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“本造りの裏方”印刷会社のお仕事小説〜安藤祐介『本のエンドロール』

“本造りの裏方”印刷会社のお仕事小説〜安藤祐介『本のエンドロール』

 高校野球を見ていて、まっすぐに引かれたグラウンドの白線に涙したことはありますか? 私はある。「球児たちの晴れ舞台のために何事もなく大会が行われるようぬかりなく準備をするスタッフによって、高校野球は支えられているのだ!」と胸を打たれたのだ。と書いてみて、我ながら涙もろいにもほどがあるとあきれる気持ちもなくはない。しかし、私と同じようなガラスの涙腺をお持ちの方も、さすがに野球場の白線では泣けないという方も、本書の最後にある「エンドロール」をご覧になったらきっと込み上げるものがあるのではないだろうか。

 本書の主人公は、豊澄印刷株式会社営業第二部に所属する浦本学。主に文芸書を担当している。印刷会社最大手のワールド印刷から転職してきて3年目である。本、特に文芸書を造りたいと思って、書籍がメインの豊澄印刷に移ったのだった。と、本造りにかける意気込みは人一倍だが、そのためやや先走りしがちで凡ミスもちらほら。営業トップの先輩・仲井戸光二には、実力・人望ともにまだまだ遠く及ばない。

 豊澄印刷は老舗出版社・慶談社の系列会社。しかし、慶談社の仕事なら無条件に受注できるわけではなく、最近はワールド印刷に大口契約を持って行かれることも。それでなくても出版業界は斜陽産業と言われて久しく、印刷会社にとってはなかなか明るい材料が見当たらない中で、実はこんなにたくさんの人が関わって本はできあがっているのだということがよくわかるのが本書だ。

 本を造る。同じ目的で仕事にあたっていても、携わる人々の優先事項はまちまちだ。いい本を造ろうという並々ならぬ熱意はあっても、採算や他部署へ迷惑をかけることについては考えが及ばないことも多い浦本のような者。夢は「目の前の仕事を毎日、手違いなく終わらせること」と言い切り、下手な希望のようなものを持つ必要はないと考える仲井戸のような者。家族と義弟を支えるために身を粉にして工場で働き、浦本のように理想を語る人間を「他人への犠牲もいとわない連中」と毛嫌いする印刷製造部係長・野末正義のような者。たぶん全員が正しいのだ、個人個人の立場からみれば。しかし、本に限らず物事はひとりひとりが我を通すだけでは成り立っていかない。それぞれが意見を出し合って時にぶつかりながらも同じ目標に向かっていく、それによってよりよいものができあがるし各人も成長できる。そう、本書では浦本がいくつもの本を造る現場に立ち会い経験を積むことで営業としてめきめき成長していく様子が書かれるが、彼とともに働く周囲の人々も同様にさまざまなものを得ることになる。浦本の姿勢はやや鬱陶しく考えが甘いと言われてもしかたのない部分もあるけれども、彼の熱意は確実に他者を動かす力を持つ。理想だけでは生きて行けないけれど、理想がなければトライする価値もないんじゃないだろうか。

 「本のエンドロール」というのは、浦本の言葉である。引用すると「奥付は本のエンドロールだ。関わった全員の名前を載せることはできないけれど、「豊澄印刷株式会社」の向こうには野末やジロさん、福原、浦本の名前も刻まれている。紙の手配の道筋をつけてくれた慶談社業務部の米村律子や、岐阜の稲葉山紙業の人たちも忘れてはならない」。そう、通常は本造りに携わった人や会社の名前を知ることはできない。しかし本書においては、誰が印刷営業を担当したか、誰が校正者なのか、配本をした運送会社の名前まで知り得るのだ。それがこの文章の冒頭でも述べた、奥付の前に掲載されている「エンドロール」だ。もうさっきから、担当者のみなさんのお名前を見ているだけで涙が止まらない。本を愛するすべての人、特に紙の本に愛着がある人は、必ず手に取るべき一冊である。

 著者の安藤祐介氏は、2007年に『被取締役新入社員』でTBS・講談社第1回ドラマ原作大賞を受賞しデビューされたとのこと。本書の「謝辞」においても【お話を伺った方々】として、何人もの印刷会社・印刷工場・製本工場・出版社の社員の方のお名前があげられている。この本を書くためにはさぞ綿密な取材が必要だったことだろう。私たちが愛する本が、同じく本を大切に思う方々の手によって造られていることを教えてくださった著者に、心からお礼を申し上げたい。ありがとうございました。

(松井ゆかり)

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