【否定表現 vs 肯定表現】どっちが仕事で成果を出しやすいのか?

【否定表現 vs 肯定表現】どっちが仕事で成果を出しやすいのか?

「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う山口拓朗さん。そんな山口さんに「ビジネスパーソンのためのコミュニケーション術」について伺うこのコーナー。今回は「否定表現 vs 肯定表現」についてです。

伝え方には「肯定表現」と「否定表現」のふたつのアプローチがある

指示や注意、忠告など、仕事で相手の行動を促したいときには2種類のアプローチがあります。ひとつが「否定表現」で、もうひとつが「肯定表現」です。

(1)説得力のない企画は求めていません。

(2)説得力のある企画を求めています。

(1)が「否定表現」で、(2)が「肯定表現」です。これがあなたの上司が言った言葉だった場合、あなたが気持よく言葉を受け取れるのは、あるいは、自分のモチベーションが高まるのは(1)と(2)のどちらでしょうか?

(1)では「説得力のない」「求めていません」という「否定表現」が使われています。「否定表現」で言われることで背筋が伸びる人もいるかもしれませんが、どちらかというと、慎重になったり、萎縮したりする人のほうが多いのではないでしょうか。

なぜなら「否定表現」で伝えた場合、相手に“高圧的で上から目線”と受け取られることがあるからです

一方、(2)では「説得力のある」「求めています」という「肯定表現」が使われています。「肯定表現」の場合、相手に“高圧的で上から目線”と受け取られる心配はありません。どちらかといえば、モチベーションも上がるのではないでしょうか。

このように、同じ内容の発言でも、「否定表現」と「肯定表現」のどちらで伝えるかによって、相手に与える印象が大きく変わります。仕事で言葉を使うときには、この前提を押さえておく必要があります。

【具体例で確認しよう!】「肯定表現」と「否定表現」のニュアンスの差

もう少し具体的に「否定表現」と「肯定表現」の違いを見ていきましょう。以下は、それぞれ同一の事柄を「否定表現」と「肯定表現」で示したものです。

【否定表現】 カギを締めずに、会場を出ないでください。

【肯定表現】 カギを締めてから、会場を出てください。

【否定表現】 4日までに仕上げてもらわないと困ります。

【肯定表現】 4日までに仕上げてもらえると助かります。

【否定表現】 私服のまま工場に入らないでください。

【肯定表現】 白衣に着替えてから工場に入ってください。

【否定表現】 ノルマを達成できなければ、昇格できないぞ。

【肯定表現】 ノルマを達成できれば、昇格できるぞ。

【否定表現】 進捗を報告せずに、仕事を進めないでください。

【肯定表現】 進捗を報告しつつ、仕事を進めてください。

【否定表現】 使い切れないほど注文しないでください。

【肯定表現】 使う分だけ注文してください。

【否定表現】 2月20日以降はご提出いただけません。

【肯定表現】 2月19日までご提出いただけます。

【否定表現】 そのやり方では、うまくいかないはずだ。

【肯定表現】 やり方を少し変えれば、うまくいくはずだ。

「否定表現」と「肯定表現」のどちらが“いい・悪い”ではありません。どちらも必要な表現です。だからといって、両者に違いがないわけではありません。

顕著な違いとしては「否定表現」のほうが「肯定表現」に比べて、指示や注意、忠告の度合いが“強く感じられる”という点が挙げられます。「【肯定表現】ノルマを達成できれば、昇格できるぞ」を“上司からの期待”と捉える人はいても、「【否定表現】ノルマを達成できなければ、昇格できないぞ」を“上司からの期待”と捉える人は少ないはずです( “上司による脅し”や“上司による圧力”と捉える人はいても)。

「肯定表現」と「否定表現」が相手に与える心理面の違い

言葉が相手の与える心理的な影響について「否定表現」と「肯定表現」の比較で考えてみましょう。 【否定表現】「君は数字に強くないから、この先、営業マンとして伸びないよ」

あなたが、上司からこの言葉を言われたとします。どういう気持ちになりますか? 一部、反骨精神旺盛な人を除けば、次のような気持ちになるのではないでしょうか。

◆気分が沈む

◆気持ちが後ろ向きになる

◆モチベーションが下がる

◆テンションが下がる

◆嫌な気持ちになる

◆不安や恐怖を感じる

◆言葉を拒絶したくなる

◆相手に反抗したくなる

◆悪意を抱く

一方、次のように言われたとしたら、どういう気持ちになりますか? 【肯定表現】「君が数字に強くなれば、この先、営業マンとしてもっと伸びるよ」

◆気分がよくなる

◆気持ちが前向きになる

◆モチベーションが上がる

◆テンションが上がる

◆嬉しい気持ちになる

◆期待や希望を感じる

◆言葉を受け入れたくなる

◆相手に協力したくなる

◆好意を抱く

私たちが仕事で指示や注意、忠告をする際、その目的は「相手に(こちらの思い通りに)動いてもらうこと」ではないでしょうか。そう考えたとき、「否定表現」ではなく「肯定表現」を使うことのアドバンテージが見えてきます。

なぜなら、上記の比較のとおり、人は否定されるとやる気が起きにくく、肯定されるとやる気が起きやすくなるからです。なかには「否定表現」で言われると、怒りや悲しみを感じる人もいます。また「否定表現」がストレスとして蓄積されると、そのストレスから逃げたいという本能も発動します。人によっては、その本能が「反感」や「反抗」という形で表出する人もいるでしょう。

そもそも「○○しない」という「否定表現」を使う場合、相手にしてもらいたい行動を具体的に示しにくくなる傾向があります。一方、「△△する」という「肯定表現」の場合、相手にしてもらいたい行動を具体的に示しやすくなります。わかりやすい例が「ニュアンスの差」で紹介した、「私服のまま工場に入らないでください【否定表現】」と「白衣に着替えてから工場に入ってください【肯定表現】」です。否定表現のなかには「白衣に着替える」という重要な指示が含まれていません。

TPOに応じて表現を最適化しよう!

もっとも、「肯定表現」は万能ではありません。「否定表現」でしか言えないケースも当然ありますし、人によっては、注意や忠告を受けるときに「否定的に言われたほうが、モチベーションが上がる!」というタイプもいるでしょう。

また、ときには「肯定表現」よりも「否定表現」が効果を上げるケースもあるはずです。例えば、指を切断する恐れがある機械に張る貼り紙であれば、「グローブをつけて作業しましょう!」ではなく「キケン! 素手で作業をするな!」という具合に、“恐怖心”を植えつける表現のほうが妥当かもしれません。

あるいは、遅刻の常習者に対しては、「次回、もしまた時間を守らないことがあれば、来期は契約を更新いたしません」と「否定表現」で強く言わなければいけないケースもあるでしょう。

言葉は生き物です。単純に「肯定表現」と「否定表現」のどちらが“いい”“悪い”ではなく、相手の人柄やタイプ、相手との関係性、その場の状況などを冷静に見極めながら、最適な表現を選び取ることが大切です。

いずれにしても、相手と良好な関係を築きながら、相手に(こちらの思い通りに)動いてもらいたいのであれば、「肯定表現」をベースにしながら、状況に応じて「否定表現」を使う。これが、筆者がオススメする基本スタンスです。

著者:山口拓朗

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『そもそも文章ってどう書けばいいんですか?』著者

伝える力【話す・書く】研究所所長。「論理的に伝わる文章の書き方」や「好意と信頼を獲得するメールコミュニケーション」「売れるキャッチコピー作成」等の文章力向上をテーマに執筆・講演活動を行う。『伝わるメールが「正しく」「速く」書ける92の法則』(明日香出版社)のほか、『残念ながら、その文章では伝わりません』(だいわ文庫)、『問題を解くだけですらすら文章が書けるようになる本』(総合法令出版)、『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(日本実業出版社)、『書かずに文章がうまくなるトレーニング』(サンマーク出版)他がある。

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