寺田寅彦著『柿の種』のフレーズにはドキッとさせられた——アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(前編)

access_time create folder生活・趣味
寺田寅彦著『柿の種』のフレーズにはドキッとさせられた——アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(前編)

歌手、ミュージシャンとして活動する浜田真理子さん。98年に発売したファーストアルバム『mariko』がメディアに採り上げられたことをきっかけに、楽曲が映画『ヴァイブレータ』挿入歌へ起用され話題に。ここ数年は都内を中心に、年に数回コンサートを開催するなど勢力に音楽活動を続けています。今年6月には7枚目のアルバム『NEXT TEARDROP』をリリースした浜田さん。そんな浜田さんに、日頃の読書生活についてお話を伺いました。

——浜田さんは、幼い頃はどんな本がお好きでしたか?
「実家がお店をしていたので全然親に遊んでもらえなくて、いつも近所の商店街の本屋さんに行って立ち読みしていましたが、小学生の頃はイソップ物語やシャーロックホームズが好きでしたね。探偵ものや推理小説を読んで、そのあとアガサクリスティーに移行して、明智小五郎とかをずっと読んでいました。大人になったら名探偵になりたいなって思っていたんです。シャーロックホームズが相手に会ったとたんに『君は肩が上がってるから何とかだ』とか見抜くのがかっこいいなと思って」

——大人になってからはいかがですか?
「探偵ものは読むだけにしておこうと思いました(笑)。もちろん小説、あとは時代小説にハマっていた時もあって。『御宿かわせみ』(平岩弓枝作の連作時代小説シリーズ)とか、とにかく長いシリーズを読むっていう時期もありました。エッセイものも好きで、幸田文さんなどいろいろな人の随筆を読んだりもしましたね。何でもすぐ忘れちゃうので、読書感想文ノートみたいなのをずっと付けていたこともありました。最近はちょっとやってないですが」

——最近はどれくらいの頻度で本を読まれていますか?
「随筆のような短いものは、読みやすく、目にも優しいと思うんです。いろいろ考えたりするのに、多くを語らなくてもヒントだけでいい時とかあるじゃないですか。そう意味で読んだりはしますね。警察小説をたくさん書かれている小説家の沢村鐡さんと知り合いになって、いつも本を送ってくださったりするんですが、その警察小説がすっごく面白いんですよ。エンターテイメントなのかもしれないけど、深い、ちょっと哲学あったりするから、そういった考える話が好きですね」

——ところで浜田さんは作曲なども手掛けていますが、本からインスピレーションを受けて楽曲制作をすることもありますか?
「物語からインスパイアされて歌を作る、小説家の川上弘美さんの作品『森へ行きましょう』は、私の『森へ行きましょう』っていう歌を聴いて、書かれた小説なんですよ。私のは普通の『森へ行きましょう』という歌なんだけど、川上さんの小説はすっごい立派な話ができていて。新聞で1年連載されて本になったんですけど、その本を読んで今度は私がまた違う歌を作って、みたいなことがありました。私は物語や小説は書けないですけど、小説を読んでその世界をびゅーって凝縮するといいますか、削って削って歌にするという事はたまにありますね」

——逆に「こういう歌を作りたいな」と思った時に本を読むことはありますか?
「私は、心が動いたときじゃないと歌を書けないタイプなんです。自分が体験した事も歌にしますが、体験してないことはやっぱり本とか作品の中からインスピレーションされていますね」

——なるほど。その中でも印象に残った作品を教えてください。
「寺田寅彦さんの『柿の種』です。これは、随筆集というか短文集とも言うかもしれないですが、すごく短いものからちょっと長いものまである作品が、一つの本に入って『柿の種』というタイトルが付けられているんです。仕事の合間とか、例えば5分でも、ちょっと隙間の時間がある時とかに好きなところを開いて読めるのがとても良くて。寺田さんは物理学者で、随筆の名手でもあるのですが、言葉とか感じ方とかがすごく面白いのでよく読んでいます」

——その中で好きな作品はありますか?
「寺田さんは大正時代の方で、関東大震災の時に『天災は忘れた頃にやってくる』って言った方なんですよ。そういうことをぱっと思いついて言われる方で。あと芸能とかに興味のある方で、『有名なエノケンを映画で初めて見た』とかね。エノケンのことが出てきたり、志ん生さんのことが出てきたり、芸能のことについても書かれていたりします。私が好きなところは、『自信の無いことを自覚している演芸ほど、見ていて苦しいものはない。しかし、そうかといって自信するだけの客観的内容のない、ただ主観的なだけの自信を振り回す芸も困ることはもちろんである』っていう言葉です。私たちは演奏したり歌ったりするから、ちょっとドキッとするフレーズですね」

——ありがとうございます。後編では浜田さんのお気に入りの一冊などをご紹介します。お楽しみに!

<プロフィール>
浜田真理子 はまだまりこ/島根県松江市在住の歌手、ミュージシャン。学生時代からバーやクラブ、ホテルのラウンジでピアノ弾き語りを行う。98年に発売したファーストアルバム『mariko』がメディアに採り上げられたことをきっかけに、楽曲が映画『ヴァイブレータ』挿入歌へ起用されたほか、自身がTV番組「情熱大陸」に出演したことも話題に。以降、映画やドラマ、CMへの楽曲提供や音楽舞台、エッセイ執筆、講習会主宰など活動は多岐に渡る。今年6月に最新アルバム『NEXT TEARDROP』をリリースした。

■関連記事
心温まるエッセイが詰まった『泥酔懺悔』はおいしいお酒を飲んだ時のよう——アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(後編)
1カ月の本の購入数は50冊以上、時間があれば神保町で古本屋巡りも——アノヒトの読書遍歴:山中千尋さん(前編)
サマセット・モーム著『かみそりの刃』は自分探しをする人にオススメ——アノヒトの読書遍歴:ロバート・ハリスさん(後編)

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. 寺田寅彦著『柿の種』のフレーズにはドキッとさせられた——アノヒトの読書遍歴:浜田真理子さん(前編)
access_time create folder生活・趣味

BOOKSTAND

「ブックスタンド ニュース」は、旬の出版ニュースから世の中を読み解きます。

ウェブサイト: http://bookstand.webdoku.jp/news/

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。