デュアルライフ・二拠点生活[7]都市部のマンションと里山が結びつき、住民の第二のふるさとに
通勤便利なJR千葉みなと駅徒歩3分の大規模マンションの管理組合が、マンションの魅力アップ策として新たに「里山縁組プロジェクト」に取り組み、絵に描いたような美しい里山の風景が広がる群馬県川場村との交流を始めた。利便性の高い都市部に住みながらマンションぐるみで里山とつながる、そんな新しい形のデュアルライフを紹介しよう。連載【デュアルライフ(二拠点生活)レポート】
これまで、豪華な別荘が持てる富裕層や、時間に余裕があるリタイヤ組が楽しむものだというイメージがあったデュアルライフ(二拠点生活)。最近は、空き家やシェアハウスなどのサービスをうまく活用することで、若い世代もデュアルライフを楽しみ始めているようです。SUUMOでは二つ目の拠点で見つけた暮らしや、新しい価値観を楽しむ人たちを「デュアラー(二拠点生活者)」と名付け、その暮らしをシリーズで紹介していきます。
平日は都会の生活、休日は自然豊かな環境へ。住民経営マンションの新たな取り組み
「ブラウシア」はJR千葉みなと駅から徒歩3分と近く都内への通勤者も多い、2005年完成の438世帯約1400人が住む大規模マンションだ。マンションの資産価値を保つことを目的に、管理組合が積極的に活動する「住民経営マンション」としても注目されているブラウシア管理組合が、あらたなマンション魅力アップ策として取り組んでいるのが「里山縁組プロジェクト」だ。2005年完成、438世帯約1400人が住む「ブラウシア」。大規模マンションながら住民交流も活発で空室もないという人気だ(写真提供/ブラウシア管理組合)
このプロジェクトを仕掛けたのは、資産価値向上のために「住民経営マンション」として活動するブラウシア管理組合の皆さんと、植栽管理およびコミュニティ形成活動にかかわっている東邦レオ株式会社(以下東邦レオ)だ。マンションの立地は変えることはできないが、マンションにとっての「第二のふるさと」をつくって住民が自然を楽しめる環境をつくることが付加価値のひとつになるのでは、というアイデアから「里山縁組プロジェクト」はスタートした。
「利便性のいい都市型マンションに住んで都内に通勤しながら、一方で自然に囲まれのんびりしたいと思っている人が多いのでは、と。私自身移住も考えたこともありますが、通勤のため断念。実際、週末になるとマンションからキャンプに出掛ける車をよく見かけます」と管理組合の吉岡さん。川場村には山、川、田畑など絵に描いたような里山の風景が広がる。恵まれた自然はすぐにブラウシアの子どもたちの遊び場に(画像提供/ブラウシア管理組合)
東邦レオ側で面識のあった川場村の永井酒造さんからのご縁で、まずは管理組合が初めて川場村に足を運んだのが2017年7月。その後住民も交えてバスツアーなどのイベントも実施。ブラウシア側は、訪れた誰もが、豊かな自然と温かいもてなしに感激。そしてマンション内交流も盛んであったことから相思相愛となり、さまざまな共同イベントを本格開催するに至った。
住民同士の交流も深めたリンゴ狩り&BBQ日帰りバスツアー
具体的に一つ、ブラウシアと川場村の交流イベントをご紹介しよう。12月に行われたイベントは川場村のリンゴ農家での収穫体験と交流BBQをメインにしたもの。ブラウシア側の参加者は子ども10人を含む28人が、満席のバスで早朝にマンションを出発。バスはまず、川場村のリンゴ農園へ。 (写真撮影/内海明啓)1本のリンゴの樹にブラウシアの家族がオーナーになる「りんごオーナー制度」。自分たちの樹のリンゴを自分の手で収穫(写真撮影/内海明啓)
川場村との交流のため、あらかじめ川場村のリンゴの樹の年間オーナーを募集し、応募したブラウシア住民家族は、現地で自分たちの樹のリンゴを収穫。オーナー以外の家族も、リンゴ狩りをして自分たちが採ったリンゴを買い取って楽しんだ。川場村は知る人ぞ知る、リンゴの名産地なのだ。この日収穫したリンゴの一部。自然環境に恵まれた川場村は、リンゴのほかにも米、そば、ブルーベリー、ブドウなど農産物が豊富だ(写真撮影/内海明啓)
リンゴ狩りのあとは、川場村の住民中村さんのお宅のお庭で川場村住民、ブラウシア、川場村の取り組みにかかわっている東京農業大学の学生さんら総勢50人余りでBBQを楽しむ。このBBQが川場村のみなさんとの重要なコミュニケーションの場でもある。その後、川場村の自然に触れられる体験イベントや温泉などに移動して最後はマンションまで戻って解散、というもの。イベントのスケジュールは主だったものは決めるが、あまり固定しすぎず、その場のみんなの意見や、川場村の皆さんのアドバイスで臨機応変に変更し、住民交流できるようにしているという。 農家の庭先を借りてのBBQ交流会の様子。ブラウシア住民約30名に加え、川場村のみなさん、川場村と交流のある世田谷川場ふるさと公社や東京農業大学のみなさん合計4団体50人超で大にぎわい(写真撮影/内海明啓)川場村の皆さんは郷土料理だご汁(団子汁)をつくっておもてなし。つくり方や素材の話で会話も弾む(写真撮影/内海明啓)
単なる旅行でなく田植え、BBQ、地元交流など目的のあるイベントを楽しむ
このような住民を交えたバスツアーを、提携後11月「敬老会」、6月「田植え体験」、7月「古民家とブルーベリー」、9月「稲刈り体験(雨天により中止)」、12月「リンゴ狩り」と計画、実施し、イベント運用の目途も立ってきた。好評な「道の駅 川場田園プラザ」でのお買い物を定番にさまざまな企画を加え、来年度はより多くの住民に参加してもらう予定だという。「道の駅川場田園プラザ」は東日本でも指折りの充実した道の駅。ここに立ち寄り地元の新鮮野菜をBBQ用やお土産用に買い物するのはイベントの定番コースに(写真撮影/内海明啓)
今回、ご家族4名で参加された守屋さんは、6月の田植え体験に続いて2回目の参加。ご夫婦ともに千葉出身で「いわゆる田舎らしい田舎がないので、子どもにここでしかできない田植えやリンゴの収穫などを実際に体験させてあげられることが貴重です」と語る。5歳の長男も田植えをしたら収穫が楽しみになり、いい教育になったという。6月に行われた田植えは泥んこになって大人も子どもも初体験。夢中になってカエルを探したり、お米ができるまでに興味をもったり、貴重な体験となった(画像提供/ブラウシア管理組合)
小学生の男の子を連れて家族2人で参加した高田さん一家は、なんとプライベートでもおとずれるといい、今回で6回目の川場村訪問。「川場村の道の駅は第七駐車場まであっても一杯になり、一日中遊べるくらいの充実度で都会的です。でもそこから数分走って村までくると観光客には誰にも会わない、この絶妙なバランスがいいですね」と高田さん。川場村との提携の話を聞いて、早速一家で訪問してからすっかりお気に入りだという。「子どもには田んぼでの泥んこ遊びがとにかく楽しかったみたいです。通っているうちに村に、というより出会う村の人に愛着を感じ、人に会いに来ています」
このように、川場村の住民の皆さんとの交流も楽しみのひとつ。地元の親子も参加する交流BBQや自然体験を通じて子ども同士も仲良くなり、「環境が異なる場所で育っている子ども同士の触れ合いもいい刺激です」という声も。「途中の道の駅でBBQ用の野菜を買ったら、川場村側の参加者にその野菜の生産者さんがいた」「メールアドレスを交換して珍しい野菜の調理方法や田舎料理のレシピを教えてもらった」など。相互の交流を楽しむ声が続々聞こえてきた。
バスツアーのほか、マンション内で行われる夏祭りなどのイベントでは、川場村の産直野菜を販売するマルシェはもはや定番。過去2回実施したが、発売前に長蛇の列ができるほどの人気だ。ブラウシアで実施する夏祭りやクリスマスなどのイベントでは川場村の産直野菜を販売。発売30分で売り切れるほどマンション住民にも大人気だ(画像提供/ブラウシア管理組合)
管理組合のみなさんに今後の抱負を伺うと「川場村でお米や野菜を育てたい」「蛍が見られるときにツアーを」「お米の田植えと収穫体験をセットで」「りんご農家さんで受粉体験を」「川場村の獣害などお困りごと解決ボランティア」「川場村のような提携先を複数の自治体と」など次々にアイデアがあふれ出る。来季からはより多くの住民がイベントに参加し、川場村と交流できるようにする予定。着実に群馬県川場村はブラウシア住民の心の故郷になろうとしている。こんなマンションに住んだら休日も楽しそう、と思ったが「残念ながら現在空室ありません」とのこと。やはり管理組合が活性化しているマンションは人気なのだ。●取材協力
東邦レオ
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