わが家に合った予算・ローン[1] 両親と住む二世帯住宅を建てたいが、一度融資を断られ…
住宅の購入は多くの人にとって一生で最も高額な買い物になります。できるだけ借金はしたくないと思っても、住宅ローンを利用せずに購入できる人は、そう多くないでしょう。特に初めて住宅購入を検討している人は、自分たちで本当に何千万円も返済ができるのか、無理のない返済計画はどのように立てたら良いのか、不安になってしまうかもしれません。そこで、それぞれのご家庭の収入の状況を見ながら「身の丈に合った」借入金額や返済プラン、さらには金利を下げられる制度の活用などを「ホームローンドクター」の淡河範明(おごう・のりあき)先生に教えてもらいます。
淡河先生は銀行や証券会社などに勤務した後、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立しました。住宅ローンを検討中の人に対し、理想の住まい、そして住宅ローンの負担を減らすための提案を行っています。
今回のご相談は横浜市にお住まいの夫婦、そして妻の両親の4人です。
Aさんファミリーとご両親が住むための二世帯住宅を建てようと、夫のAさんが住宅ローンを申し込んだところ、一度審査に落ちてしまいました。お子さんも2人いるAさんたちは、果たして住宅ローンを借りられるのでしょうか? どんな考え方でローンを組めば、その後の生活を乗り切っていけるのでしょうか?【連載】教えて、ホームローンドクター! わが家に合った予算と、借り方・返し方
住宅購入に悩みはつきませんが、「予算」は最も大切なポイント。年収の何倍までとか、頭金はこれくらい必要などいろいろな情報があふれていますが、人によって、物件によって、タイミングによって変わるため、実際にはみんなに通用するセオリーはありません。いったい「わたし」「わが家」にとってはいくらの物件を買えばいいのか? ローンはどう組めばいいのか? そんな疑問に「ホームローンドクター」である淡河範明(おごう・のりあき)先生がビシッとお答えいたします。(イラスト/松元まり子)
二世帯住宅を建てたいがローン審査に落ちた! そのときの対策は
淡河範明先生(以下、先生):本日は二世帯住宅用のローンが組めなかったので、なんとかする方法はないかとのご相談ですね。ご両親の土地に二世帯住宅を建てるとか。
妻:はい、私の両親が横浜市内に土地を持っているので、せっかくだからそこに家を建てて親子で住もうという話になりまして。
夫:見積もりをとったら建築費が4000万円だといわれてびっくり! 私の収入だけではローンが組めなかったので、妻の両親が頭金として500万円を出してくれることになったのですが、それでも3500万円必要なんですよね……。
先生:ご両親からの贈与は一定金額まで非課税ですから、うれしいお話ですね。ただ、諸経費まで考えると家の建築費総額は、新築でも5%は余分に必要です。つまり住宅資金として4200万円は必要ですよ。(イラスト/松元まり子)
夫:ええ、それを後から知ってショックでしたが、貯金からねん出するしかないなと。
父:そこまで彼と話し合って、二世代ローンを組めないかという話になりました。私も再雇用ですが定収入がありますし。
妻:父が退職するころには子どもも二人とも小学生になっているので、万一のときには私が働く時間を増やして父の分まで頑張るつもりです。
先生:いいですね。二世代ローンは資金提供の方法としても有効ですし、相続においても有利に働きますから。
先生:ではAさん夫婦の今の家賃、住居費はどの程度でしょうか?
夫:家賃は12.5万円ですね。
先生:駐車場などは借りていませんか?
妻:駐車場付きの物件なので、家賃に含まれています。
先生:後はなにかこれから先に大きな出費の予定はありませんか? 例えば教育費などはどうされていますか?
夫:できればなんですけど、子どもは中学から私立に行かせたいな……と。
先生:そうなると教育資金も貯めておかなければいけませんね。
妻:はい、そのために私の収入の大半は、子どもたちの将来の学費として貯めています。
先生:ではその点も考慮して検討していきましょう。
長期優良住宅を建てるつもりのAさんには【フラット35】
先生:まずどの住宅ローンにするかですが【フラット35】を借りましょう。【フラット35】は、信用情報よりも住宅の質が重視されます。Aさんは「長期優良住宅(※)」を建てるとのことなので金利の優遇も受けられますからね。
※長期優良住宅:長期にわたって良好な状態で使用するための方策が取られた優良な住宅のこと。建築や維持保全の計画を作成して所管行政庁に申請して認定を受けることで、税金の控除などが受けられる
【フラット35】は融資額が購入金額の90%を上回ってしまうと金利がアップするため、借入金額は4200万円の90%以内、つまり3780万円以内にしておきます。【フラット35】取扱金融機関が提供する金利の範囲と最も多い金利
先生:では次に毎月の返済額を見てみましょう。【フラット35】の金利ですが、2018年6月時点の金利が1.37%です。
父:金融機関の変動金利の住宅ローンだともっと金利が安いようなので、そちらのほうがいいのではないですか?
先生:変動金利には金利上昇リスクがあります。お子さんを私立の学校に入れるのであれば、安定して支出計画が立てられる方がいいでしょう。【フラット35】には一定期間金利が安くなる優遇があるので、これをできるだけ活用しましょう。
夫:どのくらい優遇されるんですか?
先生:【フラット35】では省エネ住宅(太陽光発電が可能など、エネルギー消費が少ない住宅)やバリアフリー対応住宅、長期優良住宅を建てる人のために【フラット35】Sという制度があります。これを利用すれば10年間金利が-0.25%になります。
妻:わー! お得ですね。
先生:まだ終わりではありません。さらに横浜市は「【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型」制度(※)を利用できるので、ローン返済の当初5年間は金利がさらに-0.25%され、-0.5%の0.87%になります。(2018年6月30日時点で住宅が完成している場合の金利)
※【フラット35】 子育て支援型・地域活性化型:子育て支援や地域活性化について積極的な取り組みを行う地方公共団体と住宅金融支援機構が連携し、【フラット35】の借入金利を一定期間引き下げる制度【フラット35】Sと自治体の優遇制度を利用した場合の金利
夫:お~! そんなに変わるんですね。
先生:住宅ローンの金利は残高に比例するので、残高が多い時期の金利が低ければ負担も減ります。11年目から金利がアップしますが、そのころには子育ての負担が減ってより働けるようになっているのでは? そうすると収入も今よりも上がっているかもしれません。
毎月の返済額は以下のようになりますね。※元利均等方式とは、毎回の返済額が返済中一定額から変動しない方式のこと
Aさんファミリーの返済額月額試算
妻:今の家賃よりも全然安い! これなら貯金ももっとできるし、家計も楽になるかも。
先生:住宅を購入してしまえば、実は家計における住宅費の支出は下げられます。ただ、私の提案はこれで終わりではないのです。
4人:えっ?
住宅ローン控除を最大限活用するなら、自己資金はとっておく!
先生:住宅ローン控除を利用します。住宅ローン控除は10年間、住宅ローンの残高の1%が所得税から還元される制度で、最大で10年間、毎年40万円が所得税から還ってくるのです。さらに長期優良住宅なら10年間で最大500万円まで控除が受けられます。住宅ローン控除をフルに活用するなら、住宅ローンはギリギリまで借りてもいいのです。もちろんそもそも所得税を40万円以上払っていないと戻るものもないですけど。
夫:いやあ、そうは言っても借りるお金は少ないほうがいいでしょう?
先生:住宅ローン控除は住宅ローンの残高で還元額が決まります。住宅ローンで3500万円の融資を受ければ35万円が還ってきますが、3700万円の融資なら、37万円が還ってくるんですよ。これが10年間積み重なれば20万円近い差になります。
夫:でもその分融資の金額が多くなるので、毎月の返済やそれに伴う金利も増えますよね?
先生:確かにその考え方も間違いではありません。しかし3700万円の融資を受ければ、頭金の200万円は手元には残るはずです。その200万円を繰り上げ返済で有効活用するのです。
妻:どういうことですか?
先生:はい、今回のプランだと11年目から金利が1.37%になり、住宅ローン控除が受けられなくなるので、大幅に住居費の負担が増えます。そこで11年目に入る前に貯めていた200万円を使って繰り上げ返済を行えば、11年目からの負担を軽減できます。
借り入れた金額を示したシミュレーション表をご覧ください。ホームローンドクター淡河先生が作成したAさんファミリーの住宅ローン返済シミュレーション。4パターンの借入金ごとに、金利総支払額がどう変化するかを試算
夫:えっ?3700万円を借りたほうが金利の支払額は少なくなるんですか?
先生:はい、頭金を多く用意するよりも、借入金を増やして住宅ローン減税を活用するほうが、最終的な支払い額は少なくなるという逆転現象がここでは発生しています。借入金を増やすことをリスクと考える方は多いのですが、実は逆に頭金を多く支払うほうが出費が増えることもあるのです。
今回のシミュレーションでは、金利支払額にそれほど大きな差は出ていませんが、住宅ローン減税の効果は所得によっても異なります。そのため、いくら借りればいいのかを検討するうえでは、数パターンのシミュレーションを行って、具体的な金額を出してみることが大切です。
妻父:なるほど。ただ、それまで200万円に手を付けないでおくのが大変そうだ。できるか? 二人とも。
夫:そこはもう信じてください! やります!
先生:この返済方針のポイントは繰り上げ返済ですから、いかに貯蓄しておくかがポイントです。もし使ってしまう可能性があるなら、定期預金などにして簡単に引き出せない形にしておくのもいいでしょう。(イラスト/松元まり子)
「自由に使えるお金(フリーキャッシュフロー)」を収入の5%確保しよう
夫:これでなんとか家も建てられそうです。ありがとうございました!
先生:いえ、実はまだ重要なことが残っています。そもそも、今回の借入額で、月々の返済額で大丈夫なのか? それを考えるうえで「フリーキャッシュフロー」が大事になってくるので、最後にお伝えします。
妻:フリーキャッシュフローって、なんですか?
先生:生活の質を高めるために自由に使えるお金のことです。現在の家計の中の「自由に使えるお金」は、いくらぐらいでしょうか?
妻:月によって多少変わりますけど、だいたい3万円ぐらいですかね……。
先生:フリーキャッシュフローは最低でも年収の5%は欲しいです。Aさん夫妻の場合は年収620万円だから、5%は31万円、1カ月当たり2.58万円。現在の3万円はそれを上回っているのでOKですね。教育費はどの程度貯まっていますか?
妻:子ども2人、それぞれに300万円ずつ貯めています。
先生:それは素晴らしいですね。でも中学から私立に行くつもりがあるなら、引き続き頑張らないといけませんね。
それでは、今の情報をもとに家を購入した後のフリーキャッシュフローの計算をしてみましょう。(イラスト/松元まり子)
先生:毎月の余剰資金の3万円と家賃の12.5万円、そして積み立てている教育費から住宅ローンの返済額と固定資産税、家の修繕費、さらに今後の教育積立金を引いてください。
夫:えっと……固定資産税や修繕費ってどれくらいになるんですかね?
先生:固定資産税は横浜市に新築を建てるのであれば毎月1万円ほど、積立修繕費も後々の外壁や屋根の塗装、その他設備の交換を考えれば1万5000円ほど必要ですね。
夫:え!けっこう必要なんですね。家賃よりローンの返済額の方が安くなると思っていましたが、あまり余裕ないな……。教育費としては毎月3万円貯めていますね。今後も同じペースです。
先生:
3万円(余剰資金)+12.5万円(家賃)+3万円(教育費)-10万円(住宅ローン)-1万円(固定資産税)-1.5万円(積立修繕費)-3万円(教育費)=3万円ですね。
フリーキャッシュフロー
3万円×12カ月=36万円÷年収620万円×100=約5.8%。
年収の5%以上をフリーキャッシュフローとして貯蓄できているのであれば、最低限必要な貯蓄額には達していると思います。
夫:よかったー!
先生:将来的には10%以上の額になるようにしていただければと思います。フリーキャッシュフローは生活の余裕として充てられるお金でもありますし、また老後の生活資金としての備えにもなります。
夫・妻:はい、なんとかローンが借りられて、将来の見通しも立ちそうです。今日はありがとうございました!
夫1人で融資がおりなければ、妻の父と二世代でローンを組む、【フラット35】の優遇制度を最大限活用する、そして住宅ローン控除を活用するために、あえて融資額を増やすことで総合的な返済が減るということなど、知っているのと知らないのでは大きな出費の違いになります。また、そもそも自分たちが組む予算はこれでいいのか? 借りた後余裕がなくなって生活に困るということにならないのか? そんなことをチェックするためにも、「月々の自由に使えるお金」を確保したうえで、住宅ローンを組むことが大切になってきます。淡河 範明 ホームローンドクター日本興業銀行、エル・ピー・エル日本証券を経て、住宅ローン専業コンサルティング会社であるホームローンドクター株式会社を設立。利用者の立場にたち、住宅購入時の資金計画、住宅ローンの選び方を新しい方法で提案している。著書に『住宅ローンを賢く借りて無理なく返す32の方法』『住宅ローン借り換えマジック』などがある。
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