VOL.41 松岡佑子さん(翻訳者)

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VOL.41 松岡佑子さん(翻訳者)

 全世界で興行収入約900億円、日本でも73.4億円の大ヒットを記録した『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』から2年が経ち、いよいよ新作『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』がこの冬、日本に上陸します! 本作のオリジナル脚本翻訳を務めたのは前作に引き続き、翻訳家の松岡佑子さん。彼女は「ハリー・ポッター」シリーズの日本語翻訳を務め、日本に “ハリポタ”現象を巻き起こした張本人! 日本で出版されてから来年で20周年になるハリポタシリーズ、そしてファンタビシリーズについて松岡さんにどっぷりお話を伺ってきました!

ーーまず、「ハリー・ポッター」シリーズ本の翻訳にあたり、大変だったこと、苦労した点などをお聞かせください。

松岡「大変だったのは、長かったことですね(笑)。当初は(オリジナル版が)1巻ずつしか出ていなかったので、伏線があったとしても、それが伏線だと気がつくのが難しいんです。1巻ごとで先が見えない翻訳というのが、一番の苦労でした。でも読み込んでいくとやっぱり、意図が見えますから、私は先が予測できたほうだと思います。また、子供の本にしては長すぎると言われた物語の長さ。その長さに耐え、全巻を一貫した形で訳さなくてはいけない。一貫した流れと同時に、10歳から17歳までの成長を描き分けなくてはいけません。セリフにしても成長に合わせて変えていけなくてはいけませんから」

ーー魔法の言葉など、ファンタジーならではの語彙を訳すのは難しいイメージがありますが……

松岡「みなさんよく苦労したでしょって言うんですが、実はそんなことなかったんです。もちろんクリエイティブな日本語を作るっていうのは大変だったでしょう、と思ってもらったほうがいいですが(笑)。確かに大変なはずなんです。でもこの本に関しては、私は思い入れが深かったせいか、初めから惚れ込んでいたせいか、「これはこうに違いない!」という閃きがありました。そしてそれがピタッと当てはまったことが多かったです。ですから苦労はなく、新しい言葉を考えるのは楽しかったです」

7659107856-IMG-1372.jpg松岡佑子さん

ーー前作の『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』で初めて脚本を担当されたときのご感想をお聞かせください。

松岡「映画の字幕と吹き替えの翻訳は他の人が担当しているんです。映画の翻訳は特殊な技術が必要で、一つの画面に収まる文字数に収めなくてはいけないし、吹き替えの場合は、口に合わせてなくてはいけない。文字通りの正確さで訳すとか、文学的な観点から訳すということは、二の次になるんですね。そのため、映画の翻訳をそのまま本に使うのは、翻訳者として本意ではありません。しかし、あまりに違うと困りますから、よっぽど誤訳がない限りは字幕や吹き替えのセリフに合わせた翻訳をします。それでもやっぱり、原文を見て、直したい部分は直します。このように他にも翻訳者がいるという面では、物語をはじめから訳す翻訳とは違います。

 実は、前作の映画の脚本をする前に『ハリー・ポッターと呪いの子』という舞台劇の脚本を翻訳しているのですが、舞台や映画のようにビジュアルが先にある場合は、まずそれをしっかり見ないと訳せませんね。どういう気持ちなのか、ビジュアルを見ないとわからないので、実際に映画を見せてもらわなければ、正確に訳すことはできません。そういう意味では、ひと手間もふた手間もかかってしまいます」

ーー「ハリー・ポッター」シリーズとはまた違った「ファンタビ」シリーズの魅力とはなんでしょう?

松岡「魔法動物が可愛いですね。 “ファンタスティック・ビースト”ですから、どういう魔法動物が出てくるのか、それが見どころですね。私、動物が好きですし。私はもともとあまり映画を観なかったので、映画に出てくる俳優さんのことをあまり知らないんです。俳優さんの名前なんて知らないですし、誰がどんな映画に出たかも全然知らなかったんですけれども、エディ・レッドメインだけは知ってたんです。というのは、私がALSという難病の患者さんを支援している関係で、彼がアカデミー賞をとった『博士と彼女のセオリー』を鑑賞し、こんなに見事にスティーヴン・ホーキング博士に化けられる人がいるんだと、迫真の演技をする凄い役者だと思って、ファンになったんです。そしたら今度はカッコいい役で、またまたファンになりました。その俳優さんの魅力と動物の魅力、そしてJ.K.ローリングの想像力に舌を巻きますね。これだけの物語を創り上げるとは、物語の舞台が1930年代であろうと、1940年代であろうと、時代に関係ない彼女の想像力は凄いと思います。登場人物や動物たちの組み合わせも非常に巧みだと思いますね」

サブ① FB2-03521r_R.jpg『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』より

ーーファンタビシリーズで松岡さんのお気に入りのキャラクターは?

松岡「みなさんと同じで、ニフラーです(笑)。素っ頓狂で金目のものに目がないところが良いですね。またエディ演じるニュートがお気に入りのピケット(ボウトラックル)。あまり動かないんだけど好きです。あと、透明になることができるデミガイズは、可愛くて欲しいなって思います(笑)。デミガイズの毛皮は透明マントの材料になるんですよね。毛皮をはごうとは思いませんが(笑)」

ーー登場人物でのお気に入りはいますか?

松岡「やっぱり主役のニュートですね。もともと俳優さんがお気に入りだったので。新作では、ダンブルドアですかね。第二弾では彼がだいぶ活躍するはずですから。私はもともとお嫁さんになるならダンブルドアのお嫁さんと思っていましたし。J.K.ローリングによると、彼はゲイであったということになっているので、残念ですが」

ーー松岡さんならではの映画の楽しみ方は?

松岡「本の楽しみ方と同じですが、素直にのめり込むことですね。素直にのめり込んでその世界で遊んでみることですね」

ーー映画館にはよくいかれますか?

松岡「オリジナル脚本を翻訳するにあたって『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』はフランスの映画館に行きましたし、もう一度どこかの映画館で観ました。でも映画館にはめったに行かないです。だいたい飛行機の中で映画を観ることが多いです」

ーーこれまでご覧になった映画の中で、一番のお気に入りの作品は?

松岡「ずいぶんと古い映画ですが、『アラビアのロレンス』が一番好きです。いろんな意味で魅力的な映画ですね。考えてみると、女性が一人も出てこないんです。映画の物語も壮大で、原作というかモデルになった人の生涯の物語も凄く、オマー・シャリフなどさまざまな名優が登場します。砂漠の映像が見どころですね。あのような壮大な映像が見られる映画は少なくなってきていると思います。スケールの大きな映画で、音楽も良かったです。砂漠の向こうの方からラクダがだんだん近づいてくる光景は、未だに目に焼き付いています」

ーーハリー・ポッターシリーズの中での松岡さんのお気に入り作品は?

松岡「初恋が一番懐かしいというのと同じで、やっぱり第1巻ですね。全ての巻を気に入っているのですが、第1巻の次にあえて言うなら、最後の第7巻ですね。やっとホッとしたという感じがしますから」

ーー最後に、松岡さんにとってのハリー・ポッターシリーズとは?

松岡「私に魔法をかけてくれた本です」

松岡佑子さん、ありがとうございました!
(取材・文・写真/トキエス)

***

★メイン FB2-00589r_R.jpg

『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』
11月23日(金・祝)公開!

監督:デイビッド・イェーツ
脚本:J.K.ローリング
出演:エディ・レッドメイン、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、エズラ・ミラー、キャサリン・ウォーターストン、ダン・フォグラー、アリソン・スドル ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画 

2018/アメリカ
公式サイト:fantasticbeasts.jp 
(C) 2018 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
Harry Potter and Fantastic Beasts Publishing Rights (C) J.K. R.

<STORY>
シャイでおっちょこちょいな魔法動物学者ニュートに、最強の敵が登場!
ある日、ニュートは魔法界と人間界を脅かす「黒い魔法使い」グリンデルバルドが逃げ出したことを知る。
ホグワーツの恩師ダンブルドア先生から彼を追うことを託されたニュートは、仲間や魔法動物たちとともにパリへ向かう。
パリではグリンデルバルドが言葉巧みに賛同者を増やし、勢力を広げていた。そしてその手はついに仲間たちにまで……
果たしてニュートと仲間たちはこの最大の危機から世界を救えるのか!?

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