『ボス・ベイビー』3人の日本人クリエイターに聞く映像へのこだわり「CGの技術が進んだ今だからこそカートゥーン調の絵柄が蘇る」
現在大ヒット公開中の映画『ボス・ベイビー』。黒いスーツに白いシャツ、ネクタイをビシッと締め、チャキチャキと歩く赤ちゃん“ボス・ベイビー”がスクリーンで大暴れ! すでに映画を観た人からは「ギャグたっぷりで笑えた!」「ボス・ベイビーがむかつくけどかわいいw」「最後にはジーンとさせらえれた」と称賛の声が聞こえてきます。
本作を制作したのは、全世界で3690億円以上(7/18付けBoxOfficeMojo調べ)を稼いだ『怪盗グルー』シリーズ、『ペット』『SING/シング』といった日本でも大ヒットを連発しているユニバーサル・スタジオと、『シュレック』などのヒット作を手掛けるドリームワークス・アニメーション。この2つの会社が初タッグを組み、全世界で約540億円を超えるヒットを記録しています。
今回は『ボス・ベイビー』制作に携わった3人の日本人クリエイターにインタビューを敢行。映画の見どころやこだわりについてお話を伺いました。
――皆さんのお仕事内容、『ボス・ベイビー』でどんな事をしたのかを教えて下さい。
モリヒロさん:私はキャラクターリギングの担当でして、キャラクターリギングとは人形劇で例えるえると、元の人形を作るのがモデリングといって人形を舞台の上で動かすのをアニメーターというのですが、リギングではモデリングの人が作ったキャラクターに関節を入れたり、アニメーターの人が動かせるような状態にする仕事をしています。直接ショットでは仕事はしないで、キャラクターの顔のセットアップをする係なのですが、そのキャラクターがティムとフランシス・フランシスとユージーンとジンボです。主にその4キャラクターを担当しました。
ナカムラさん:ライティングをしています。まさしくライトを当てる仕事をしています。ライティングはデパートメントの最後の部門なんですよ。だから、いろんな部門からいろんなデータがやってくるんですね。そこで最終的にレンダリング(コンピュータ上で絵を作ること)をかけるのもひとつの仕事なんです。でも、必ずしもデータがキレイにくるわけじゃなくて大体が何かしら問題があるんですね。特にうちはパイプラインが複雑なのでうまく来ることのほうが少ないんですよ。なんでうまく来ないのかを見つけてレンダリングをしなければいけないので、どこに問題があるのかを見極めて、テクニカルな部門であればテクニカルサポートの人に手伝ってもらったり、簡単なことであれば自分で直したりとか、もしくはモデリングの人に直してもらったりしてレンダリングできる形に持っていきます。
そして、レンダリングをかけた後にコンポジティングという仕事があります。コンポジティングというのは、レンダリングしたコンピュータで作った1枚1枚のレイヤーを最終的に合わせることなんですけれども、ここではそこまで含めてライティングの仕事です。コンポジティングした後、絵をもうちょっと変えたいなってなった時に、もう1回レンダリングをするのはものすごい時間がかかって手間なので、コンポジティングで細かい調整をするところまで含めてライティングをやっています。
タケヒロさん:僕もラスベガスのショットと、もう1つは、ボス・ベイビーとティムが捕まって、フランシス・フランシスが生い立ちを話すシーンがあるんですけども、そこを担当しました。
――そのお仕事着手から映画完成までどのくらいの時間がかかりましたか?
モリヒロさん:私の場合1年半ボス・ベイビーに携わっていました。これは映画ごとに状況が異なって、リギングの場合、大体半年から一年で、1年半っていうのは割と長かったほうだと思います。
タケヒロさん:大体ライティングの場合で言うと、並行してショットをいくつか貰うんですね、何10ショットとかを。それを何ヶ月かに分けてやるんですが、大体ワンショット1週間くらいですかね。でも実際はテックスフィックスっていうノイズを綺麗にする作業があるんですが、アートディレクターにOKと言われていても細かい部分でノイズが出ていたりします。我々の場合は、ステレオでも細かい部分に不具合が出てくると直したりするんですね。それをやってくれるデパートメントもあるんですが、基本は私たちが直すので、そういうのも含めるとワンショット1週間以上かかるんじゃないでしょうか。全部で30シークエンスくらいあってワンシークエンスに対してショットが平均して20〜30くらいあるので、その中の何ショットか、何10ショットを担当するって感じです。2ヶ月か3ヶ月貰うんですが、その中で何10ショットも仕上げなければならないので平均すると1週間くらいかなという感じです。
――アニメーションにリアリティをもたせる為にやったことを教えてください。
ナカムラさん:それに関してはあまりないですね。ただ面白いのは、めちゃくちゃにやっていいということではなく、イラストちっくにつくるんですが、それでいて破綻しないようにしなければいけないんです。目で見て、いくらなんでもこれは破綻しているって思わせないように上手い嘘をつかなきゃならないんです。そういう意味では、リアルとイラストちっくなものの狭間みたいなものはあるんじゃないですかね。
――ティムの妄想のシーンでは、映像が少しふわふわというか2Dに近い様な不思議な質感となっていてすごく可愛かったです。その演出の意図を教えてください。
モリヒロさん:直接監督さんから聞いたわけじゃないんですが、CGの技術が進んだ今だからこそ昔風の2D、カートゥーン調の絵柄をよみがえらせつつ、さらに進化させることがでるんだっていうのを仰ってたっていうのは聞きました。
――なるほど、昔風の2Dを最新技術でやると。
モリヒロさん:いわゆるアニメ調、3DのCGなんだけど、昔の2Dのアニメの雰囲気を絵柄に出すというのがテーマでした。なので、私の場合顔のセットアップの担当なんですけど、変形させたときに常に表面に変なシワが入らないように、スムースな質感を保つようにしました。特に赤ん坊のキャラの場合、ツルッとした質感がどういう表情になっても、いくら口が開いても、目が見開いても変な線が入ったり表面がヨレヨレにならないように心がけてやっていました。フランシス・フランシス、ユージーンなんかは顔に強いシワが入るんですけども、ダラっとしたシワではなく、どんな表情でも直線的なシワが入るようにしたのはある意味挑戦的でした。
ナカムラさん:目の中に光が反射している、いわゆる目のハイライトはうちの映画では全部違うんですよ。監督によってこだわりが全然違って、ハイライトが黒目にあるかとか、横の青い部分にあるかとか、位置まで細かく指定されるんですね。全てのショットに対して細かいチェックが入っているので、我々は全部手で配置しているんです。その辺も注目していただけると。
タケヒロさん:いかに絵を綺麗に見せるかっていうのにこだわりがあるので、色を綺麗に見せるためにシャドウとか、モノトーンにならないように色を色々配置していました。ただしうるさくなく、キャラクターが立つように、更に、子供向けの絵なのでなるべく色が綺麗に出ていたほうがぱっと見もいいし、そういうのをこだわって作っていますね。
――皆さんのお気に入りのシーンとその理由を教えてください。
モリヒロさん:私が一番面白かったのは、途中でビートルズの「Blackbird」を歌っていて、ティムがそれは僕の歌だって言うと、ボス・ベイビーが「君の両親は(ジョン・)レノンとマッカートニーか」って言うところです。あそこは子どもは笑わないけど、パパやママ向けの少数にはわかる部分で一番面白かったです。
タケヒロさん:僕は監督のトム・マクグラスの映画が大好きで、必ずしも子ども向けっていう訳じゃなくて大人向けのギャグがいっぱい入っているので、どちらかというと大人の方にも楽しんでもらいたいと思います。トムの映画は何回か一緒にやらせてもらっているんですが、そういうブラックジョークみたいなのが多くて僕は大好きで。その中でも特にボス・ベイビーは面白いなと思った映画です。
ナカムラさん:実は100%理解していないんです(笑)英語だし、言葉のギャグで笑わせるところが多くて。ぜひ日本公開のあかつきには字幕版で観たいですね。
――ドリームワークス入社のきっかけ、このお仕事を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
タケヒロさん:もともと映画がやりたくてこのCG業界に入ったんですけども、なかなか最初から映画業界っていうのは入れなくてかなり苦労してテレビ業界とかで経験し、いろんな映画会社に応募してやっと映画のCGができるような映画会社に入ったんですが、やっぱりアニメーションが大好きなんで、ここではこういうスタライズされたアニメーションが出来て幸せですし、ずっとやっていきたいと思っています。
ナカムラさん:僕は結構なりゆきですね。いい会社だからと勧める人がいたんで、それならどんなもんかと思ってきた感じですね。しばらくはVFXをやっていたんですけど、その次にフィーチャーアニメーションの仕事をして、これがまたVFXと違うんですよ。考え方が違うというか。それが結構面白くてそれをもっと突き詰めてみるのもいいかもなと思い入社しました。
モリヒロさん:私も映画の仕事がしたかったっていうのが大きな原因ですね。ドリームワークスの前に実写の仕事をやったこともあるんですけど、ドリームワークスのようなアニメーション映画を作るところは同じ映画の仕事でもスケジュールに融通利くので、いい面が組み合わさった感じがしました。実写の方の仕事は仕事があるときはかなりきつくて、無いときは無いというような多少不安定な状況で、それに比べ、ここは大きな仕事を継続的に出来て、自分の時間もそんなに犠牲にすることなくバランスが取れるっていうのがいいところですね。ドリームワークスは10年以上働いている人がたくさんいます。
――日米とわず、他社のアニメーションで「これはやられたな!」と嫉妬した作品があれば教えてください。
モリヒロさん:僕は、ちょっと前で良かったら『インサイド・ヘッド』ですね。あれは凄いと思いました。あとディズニーの『リメンバー・ミー』もすごい良かったです。
タケヒロさん:僕はやっぱりライカの映画がすごいと思いました。あそこはCGというか実写のミニチュアで作っていて、ある程度物理的制約があるんで、そういうところのライティングはすごい参考になりますね。
※ライカ…『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』など、ストップモーション・アニメーションの映画やコマーシャルを制作するアメリカのスタジオ。
――皆さんの様なお仕事を目指す、子供達にメッセージをお願いします!
モリヒロさん:仕事の実際の能力というのは仕事で経験すれば、ある程度上達すると思います。日本語が喋れない環境で仕事がしたいのであれば、ある程度その地でのコミュニケーション能力(ここでいえば英語)を多少は携えていなければ厳しいと思うので、そこをいかに仕事以外で上達させていくかだと思います。仕事のスキル、仕事の習慣の違いとかは慣れれば問題ないのでコミュニケーションが一番の課題になるのではないでしょうか。
タケヒロさん:僕も日本人の方は凄いスキルは高いと思うんです。ただ、一番の問題はやっぱり、ハリウッドで働きたいとすると、映画をやったことがないとまずハリウッドの会社は雇ってくれないんですね。どんな小さいプロジェクトでもいいから映画に関わることが、早い道だと思います。やっぱり経験を積まないとレジュメも見てくれない場合が多いんです。だから、どんどん海外に出て行くのがいいと思います。もう25年いますが未だに英語は大してできないですし、スキルがちゃんとしていれば英語も追いついてくると思います。どちらかというとCGの技術がちゃんとしていないと。英語ではどちらにしろ外国人に勝てないので。いかにCGのスキルをつけて、いいものを作っていくかっていうのが大事だと思います。
日本人の方は凄いスキルは高いと思うんです。ただ、一番の問題はやっぱり、ハリウッドで働きたいとすると、映画をやったことがないとまずハリウッドの会社は雇ってくれないんですね。どんな小さいプロジェクトでもいいから映画に関わって、イギリスとかカナダとかもう少し敷居の低いところから始めるのが早い道だと思います。やっぱりそういうところで経験を積まないと、レジュメも見てくれない場合が多いので、特にこういう大きな会社になると。だから、どんどん海外に出て行くのがいいと思います。日本でも映画ができるような環境があればいいんですが、なかなか大型バジェットの映画は無いので、そういうのがあるところにどんどん海外進出していけばいいと思います。もう25年いますが未だに英語は大してできないですし、スキルがちゃんとしていれば英語も追いついてくると思います。どちらかというとCGの技術がちゃんとしていないと。英語ではどちらにしろ外国人に勝てないので。いかにCGのスキルをつけて、いいものを作っていくかっていうのが大事だと思います。
ナカムラさん:日本のCGの人方にも時々お話するのですが、皆さん頑張っていてそんなにスキルの差はないと思います。チャレンジする精神があれば飛び込んでしまえばいいのではないでしょうか。英語とかも心配するのはよくわかります。私もあんまりしゃべれなかったですし。やっても無駄とは思いませんが(笑)できないからって気に病むことは無いと思います。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
Hajime Nakamura – 中村 創さん
Koji Morihiro – 森廣 康二さん
Osamu Takehiru – 武広 修さん
映画『ボス・ベイビー』大ヒット上映中!
http://bossbaby.jp/
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