小さな会社から「巨大ロボット」が誕生した理由――榊原機械株式会社・南雲正章氏
酪農用ふん尿処理機などの産業機械や環境保全機械などのメーカーとして1972年に群馬県に誕生した榊原機械。同社では現在、テレビ局や企業、大学などのイベントなどで来場者の注目を集めるアニメから飛び出したような巨大ロボット(アミューズメント機器)も積極的に開発しています。
産業機械メーカーがアニメに出てくるような巨大ロボットを作る…。そんな「夢物語」が実現できたのは、いったいなぜでしょうか。今回は、開発課の南雲正章さんに「ロボットを作るまでの経緯」「開発中のエピソードや苦悩」「今後のロボット開発」などを伺いました。
プロフィール
南雲正章(なぐも・まさあき)
榊原機械株式会社 開発課
1997年に埼玉工業大学工学部機械工学科卒業。大学卒業後は機械設備の会社に就職し、機械設計を担当。設計のみではなく、もっと幅広い工程で機械作りに携わりたいと考えていたとき、榊原機械に出会う。社長の機械開発の姿勢に共感し、転職を決意。現在に至る。
転職して力を試せる環境へ。しかし、失敗からのスタートだった
榊原機械と出会ったのは偶然です。当時、機械整備の会社で設計の仕事に携わっていましたが、そのうち「機械製造の工程すべてにかかわり成長したい」と考えるようになり、転職先を探していたのです。そこで初めて出会った榊原社長が「うちでは設計から製造まで、すべて一人に任せる。助言はするが南雲さん主導でモノづくりに携わってほしい」と言ってくださって…。まさに自分がやりたいことができる、と転職することに何の躊躇もありませんでした。
入社して、最初に担当したのは、実車から離れた場所でも操作することができる遠隔監視用走行車でした。入社前に聞いていた通り、制御以外はすべて私が担当です。階段や坂道などを想定し、10~15㎝くらいの段差にも耐え、走行できるように6輪にするなどの工夫をし、製作を進めました。しかし、結局、完成はしたものの製品としては、実用化が難しく、売ることができませんでした。場所によってはうまく作動しないなどの問題があったからです。
▲榊原機械の作業場。ここで製品の開発が行われている
この失敗は正直とても悔しかったです。自分がやりたかったことに初めて挑戦でき、喜んで取り組んでいたのもありますが、設計の段階では、「これでいける」と思えたものが、実際に組み立ててみると思い通りにいかない。製品開発の中ではよくあることなのですが、前職では各工程の担当者と打ち合わせしながら、設計自体を見直すので、どこかのタイミングで気が付くことができていたんです。たった一人で製作における全工程に携わることの難しさを痛感しました。
もう失敗したくない。でもロボット製作に挑戦したかった
それでも、この失敗を別の機械の製作に活かせないものかと思案していたときでした。社長に「ロボットづくりに挑戦しないか」とアドバイスをもらったのです。確かに入社前、面接のとき、社長がロボット製作に挑戦したものの失敗したことがあるという話を聞いていました。ここで改めて、なぜ産業機械メーカーでロボットなのだろうと思ったんですが(笑) ただ、詳しく聞いてみると、実はロボットは産業機械の技術の応用ができることがわかりました。
私も、社長が挑戦したロボット製作に、自分も挑戦したいと思いました。そしてこのとき、「大人が子どものころにあこがれていたアニメに出てくるようなロボット、自分の手で操縦できるそんなロボットが作れないだろうか」と考えたんです。もう失敗したくない、そんな思いも強かったのですが、それ以上にせっかく挑戦するならば、誰もが驚き、喜んでもらえそうな、そんなロボットがいい…。私は、社長に製作にかける想いをぶつけました。本業である産業機械とも違う、社長もうまくいかなかったロボット製作です。ましてや人が乗り込めるようなロボットを製作しようと考えていたので、挑戦は難しいだろうと思っていました。しかし社長は、「相談にはのるがあとは南雲さんに任せる」と言ってくださったのです。こうして、夢のロボット製作がスタートしました。
▲ロボット内のコックピット。南雲さん自身が乗り込んで試行錯誤しながら製作していった
ロボット製作においても、大まかな仕様については社長と相談しますが、やはりすべての工程を一人で行いました。前例のないロボット製作でしたから、いくつもある部品を一つひとつ丁寧に設計し、組み立てていかなくてはいけません。前回の失敗から、不具合があれば、すぐに最初からやり直しを心がけました。
コンセプトはもちろん、社長に提案した通り「アニメに出てくるような人が乗り込めて操作できるロボット」です。なので、大人から子どもまで安心して乗り込めるように、安全性をいかに確保できるかにも力を注ぎました。実際、足を大きくしたことも安全性の確保のためです。もちろん、ただ動くだけではつまらない。よりコンセプトに近づけるために、空気銃も搭載しました。何度か企画を見直し、設計変更や部品の改良を繰り返しながらも、発想はどんどん広がっていきました。前回以上に、自分がイメージしたものを形にしている実感がありました。そして、楽しさは何物にも代えがたかったです。
こうして、約1年10カ月をかけ、「LANDWALKER」が完成しました。
▲初めて完成した「LANDWALKER」
子どもも大人も楽しめるロボットづくりに、大きな喜びがある
榊原機械にとっては、本業の産業機械とは異なるロボット製作ですが「LANDWALKER」が認知されるようになってから、本格的にロボット開発を行うようになりました。
「LANDWALKER」の技術を進化させた、高さが8.5mにもなる「MONONOFU」は、昨年6年がかりで完成しました。ほかにもたくさんのロボットが誕生しているところです。会社としても、挑戦したことのない領域での展開に思いもよらぬ効果が生まれました。
▲高さ8.5mにもなるロボット「MONONOFU」
例えば、本業の産業機械は、開発した製品によって需要が限られていましたが、ロボットは違うんですよね。
子どもがあこがれるような、アニメの世界に出てくるロボットに近づけることが目的で、あくまでアミューズメント機器。技術の集大成というよりは、「おもちゃ」と言ったほうが近いかもしれません。巨大なロボットって、昔から発想はあっても、まだ実現化できてない。一度あこがれたことがあるなら大人になっても楽しいはずなんですね。しかも、これは作り手にとっても同じことだったんです。
なので、現在、当社のエンジニアはみなロボット開発に携わっています。ロボット製作によって設計から加工、組み立て、電子制御、配線などの製造までの工程を知ることができ、構造をさまざまな角度から見直す大切さを学べる。みんなで楽しんで作るから、発想もどんどん広がっていく。結果、これが本業にも生かされると社長が製作を後押ししてくれています。
▲「キッズウォカー」「キッズウォーカー・サイクロプス」は実際に販売されている
また、これまでの地道な広報活動が実り、テレビ局や新聞社などたくさんのマスコミから取材依頼が今でも来ています。「こんなイベントはどうか」「イベントをネット配信したらどうか」と、私たちが考えもしなかった提案も受けるようにもなりました。多くの人に受け入れられることにより、私たちが想像できなかったような場所にまで、思いは届くのだと知りました。
さらに、イベントや報道を見たメーカーの方から、「このようなものをつくろうとしているのですが、御社でできませんか」「ぜひ私たちと共同開発しませんか」などとうれしい声もいただいています。「田舎の産業機械メーカーがロボット開発をしている」ということが、新規の顧客開拓につながっています。
▲顔の部分が光る、空気銃を持たせるなどして、エンターテイメント性を高めた
スタートから無謀ともいえる挑戦に力を貸してくれた社長には本当に感謝しています。
7人足らずの小さな会社でも、そんな会社でも世の中に感動を与えることができる、たくさんの人に楽しんでもらうことができる。本気でやればこれだけ多くの人たちの心を動かすことだってできる。これは会社にとっても大きな気づきになっているのではと思います。
また、製作者として、挑戦することの困難とおもしろさ、出来上がったもの喜んでもらえる人たちがいることが、仕事の原動力になっているのだと、私自身も強く感じることになりました。これからもたくさんの人に夢を届け続けることができるように、新たな挑戦をし続けたいと思っています。
文:種村俊幸 撮影:中 惠美子
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