なぜ大人向け「大粒ラムネ」は爆発的にヒットしたのか?「森永ラムネ」ブランドの挑戦

なぜ大人向け「大粒ラムネ」は爆発的にヒットしたのか?「森永ラムネ」ブランドの挑戦

1973年に発売を開始したロングセラー商品「森永ラムネ」。当初から貫いてきたぶどう糖90%という配合が注目され、2014年頃から子どもだけでなく大人たちへも購買層が広がっていき、2017年から2018年にかけては全国的に大ヒット商品になっています。そして2018年3月に大人向けに発売した「大粒ラムネ」は当初の年間販売計画数量を発売後1カ月足らずで売り切ってしまったといいます。

大人が買い始めたムーブメントをつかむため、当時マーケティング部門ではさまざまな試行錯誤があり、ある考えが「大粒ラムネ」のヒットにつながります。前編(→)に引き続き、マーケティング担当者である吉積優さんにお話を伺いました。

吉積 優(よしづみ・すぐる)

森永製菓に入社後は営業畑を経験、全国の卸問屋・小売店などで森永ブランドの菓子全般を扱ってきた。2017年4月に現在のマーケティング本部 菓子食品マーケティング部に異動、キャンディカテゴリー担当となり、「森永ラムネ」のほかミルクキャラメルなどのマーケティングも手がけている。2018年3月に新発売の「大粒ラムネ」は一旦休売をしなくてはならないほど大好評、7月以降関西以西で再発売し、10月からは全国展開開始。

森永製菓HP

お客様が「森永ラムネ」に何を求めているかを見直す

子ども向け菓子として長く親しまれてきた「森永ラムネ」が大人にも積極的に買われる商品となったのは、2014年頃だといいます。ぶどう糖90%という成分が注目され、SNSをはじめとした口コミやテレビ番組での紹介が広がると、さらに売上が伸びました。

「大人向け商品を開発しようと、ウコン入りの『ラムネのチカラ』や女性向けの『スパークリングラムネ』を発売したんですが、あまり良い実績は残せませんでした」

何がいけなかったのか、どこを変えればいいか、マーケティング担当者として行き着いた結論は「森永ラムネのアイデンティティに戻ること」でした。

「なぜ大人の方々が『森永ラムネ』を買ってくださったのか考えると、やはり昔から変わらぬ『ぶどう糖90%』という品質と、小さな頃から馴染んだ『森永ラムネ』ブランドの安心安全なイメージが掛け合わさったからだと気がつきました。思うように売り上げが伸びなかった大人向け新商品は『森永ラムネ』とは全く異なる商品として売ろうとしていたんです」

大人向け新商品としてこれまで発売していたのは、ラムネ飲料を模した水色のデザインからあえて離れ、ウコンやスパークリング飲料を連想する黄色系や赤色系のパッケージにしてしまった。「ぶどう糖90%」が評価されていたのに、さまざまな要素を足してしまった。これらをすべて引いて本来の「森永ラムネ」の姿に戻した新商品が「大粒ラムネ」でした。

「パッケージは従来容器と同じ水色をベースにして、アクセントも同じ赤色を使いました。一目で『あのラムネの姉妹商品だ』と認識していただくためです。また形状は、子ども向け菓子の棚にわざわざ大人のお客様が足を運ぶことは少ないので、グミやキャンディのように大人がパッと買える場所に置いていただけるよう吊り下げ型のパウチパッケージに。中身のラムネは、大人の方が食べて満足できるように通常のラムネの1.5倍の大きさにしました」

発売前の1月には「2018年にブレイクしそうな商品」として「森永ラムネ」の詳しい成分や評判が新聞に取り上げられました。この記事が出た直後も売上が跳ね上がったといいます。さらに2月にはカーリングの日本代表選手が「森永ラムネ」を食べている姿が話題になり、トレンドに敏感な人たちが大量に購入するケースが増えました。

「皆さんの注目がさらに高まっているときに出た新商品『大粒ラムネ』は、発売後3週間で売り切れる大ヒット商品になりました。市場で買いたいお客様がいるのにその要望に応えられない状態は、メーカーとして責任を果たせておらず、とても申し訳ないと思っています」

「大粒ラムネ」は生産体制を仕切り直して7月に関西以西で再発売、10月から改めて全国展開を再開しました。

「ブームの盛り上がりというのは一過性のもので、去っていくお客様も出てきます。それをいかに止められるかが私たちの次の課題です」

成分を重視する展開で、お客様に価値を届けたい

改めて「森永ラムネ」の原点に戻った「大粒ラムネ」の発売により、さらなるお客様を開拓することに成功しました。「森永ラムネ」としては、さらに「ぶどう糖90%」という配合に着目して、2017年冬からは受験生への浸透も図っています。

「縁起物として商品を売るなら語呂合わせなどが有効ですが、森永製菓は違う方向性で受験生にアプローチできるのではないかと考えています。たとえば森永の『inゼリー』は菓子というジャンルを超えて、栄養素やエネルギーを重視するお客様に購入いただいています。『森永ラムネ』にも同じようなポテンシャルがあります」

「森永ラムネ」は季節によって山場がある商品とも違うので、派手なプロモーションを行うのではなく、お客様のシーンに合わせた地道な販促活動を行っているといいます。

「たとえばメガネブランドのJINSさんとのコラボレーション。JINSさんが手がける会員制ワークスペースのコンセプトは『集中』です。ここのオフィシャルアイテムに『森永ラムネ』を採用いただき、スペース利用者の皆さんにも知っていただく試みを始めました」

売場での購入を待つだけでなく、お客様が必要とするシーンへ商品を提供する施策は今後も行う予定です。

「ただし、これまでのお客様も大切にしなければいけません。たしかにネット通販での大量購入やコンビニエンスストア、ドラッグストアなどの取り扱いによって新しいお客様は大幅に増えました。でも従来と同じように、親御さんがお子さんに安心して買い与えられる子ども向け菓子としての役割も担っています。既存と新規を両輪として進めることはいつも意識しています」

ブーム前の2012年と比べると現在の売上は約2倍。もともと子ども向け菓子として安定した実績を持つ商品にもかかわらず、さらに流通量が2倍になったと考えると、2014年以降のブームがどれだけ爆発的なものだったのかがわかります。

「他社からもさまざまなラムネ菓子が出ています。成分でいえばぶどう糖100%の商品もあります。でもぶどう糖90%というスペックをこの価格と安心感、そしておいしさで提供できるのは、長年作り続けてきた森永の強みではないでしょうか」

昔からの成分やコンセプトを変化させることなく、新しいお客様を開拓するのは、実は新商品を出すより難しいかもしれません。

「私たちは、『森永ラムネ』はまだまだ売上を伸ばしていける商品だと考えています。市場の需要に応えられる体制が整った今、どこまで『森永ラムネ』を広げていけるのか。新しい売り方に積極的にチャレンジしていきたいと思います」

前編はこちら

「ヒット商品の舞台裏」シリーズはこちら インタビュー・文:丘村 奈央子 撮影:是枝 右恭

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