『新潮45』10月号寄稿のLGBT当事者&元参議院議員・松浦大悟インタビュー(下) 「私たちはごまかしの人生から脱却したくてカミングアウトする」

休刊となった『新潮45』2018年10月号に『特権ではなく「フェアな社会」を求む』を寄稿していることで注目された元参議院議員の松浦大悟氏インタビュー。前半では『新潮45』が休刊となったことへの懸念や、LGBT差別解消法案の問題点などについてお聞きしました。

『新潮45』10月号寄稿のLGBT当事者&元参議院議員・松浦大悟インタビュー(上) 「本当に差別を解消したいと思うのであれば議論すべき」
https://getnews.jp/archives/2083555 [リンク]

後半では、マイノリティーが秋田で選挙を戦ってきた上でのエピソードや、ゲイであることをカミングアウトをした意味、メディアが報じるLGBT像に対する違和感について、忌憚なく語って頂きました。「私たちはごまかしの人生から脱却したくてカミングアウトするのです」という松浦氏からは、ステレオタイプなLGBT像とは一線を画した、傾聴に値する言葉が発せられています。

ーー松浦さんは秋田県で政治活動をされていて、マイノリティとして生きる難しさを体感していらっしゃると思います。

松浦大悟氏(以下、松浦):それはもちろんそうですね。LGBTのNPOは秋田にひとつだけありますが、月一回開かれる会合は、当事者も怯えるし、冷やかしで突然尋ねられても困るということで、開催場所を参加者にしか教えないんです。記事にも書きましたが、秋田でトランス男性が焼身自殺をした際に、新聞では「女性が自殺した」と報じられました。女性として見られることの苦痛によって自殺をしたのに、死んだ後まで女性として報道される無神経さが多くの地方の現実だと思います。

ーー首都圏の感覚だと、LGBTの存在が以前よりも認知されていると思いますが、地方だとそうではない、と。

松浦:地方の人口減少と言いますけれど、少なからぬLGBTが毎年3月になると「ここは生きにくい」と県外に出ていきます。仕事もないですし、自分の人生をトータルで見た時に、生涯賃金が一億単位で違ってくるわけですから。地方でLGBT活動をしようとしても、なかなか環境が整わないのが現状だと思います。今年都会に出て行ったトランス女性は、その恰好ゆえに県内では就職できず、いまタクシー運転手になるため東京で頑張っています。

ーーそういった中で選挙を戦うのは相当な逆風があったと思います。

松浦:私は議員になる前はアナウンサーでしたけれど、周囲にはカミングアウトをしていて、講演会では既にしゃべっていました。最初の選挙(2007年参議院議員選挙)の時に秋田ローカルの雑誌で取り上げられて、「同性愛者で他県出身の松浦に食われるかもしれない」とタイトルに書かれた雑誌が書店に平積みになりました。雑誌が発売になって、地元の秋田魁新報の記者さんが来て「松浦さんはゲイなんですか」と聞かれて「はい、そうです」と答えました。その記者さんはペンを持つ手が震えていました。「これを伝えることでこの人が落選するかもしれない」というプレッシャーの中での取材だったと思います。その記事は結局出ませんでした。そういった中で選挙を戦ったんです。

ーー2017年の衆議院議員選挙の後にカミングアウトされました。その時の心境を教えてください。

松浦:衆議院議員選挙でカミングアウトしたかったのは、「人生の中で嘘はつきたくない」と思ったからなんです。最後の選挙かもしれないから、全身全霊で戦いたい。それで、なんとかライフ・ストーリーを新聞に取り上げてもらいたいとLGBT活動家の仲間に声をかけたのですが、メディアには無視をされました。理由として聞かされたのは「選挙前にひとりの候補者をピックアップすることはできない」ということでしたが、これまで記事にしてもらった候補者の例がたくさんあったので辻褄が合わないと感じました。これは証拠があるわけではないのですが、LGBTに関心のあるメディアはリベラルが多く、自分は希望の党から出馬していたので、LGBT問題をリベラル政党の政治的なアドバンテージにしたいという人たちにとっては受け入れたくない現実だったのではないかと思います。

ーーことに政治家という存在は、何をするにしても批判の目で見られると思います。

松浦:カミングアウトした時には「LGBTを票として見ているんじゃないか」とも言われました。でもそうではないと言いたい。LGBTが暮らしやすい社会は、高齢者にとっても、障がい者にとっても、シングルマザーにとっても、誰にとっても生きやすい社会なのです。LGBTという視点からこの国の制度を再点検することは大切な仕事だと思います。「カミングアウトしたければ街頭演説すればいいじゃない」とも言われました。しかし、地方は車社会なので、言葉が届きません。「選挙広報でやればよかった」という人もいますが、「ゲイです」の一言しか書けない。真意が伝わらないと思いました。そういう面でメディアに取材してもらえなかったのは残念でした。

ーーLGBTの法制という面では婚姻と戸籍の問題がありますが、ご自身のお考えは?

松浦:長年連れ添った同性カップルの皆さんは、やはり社会の中で自分たちのことを認めてもらいたい。法のもとの平等において、公正な社会を実現してもらいたいという気持ちが強いと思います。同性婚は、制度ももちろんですが、それと同等に国家による承認という意味合いが大きい。そのことによってプライドを取り戻せるという側面があって、制度を超えた波及効果があるだろうと思います。ただ、文化面も含め国民生活の大きなパラダイムシフトになるわけですから、国民全体を巻き込んだ議論が必要だと思います。

ーー現行の憲法24条で同性婚が可能だという解釈もあります。

松浦:国民の多くが現行憲法で同性婚ができると想定していない中で、学者がいくら条文解釈でできると言ったとしても、ご都合主義の誹りを拭うことはできません。憲法がどんどん国民から乖離していくことになってしまう。憲法は学者の専有物ではなく国民みんなのものです。私は堂々と憲法改正の議論をして、将来的には国民の意志で同性婚を選び取ったという社会を実現していくべきだと思います。

ーー憲法を解釈することでは、根本的な解決にはならないと?

松浦:解釈改憲で裏口入学のごとく導入すれば、いつまでも陰口を叩かれることになりかねない。自衛隊がそうです。政府は口を酸っぱくして自衛隊は合憲だと説明しますが、いまだに多くの人が違憲だという主張を曲げません。そのことによって自衛隊の家族の皆さんは悲しい思いをしています。同じようにLGBTもグレーな存在になることが予想されます。だから時間はかかったとしても正面から議論をしなければならないのです。

ーーそういった国民的な議論をする上で、メディアが重要な役割を果たすと思いますが、残念ながら現状ではそういった機能が果たせていないように感じます。

松浦:LGBTには保守もいるにもかかわらず、メディアはリベラル系のLGBT論客しか登場させません。そのことがLGBT=リベラル=護憲=反原発=反安倍政権といったイメージを作ってしまっています。しかし実際にはいろいろな考えがあって、信じる宗教との関係で絶対に同性婚は認めないという人や、高度生殖医療技術のスピードに感情的についていけないという人も多いのです。こうしたLGBTの苦悩の声はメディアで取り上げられることはありません。安倍政権を応援したいLGBTや憲法改正を支持するLGBTからすると、今のメディアの伝え方は傾きがあり、LGBT全体の総意ではないと感じられるのです。

ーー現状では「LGBT=弱者」と語られがちです。それにはメディアのバイアスがあるのでは、というのが松浦さんの問いかけということでしょうか。

松浦:NHK教育だと、LGBTを未だに福祉枠で放送することが多いです。そこに私は違和感を覚えます。確かに、小さな頃からいじめられて自尊心を傷つけられている人が多いのはそのとおりですが、明るく活発で社会人としてバリバリ働く人もたくさんいます。そういった人たちから見ると「えっ、自分たちは不幸な存在なの?」となるわけです。それが杉田議員の発言にもつながっていて、メディアがLGBTは不幸だというイメージを殊更に強調してきたことをそのまま受け取って、間違った認識になったのだと思います。

ーー保守とリベラルという対立軸と、LGBTの課題がセットで語られているような印象があります。

松浦:サイバーカスケードという言葉がありますが、今ネットの世界では自分の好きな言説しか読まなくなって分断されています。雑誌の世界も同じだと思います。リベラル系の学者は右派の雑誌には登場しない。自分たちのコミュニティーで「杉田議員ひどいわね」と言っても届かない。どうやって違う層に思いを届けるかということが、LGBTの一番の課題だと思っていましたので、それを『新潮45』でやろうとしたわけです。リベラル系の人たちは「正しいことを主張して何が悪い」と言いますが、あまりにも牧歌的すぎると思います。右派の人たちに届く言葉を発明しないといけないんですよ。リベラルの言葉と保守の言葉をつなげることができる書き手が今こそ必要です。

ーーリベラルではない性的少数者という人たちも多いというのがご自身の主張です。

松浦:政治の世界では、保革全面対決国会です。以前のような提案型野党は廃れ、完全対決型野党になっています。それに呼応する形でLGBT運動にもイデオロギーが持ち込まれてしまうようになりました。実は、保守のLGBTの人たちは大変多いんです。電通の試算では、日本の人口の7.6%、9613000人がLGBTとなっていて、そのほとんどの人たちはカミングアウトをしていない「普通」に働く社会人。自分たちの暮らしを第一に考える生活保守の人たちです。その人たちの実感から、LGBT運動がかけ離れているのを憂慮しています。

ーーこれからどのような活動をしていきたいとお考えなのでしょうか。

松浦:今後も秋田で政治活動を続けていきたいと思っています。民主党が政権与党だった時代に、自殺対策の責任者として重点的に予算をつけて対策をやりましたが、やればやるほど自殺者の数が減っていくことを目の当たりにして、政治が救える命があるのだということが分かりました。法律を作ってそれを地方で実践していけば世の中がよくなっていくことが肌感覚でわかりました。多くの政治家の皆さんが気づかないような小さな声に光を当てる活動を、国会でもう一度やりたいという気持ちを持っています。

松浦大悟(Twitter)
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ふじいりょう

乙女男子。2004年よりブログ『Parsleyの「添え物は添え物らしく」』を運営し、社会・カルチャー・ネット情報など幅広いテーマを縦横無尽に執筆する傍ら、ライターとしても様々なメディアで活動中。好物はホットケーキと女性ファッション誌。

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