のためのものなのか、「民自公密室談合」は誰の指示によるものなのか、きちんと調査をした上で話しを進めるべきではないでしょうか。
とはいえ、このような形で法案に関して裏で手が結ばれると、議論もほとんどされずに法律が成立してしまうのが通常コースだそうで(そのための密室談合ですから当然といえば当然ですが)、昨年の「東電救済法案」に関しても同様でしたが、こうなると事実上誰にも止めることはできません。
このままいくと指をくわえて「密室談合」の内容がまともであることを祈るしかなさそうです。まぁ、表に出せない内容ということは、推して知るべしですが。ともあれ、今、国民の誰もその会議の内容について知ることができない状態なのは確かです。最終的にはこのように不透明なプロセスによって決められてしまう法律。このままでいいのでしょうか。このやり方で多くの国民が望む法律ができるのでしょうか。
※トップ画像及び二番目の画像:NHK日曜討論5月6日放送分より引用(民主党国会対策委員長 城島光力氏)
※三番目の画像:河野太郎氏ブログより
※四番目の画像:塩崎恭久議員
トンチの効いた新製品が大好き。ITベンチャー「デジタルデザイン」創業参画後、メールマガジン発行システム「まぐまぐ」を個人で開発。利用者と共につくるネットメディアとかわいいキャラに興味がある。
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