「誰も管理職になりたくない時代…」だからこそできること――組織開発コンサルタント・高橋克徳さんに聞く

「誰も管理職になりたくない時代…」だからこそできること――組織開発コンサルタント・高橋克徳さんに聞く

もうすぐ迎える新年度。自身の所属や、周囲の顔ぶれが変わる人も多いでしょう。新たな気持ちで迎えたいこの時期「そうは言っても、うちの会社は基本何も変わらないから」と、心の中でつぶやいたあなたに、少し考えてみてほしいことがあります。それは「組織をよくするために、トップではない自分にもできることがあるのではないか」ということ。組織開発コンサルタントで、新しいリーダーシップのあり方を提唱している高橋克徳さんに聞きました。

【プロフィール】

高橋克徳(たかはし・かつのり)

組織開発コンサルタント。武蔵野大学経営学科特任教授。1966年神奈川県生まれ、一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。日系、外資系コンサルティング企業での勤務を経て2007年、組織・人事のコンサルティングや研修を行う株式会社ジェイフィールの設立に参画し、10年から代表取締役を務める。大手企業の社員・管理職向け研修で豊富な実績を持ち、組織や職場に関する社会課題の解決をテーマにした講演やメディア出演、著作も多い。共著『不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか』(講談社現代新書、2008年)は28万部を超えるベストセラーとなった。

あなたは「あきらめ組」?「飛び出し組」?

―多くの企業に出向き、組織づくりに関する研修やアドバイスをなさっている中で、いまの若手社員・中堅社員についてどんな印象を持っていますか。

声に出せない疑問や違和感を抱えている人が多いように思います。「職場の雰囲気はいい」「仕事のやりがいもある」と一応満足はしていたようなのに、20代後半から30歳前後で「この会社に未来はない」と言って飛び出していく人もいます。安定した大企業から、あえて実力本位のベンチャーに挑むといった前向きな転職ももちろんありますが、「本当にそれでよかったのか」と思うようなケースも少なくありません。

そんな彼・彼女たちの上司にあたる40歳くらいの世代にしても、じつは部下との向き合い方に困っています。例えば「頼んだことに対して、すぐ動かない」というんですね。なぜすぐやらないか、部下に問いただすと「これをやる意味あるんですか、効果はあるんですか」と逆に聞き返される。「そんなことは自分で考えろ、とにかくまず動け」と言われて育ってきた上司世代からすると、どう向き合っていいのかわからないというのです。

―かなり大きなすれ違いがありそうですね。

ええ。仕事の中で感じる違和感というのはたいてい、働く本質にかかわる重要なサインで、本来は部下だけが感じるものではありません。ただ、管理職世代に入ったいまの40代は、目の前にある仕事に対して疑いを持つことなく邁進してきた人が多い。「仕事とはそういうもの」と信じて頑張ってきたのです。

仕事の中で部下が疑問を抱いたとき「ちょっと話そうか」と言えるような、いい関わりができていない上司は、自分で仕事を抱え込みすぎて周りに目を配る余裕をなくしているか、あるいは単に部下の行動と成績を管理してプレッシャーをかけるような接し方をしています。そうした姿を見た部下は「うちの会社に、現状を変えられる上司はいない」「きっとこの先10年経っても同じだろう」と受け止める。なので、意を決して会社を去る人を除けば、社内で「どうせ何も変わらない」とあきらめてしまうんです。

こうして、多くの会社の若手や中堅社員の間ではいま「あきらめ組」か「飛び出し組」への二極化が進んでいるというのが私の見方です。

誰も管理職になりたくない時代

―これほど「働き方改革」が叫ばれているのに、職場の若い世代が失望させられているのは、いったいなぜでしょうか。

組織の中で責任を持っている経営者や管理職も、変わらなければならないのはおそらく分かっています。人口減少と同時にAI(人工知能)も発達してきているので「本当に人間がやるべき仕事は何か」というテーマにも関心は高い。ただ「変わるための方法論を持っていない」ということだと思います。

そもそも、社長が頂点に立つピラミッド型の会社組織は、20世紀的な「大量生産」に向いた仕組みです。社員は組織に尽くすことが求められますが、経済が右肩上がりを続けていた間はそれに対する見返りも保証できたので、非常にうまく回ってきた。なかでも日本は、新卒から定年までの終身雇用で社員を会社に“染める”ことで、一体感のある強い組織をつくってきました。多くの企業で今もトップを務めるのは、そうした環境のもとで成功体験を得た人たちです。

ところが現在は、物質的な豊かさがほぼ達成されたことによって、1人ひとりの個性や事情を大切にする「多様性の時代」に変わりました。企業に対しては、社会課題の解決といった世の中への貢献が求められています。ですから、会社で働きながら社外ともヨコのつながりを持ち、どうすれば仕事を通じて社会に役立てるか考えることが大事ですが、これは若い人にとって抵抗のない、当たり前の感覚だと思います。

それなのに、ひるがえって社内に目を向けると、タテの階層を守って動かなくてはならないのは相変わらずで、当たり前だからと本質を問うことなく、続けていることが多い。上から呼びかけられるコスト削減や生産性の向上にしても、結局は社内的な都合で社会的な意義が見えてこない。さらに働き方改革といっても、実際の取り組みは「残業時間の削減」で、本当の意味で、みんながラクになり、未来へ踏み出していける新しい働き方を探求していない。

こうした環境で、頑張っても頑張ってもさらに負荷をかけられていく管理職は、まず本人がつらい思いをしています。それを間近で見ている部下にとっても、決して憧れるような姿ではない。ですから、いまは「誰も管理職になりたくない時代」だといえるでしょう。このままでは、よりよい職場を目指すにしても、必要となるリーダーシップが足りないのです。

声を上げた人も、それを認める人もリーダー

―そう聞くと絶望的な気もしますが、もし上から会社が変わらないときでも、社員が起点となって状況を動かすことができるのでしょうか。

はい。これまでリーダーシップは「強い意志の持ち主が先頭に立ってメンバーを引っ張る」というイメージで語られてきましたが、リーダーが本当に果たすべき役割は「変化を生み出すこと」。組織のピラミッドで上にいなくても変化を起こすことはできるし、1人だけでそれをやる必要もない。むしろ、周りの人との関わりの中で変化を起こすことが大切です。

私は、これからの会社組織で役立つリーダーシップの取り方が3種類あると考えています。そのうち、20代から30代の若手・中堅社員にぜひ担ってほしいのが「未来に向けた自分自身の思いを、周囲の人の思いと結びつけながら広げていく」という方法。これを「コネクティング・リーダーシップ」と呼んでいます。

 

―思いを結びつけて変化を起こすとは、たとえばどういうことですか。

ある電機メーカーでは、成果主義の業績評価によって長期的視点での製品開発が年々難しくなっていることや、個性的な同僚の退社が相次いでいたことに問題意識を持った若手・中堅社員有志がいくつかのグループをつくり、自分たちが仕事で大切にしている価値観や未来のありたい姿を、それぞれ映像にまとめて発表しました。

きっかけをつくった社員の「Mさん」は、私が社会人大学院で教えていたときのゼミ生で、新技術などのトピックをFacebookで紹介しながら「未来に向けて何かやりたい」というメッセージをずっと発信していました。これに気づいて共感した同僚が集まって勉強会をいくつか開くようになり、やがて映像制作へとつながったのですが、思いのほか多くの有志が集まったのは、自分たちの部署にだけ送るつもりだった告知を、うっかり全社メールで送ってしまったからだそうです(笑)。

ともあれ、映像をまとめる過程で交わされた真剣な議論は、会社側もきちんと受け止めています。実際にその後、社員研修の企画がMさんらのグループへ任されるようになったり、自由に使える開発拠点が新設されたりといった動きもありました。

これらの起点になったのはMさん個人の思いですが、それが大きな動きにまでなったのは彼が周囲を引っ張ったというより、近い思いの持ち主が仲間として加わったことが大きい。つまり、何人かの思いがつながったとき変化が起きるのですから、声を上げる人はもちろん、上がった声に対して「いいね」と認めた人もリーダーシップを発揮しているのです。

自分と仲間の「心を守る」

―カリスマ性や社内的な地位がなくてもリーダーシップを発揮できることが、よく分かりました。

ええ。会社でのリーダーシップと同時に、働き方もこれからどんどん変わっていくと思います。そのときに、ぜひ注意しておいてほしいのが「仕事の切り分け方」。何かを分担するときも、同じポジションにはなるべく複数の人が責任を持つようにして、1人に担当を集中させないようにしてほしいのです。

 

―緊急時のバックアップということでしょうか。担当がはっきりしているのは、責任も分かりやすくてよいと思いますが・・・。

いえ、それがよくないのです。理由は2つあります。1つめは「同じことをずっと1人がやっていると改善しづらいから」。イノベーションは発想の転換から起こりますが、共通の仕事に違う価値観の持ち主が加わっていたほうが新しい発想を刺激されやすくなるのです。

2つめは「1人で責任を背負い込まないようにするため」。根が真面目な人ほど、1人で任せられると自分だけで抱え込んでしまい、うまくいかなかったときにはどんどん追い込まれてしまう。それがさらにミスを増やすという悪循環に陥るので危険なのです。

成果主義のもと、明確化した個人の責任を追求するのは分かりやすい一方で、一度つまずいた人を追い込んでしまいかねないという残酷な面も持っています。ですからここでも「素直に思ったことを周囲へ言う」「周りの人が言ったことを認める」という対話の関係が、とても大事になるのです。

 

―自分で自分を追い込まない、追い込まれてしまう仲間をつくらないということですね。

そうです。特に今後はテクノロジーの発展で仕事の内容が大きく変わりますから、みんなで力を合わせて一緒にシフトしていかないと、精神面で壊れてしまう人が出るおそれもあります。職場で自分の心を守り、仲間の心を守ることを、まず大切にしてほしい。いまの若手世代は、もともと助け合うことが得意ですから、それがきっと自然にできると思います。

 

【参考図書】

『“誰も管理職になりたくない”時代だからこそ みんなでつなぐリーダーシップ』/高橋克徳/実業之日本社

WRITING/PHOTO:相馬大輔

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