政治ソングでアメリカ1位は難しい?ガンビーノの銃乱射とガガの同性婚(辰巳JUNKエリア)

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政治ソングでアメリカ1位は難しい?

今回は辰巳JUNKさんのブログ『辰巳JUNKエリア』からご寄稿いただきました。

政治ソングでアメリカ1位は難しい?ガンビーノの銃乱射とガガの同性婚(辰巳JUNKエリア)

ガンビーノの銃乱射とガガの同性婚

 CINRA.NET『“This Is America”に揺れる現代と、リオン・ブリッジズの物語 *1 』で触れたチャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』。寄稿コラムにおいては、様々な社会問題を描いた作品であることを紹介した。こちらの記事では「アメリカで政治ソングが1位を獲得することは稀なこと」、だからこそ「10年代USで首位に輝いた2つの政治ソングはその内容とタイミングが的確だったこと」を伝えたい。

*1:「 “This Is America”に揺れる現代と、リオン・ブリッジズの物語」2018年05月23日 『CINRA.NET』
https://www.cinra.net/column/201805-leonbridges

『This Is America』のような政治/社会問題ネタはヒットしやすいのか?


「Childish Gambino – This Is America (Official Video)」 『YouTube』
https://www.youtube.com/embed/VYOjWnS4cMY

 2018年5月、チャイルディッシュ・ガンビーノ『This Is America』がHOT100首位デビューを飾った。とくに話題を呼んだのはハイコンテキストなMVだ。リリースされるやいなやネットやメディアで数多の考察を巻き起こした。その注目度を立証するように、初週ストリーミングの68%がMV視聴となっている※1。『This Is America』以前のガンビーノのチャート最高記録は12位。彼にとっても大きな飛躍だったことがわかる。そこで見かけたある意見:「ガンビーノはヒットしやすい政治ネタで1位を獲った」。確かに、明らかに政治的とされる社会問題を描きながらも真意がハッキリとしない本作は“考察合戦”を呼ぶ作りだ。アメリカ社会の現状を批判する内容であることは歌詞を聴いただけでわかる。注目度の高い社会問題はマスメディアにも報道されやすいだろう。しかしながら「政治ネタをやればヒットしやすい」旨には疑問を呈したい。アメリカのHOT100においては、むしろ政治性が無いほうが高順位を狙いやすいのが通説だからだ。

2010年代US1位の政治ソングはたった2曲?HIPHOPヒットも政治性は薄い

歴史的に、政治的メッセージやシリアスな社会問題を描く楽曲がチャート1位を獲得することは非常に稀です

– What Was The Last Political Song To Hit No. 1 Before Childish Gambino’s ‘This Is America’? *2

*2:「What Was The Last Political Song To Hit No. 1 Before Childish Gambino’s ‘This Is America’?」2018年05月16日 『Forbes』
https://www.forbes.com/sites/joevogel/2018/05/16/what-was-the-last-political-song-to-hit-no-1-before-childish-gambinos-this-is-america/#72d82c915acc

CNN *3 のハンター・シュワルツは『This Is America』を「レディー・ガガ『Born This Way』以来はじめて首位を獲得した明確に政治的な楽曲」と位置づけている。たしかに、トランプ政権期の首位シングルを振り返っても『Despacito』『God’sPlan』『Shape of You』など「明確なポリティカル・トラック」とは言われないであろう曲ばかりだ。「政治的」の定義をどうするかという問題はあるが……これが複数メディアの見解である:ヒットを狙うならば、リスナーを選んでしまう「政治要素」は少ないほうが良い。 Forbes *4 のジョー・ヴォーゲルは、政治的プロテストや社会的意識の高いNo.1ヒット曲は70-80年代に比較的多く、90年代から減少していったとしている。この通説は、政治的プロテスト性が強いとされるHIPHOPにおいても適用されるかもしれない。

*3:「Most political songs don’t go No. 1. ‘This is America’ just did.」2018年05月15日 『CNN International』
https://edition.cnn.com/2018/05/15/politics/this-is-america-goes-no-1/index.html

*4:「What Was The Last Political Song To Hit No. 1 Before Childish Gambino’s ‘This Is America’?」2018年05月16日 『Forbes』
https://www.forbes.com/sites/joevogel/2018/05/16/what-was-the-last-political-song-to-hit-no-1-before-childish-gambinos-this-is-america/#71ee1a25acc2


「Kendrick Lamar – DNA.」 『YouTube』
https://www.youtube.com/watch?v=NLZRYQMLDW4

 PigeonsandPlane *5 は、2016年と2017年に高いチャート成績を記録した40曲のRAPソングの「政治性パーセンテージ」を調査している。ここでも「政治性」の定義をどうするかの問題はあるが──P&P調査で「政治的リリックが15%以上」と判定されたのは40曲中4曲で、そのうち3曲がケンドリック・ラマーとJコールの2人によるもの。「政治的ラインが皆無」な曲は、40曲中27曲。HOT100首位獲得ソング『One Dance』を収録したドレイクのアルバム『Views』には「明確に政治的なライン」が一つも無いとしている。政治的プロテスト要素の強いジャンルとして知られるHIPHOPにおいても、P&PはForbesやCNNと同様の結論に至っている:「ヒットを狙う場合、政治要素は少ないほうが良い」

チャートのトップ領域は、つねに「リスナーたちに現実逃避させる楽曲」の場所だった。このリサーチは、以下のことを示すかもしれない。リスナーが惹かれるのは気楽なコンテンツ──政治や終わらぬニュース・サイクルから逃げ出すことを助けるものである

 引用元:Did Mainstream Rap Get Less Political in 2017? | PigeonsandPlanes *5

*5:「Did Mainstream Rap Get Less Political in 2017?」2018年01月10日 『Pigeons & Planes』
https://pigeonsandplanes.com/in-depth/2018/01/rap-less-political-2017-data-analysis

US1位ヒット政治曲のタイミング:同性婚合法化と銃乱射事件

 政治色の強い曲は首位を取りづらいからこそ、強い政治メッセージを持つ作品でNo.1に輝いたとされるガガとガンビーノの時期が良かったのは確かだろう。言い換えれば、2人とも「(ある程度の規模の)世相が求めるもの」をポピュラーソングとして見事に提示している。


「Lady Gaga – Born This Way」 『YouTube』
https://www.youtube.com/watch?v=wV1FrqwZyKw

 レディー・ガガのLGBTアンセム『Born This Way』が首位を記録したのは2011年。話題となったのは「神はセクシャルマイノリティを肯定する」メッセージだ。冒頭から「神を愛する男性同性愛者でも問題は無い」主張が歌われている※2。さらには「LGBTでも問題無い」「神は間違わない」と発せられる。のちにリリースされた『Judas』ほどではないが、この曲もキリスト教の観点で議論を呼んだ。変化が見られるといえど、アメリカの伝統的なキリスト教徒にはアンチ同性愛が多いとされる。国民の25%ほどを占めるとされる福音派プロテスタントにおいては、2014年のピュー研究所調査 *6 でも「同性愛は社会に受け容れられるべきではない」回答が55%。また、共和党・民主党支持者間でも同性愛の許容に差がある。同研究所調査 *7 を見ると「同性愛は社会に受け容れられるべき」と回答した民主寄りの層は1994年時点で過半数を超えている。一方、共和寄りの層が50%以上を記録したのは2015年以降である。このような状況を鑑みれば、神の見解として同性愛を肯定した『Born This Way』は、当時のアメリカ社会で「強烈な政治的プロテスト」と捉えられてもおかしくはない。

*6:「Views about homosexuality」『Pew Research Center』
http://www.pewforum.org/religious-landscape-study/views-about-homosexuality/

*7:「5. Homosexuality, gender and religion」2017年10月05日 『Pew Research Center』
http://www.people-press.org/2017/10/05/5-homosexuality-gender-and-religion/

 一定数から批判されたガガのアンセムだが、実は、見事に時勢と合致するものだった。同性愛を肯定する『Born This Way』が1位を獲得した2011年は、アメリカで同性婚合法化の支持率が反対派をはじめて超えた年だ※3。主流派プロテスタント白人層とカトリック信徒の支持率も50%を超えている(一方で福音派プロテスタント白人層の支持率は16%)。この後、アメリカにおける同性愛差別反対の機運は更に高まっていく。翌年、バラク・オバマがアメリカ大統領として史上初めて同性婚を容認する姿勢を公にした。2015年には連邦最高裁判所が同性婚を憲法上の権利だと認めている。

https://youtu.be/VYOjWnS4cMY?t=1m54s

『This Is America』銃乱射シーン:おそらく2015年黒人教会銃乱射事件がモチーフ

 ガガと同じく、ガンビーノも作品内容が時勢と合致していた。本作で話題になったトピックは、ブラック・カルチャー、人種問題、そして銃乱射事件だ。ピュー研究所調査 *8 では、アメリカにおける18-29歳の銃規制支持率は2017年に12%急増し58%に到達している。1993年から始まった同調査における最大の増加率である。この調査ののち、アメリカ史上最多の死傷者を出したマス・シューティング、ラスベガス・ストリップ銃乱射事件が発生。2018年2月にはフロリダ高校銃乱射が起き、銃規制デモも活発となったことから、若者の銃規制支持率は更に上がるかもしれない。近年、アメリカでは特に学校での銃乱射事件が急増しているとされ「21世紀に入ってからたった18年で20世紀全体の死者数を上回った」と報告されている。『This Is America』がリリースされた約2週間後にはテキサス州サンタフェ高校銃乱射事件が起こっている。銃乱射の定義はわかれるものの、非営利組織Gun Violence Archiveは「2018年はほぼ毎日銃乱射が起こっている」旨を発表 *9 した(138日中101件、18年5月18日時点)。銃乱射事件は日常。これがアメリカなのである。

*8:「5. Homosexuality, gender and religion」2017年10月05日 『Pew Research Center』
http://www.people-press.org/2017/10/05/5-homosexuality-gender-and-religion/

*9:「アメリカで続く銃乱射事件 —— 2018年の発生ペースは”ほぼ毎日のように”」2018年05月21日 『BUSINESS INSIDER JAPAN』
https://www.businessinsider.jp/post-167859

Yeah, this is America (woo, ayy)
イエーイ これがアメリカだ

Guns in my area (word, my area)
近所は銃だらけ

I got the strap (ayy, ayy) I gotta carry ‘em
俺はストラップをつけ 銃を持ち歩く

– Childish Gambino『This Is America』

銃は丁重に扱われる

劇中、人を殺した銃は、被害者黒人の死体よりも丁重に扱われる

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「 “This Is America”に揺れる現代と、リオン・ブリッジズの物語」2018年05月23日 『CINRA.NET』
https://www.cinra.net/column/201805-leonbridges

 ケンドリック、ビヨンセ、カニエ、そしてガンビーノ……2018年、ブラックカルチャーが激動するなか新作をリリースしたリオン・ブリッジズの物語を紹介。サム・クックの再来とまで称された正統派レトロ・ソウル歌手が何故「白人向け」と反感を買ったのか?『This Is America』が議論を活性化させた「カルチャー上の黒人像」問題の複雑さ、そしてブリッジズの挑戦とは……《PR記事》

「ビヨンセがコーチェラで魅せた「Beychella」の歴史的意義。紋章を解読」2018年04月30日 『CINRA.NET』
https://www.cinra.net/column/201804-beychella

 『This Is America』と並ぶ2018年ブラックカルチャーの象徴。ビヨンセのコーチェラ・パフォーマンスの歴史的意義についてこちらで考察しています。

(2018年8月16日:寄稿にあたり細部を修正しました。主旨は変えず、根拠不足ラインの添削、データや説明の追加など)

※1:Childish Gambino’s ‘This Is America’ Is No. 1 On The Streaming Songs Chart | Billboard*7

※2:冒頭のリリックは“It doesn’t matter if you love him or capital H-I-M”。大文字のHIMは神を指す。わざわざ「問題は無い」と強調していることから、同性愛を否定する信仰に関するメッセージだと推測できる。また、ガガの性的な表現、罪を背負うとされる人類を「完璧」と称するラインも議論が呼んだ

※3:Changing Attitudes on Gay Marriage | Pew Research Center*8

*10:「Historic Video Views Drive Childish Gambino’s ‘This Is America’ to No. 1 Debut on Streaming Songs Chart」2018年05月17日 『billboard』
https://www.billboard.com/articles/columns/chart-beat/8456501/childish-gambino-this-is-america-no-1-streaming-songs-chart

*11:「Changing Attitudes on Gay Marriage」2017年06月26日 『Pew Research Center』
http://www.pewforum.org/fact-sheet/changing-attitudes-on-gay-marriage/

執筆: この記事は辰巳JUNKさんのブログ『辰巳JUNKエリア』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2018年08月17日時点のものです。

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