賃貸住宅の「更新料」って何のためのお金? 絶対に払わなきゃダメなのか聞いてみた
一つの賃貸住宅に長く住み続けていると、更新料の支払いが意外と家計の負担になります。なかには、更新料を払うのが嫌で引越したという人もいるでしょう。そこで、更新料とは何なのか、絶対に払わなければいけないものなのか、メリットパートナーズ法律事務所の弁護士・木村康紀(きむら・やすのり)さんと、賃貸管理業を展開している住友林業レジデンシャル株式会社の大澤裕次(おおさわ・ゆうじ)さんにお話を聞きました。
更新料の有無は、地域性や個々の物件によっても違う
関東圏で賃貸住宅に暮らしていると、2年ごとに更新料を支払うことが一般的。まず大前提として、更新料が日本全国どこでも共通なのかが気になります。
「実は、更新料には地域性があります。大阪や名古屋では更新料がないケースのほうが多いのですが、京都では更新料があることのほうが多く、しかも関東よりも高額です。関東では賃料の1カ月分が一般的ですが、京都の場合は賃料の2~3カ月分の場合も珍しくありません」(大澤さん)管理会社の立場で更新料について語っていただいた住友林業レジデンシャル株式会社の大澤さん(写真撮影/福富大介(スパルタデザイン))
「確かに、10年前の国土交通省の資料によると地域性があることが分かります。ただ、最近は全国展開する仲介会社の影響で、地域に関係なく更新料がある物件も増えてきているようです」(木村さん)出典:国土交通省「民間賃貸住宅に係る実態調査(不動産業者)」(平成19年6月公表)
更新料の有無は、地域性による傾向と、個々の物件によっても違うということですが、更新料がある物件とない物件の違いはどこにあるのでしょうか。
「基本的には大家さんの考え次第です。ただし、当社で管理している物件の場合は、ほとんどの物件に更新料が設定されています。賃貸契約に際して入居者さんが特に気にするのは、毎月の家賃と入居時にかかる初期費用です。一定期間住み続けてはじめて発生する更新料について交渉するのは最後の最後になるため、大家さん側もそこで他の物件と差別化を図っても、あまり入居促進の効果は期待できないと考えています」(大澤さん)
更新料は入居者の毎月の負担を軽くするために生まれた?
地域や物件によって更新料がない場合もあるとすれば、必ずしも更新料を支払う必要はないように思えるのですが、そもそも更新料というのはどういう位置付けのものなのでしょうか?
「個別の事情にもよりますが、平成23年の最高裁では『更新料は、一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有するものと解するのが相当である。』とされています」(木村さん)
つまり、大家さん目線で更新料を考えると、月々の家賃を低く抑える代わりに頂くもの、継続して住居を提供することに対して頂く謝礼的なもの、という意味合いがあるようです。これは、大澤さんの認識とも合致します。
「部屋を借りる際に、毎月の家賃を低く抑えたいという要望は多いでしょう。更新料は、本来毎月支払う家賃を低く抑えるためにできたものと、業界内では解釈されています。入居した部屋が気に入らず、一定の期間に満たずに退去するなら、更新料はかかりません。毎月家賃として支払うよりは、そのほうが入居者側にもメリットがあると言えます。逆に更新料0円をアピールしながら、入居者サービスの会費等として毎月費用がかかるケースもあるので、注意が必要です」(大澤さん)
結局は、更新料という名目で1~2年に1回の割合で支払うのか、毎月の家賃や別項目として支払うのか、の違いのようです。
更新料の支払いを拒否することは可能? 最高裁ではこうなった!
では、請求された更新料に納得がいかない場合、更新料の支払いを拒否することはできるのでしょうか?
この点については、入居時の契約書にきちんと更新料の記載があるかどうかが最初の判断ポイントになるとのこと。契約書に記載がなければ、基本的には拒否できると考えて良さそうです。
では、契約書にはっきりと更新料について記載されている場合はどうでしょう? これについて木村さんは、平成23年の最高裁判例が一つの基準になると言います。
「最高裁判例では、更新料の支払特約自体は有効であると判断しています。契約時に合意したのであれば、請求額が過大でない限り、支払ったほうが良いでしょう」(木村さん)【参考1】最高裁判例 平成23年7月15日
「賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料条項は、更新料の額が賃料の額、賃貸借契約が更新される期間等に照らし高額に過ぎるなどの特段の事情がない限り、消費者契約法10条にいう『民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの』には当たらないと解するのが相当である。」【参考2】消費者契約法 (消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
更新料の請求額が高過ぎなければ、拒否せずに支払ったほうが良いというご意見ですが、いくらなら「高過ぎない」と判断されるのかが気になります。実はこれにも判例があります。
「平成23年の最高裁判例では、1年更新で2カ月分の更新料を適法と判断しています。大阪高裁は、1年で3.12カ月分を適法と判断しています(大阪高判 平成24年7月27日)。つまり更新料の額が、1年更新で賃料の3カ月以下ならば、高過ぎないと言えるでしょう。ただ、その辺りが限界事例となるのではないかと思います」(木村さん)
先の【図1】における更新料の平均が0.1カ月~1.4カ月であることを見ると「この更新料は高過ぎるから違法だ!」と主張するには、なかなか高いハードルのようです。
更新料を払わないと、最終的には契約解除や金利の加算もあり得る!
それでも、もし更新料を支払わなかったらどうなるのでしょうか。実際には更新料以前に家賃の滞納などがあって、更新料も支払われないというケースが多いようですが、ここでは更新料にフォーカスするため、毎月の家賃や管理費についてはきちんと支払ったうえで、更新料だけを支払わなかったと仮定してお聞きしました。
「原則として、賃貸人(大家さん)から賃貸契約を解約するには『正当な事由』が必要です(借地借家法26条、28条)。解約できない場合は、期間が満了しても更新される法定更新になります。法定更新になった場合、賃貸人が更新料を請求できるかどうかは裁判例が分かれていますが、『法定更新の際にも更新料を支払う』と契約書に記載されていたと言えるかが重要となってきます。もし記載されている場合にこれを拒絶すると、解約の『正当な事由』があるとして、契約解除になる可能性もあります」(木村さん)
単純に契約解除・即刻退去というわけではなさそうですが、場合によっては契約解除に至ることもある上、「退去時に過去に遡って、支払われていない更新料の合計に金利も加算されて請求される可能性がある」(大澤さん)とのことです。
お二人の話をお聞きして、更新料については最初が肝心だと痛感しました。賃貸契約を結ぶときには、家賃や敷金・礼金のほうが気になるもの。しかし更新料についても、額や支払い条件を吟味して気になる点があればきちんと説明を求めましょう。●取材協力
・住友林業レジデンシャル株式会社
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