中途半端な「結果」は、出したくない!ならば、“減らす達人”を目指せ――マンガ『インベスターZ』に学ぶビジネス
『プロフェッショナルサラリーマン(プレジデント社、小学館文庫)』や『トップ1%の人だけが知っている「お金の真実」(日本経済新聞出版社)』等のベストセラー著者である俣野成敏さんに、ビジネスの視点で名作マンガを解説いただくコーナー。今回は、三田紀房先生の『インベスターZ』の第26回目です。
『インベスターZ』から学ぶ!【本日の一言】
こんにちは。俣野成敏です。
名作マンガは、ビジネス書に勝るとも劣らない、多くの示唆に富んでいます。ストーリーの面白さもさることながら、何気ないセリフの中にも、人生やビジネスについて深く考えさせられるものが少なくありません。そうした名作マンガの中から、私が特にオススメしたい一言をピックアップして解説することによって、その深い意味を味わっていただけたら幸いです。
©三田紀房/コルク
【本日の一言】
「決断とは“切って離す”ということだ」
(『インベスターZ』第5巻credit.37より)
大人気マンガの『インベスターZ』より。創立130年の超進学校・道塾学園にトップで入学した主人公・財前孝史は、各学年の成績トップで構成される秘密の部活「投資部」に入部します。そこでは学校の資産3000億円を6名で運用し、年8%以上の利回りを上げることによって学費を無料にする、という極秘の任務が課されているのでした。
テニス部員が“壁打ちテニス”に負けた理由とは
投資部のキャプテン・神代(かみしろ)は、体を鍛えるために毎日夕方、テニスの壁打ちを日課にしています。この「壁打ちしかしていない」はずの神代が、テニス部の部員・林に試合を申し込み、ワンセットマッチで勝利を収めました「結局、『ミスをしない』が“最強”のビジネススキルーーマンガ『インベスターZ』に学ぶ」参照)。
負けた林はすっかり自信を失い、「テニスをやめる」と言い出します。困ったテニス部のキャプテンが、神代にそのことを告げに行くと、神代は林に向かって「どうして自分は負けたのだと思う?」と尋ねます。神代の答えは「君は何でもかんでもやろうとしすぎた」というものでした。
「スティーブ・ジョブズはかつてこう言っている。『何をしてきたかと同じくらい、何をしてこなかったかを誇りたい』と。すべてのプレーでうまくやろうとしすぎれば、かえって中途半端でミスだらけのプレーヤーになってしまう。それよりは『このプレーだけは絶対に負けない』というものをひとつ見つけることだ」という神代の言葉に、林もようやく思い直すのでした。
持てる力を集約させれば“大きなパワー”となる
神代の言った「あれもこれもとやることを増やしてしまう時というのは、決断できていない時だ」という言葉には、私も大いに頷くところがあります。例えば事例にも挙がっているアップルの創業者、スティーブ・ジョブズ氏は“やることを減らす”達人でした。
アップルは今に至るまで、時価総額で世界のトップを走る大企業ですが、それだけ規模の大きなメーカーでありながら、「扱っている製品が他の企業に比べて圧倒的に少ない」という特徴があります。ジョブズ氏は自分の会社を1度追い出され、戻ってきてみると、同社には40種類もの製品がありました。氏はそこから徹底的な取捨選択を行い、最終的には自社商品を2種類のノートパソコンと2種類のデスクトップに集約させました。
ジョブズ氏の復帰後アップルは、ヒット商品を重ねる快進撃を始めます。氏は生前、「何かを捨てなければ前に進むことはできない」という言葉を残しています。このように、「何をするのか?」ということ以上に、「何をしないか?」を決めるのは重要なことなのです。
今あるものを捨てることによって“得られるもの”
さて。中小企業庁の調査によると、現在、日本の企業の約99.7%は中小企業が占めています。その中には、社長が営業も兼務していたり、ビジネスオーナーが自ら店長としてお店に立っている例も多く見られます。
私も現在、店舗型ビジネスを複数所有していますが、ビジネスオーナーに徹すべく、実務は何も行っていません。しかし、サラリーマン時代に社内ベンチャーで店舗型ビジネスを起業した当初は、私も店長と経営者を兼ねていました。ところが興した事業が時流に乗って大ヒットし、半年後には2店舗目を出店。1年後には4店舗にまで増えました。
当初、私は2店舗の店長を兼務しながら、さらに会社の経営者として、従業員に会社の未来像を示さなければなりませんでした。「自分のビジネスを、自分の手の届く範疇(はんちゅう)に留めておくか?それとも他人に託して、より大きな成長を目指すのか?」私は判断を迫られた結果、完全にプレーヤーとしての自分を捨て、マネージャーとして生きていくことを決断しました。
それまでの慣れ親しんだ世界を捨てるというのは、痛みを伴うものです。昨日上手くいったことの延長戦で考えるほうが、どう考えても楽だからです。
同じ社内のことながら、プレイヤーとマネージャーの職務の期待感には、転職したと同じくらいの隔たりがあります。それでも新しい世界を目指した結果、私は自分自身にマネジメントの素質がある、ということを発見しました。プレイヤーとしてもそこそこはやれていましたが、そのプレイヤーという立場を捨て、マネジメントに徹することで桁違いの成果を出すことができました。まさに、古い世界と決別したことによって、新しい可能性の扉が開かれたのです。
制約条件こそが“新しい創造”を生む
決断とは、字のごとく「決めて断つ」ことです。なぜ“断つ”必要があるのかというと、逃げ場があれば、人は言い訳をする達人になるからです。先のジョブズ氏も、「後戻りできない状況に自分を追い込むんだ。そうすればもうやるしかない」と話しています。
なぜなら、人が決めなければいけない理由は、自分の時間が有限だからです。しかし、有限だからこそ、人はその「限られた時間をどこに投じれば、もっとも高い成果を出せるのか?」と考え、ベストを尽くすのではないでしょうか?
俣野成敏(またの・なるとし)
大学卒業後、シチズン時計(株)入社。リストラと同時に公募された社内ベンチャー制度で一念発起。31歳でアウトレット流通を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、さらに40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)と『一流の人はなぜそこまで、◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に12万部を超えるベストセラーに。近著では、日本経済新聞出版社からシリーズ2作品目となる『トップ1%の人だけが知っている「仮想通貨の真実」を上梓。著作累計は40万部。2012年に独立後は、ビジネスオーナーや投資家としての活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設。マネースクール等を主宰する。メディア掲載実績多数。『ZUU online』『MONEY VOICE』『リクナビNEXTジャーナル』等のオンラインメディアにも寄稿している。『まぐまぐ大賞2016』で1位(MONEY VOICE賞)を受賞。一般社団法人日本IFP協会金融教育顧問。
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