「クズ」を演じさせたら日本一!個性派俳優【新井浩文】ロングインタビュー<前編>

「クズ」を演じさせたら日本一!個性派俳優【新井浩文】ロングインタビュー<前編>

クズ男から弁護士、刑事、ビジネスパーソン、戦国武将に幕末の志士、ゴリライモ……。ありとあらゆる役を見事にこなし、しかも短時間でも強烈な存在感を残す俳優・新井浩文さん。Twitterによるドラマ実況も大きな話題に。また、アニメのキャラクターのモチーフにもなり、とうとう声優も務めることに。俳優、声優、実況もいけちゃう唯一無二の存在、新井浩文さんはいかにしてできあがったのか。ロングインタビュー。

すべては、偶然の出会いから始まった

――俳優になったきっかけは、どのようなものだったのですか。

新井:ウチ(※編集部注 新井さんは自分のことをこう呼ぶ)は青森出身なんですが、「有名になりたい」と漠然と思っていたんですよね。高校時代、東京のファッション誌の地方撮影で取り上げられたりもしていて。卒業したら、日本映画学校に行こうと思っていました。

ところが、部活の卓球は頑張っていたけれど、高校にはほとんど行っていなくて。インターハイが終わって進路相談のとき、欠席が多いから学校への推薦を出せないと先生に言われてしまったんです。それで、学校にいる意味ない、と高校を中退しました。その後1年くらいアルバイトをして、19歳のときに一人で上京したんです。そうしたら偶然、映画のプロデューサーと出会うことになって。

 

――映画監督であり、プロデューサーでもあった荒戸源治郎さんですね。どんな出会いだったのでしょうか。

新井:友達3人で飲んでいたんですが、まわりのお客さんに「監督、監督」と言っている人がいて。それが荒戸さんでした。実は初対面のときは、うさんくさいな、誰だよ、と思っていて(笑)。ただ、荒戸さんに名前を聞いたんですよね。

それで、友達の一人が映画学校に通っていたので、戻ってすぐに調べたんです。そうしたら「あの人、本物のプロデューサーだった」と言うわけです。ウチはまた次の日、一人で同じ店に飲みに行ったんですが、そこでまたばったり会って。本物ですから、手のひらを返すようにしっかり話して(笑)。

なんで昨日、名前を聞いたのか。俳優をやりたいのか。そんな話から、「この業界は社会不適合者がやる仕事、社会になじめるのならやめたほうがいい」という話を延々としてもらって。

当時は若かったので理解不能でしたけど、今はすごく理解できます。会社や社会になじめる人もいれば、なじめない人もいる。どちらが良い悪いではなく、人それぞれの居場所があるのだと。だから今はウチも言いますもん、若い子には。社会(会社などの組織)に入れるなら、辞めたほうがいい。社会に入れないなら、可能性があるかもしれない、と。

 

――それで、どんなことが起きたのでしょうか。

新井:それから3年間、ずっと一緒に遊んでました。荒戸さんのことが大好きだったし、荒戸さんもウチのことが大好きだったと思う。すべては、偶然の出会いから始まったんです。今もずっとそうなんですけどね。

事務所を紹介してもらって、オーディションを受けるようになったんですが、荒戸さんからはこう言われていました。見られるのではなく、見に行けと。気に入らなかったら帰ってもいい。わざと落ちにいってもいい。役は必ず取る必要はないから、と。実際、ウチは2回くらいオーディションの途中で帰ったことがあります。事務所に言われて来ただけなので、と。今考えると、すごく生意気なんですが。

あるとき、事務所の人たちと映画の試写会に呼ばれて行ったら、「荒戸さんに拾われた奴はどいつだ」と人に声をかけていただいて。それで連れて行かれたのが、豊田利晃監督の『青い春』のオーディションでした。これが最初の映画出演になりました。

演技って勉強できるものではない

――演技を学校とかで学んだわけではないですよね。どうしたんですか。

新井:監督に教わりました。『青い春』で初めて演技をしてお金をもらいましたが、プロとしては教わっちゃいけなかったのかもしれません(笑)。でも、右も左もわからないから、結果、教わった形になりましたよね。まわりのみんなも話しかけてくれたし。演技って誰でもできると思いますよ。120%できます。ただ、1本目に限り、ですけどね。

若い頃は経験が少ないし、自分のオリジナルを見つけられませんでしたから、その意味では、いろんな監督と仕事をして、監督に恵まれて、いい演出を受けられたことが大きかった。監督の要求にいかに応えられるか。理想があったとすると、理想以上を毎回見せられたら、いいに決まっています。最初のお客さんですから、監督は。

だけど、そうもできないこともあった。いろんな監督がいますから。話をしてくる監督もいれば、そうじゃない監督もいる。まぁでも、半日も一緒にいればわかります。

さすがに20年近くやっていると、ある程度できて当然と思われていますから、できないと言わないし、言われたくないし、言わせたくないですよね。やっぱり現場でどう監督の期待に応えるか、なんです。

 

――ただ、ドラマ『イノセント・デイズ』では弁護士役、9月7日公開の映画『泣き虫しょったんの奇跡』では奨励会員役、ドラマ『モンテ・クリスト伯—華麗なる復讐』ではとことん嫌な男の役など、本当にいろんな役をされます。演技についての勉強はどうなさるんですか。

新井:演技が上手い下手って、よくわからないんですが、勉強しようがないんですよ。映画とかは見ますよ。発声などのトレーニングも有効かもしれない。でも、演技って勉強できるものではないとウチは思っています。

もちろん学校もありますけど、ウチは「それは意味ない」派ですね。演技にマニュアルはないと思っています。あったら簡単に真似して、こうやったらいい俳優になれる、なんてないじゃないですか。マニュアルがないから苦労して、自分でオリジナルを見つけるしかない。

 

――役作りはどうするんですか。

新井:根本がよくわかっていないんですが、ボクサーの役をやることになって身体づくりをするのが役づくりなら、それはやりますよ。『泣き虫しょったんの奇跡』では、みんな将棋の打ち方を練習していました。プロの棋士の方が何人も来てくれて教えてもらって。それはやっぱり、やっている人とやっていない人の差は出ますね。

ただ、だからといって、将棋の強い弱いは関係ないです。『泣き虫しょったんの奇跡』では、永山絢斗と駒木根隆介は強かった。実際の役は違うんですけどね(笑)。

あと、知らない世界については資料をもらえるんですよ。例えば、弁護士の世界はこんな感じ、とか。もらえなかったとしても、今はネットでいくらでも調べられる。それは役作りじゃないですね。ただの調べ物です。

『真田丸』で加藤清正の役をやりましたが、このときもNHKさんから資料をもらいました。でも、ウチはめっぽう歴史に弱いんです(笑)。しかも、加藤清正には諸説ある。そうなると、三谷幸喜さんの脚本がすべてになるわけですよ。

役作りって、ウチはよくわかってないです。基本、台本ありきで、監督ありきで、やって、というならやります。

 

――でも、『モンテ・クリスト伯—華麗なる復讐』の「かぐ兄」のクズっぷりなど、演技が本当に凄い、と感じている視聴者は多いと思います。

新井:それは監督がいいからです。監督が良ければ、良くなる。だから、初めての監督のときには、「いじったらいじっただけ伸びますよ」と伝えるようにしています(笑)。だから、しっかり演出してくださいね、と。

役作りはよくわかりませんが、人間は経験して見たもの以外からは想像できないと思うんですよ。だから、想像できるところをやる。

実はテレビを毛嫌いしていた時代があったんですが、たまたまいい監督に出会えて。間を気にしないで好きにやっていい、あとはこっちでどうにかするから、と言ってもらって。こういう信頼感がある監督だと、うれしいですよね。

ただ、『モンテ・クリスト伯—華麗なる復讐』の時は、監督が台本をガンガン変えて遊んでいて(笑)。現場に行くと、セリフを覚えてきた意味がほぼないくらいに、ああして、こうして、ということがありましたね。でも、信用していますから。信用してない監督だと文句言うかもしれないですけど(笑)。

でも、台本にセリフが書いてあって、やることは決まっているんですけど、現場で何を言うかわからない状況にする、というのは、ひとつの理想ではありますね。台本にない会話をして、キャッチボールをしていく。そういう俳優さんとやれると楽しいし、面白くなる。

声のボリュームやトーンをちょっと変えるだけでも、反応してきてくれる人がいます。そうなると生々しくなる。いかにもセリフ、ではなくなる。こういうのは好きですね。

■後編では、新井さんが考える第一線で活躍し続ける人に共通する理由や話題のTwitter実況、声優デビューについて伺いました。(後編に続く)

 

文:上阪 徹
写真:平山 諭

スタイリスト:立花文乃

ヘアメイク:岩川エリ

編集:丸山香奈枝

 

 

<衣装協力>

・ブランド名:YOHJI YAMAMOTO

・問い合わせ先:ヨウジヤマモト プレスルーム/03-5463-1500

 

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