市職員不正採用事件、「採用取り消し」処分は認められるの?過去の裁判例から考察
不正採用とされた市職員の採用取り消しは認められるのか?
山梨県山梨市における職員不正採用事件に関して、同市は、今月10日、不正が明らかとなった職員6人につき、同月31日付けで採用取消処分とすること、1人につき慰謝料40万円を支払う方針であることを明らかにしたとの報道がありました。
不正に関与していないのに採用を取り消されることには納得のいかない職員もいるようですが、このような市の処分は、そもそも許されるのでしょうか。
類似例として大分県の教員採用汚職事件を読み解く
この点を考えるにあたり参考となるのは、平成20年に発覚した大分県の教員採用汚職事件に関する裁判所の判断です。この事件で採用を取り消された職員のうち男性2人が取消処分を違法であるとして提訴し、つい最近の前月29日に上告審たる最高裁の決定が出されて最終決着を見たわけですが、1人については処分適法、他の1人については処分違法と結論付けられて、判断が分かれてしまいました。
もともと一審の大分地裁、二審の福岡高裁でも職員によって判断が分かれており、最高裁は原審たる福岡高裁の判断を維持した模様ですが、それぞれの最高裁の判断は、上告理由に該当するかという観点から形式的に判断されていたようで、判断が異なってしまった具体的な理由は示されていません。
職員の個別事情の違いで下級審の判断が分かれていた?
ただ、下級審の判断が分かれていたのは、職員の個別事情の違いに基づくものといわれています。すなわち、裁判で争っていた2人は、いずれも不正への関与がなかったと認定されている点では共通しているものの、処分取消の判断となった職員、すなわち採用取消処分を違法との判断に至った職員は、採用試験を新たに受け直し、改めて採用されたとの事情があったようです。
下級審である各大分地裁、各福岡高裁のいずれについても、同じ裁判体が判断したものではないため、この点が判断の分かれ目になったのかどうかは実際のところ判然としません。
この問題の本質は、公務員人事の公正さといった公益と、採用を取り消された職員個人の被る不利益のいずれを重視するのかといった観点から判断されるべき問題です。職員個人の個別事情によって公益が後退してしまうことなどあり得るのか、それこそ情実による判断ではないかといった考え方もあれば、それまで支障なく公務を全うしてきた職員個人の人生を狂わせていいのかといった考え方もあるでしょう。
最高裁が具体的な判断基準を示しておらず将来にも禍根を残すことに
判断が分かれて最高裁まで争われたにもかかわらず、最高裁自身が具体的な判断基準を示さないままが異なる判断を確定させてしまったため、山梨市における職員不正採用事件についても、将来、訴訟沙汰になってしまうことが予想されます。そういった意味では、最高裁の判断は禍根を残してしまったものといえ、その責任は非常に重いといえるのではないででしょうか。
(田沢 剛/弁護士)
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