よい「コミュニティ」にいれば、自分の“課題”が見えて成長につながる――【働き方対談】仲山進也×佐渡島庸平(第4回)
楽天大学学長で「自由すぎるサラリーマン」として知られる仲山進也さんと元講談社の編集者でコルク代表の佐渡島庸平さんの「働き方」をテーマにした対談。第4回は対談終了後の質疑応答の時間に、佐渡島さんの新刊『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』の内容に関連して、コミュニティと働き方の関係性について語り合っていただいた。
プロフィール
仲山進也(なかやま・しんや)<写真右>
仲山考材株式会社代表取締役、楽天株式会社楽天大学学長。1973年北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、シャープを経て、楽天へ。2000年に「楽天大学」を設立、学長に就任。2004年、Jリーグ「ヴィッセル神戸」の経営に参画。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業フリー・勤怠フリーの正社員)となり、2008年には仲山考材を設立。2016年から2017年までJリーグ「横浜F・マリノス」でプロ契約スタッフ。メディアでは「自由すぎるサラリーマン」と呼ばれ、「勤怠自由、仕事内容自由、副業・兼業自由、評価なしの正社員」というナゾのポジションを10年以上続けている規格外の人物。2018年6月、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)を上梓。出版後即重版となる。
佐渡島庸平(さどしま・ようへい)<写真左>
株式会社コルク代表取締役社長。1979年兵庫県生まれ。東京大学文学部を卒業後、2002年に講談社に入社。週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)など数多くのヒット作を編集。インターネット時代に合わせた作家・作品・読者のカタチをつくるため、2012年に講談社を退社し、コルクを創業。従来のビジネスモデルが崩壊している中で、コミュニティに可能性を感じ、コルクラボというオンラインサロンを主宰。編集者という仕事をアップデートし続けている。2018年5月、『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』(幻冬舎)を上梓。
「なあんだの法則」
──いいコミュニティに所属することが、どのように仕事や働き方に影響するのかを教えてください。
佐渡島庸平さん(以下、佐渡島) 新聞でサイバーエージェントの藤田晋さんの記事を読んだのですが、ITバブルの頃のいわゆるビットバレーのくだりでは当時はまだ小規模ベンチャーだったけれど、後にインターネットビジネス界を代表するような錚々たる経営者が切磋琢磨していたことがわかります。楽天ひとつ取っても、そのコミュニティから日本を代表する経営者が輩出されているわけです。
その他、明治維新の時にしても、トキワ荘にしても、そのコミュニティの中に突然天才が現れて歴史を変えるわけではありません。人は仲間と切磋琢磨していくことでとてつもない高みにまで変化、成長していくと思うんですね。『ドラゴン桜』の中で主人公の桜木が、「なぜ東大に合格するのは進学校の生徒が多いのか」という話をする時に、「なあんだの法則」と言うんですよ。すなわち、高3のギリギリまで遊びまくってて模試で10点しか取れないような落ちこぼれ生徒が、そこから1年間勉強して東大に受かる。それを見たたくさんの生徒が「なあんだ、あいつでも入れるなら俺も努力しよう」と合格のイメージが湧くことで努力して実際に合格するというわけです。
仲山進也さん(以下、仲山) 僕が楽天でやってきたこともそれと全く同じですね。出店している店長さん同士を繋げてきているのですが、「あいつが成功できたんだったら俺もできるかも」というのが一番の刺激になるんですよね。先ほどの(※第2回参照)フローの図で説明すると、挑戦する時に不安ゾーンに入るんだけど、「あいつができたんだったら」と思うことで不安ゾーンに飛び込まずに頑張れちゃうようになるんです。
佐渡島 人は人と比較する生き物ですからね。比較対象がなくて不安ゾーンに入ると自分の成功イメージが湧きにくいからうまく頑張れないし、努力が継続できないんですよね。これは僕の新刊『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』の中でも書いてるんですが、「安心とはイメージできること」。コミュニティの中にいると成功している人がいるから成功イメージが湧きやすくなるわけです。そうすると同じ挑戦でも安心ゾーンで挑戦できる。同じ1年間努力するのでも、いるゾーンが安心と不安とでは成果が全く違いますよね。
仲山 継続力も違ってきますよね。
佐渡島 そうですね。それとこれは学長(仲山さんの愛称)との対談でも話した「課題=理想-現実」と同じで(※第2回参照)、理想と現実がわかって初めて課題がわかるので、そこから努力して理想を実現させる、成長できるということだと思います。だからさっきの、昔、インターネットベンチャー企業が集まったビットバレーの話にしても、理想的な上場をしている経営者と現実の自分を見ると課題がわかるじゃないですか。つまりそのコミュニティにいると成功している人とそうじゃない人が混在しているから理想と現実が見えやすい。だから成長しやすい。一方、別のコミュニティにいると成功している経営者は自分が知らない特別な何かを知ってるんじゃないかと妄想が働いて、結局自分には無理だとかこれだけ努力しても足りないんじゃないかと気持ちが萎えてしまい、継続した努力ができない。けっこう重要なのが、大成功している経営者って意外と24時間がむしゃらに頑張っているわけじゃなくて、遊んだり休んだりしている人が多いってことです。
東大受験の話にしても、東大に受かるために1年間ものすごく努力しようと決めた時、実際に受かった人の具体的な勉強時間とか、合格するために必要な勉強時間などの情報を知っているのと知らないのとじゃ全然違うわけですよ。人ってそんなに強くないので、1人だけで突出してものすごい高みにまで到達することは難しい。だから1.1の成長をしているコミュニティの中に入って、同じ価値観を共有する仲間たちと切磋琢磨すれば、自分自身も人間的にガーッと成長していく。そうなると自然と仕事やプライベートにいい影響が出る。つまり、自分を高めるためには、上手にコミュニティ選択をするのが楽な方法じゃないかなと思ってます。
仕事の成果=コミュニティ
仲山 自分の周りにコミュニティができている状態の時って、そこから自分だけを動かしたり抜いたりはできなくなるんですよね。例えば僕の周りには楽天の店長さんコミュニティがあるので、もし誰かが恣意的に「仲山だけを排除しよう」と思ったとしても、引っ張ったらつながっている人たちもズルズルと動いちゃうことになります。
楽天も三木谷さんが「楽天経済圏を作るんだ」と言っていますが、これも同じことで、自分の周りにコミュニティ、ネットワークがある状態を作ると、居場所が確立しやすくなるということだと思うんです。また、大きな変化の波が襲って来たとしても、みんなと繋がってるといろんな人が支えてくれるからそうそう危機的状況には陥らない。一方、コミュニティに所属していない人は大海原に1人で船の上に立っていて、大波が来たら一発でフラフラになる、というイメージです。そういう意味でもコミュニティはとても大事です。
僕の場合は人との信用や信頼が生まれると繋がりも生まれて、それが結果としてコミュニティのようになっている。そう考えると「仕事の成果=コミュニティ」かなと。それに気づくと、コミュニティをうまく活かしながら仕事ができるようになって、より成果が出て、コミュニティもより豊かなものなる。好循環が生まれて、いろんなメリットがある状態が確立していく感覚があります。
成長できるコミュニティの見つけ方
──自分が成長できるいいコミュニティってどうやって見つければいいんですか?
佐渡島 成長している人がたくさん出てるコミュニティを選べばいいんですよ。高校や大学を選ぶ時も、高校ならOBがどんな大学にどれだけ進学しているか、大学ならどんな会社にどれだけ就職しているかを見て選びますよね。それと同じです。
仲山 まずは自分の好みと好みでないをちゃんと明確にすることが大事。サディ(佐渡島さんの愛称)がさっき、「自分と価値観の違う経営者が何を言っていても気にならないけど、同じ価値観をもっている経営者と判断が違っていたら気になる」と話していた通り(※第3回参照)、自分の価値観をちゃんと整理して、それをちゃんと共有できるような人が集まっていると思えるコミュニティに入ればいいんじゃないですかね。
ただ僕の場合、そもそもコミュニティは「入る」ものじゃなくて「自分で作る」ものという感覚です。自分でおもしろいことをやったり、さっきも言ったように価値観が同じと思う人同士を繋いだりしていたら自然と周りに人が集まっていることが多いので。だから、コミュニティに入ることについて会社に入社するような感覚をもっている人が多い気がするんですが、そうと決まっているわけじゃなくて、自分で作るということも選択肢としてもっていればいいんじゃないかなと。そっちの方がおもしろいし、仕事の成果も出しやすいと思います。
連載:【働き方対談】仲山進也×佐渡島庸平 記事一覧はこちら 取材・文・撮影:山下久猛 協力/青山ブックセンター
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